• サブスクの浸透とプロダクトの磨き込みが加速化した2020年
  • ネオバンクやチャレンジャーバンクの台頭、「SaaSの先」に生まれる新サービス

激動の1年となった2020年。新型コロナウイルスの世界的流行によって、人々の生活様式は大きく変化し、またそれは大企業からスタートアップまで、ビジネスのあり方も大きく変えることになった。

DIAMOND SIGNAL編集部ではベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家向けにアンケートを実施。彼らの視点で2020年のふり返り、そして2021年の展望を語ってもらった。今回はグローバル・ブレイン ジェネラルパートナーの熊倉次郎氏と立岡恵介氏だ(連載一覧はこちら)。

サブスクの浸透とプロダクトの磨き込みが加速化した2020年

熊倉氏:2020年はコロナによる環境変化がスタートアップシーンにも大きく影響を与えた1年になりました。社会全体のデジタル化が何年分も前倒しされ、ヘルスケア領域が急速に立ち上がりました。その変化に機敏に対応できたスタートアップがその波に乗って頭角を表したと感じます。

立岡氏:本質的な価値の探索と磨き込みが進んだ1年になりました。COVID-19という“ブラックスワン”が現れ、2020年はあらゆる人にとって激動の年だったことは言うまでもないと思います。多くの営みが強制的にデジタルへの移行を促され、デジタルネイティブなスタートアップにとっては今振り返ると機会も多い1年でした。

一方で、緊急事態宣言が発動され将来への不安が高まるにつれ、個人の消費、事業の支出の見直しが進んだのではないでしょうか。多くの投資先で少なくとも3カ月程は売上成長が止まりました。その中でマーケティング活動を抑制しながら、選ばれ続けるプロダクトであるために、機能や提供価値の取捨選択・優先順位付が進みました。右肩上がりの売上成長を志向するスタートアップにとって、自身のプロダクト、ならびにヒトやカネの投資方法を見直すよいきっかけとなり、来年以降の成長に繋がる多くの示唆があったのではないかと思います。

またSaaSの成長にみられるように、多くの事業ドメインにおいてサブスクリプションという収益モデルへのチャレンジがなされた1年だと思います。これまで売り切り中心だったものがサブスクリプションへと移行していく。これは単純なビジネスモデルの変化ではなく、大きな意味を持っています。

SaaSのベストプラクティスは多くの専門家が語っていますのでここでは言及を避けますが、(1)顧客との継続的な接点を持てることにより、プロダクトへのフィードバックのループが生まれ、プロダクトが常に最適なものへとアップデートされていく、(2)LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)で顧客価値を考えること(つまり将来収益の予測)が容易になり、売り切りではできなかった思い切った投資の実行ができるようになる といった変化が生まれました。

このようにCOVID-19への対応、そしてサブスクリプションモデルの浸透と共に、プロダクトの磨き込みが例年になく加速化した年だったのではないでしょうか。

ネオバンクやチャレンジャーバンクの台頭、「SaaSの先」に生まれる新サービス

熊倉氏:カーボンニュートラル化が世界的に進められることで、モビリティの電気化が加速します。火力発電以外の電力発電や、水素エネルギーなどポータビリティの高い新エンジンなどへの開発投資が顕著になることが予想されます。

またレベル4以降の自動運転やスマートシティ領域では、よりハイパワーなコンピュータ処理能力が求められクオンタムコンピューティングの発展に加え、エッジ処理やポスト5G通信の到来に備えたポストシリコンを担えるパワー半導体の発達へのニーズが一気に高まります。新しいプラットフォームの発展と整備を見据えた、新サービス開発の始まりが予想され、これら全てにおいて、投資機会が顕在化してくるものと思われます。

立岡氏:2020年末にロボアドバイザーのウェルスナビが上場を果たしました。金融経済が底固い中、資産運用においてロボアドバイザーだけではなく、投資型クラウドファンディングでも大きく成長するスタートアップが出てきています。

諸外国と比べ圧倒的に貯蓄が多い日本において、テクノロジーを活用した資産運用サービスの選択肢が増えていくことは社会的に意義があることですし、2021年においても引き続き成長を続けていくと思います。金融サービス仲介業の創設もこのトレンドの後押しとなると思います。また欧州を中心にネオバンクやチャレンジャーバンクが台頭してきましたが、この流れは日本においても起こると考えております。

ペイロールカード解禁の動き、デジタル通貨の一般化、クレジットカードやプリペイドカードの再定義など日本の規制に合わせた形で立ち上がってくるでしょう。C向けだけではなく、法人間決済においてもUPSIDER(スタートアップ向けの法人カード提供を提供するスタートアップ)のように管理機能を備え、高い利用限度額をセットできるサービスも出てきました。

また、オープンAPIによって進み始めた金融業務のDXという文脈にも着目しています。投資先でも保険APIに着目した事業展開を行っているjustInCaseや証券業務のas a service化を目指すクラウドリアルティなどがチャレンジをしている領域です。このようにメガトレンドや規制の変化に対応する形でお金の流れをなめらかにするサービスが2021年も引き続き成長していくと感じています。

次に注目しているのは、投資家の誰もがそうだと思いますがSaaSです。COVID-19によってデジタル化が進み、SaaSの普及の後押しになっていることは自明でしょう。株式市場でも高く評価されています。2021年も引き続きSaaSへの投資は活発になるでしょう。加えて、SaaSの延長に何があるのかという点にとても興味を持っています。

例えば、単なるMRRの積み上げだけではなく、そこで得たデータや顧客基盤の活用により、顧客へ更なる価値を提供する会社が増えてきたと感じています。分かりやすい例でいくと、iCAREという従業員の健康管理SaaSを提供している会社がありますが、SaaS上のデータを活用して従業員に向けて最適な健康改善のソリューションを提供できるcarely placeというサービスを開始したりしています。

このように主に業務効率化の目的で導入されることが多いSaaSですが、時系列でのデータ蓄積が可能という特徴を活かした面白い付加サービスが今後どんどん出てくるのではと期待しています。