COHINA共同創業者・ディレクターの田中絢子氏
COHINA共同創業者・ディレクターの田中絢子氏
  • 「毎日ライブ配信」で熱狂的なファンを生み出す
  • 「マス向けの施策」に注力したワケ
  • 三者連携の商品開発が強みに
  • 売上100億円の規模を目指していく

今から3年前、2018年1月にスタートした“身長155cm以下の小柄女性”に特化したD2Cアパレルブランド「COHINA(コヒナ)」。立ち上げ当初、周囲から「ニッチ過ぎる」と見られていたブランドは、今や月商1億円程度を超える規模に成長している。昨年末には、テレビCMを放送したほか、東京ガールズコレクション(以下、TGC)にも出場するなど、この3年で躍進を遂げている。

身長155cm以下の小柄女性というニッチな層をターゲットしたブランドは、いかにして一目置かれる存在となったのか。同ブランドを立ち上げ、ディレクターとして商品開発の中枢に立つ田中絢子氏に、COHINAの成長戦略を聞いた。

「毎日ライブ配信」で熱狂的なファンを生み出す

──この1年ほどで急速に存在感を増している印象です。

創業から3年、予想以上のペースでお客さんに支持をいただき、オフィスの引っ越しもすでに4回目。「これくらいのスペースがあれば、商品サンプルを置くのに十分かな」と思っても、すぐに手狭になってしまうんです。

もともと、COHINAは身長148cmの私と151cmの清水(共同創業者でディレクターの清水葵氏)が「自分たちが本当に欲しくてジャストフィットで着れる服が欲しい」という思いだけで立ち上げたブランドでしたが、今は社員も増え、インターン生を含めて30人超の組織になりました。起業した当初は、D2Cに関する資料も日本語のものはほとんどなくて、海外の文献をリサーチして手探りでやっていたのですが、今はこんなにD2Cサービスが増えて、ものすごく風景が変わった感覚があります。

身長155cm以下の小柄女性向けアパレルブランド「COHINA」
身長155cm以下の小柄女性向けアパレルブランド「COHINA」

──ブランドが一気に伸びたターニングポイントはなんでしょうか?

正直言って、「これをやったからうまくいきました!」と言えるものがあったわけではなくて、地道な積み重ねしかやっていません。例えば、3年間ずっと変わらずやり続けているのは「インスタライブの毎日配信」です。

モデルが実際にCOHINAの商品を身につけて着心地や特徴を伝えたり、お客さんの質問に答えたりするライブ配信をInstagramを通して続けています。「COHINAと言えば、毎日インスタライブやっているブランドだよね」と認知してくださる方も増えてきました。

このインスタライブはブランドのコアとなるコミュニケーションであり、売り上げの重要な導線になっています。さらにこの1年ほどで力を入れてきたのは、“マス向け”の勝負です。

身長155cm以下の小柄女性というのは、日本の女性全体の25%ほど。小さなマーケットですが、だからといって小さく収まろうとするのではなく、「小柄女子向けブランド」を新しいスタンダードの一つにしていきたい。小柄女子に限らず、ある特定のターゲットのためだけに存在するブランドが通用する世の中にしたいという思いがあるんです。

──ブランドで「多様性の時代」をつくる側になりたい、ということでしょうか。

私自身の感覚としては、「多様性って、そんな当たり前のことを今さら考えるの?」という感じです。シンプルに、自分が欲しかったものをつくって、同じような悩みを持っていた女子たちにも提供したかったというだけなんですよね。

もっと言えば、誰だって何かしらマイノリティな部分は持っているはずです。私の場合はたまたま「身長が低い」ということでしたが、逆に身長が高くて困っている人、外国籍の人、僻地住まいの人など、“ちょっとした生きづらさ”を抱えている人が世の中の大半だと思います。さまざまなマイノリティの悩みに応えて、すべての人が心豊かに暮らせる社会にするためのサービスは、これから絶対増えるはずだと思います。だから、私は当然のことをやっているつもりしかなくて、特別な気負いはありません。

緊急事態宣言中の2020年5月にCOHINAで最も売れたアイテム「セットアップ対応フレアブラウス(ネイビー)」画像提供:COHINA
緊急事態宣言中の2020年5月にCOHINAで最も売れたアイテム「セットアップ対応フレアブラウス(ネイビー)」画像提供:COHINA

現在COHINAのリピート率は50%とアパレル業界の平均を上回る高水準で評価いただいていて、「周りの人にも勧めたいと思うか」を指し示すNPSスコアも高い数値になっています。新商品の情報をお客さんが勝手に拡散してくれたり、サイトの誤字をそっと指摘してくれたり、「COHINAで働きたいです!」とおっしゃってくださる方もたくさんいて、本当に一緒になってブランドを育てている感覚があります。このお客さんの愛着の強さが何よりの成長のエンジンになっていると思います。

「マス向けの施策」に注力したワケ

──「マス向けの施策」としては、具体的にどんなことをやってきたのでしょうか?

2020年のトピックとして大きかったのは、TGCへの出場です。TGCといえば、「スナイデル」や「エゴイスト」といった10代〜20代前半のファッショントレンドをつくるブランドがひしめく舞台。そこにCOHINAを呼んでいただけたというのは象徴的な出来事でした。

画像提供:マイナビ TGC 2020 A/W ONLINE
画像提供:マイナビ TGC 2020 A/W ONLINE

出場後はすごく反響がありました。お客さんがとっても喜んで下さって「ステージ観ながら泣きました」という声もたくさん届いたんです。いちアパレルブランドに対して、そこまで熱量の高い反応を示してくださる理由は、「COHINAが世間に認められることは、イコール自分自身の存在が認められること」と感じているお客さんが多いからなのだと気づきました。

身長が低いがために洋服選びで苦労して、それ以外のシーンでも不便や苦しい思いをしてきた人たちが、「そんな時代はもう終わるんだ」と感じている。ランウェイを歩くモデルさんも、一般的なモデルさんでは身長が高過ぎるので、いつもうちのインスタライブでお願いしている皆さんに依頼したのですが、すごくいい顔をされていて……。

私自身も、「小柄なファッションモデルがいたっていい」という新しいモデルのあり方を提示できたことが誇らしかったです。

──マス向け戦略としては、テレビCMも始めました。

テレビCMを打ったことも、大きな決断でした。D2Cブランドといえば「ターゲットを絞ってオンライン広告を打つ」のが常套手段だと思いますし、テレビCMは販売への導線も決してよくないので獲得コストが高過ぎて見合わせる判断をするのが普通です。

でも、あえて打つことを決めたのは、COHINAというブランドの信頼度を高めたかったからです。この3年ほどで大手ブランドも小柄女性をターゲットにした商品を出すなど競合も増えていたこともあり、D2Cに対して「ちゃんと商品が届くのか怖い」と不安を持っている人たちに安心してもらいたい、という思いもありました。

あとはシンプルに“カテゴリの認知”を上げたかったんです。ありがたいことに、COHINAを指名して探して買ってくださった方は繰り返し買ってくださるのですが、まだまだ「そもそも小柄女子向けのアパレルブランドがあることを知らない」という人もたくさんいます。

カテゴリの認知を広げることは、競合にとってもプラスに働くことにはなるんですが、知っていただいた後にちゃんと価値を届けて満足につなげることに関しては絶対の自信があるので、思い切って勝負できました。

三者連携の商品開発が強みに

──その絶対の自信を生む商品力の秘密を教えてください。例えば、商品情報のページを見ても、サイズについて「太ももあたりはちょっとゆるめです」といった細かな説明がされています。

サイズ感のこだわりについては、私自身が買い物する度にずっと困っていたことなので、ソリューションとして適切な見せ方ができていると思います。お客さんから「私はウエストが◯◯mでヒップは◯◯cmなんですけれど、どのサイズを選べばいいですか?」と質問がきたら、「お客さんの体型でしたら、こちらがおすすめですよ」と具体的に提案できます。

そういったダイレクトな相談がほぼ毎日、何通も私のInstagramのアカウントに来るので答えているんです。質問だけじゃなくて「職場にこれを着ていったら褒められました!」というご感想もいただけるので、励みになっています。コミュニケーションをする上では、初めてのお客さんでも参加しやすいようなオープンな雰囲気を心がけています。

──新商品も早いサイクルで出している印象です。現在の商品開発はどんな体制をとっていますか?

新作は月20〜30商品ほど出していて、アパレル業界ではかなり多いほうだと思います。この1年ほどで社内の生産体制が非常にうまく回り出したことが、とても効いています。

具体的には、マーケティングとデザイン、ディレクションの三者連携です。Instagramのライブ配信の運用などを通じてお客さんの声を拾ってくるマーケティングチームと、そのニーズを洋服のデザインに落とし込む社内デザイナー、そして当事者代表として「小柄女子としてはこういうポイントがあると嬉しい」「カラー展開はここまで広げてほしい」といったこだわりを反映するディレクターの私。この三者が開発・生産・販売まで通貫して連携するチームワークが整ってきました。これは3年かけて組織づくりをした成果です。

──アパレルの生産はロスをいかに最小化するかも課題だと聞きます。在庫リスクについてはどう対応していますか?

在庫リスクを完璧に予測するのは今でも難しいです。ただ、COHINAは自社ECのみでしか販売していないため、実店舗を持っているブランドよりかは精度高く販売予測を立てることができます。それこそ、立ち上げ当初は私たちの見込みが甘く、「販売開始から3分で売り切れ」といった失敗が続いた時期もありましたが、今は3年間運営してきた経験もあり、予測を大きく外さなくなりました。

また、開発段階で新商品をチラ見せしてお客さんの期待値を測ったり、予約販売をしたりして、生産計画の精度も上げられてきたかなと思います。結果的に、いまはセール前提でプロパー消化率と最終消化率を分けて価格調整するようなこともせずに、余剰在庫を抱えない状態でブランドの運営ができています。

売上100億円の規模を目指していく

──今後、新たなプランとして描いていることは?

目下、準備を進めているのは海外展開です。最近、海外配送に関する英語の問い合わせが急増しているんです。小柄女性向けアパレルへのニーズは、これほどにグローバルなものだったんだと驚くほどです。アジアだけでなく、欧米からも「こちらのSサイズでは大き過ぎるので、より小さなサイズでデザインのいい服を探していた」と切実な声が届いています。コロナ禍の配送事情で対応可能な地域から順次となりますが、法律上の調整など準備は整ったので、先日、海外配送の対応も開始しました。

神戸のシューズブランド「FOREMOS marco」とコラボによって生まれた「COHINAシースルーパンプス」 画像提供:COHINA
神戸のシューズブランド「FOREMOS marco」とコラボによって生まれた「COHINAシースルーパンプス」 画像提供:COHINA

アイテムに関しても、服以外のジャンルをもっと広げていきたいですね。靴(20.0〜22.5cmに限定)とバッグはすでに展開済みですが、よりライフスタイルに根付いてCOHINAの世界観を表現できるもの、例えば香りなどライフスタイルの領域にもチャレンジしてみたいですね。

また、コミュニケーション手法もInstagram以外のチャネルを増やしていきます。すでに私の個人アカウントでYouTube配信は始めていて。Instagramでは表現しきれなかった詳しい説明を心がけています。ペースは週2〜3本。結構しんどいですが、頑張ってます。

──具体的な数値目標はどれくらいでしょうか?

アパレル業界では売上が100億円を超えると上位10%に入ると言われています。当然、そこは目指しますし、決して無理な目標ではないと思っています。

COHINAが日本を代表するアパレルブランドの一つとなって、小柄女性が当たり前のように楽しく服を選んで買える世の中を引き続きつくっていきたいです。