
- 強みは人気インストラクターを起用した独自コンテンツ
- コロナ禍で飛躍した2020年
- 調達した資金で次なるヒット作の配信を目指す
2019年12月末からの1年間で会員数が9倍に拡大した急成長中のサービスがある。スタートアップのLEAN BODY(リーンボディ)が提供するフィットネス動画配信サービスの「LEAN BODY」だ。
LEAN BODYは有名インストラクターによるフィットネス動画を揃えるサブスクリプションサービス。2018年3月にローンチしたサービスだが、人気に拍車がかかったのは2020年4月のこと。15年前に大ヒットしたフィットネスDVD「ビリーズブートキャンプ」の“令和版”と銘打ち、“ビリー隊長”ことビリー・ブランクス氏を起用した新作動画を配信開始したところ、累計再生回数が500万回を突破(2021年1月7日現在)する話題作となった。
「2021年の目標は『令和版ビリーズブートキャンプ』に次ぐヒット作を配信すること」──LEAN BODY代表取締役の中山善貴氏は取材でこう語る。そのための資金としてLEAN BODYは1月12日、5億2000万円の資金調達を実施した。
調達の内訳はi-nest capital、DBJキャピタル、AGキャピタル、YJキャピタルを引受先とした第三者割当増資、そしてデットファイナンスだ。LEAN BODYはこれまでにもSkyland VenturesやANRIなどのベンチャーキャピタル、そして複数の個人投資家からも資金調達を実施している。今回の調達により、同社の累計調達額は約8.6億円となった。
強みは人気インストラクターを起用した独自コンテンツ
LEAN BODYは月額プラン(月額1980円・税抜)もしくは年額プラン(月額980円・税抜)を選べるサブスクリプションサービスだ。ユーザーはスマートフォンやパソコンで動画コンテンツを視聴しながら、自宅でエクササイズを行える。サービス加入時にエクササイズの「目的」、「強度」や「引き締めたい部位」を設定することで、自分に合ったコンテンツをレコメンドしてくれる。

ワークアウトのスケジュールを管理するカレンダー、受講したレッスン数や消費カロリーを記録するダッシュボード、目標を達成することでバッジを獲得できるゲーミフィケーション要素など、ユーザーが楽しくエクササイズを継続するための機能を備えている。
現在はウェブ版とiOSアプリを提供しているが、アプリの機能が限られているため、ユーザーの多くはウェブ版を利用している。今後はアプリ開発にも注力する計画だ。iOSアプリのフルリニューアルのほか、Android版の提供も開始するという。
提供するLEAN BODYは2015年12月設立のスタートアップだ。当時の社名はワンダーナッツ。「フィットネスを通じて心と身体を健康にできる。フィットネス人口を増やしていきたい」という思いのもと、フィットネス領域に特化してサービスを開発してきた。
2017年1月にはダイエット動画メディア「Lifmo(リフモ)」をリリース。だが、SNSに動画を投稿する分散型のメディアではユーザーは定着しなかった。そこで同社はサブスクリプション型のビジネスモデルに切り替えた。
3カ月後の9月にはLifmoをクローズし、LEAN BODYの開発に取りかかる。そして前述のとおり、2018年3月にサービスをローンチした。
開発で参考にしたのは、海外で先行して人気を博していたフィットネス動画配信サービス。アメリカの「Daily Burn」やドイツの「Asana Rebel」だ。
2007年にローンチしたDaily Burnはオンラインフィットネスのパイオニア的存在で、250万人以上の会員を抱える。Asana Rebelはヨガに特化したアプリで、2015年のローンチから2年半で800万回以上もダウンロードされた。この2つのサービスからはサブスクリプション型のビジネスモデルやマーケティング手法などを幅広く学んだが、中でも最も影響を受けたのは“コンテンツのあり方”だという。
例えば、Daily Burnは有名インストラクターを起用したコンテンツを配信し、高い評価を受けていた。そのためLEAN BODYでも開発時から有名インストラクターに出演を依頼し、コンテンツを自社開発。まだ世にすら出ていないLEAN BODYだったが、海外サービスの成功事例があり、国内では競合が少なかったことから、インストラクターたちは興味を示してくれたという。
結果、リリース当初から、世界で活躍するピラティスインストラクターのRISA氏の出演を実現。今ではRISA氏のほか、前述のビリー・ブランクス氏、細くて強いボディを作る「美コア」メソッドを考案した山口絵里加氏など、知名度の高いインストラクターたちによる450以上のコンテンツを配信する。
コロナ禍で飛躍した2020年
冒頭でも述べたが、2020年はLEAN BODYが飛躍した1年だった。新型コロナウイルスの感染拡大が本格化し、政府は4月7日に緊急事態宣言を発令。飲食店だけでなく、フィットネスジムも営業自粛を余儀なくされた。人々はジムには通えないものの、外出機会が減少したことによって運動不足に悩まされた。そこで脚光を浴びたのがオンラインフィットネスだった。
LEAN BODYは緊急事態宣言の直後、4月11日に令和版ビリーズブートキャンプの動画を配信開始。2005年にDVDで発売された初代ビリーズブートキャンプは累計150万枚を売り上げるヒット作だったこともあり、令和版の配信では“ビリー隊長”を知る幅広い顧客層を獲得することに成功した。
また、2020年はLEAN BODYにとって、オフラインの“リアルな場”を提供するジムとの協業を開始した年でもあった。会員が自宅でもエクササイズが行えるよう「配信プラットフォームと手を組みたい」と考えるジムが出てきたのだ。そこでLEAN BODYはコンテンツ制作面と配信面で協力すると買って出た。
3月にはストレッチ専門店「Dr.ストレッチ」との業務提携を締結。Dr.ストレッチ監修のコンテンツを作成し、同社の顧客向けにLEAN BODY上で配信を開始した。
7月にはスポーツクラブ「メガロス」を運営する野村不動産ライフ&スポーツとの業務提携を実施。同月より両社で共同開発したオリジナルプランの提供を始めた。
LEAN BODYでは今後も協業の幅を広げることで、「器具やインストラクターが揃うオフライン」と「自宅で気軽にエクササイズができるオンライン」を組み合わせた新たなフィットネス体験の普及を目指すという。
「店舗を運営する企業とコンテンツを制作し配信するLEAN BODYは異なる強みを持っているので競合には当たりません。むしろ、お互いの強みを活かすことで相乗効果が生まれると思っています」(中山氏)
調達した資金で次なるヒット作の配信を目指す
コロナによる追い風はLEAN BODYだけでなく競合サービスにも吹く。2018年にローンチし、オンラインでヨガのライブレッスンを提供する「SOELU」は、2020年1月末からの約10カ月で有料会員数を5倍に増やした。
ほかにも、アプリと連動した鏡型のデバイスを通じてオンラインフィットネスを提供する「MIRROR FIT.」が12月にローンチ。独自にオンライン配信を開始するジムも出てくるなど競合は増え、市場は混み合ってきた。
だが中山氏は「LEAN BODYが配信するコンテンツのクオリティは競合サービスと比較しても圧倒的に優れています」と強気だ。
有名インストラクターを起用している、そして450以上のコンテンツを制作・配信し得られた知見やデータがある──こうした要素が他社にはない強みだと中山氏は言う。
前述のとおり、LEAN BODYでは今回調達した5億200万円の資金を元に、令和版ビリーズブートキャンプに匹敵するような次なるヒット作の配信を目指す。そのため現在、誰もが知るような“有名人”に出演を依頼をしている最中だ。また、同社では2020年12月に日本に上陸した「Calm」のような「瞑想アプリ」も、LEAN BODYとは別軸の新サービスとして開発を進めるという。
「令和版ビリーズブートキャンプは我々の予想を遥かに上回るヒット作となりましたが、まだまだです。今以上にサービスを拡大させていくには、ヒット作を生み続ける必要があります」(中山氏)