
- BASEとの資本業務提携でサービスを相互連携
- サービスの成長に伴う“期待”や“責任”に応えられなかった2020年
- LINEやTwitterのように「ほとんど全ての人がアカウントを持つサービス」を目指す
文章、写真、イラスト、音楽、映像といった作品を個人のユーザーが配信できるメディアプラットフォームの「note」。月間アクティブユーザー数(MAU)が6300万人を超える(2020年5月時点)人気プラットフォームだが、2020年には「炎上騒ぎ」が相次ぎ、運営元であるnoteは批判を浴びた。
一連の炎上は昨年の8月に始まる。noteユーザーのIPアドレスが記事詳細ページのソースコードから確認可能になっていたことが明らかとなり、「IPアドレス漏洩問題」と騒がれた。10月以降はnoteが運営する有料ウェブメディアの「cakes」に対する批判が相次いだ。
2020年にはプラットフォームとしての資質が問われる騒動も相次いだnoteだが、運営体制・方針を改めるとともに、更なるサービス拡充のための動きを急速に進めている。
2020年12月にはクリエイターの発掘および育成や社員交流などを目的とし、大手出版社の文藝春秋との資本業務提携を締結。そして2021年1月12日、ECプラットフォームのBASEとの資本業務提携を明らかにした。BASEからnoteへの出資額は非公表となっている。なお、文藝春秋との資本業務提携は発表時には非公開だったが、登記情報によれば約2億円。今回の資本業務提携も文藝春秋との提携同様、パートナーシップ強化の意味合いの強いものだという。
ベンチャーキャピタルや事業会社に加え、日本経済新聞社やテレビ東京ホールディングスなどの伝統メディア企業からも資本提供も受け、信頼性高いプラットフォームの確立を続けるnote。一方で昨年はその成長痛が顕著に表れた年にもなった。BASEとの提携の狙い、そして炎上騒動を越えた今後の展開についてnote代表取締役の加藤貞顕氏に聞いた。
BASEとの資本業務提携でサービスを相互連携
noteとの資本業務提携を締結したBASEは、ECサイトを手軽に作成できるサービス「BASE」を提供するスタートアップだ。
BASEは2019年10月上場のECプラットフォーム。コロナの追い風を受けて急成長を遂げており、2020年12月には累計ショップ数が130万を突破した。今回の提携ではnoteとBASEを相互連携させ、両サービスを利用するクリエイターやD2Cブランドが商品販売から情報発信までをシームレスに行える仕組みを共同開発する。
noteではこれまでも記事に商品ページへのリンクを埋め込める「note for shopping」(2018年9月提供開始)や、ユーザーのプロフィールページに商品一覧を表示する「ストア機能」(2020年2月提供開始)を提供。ユーザーがnoteを通じて商品を販売できるよう機能を拡充してきた。
結果として、noteを通じて商品を販売するユーザーは急増。ECサイトへのリンクを埋め込んだ記事の本数は2019年から2020年で310%に増加したという。noteではBASEとの相互連携で、noteを通じた商品販売や情報発信をより活性化させたいと考えている。
加藤氏は「飲食店に限らず、お店をネット化、メディア化するのは必要条件になってきますし、すでにECサイトを持っているところでも『思い』を語る必要があります。noteのストア機能は現状、RSSで商品を一覧表示させるだけの限定的な機能しか提供していません。BASEとの連携を深めることで、例えばBASEの管理画面からnoteに簡単にアクセスして記事を書けるようにしたいと考えています。また、クリエイターやD2CブランドがBASEで販売している商品を、note上でもより思い通りに並べられるようにしていきたいです」と説明する。
note for shoppingでは、BASEのほかにも「STORES」や「Shopify」といったECプラットフォームとも連携。ストア機能ではSTORESや「MUUU」と連携している。今後BASEと進めていく相互連携についても、加藤氏は「エクスクルーシブ(独占的)な取り組みとは考えていないので、もちろんほかのサービスとも連携していきたいです」と述べる。
サービスの成長に伴う“期待”や“責任”に応えられなかった2020年
冒頭にあるとおり、2020年はnoteが複数回の「炎上」を経験した1年だった。8月に発覚したIPアドレスの問題では、著名人のnoteからIPアドレスを特定し、匿名掲示板の「5ちゃんねる」といったサイト上での投稿と紐付けるSNSユーザーが現れるなど、大きな騒動となった。
cakesを巡っては10月、写真家の幡野広志氏による連載で、DVやモラハラの被害をうったえる読者の人生相談に「ウソ、おおげさ」ではないかといった回答をしたことで「DV被害の相談者を一方的に“嘘つき”と決めつけて侮辱している」といった批判がSNSで広がり、炎上。11月にはcakes開催の「クリエイターコンテスト」で優秀作を受賞した作品に対して「ホームレスを悪意なく人間以外の生物の観察記録として書いている」といった類の批判が集まった。
そして12月、声優の浅野真澄氏は前述の炎上が原因で、予定していた連載が一方的に打ち切りとなったとnote上で明かした。その投稿によると、連載は友人の自死に関するノンフィクションだった。だがcakes編集部からは「フィクションということにしませんか」と提案されることもあったという。ネットには批判の声があふれ、編集長が交代し、加藤氏が謝罪のコメントを発表するまでの騒ぎとなった。
この一連の「炎上騒ぎ」を振り返り、加藤氏は「(自身で)想定以上と言うのもおかしいですが、去年はサービスが大きく成長した1年でした。同時に会社への期待、そして社会的責任も大きくなりました。そんな期待に応えたり、責任を果たすための力が僕たちに足りていなかったのは間違いありません」と説明する。
「大きな方向性の発信が、これまでは足りていなかったのだと思います。私たちは全ての人がクリエイターだと思っています。そのため、『クリエイターを守る行為』は『みんなを守る行為』。特定の誰かを優遇しているわけではありません。全員がクリエイターとして使える“場所”を作ろうとしているので、そのゴール地点を世の中に伝えることが必要だと思っています」
「『noteの運営』は『街の運営』に近いものがあります。なので、全員を同時に満足させることは難しいかもしれません。ですが、ある程度までは可能だと思っています。リアルの街と違って、ネットにはスペース(土地)の制限はありません。テクノロジーを使えば、みんなが満足できる街をつくれるのではないかと思っています。ただ、現時点では上手くできていないことはもちろんあるので、そこにはしっかりと向き合っていきます」(加藤氏)
noteではIPアドレスの問題発覚後、数社のセキュリティ診断会社にも協力をあおいだ。また今後も引き続き、プラットフォームのセキュリティや健全性の向上に向けた施策を推進する。同時にエンジニアを中心に採用を強化するほか、コロナ禍で開始したリモート化での運営体制についても改善を目指す。2020年には東京以外のエンジニアをフルリモートで採用、オンボーディングまで進めたが、この体制を強化することで、より一体感のある組織を目指していくという。
LINEやTwitterのように「ほとんど全ての人がアカウントを持つサービス」を目指す
noteがローンチしたのは2014年のことだが、今ではMAUが6300万を超える。Twitterの日本でのMAUは4500万(2017年10月)、Instagramは3300万(2019年3月)で、MAUだけを見れば、代表的なSNSを凌ぐ巨大なプラットフォームへと成長を遂げた。
加藤氏はnoteの今後について、「LINEやTwitterのように、ほとんど全ての人がアカウントを持つサービスにしていきたいです。noteにコンテンツを見にくる人は多いのですが、アカウントを持ち、コンテンツを書く人はまだまだ少ない状況です(編集注:2020年5月時点での会員数は約260万人)」と話す。そして「僕たちがやろうとしていることは1つだけ。クリエイターの活躍の場を広げることです」と付け加えた。
noteでは今後もBASEとの相互連携のようなかたちで、他社サービスとの連携を拡大・深化させていく。より多種多様なクリエイターが作品を配信し、ユーザー間での交流がより活性化するよう、noteという“街”を更に発展させていきたいと加藤氏は言う。
「ニューヨークには、街の文句を言いながらも楽しく住んでいる人がいっぱいいます。刺激的な人がいて、チャンスがあって、面白いから人が集まる。noteもそのような場所にしたいと考えています。いろいろな人がそれぞれの立場で発信して、仲間をみつける。有名になる人もいれば、友達をつくって仲良く過ごす人もいる。いろんな意見の人がいていい。それぞれが気持ちよく過ごせる場を作りたいと思っています」(加藤氏)
とは言え、いくらニューヨークが良い街だとしても、合わない人には合わない。noteから他のプラットフォームに情報を移行するためのエクスポート機能やインポート機能が用意されていないことを指摘すると、加藤氏は以下のように説明した。
「出て行かれるのが嫌だからエクスポート機能を用意していないわけではありません。現在進めている別の案件が済んでからの着手になるので、まだ用意ができていない状況です。インポート機能についても、その時に合わせてリリースしたいと考えています」(加藤氏)