カバー代表取締役の谷郷元昭氏
カバー代表取締役の谷郷元昭氏 すべての画像提供:カバー
  • “コンテンツ好き”起業家が行き着いたタレント×ゲームビジネス
  • 生身のアイドルと同様の「応援したくなる仕組み」
  • 二次元な存在を「アイドル」にしたライブ配信
  • ライブだからこそのリスクは「きちんと改めていく」
  • 「日本だからこそ見出だせた文化」を武器に、世界に挑戦する

日本が世界に誇るものと言えば、漫画やアニメ、ゲーム。そこへ新たに「VTuber」が加わろうとしている。

VTuberとは、二次元のキャラクターをアイコンに動画配信を行う「バーチャルユーチューバー」のこと。代表例にはキズナアイやミライアカリ、ときのそら、といったキャラがおり、最近ではTVCMのほか、雑誌の表紙を飾ることもある。

その人気の勢いは止まらない。YouTubeで動画配信を閲覧するユーザーがコメントとともに投げ銭ができる「スーパーチャット(スパチャ)」の2020年におけるランキングでは、グローバルでのトップ10のうち7名が日本発のVTuberだ。ランキングトップに君臨するVTuber・桐生ココのスパチャ累計金額は1億5000万円以上にのぼる(Playboard調べ)。

「これまでのVTuberは、個人で動画を投稿するスタイルが主流でした。最近では、VTuberそれぞれがプロダクションに所属し、ライブ配信するスタイルが急増。そのため、AKBやハロプロのように“ハコ推し”(編集注:個人ではなくプロダクションごと応援)する人が増えています」

そう話すのは、カバー代表取締役の谷郷元昭氏だ。カバーでは、VTuberのキャラクター開発や動画配信環境を提供するほか、マネジメントを行う「ホロライブプロダクション」も運営。前述のスパチャ世界ランキングにおいて、桐生ココを含む日本発VTuberの上位9人はホロライブプロダクション所属のVTuberだ。

とはいえ、カバーが目指すのは単なる流行の「VTuberビジネス」ではない。VTuberをタレント、アイドルとして扱い、さまざまなプラットフォームでメディアミックスの事業を展開していくことだという。 同社の成り立ちからVTuberを取り巻く環境の変化までを、谷郷氏に聞いた。

“コンテンツ好き”起業家が行き着いたタレント×ゲームビジネス

谷郷氏は、自他ともに認める「コンテンツ好き」起業家だ。「@cosme(アットコスメ)」運営のアイスタイルではEC事業立ち上げを行ったのち、モバイルサービスのインタースパイア(現ユナイテッド)創業に参画。その後サンゼロミニッツを創業し、GPS対応スマートアプリ「30min.(サンゼロミニッツ)」を軸に事業展開を進めた経歴を持つ。

そんな彼が「コンテンツビジネスで、社会にインパクトを与えたい」と、2016年に創業したのがカバーだ。当初はアニメなどのキャラクターをオンラインで配信するビジネスを考えていたという。

「アニメ制作会社のキャラクターを3D化し、展開するイメージでした。しかし、実際に営業してみると、アニメ制作会社のどの担当者にもピンときてもらえませんでした。キャラクターそのものを3D化する場合、IP(知的財産)や監修も発生するなどハードルが高いこともわかり、1本に絞るのは諦めました」(谷郷氏)

そして、谷郷氏が行き着いたのが、タレントビジネスとゲームビジネスのハイブリッドなビジネスモデルだった。

カバーではアプリ1つで自らをVTuberとして撮影・配信できるアプリ「ホロライブ」を開発。本来であれば総額数千万円の機材が必要なところを、スマホだけで配信可能なシステムを提供する。加えて、VTuberプロダクション事業の「ホロライブプロダクション」を展開。TVアニメ化されたライトノベル「エロマンガ先生」のイラストレーター・かんざきひろ氏、同じくTVアニメ化されたゲーム「STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート)」などで人気のイラストレーター・huke氏らがデザインを担当し、人気声優などを起用したVTuberを生み出して、生身のタレントやアイドルとしてマネジメント配信支援などを行うに至った。

「2020年5月に約7億円の資金調達をしていますが、そのうち4000万円はモーションキャプチャ開発へ投資しています。現在、売上は年間で2桁億円ほど。そのほとんどがマネジメント事業によるものです。所属タレントは約50名。YouTubeでの累計チャネル登録数は、1000万以上です」(谷郷氏)

生身のアイドルと同様の「応援したくなる仕組み」

そこまでの人気が集まる理由は何なのか。そこで注目したいのが、ホロライブプロダクション所属するVTuberたちを「応援したくなる仕組み」だ。

ホロライブプロダクションの所属VTuberは、2Dモデルのキャラクターでデビューする。一定のチャンネル登録数を突破すると、3Dモデルを提供してもらえる。ファンたちにとって、そのタイミングはメモリアルであり、お祝いとして衣装のプレゼントや課金をする人もいる。

「3Dモデルがあれば、イベントでもパフォーマンスできるようになります。そのため、ファンはVTuberが努力する姿を見て、応援の意味を込めて投げ銭する。これは、AKB48などのアイドルグループで“推しメン”(応援するメンバー)をステージに押し出すため、CDを複数枚買う行為に近いかもしれません」(谷郷氏)

イベントは、ファンにとって“推し”の活躍の集大成。2020年1月に豊洲PITで開催したホロライブプロダクション初の全体イベント「hololive 1st fes.『ノンストップ・ストーリー』」では、ライブ会場とオンライン配信に3万人近いファンが集まった。同年12月には、コロナ禍の影響もありオンライン配信限定でのライブを行った。同社は数字を公開していないが、ここにも多くのファンが集まったという。

のべ3万人が参加したファーストライブ
ファーストライブ「hololive 1st fes.『ノンストップ・ストーリー』」には3万人近いファンが集まった

二次元な存在を「アイドル」にしたライブ配信

バーチャルにも関わらず、生身のアイドルさながらの熱狂を後押ししているのが日々の「ライブ配信」だ。

冒頭で谷郷氏が語っていたとおり、以前までのVTuberは、録画した内容を編集し、YouTubeなどのプラットフォームに投稿するスタイルが主流だった。そうすると、コメントや投げ銭をしても、VTuber本人から返信はない。しかし、ライブ配信であれば、リアルタイムでの返信やリアクションを得られる。

「そもそも、VTuberはYouTuberに比べてニッチな市場。特定のファン層が喜ぶジャンルがほとんどなので、動画を投稿し続けるだけで人気を高めるのは難しい現状がありました。一方、ライブ配信はコメントで掛け合いながらインタラクティブに配信できる。動画編集も必要ないため、コストダウンにもつながっています」(谷郷氏)

そんなVTuberの人気は国内にとどまらない。前述のスパチャランキング上位のメンバーの多くは、英語でもライブを配信。その人気は海外にまで拡がっている。

「海外ではもともとTwitch(編集注:ゲームに特化した配信サービス)のストリーマー(配信者のこと)に投げ銭を行う文化がありました。日本だと17LIVEのようなイメージです。そこにアニメーションを掛け合わせたのがVTuberだと考えています」(谷郷氏)

熱い視線を送るのは国内外のファンだけではない。企業からの引き合いも増えてきた。2020年10月には日清食品のキャンペーンに、ホロライブのVTuberたちが起用された。実績が増えることで、企業からの問合せもさらに増えている。

「これまでも特定のVTuber、つまりタレント単体がキャンペーンに起用されるということはありましたが、最近では『ホロライブ』というIP全体を知ってもらうことも増えてきています」(谷郷氏)

記事冒頭の“スパチャ”の数字が目立つが、企業とのタイアップ、ライブイベント(コロナ期間中はオンラインのみ)やその映像コンテンツの販売など、リアルなタレント同様に多チャネルでのビジネスを展開している。

ライブだからこそのリスクは「きちんと改めていく」

もちろん、ライブ配信を軸にするからこそのリスクもある。二次元のアイコン、ライブ配信だからこそ気にしたいのが、著作権侵害や発言内容を発端とした炎上だ。

2020年には、ホロライブプロダクションで配信を行っていたゲーム実況において、配信許諾を得ていなかったことにより炎上。また中国の動画配信プラットフォーム「bilibili」では、公開した統計データの「国籍」表示をきっかけにした炎上も起こった。中国では「1つの中国」、つまり台湾を独立国家ではなく中国の領土の一部と認識されているが、「配信を見ている視聴者の国籍」の項目に「台湾」という表示があったことから起きたもの。炎上をきっかけに、bilibiliで配信していたホロライブのVTuberは「卒業」を発表するに至った。

谷郷氏は中国での炎上騒動について「結局配慮に欠ける対応で炎上してしまったので、1期生および2期生の契約を終了するかたちになってしまいました」と説明する。

また、この騒動に限定しない話として、昨年社内にリスクコンプライアンス委員会も立ち上げた。所属するVTuberに対しては、リテラシー教育や情報共有を進めている。

「自分たちに落ち度があれば、きちんと改めていきたいと考えています。同時に、VTuberの“中の人”は、みんな人間です。過剰に攻撃されることがないよう、会社としてしっかり守っていかなければいけません。そのうえで、世界中のファンを喜ばせるビジネスを展開していきたいです」(谷郷氏)

「日本だからこそ見出だせた文化」を武器に、世界に挑戦する

トラブルもあったが、事業への期待値は高い。コロナ禍の影響を受けて、オンラインでのエンタメへの注目はさらに高まっているからだ。谷郷氏も「コロナで自宅にいる機会が増えて、他人との繋がりを求めている中で、ライブ配信をするVTuberがその繋がりを提供できていることが、支持いただいている理由の1つ」だと説明する。

同社は2月にもオンラインライブを開催する予定だ。また、独自にバーチャルライブ配信サービスの開発も進める。海外展開についても意欲を見せる。

「ヒカキンさんのようにリアルなYouTuberは国内のみでも収益を出せますが、VTuberは海外でも認知されないとチャンネル登録数は数百万以上になりません。これは、ホロライブプロダクションが初めから海外を目指す理由の1つでもあります」

「VTuber市場は今、日本が先行している状態です。カバーは『日本だからこそ見出だせた文化』を武器に、世界で戦える会社にしたいと思っています」(谷郷氏)