ナイル代表取締役社長の高橋飛翔氏 すべての画像提供:ナイル
ナイル代表取締役社長の高橋飛翔氏 すべての画像提供:ナイル
  • 月額1万円台からマイカーが所有できる
  • “若者のクルマ離れ”は幻想
  • 今後は自動車関連事業者との連携を強化、M&Aも視野に

“若者のクルマ離れ”が叫ばれて久しいが、その価値観はコロナ禍で激変した。「不特定多数者と接触せずに済む」「三密を回避できる」といった理由から、新たな生活様式における移動手段として「マイカー」が注目を集めている。

トヨタグループと住友グループのジョイントベンチャーであるKINTOが運営するサブスクリプションサービス「KINTO」が実施した意識調査によれば、8割の人が「マイカーを保有したい」と考えているという。そんなニーズを汲み取り、人気を博しているのが自動車のサブスクリプションサービスだ。

「ローンチから3年で累計の申し込み数は4万5000件を突破。契約者数も2020年は昨対比で約4倍に増えるなど、右肩上がりで順調に成長しています」

こう語るのは、月定額で自動車を保有できるサブスクリプションサービス「おトクにマイカー定額カルモくん(以下、カルモくん)」を展開するナイル代表取締役社長の高橋飛翔氏だ。

同社は1月18日、DIMENSION、JICベンチャー・グロース・インベストメンツ、環境エネルギー投資、博報堂DYメディアパートナーズ、SBIグループ、日本ベンチャーキャピタル、グリーベンチャーズ、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム、その他個人投資家を引受先として総額約37億円の第三者割当増資を実施したほか、複数金融機関から合計13億円を上限とする融資契約を締結。総額50億円超の資金調達を実施したことを明かした。

同社は2019年4月に未来創生2号ファンドを運営するスパークス・グループなどから15億円の資金調達を発表しており、今回の資金調達で第三者割当増資による累計調達額は55億7000万円となった。今回調達した資金は人材採用のほか、マーケティング活動の強化に充てるという。

月額1万円台からマイカーが所有できる

カルモくんは頭金、初期費用、ボーナス払い不要の月額定額でディーラー保証付きの新車、中古車を所有できるカーリースサービス。月額料金には自動車税(種別割)などの法定費用が含まれており、車種にもよるが月額1万数千円ほどでマイカーが所有できる。

また、返却時の原状回復費用補償や車検整備、消耗品交換などのメンテナンス費用も月額定額で支払えるプランがあるのもカルモくんの大きな特徴となっている。取り扱い車種は国産全メーカーの全車種。賃貸契約可能期間は新車が1年から11年、中古車は3年から8年となっている。車探しから料金シミュレーション、審査、申し込みもオンラインから行える。

「工場の稼働停止や対面での営業に対する抵抗感、先行き不透明な状況での買い替えリスクなど、さまざまな要因によって新型コロナは新車販売はネガティブに働いています。一方、コロナ禍でマイカー所有自体の価値は上がっており、そうした中で完全非対面で安くマイカーを所有できるカルモくんのようなサービスは競合も含めて、追い風が吹いています」(高橋氏)

“若者のクルマ離れ”は幻想

カルモくんを展開するナイルはもともと、SEOやウェブコンサルティングなどのデジタルマーケティング事業のほか、スマホアプリ紹介サービス「Appliv(アプリヴ)」などの自社サービスを展開してきたスタートアップ。そんなナイルが2018年1月に従来の事業とは異なる領域である“自動車のサブスクリプションサービス”を開始したことには社外から驚きの声もあった。

「今でもたまに『なんで自動車だったの?』と言われることがあります。周りからは非連続のサービスに見えるかもしれませんが、ナイルは自社で内製化したデジタルマーケティングのソリューションをフル活用し、さまざまな事業を立ち上げる会社です。カルモくんに関しては、これまで培ったデジタルマーケティングのノウハウをもとに、自動車の所有のあり方を変えていきたいと思い、スタートさせました」(高橋氏)

実際、ナイルはカルモくんの集客に関して、これまでに培ってきたSEO、コンテンツマーケティングの知見を活かしている。また、高橋氏は自動車のサブスクリプションサービスの可能性について、こう続ける。

「まず前提として、自動車産業は日本の一大産業です。実際、日本の労働人口の8%は自動車関連産業に従事していると言われているなど、市場規模は大きい。また、日本は都市部以外、基本的には大きな幹線道路があり、マイカー文化が出来上がっています」

「ただ、自動車の購買プロセスには変革の余地があると思いました。例えば、統計データによれば平均的な新車の保有期間は8年を超えていますが、ローンやリースは3〜5年の短期プランしかなく、自動車を購入した人の多くは毎月の支出が負担になると言っていて。月額費用を下げつつ、決まった期間に乗れる仕組みはニーズがありそうだと思いました。それに加えて、自動車に関する情報もインターネット上に豊富に揃っていることもあり、自動車を購入する前のディーラーを訪れる回数は4分の1に減っているという調査結果もあった。それを踏まえたとき、自動車のサブスクリプションに可能性を感じました」(高橋氏)

こうした考えのもと、スタートを切ったカルモくん。2019年12月には中古車リースのサービスを開始したほか、2020年5月にはオリックス自動車と中古車リースで提携するなど、着実に事業の幅を広げるなど、高橋氏も一定の手応えを感じている。

「“若者のクルマ離れ”は幻想だと思っています。実際、全国の若者を対象にアンケートを実施してみたところ、67%の人が『車は必要』と回答しています。自動車は欲しいけれど、可処分所得が減った結果、自動車の所有を諦めざるを得なくなっているだけなんです。実際、昔はセダンが人気でしたが、今はN-BOXなどの軽自動車が人気になっている。それは価格が安いからだと思います。『自動車は欲しいけれど高いから買えない』という課題は自動車を安く提供できる仕組みで、一定は解決できるのではないかと思っています」(高橋氏)

今後は自動車関連事業者との連携を強化、M&Aも視野に

リリースから約3年。累計の申し込み数は4万5000件を突破するなど、右肩上がりで成長を続けるカルモくんは今回の資金調達でさらに成長のアクセルを踏んでいく。

具体的には、マーケティング活動をより強化していくほか、独自性のある新車と中古車の商品開発、そして人材採用に注力していく予定だ。

「新車、中古車ともにまだまだ改善の余地があるので、より魅力的に感じるプロダクトにしていきたいと思っています。また、ネット通販のように自動車も販売できればいいのですが、自動車はグレード数がたくさんあり、機能や装備もグレード数によって異なるため、きちんと人が説明しなければ売れません。ここはどれだけAIが発達しても人が関わる部分だと思うので、人材採用にも力を入れていきたいです」(高橋氏)

前述のKINTOのほか、日産自動車やホンダなどの大手企業も参入するなど、盛り上がりを見せている自動車のサブスクリプションサービス。競合ひしめく中、高橋氏は今後の戦略をどう描いているのか。

「デジタルマーケティングはナイルの強みでもあるので、オンラインでの車販はしっかりやっていきます。とはいえ、まだ車販のEC化率は3%を切っており、まだまだオフラインで自動車を買う人の割合は多いのが現状です。そうした消費者の気持ちや購買行動はきちんと拾い上げ、今後は消費者接点の多い自動車整備工場や自動車ディーラー、サービスステーションなど自動車関連事業者とのアライアンスを強化し、オフラインの場でカルモくんに触れる機会を創出していきたいです。また、親和性が高い企業のM&Aについても積極的に検討していこうと思います」(高橋氏)