Pocochaプロデューサーの水田大輔氏 すべての画像提供:DeNA
Pocochaプロデューサーの水田大輔氏 すべての画像提供:DeNA
  • 誰でも気軽にが「Pococha」のウリ
  • 「報酬=一攫千金」にしない
  • 過去の失敗から「Pococha」が生まれた
  • Pocochaが狙う「ライバーの地位向上」と「地方への貢献」

YouTuberの次に来る──そう言われ、注目を集めている職業が「ライバー(ライブ配信者)」だ。例えば、ライブ配信アプリ「17LIVE(イチナナ)」を運営する17 Media Japanが2020年6月から8月にかけて実施した調査によれば、単月で6万円以上の報酬を得ているライバーの数は8430人を記録。前回の調査(同年2月〜4月)から倍増しているという。

ライバーの増加に伴い、ライブ配信アプリの数も増加。前述の17LIVEやSHOWROOM、ミクチャ(MIXCHANNEL)、ふわっちといったアプリが台頭し、今やまさに“ライブ配信アプリ戦国時代”に突入している状況だ。そんな競合アプリがひしめく中、急速に成長を遂げているのが、DeNA運営のライブコミュニケーションアプリ「Pococha(ポコチャ)」だ。

DeNAが2020年11月に発表した2021年3月期第2四半期の決算説明会資料によれば、Pocochaのダウンロード数も累計190万を突破しているほかライバー(配信者)とリスナー(視聴者)のMAUがそれぞれ前年比約3倍になるなど、成長ペースが加速。ライブストリーミング事業の営業利益は今四半期16億円で、4億円の赤字だった前年同期から二四半期連続で黒字に転換。コロナ禍で苦戦するスポーツを超える、新たな事業の“柱”として成長している。これを受け、DeNAはこれまで新規事業枠だったPocochaを注力投資対象としている。

誰でも気軽にが「Pococha」のウリ

PocochaはDeNAが2017年1月に開始したライブ配信アプリ。特徴は、「ライブ配信の手軽さ」と「報酬制度」にある。

YouTubeでライブ配信する際は、専用機材や環境整備、動画編集スキルなどが求められるが、Pocochaはスマホひとつでライブ配信が可能。また、通常のライブ配信アプリでは、ライバーの報酬はリスナーからのコメントや贈られたアイテム数などによって決まるが、Pocochaではライブ配信時間やいいね数に応じて報酬が支払われる仕組みを採用。さらに、ライブ配信で一定のポイント数をクリアするとプライズ(景品)が届くイベントも多数開催するなど、経験の浅いライバーでも積極的にライブ配信をしたくなる仕掛けをうまくつくっている。

2020年6月にはライバー育成を目的とした「Pococha for Business」もスタート。同年8〜9月には、ライバーマネジメントプロダクション向けに各条件を満たすことで1社あたり最大1780万円を支援する特別報酬も提供している。特別報酬の提供は、その後も継続して行われており、現在1社あたり最大890万円を支援している。

2017年リリースと後発でありながらも、着実にファンを増やし続けてきたPococha。新規事業からスタートした同アプリが「DeNAの注力投資対象」となるまでの経緯を、プロデューサーである水田大輔氏に聞いた。

「報酬=一攫千金」にしない

“DeNAのライブ配信アプリ”と言えば、多くの人はSHOWROOMをイメージするかもしれない。実際、2020年6月時点までSHOWROOMはDeNAの連結子会社でもあった。となると、一時はPocochaも合わせて2つのライブ配信アプリをDeNAは手がけていたことになるが、社内でどのように棲み分けていたのだろうか。

「これはよく聞かれる質問でもあるのですが、明確な違いはユーザー属性にあります。SHOWROOMはアーティストやアイドル、タレントがファンとの交流を楽しむ、いわゆるプロユーザー向けです。一方、Pocochaは一般ユーザー向けです。そのため、撮影から視聴まで、すべてスマホ1つでできるように設計。特別な機材や知識がなくとも、誰もがライブ配信を行えるようにしました」(水田氏)

ライバーが「インフルエンサー」と呼ばれ、多くの人に認知されるまでには地道な努力が必要だ。それに加えて、ライブ配信アプリの歴史は短く、誰もが簡単に収益を稼げるわけではない。そんな中、Pocochaが取り入れたのが「ランク制度」だった。

通常のライブ配信アプリでは、ライバーへの報酬は視聴者からギフティングや課金アイテムの量によって決まる。しかしPocochaでは、ライブ配信時間やアイテム、いいね、コメント数などに応じて報酬が支払われる。

「YouTuberは『一攫千金を目指そう』というモチベーションで、若者の憧れの対象になっています。ただ、Pocochaのライバーはユーザーにとって手の届くライフスタイルのひとつとして提案できるようにしたかった。そのため、『報酬=一攫千金』といった見せ方をするのではなく、自然とライブ配信を楽しめるようにランク制度を取り入れました。Pocochaは日常の彩りとして、みんなの手に届くというサービスにしたいという思いがあります。少ない人数が多くの報酬を得るというよりは、より多くの人が報酬を得られる設計を心がけています」(水田氏)

そして、ユーザーとのコミュニケーションを細かく行うことで運営を「見える化」した。これはソーシャルゲームの機能追加ロードマップを生放送でアナウンスしたらユーザーが喜んでいた様子からヒントを得たという。

「Pocochaでは、ユーザー同士の交流イベントを毎月120回ほど開催しています。それも、ソーシャルゲームのようなランキング型のイベントなので、景品のやりとりから運営の存在を見えやすくしました。そのほか、3日に1回のペースで機能追加の背景やイベント情報を発信。ユーザーからのリクエストには『善処します』『持ち帰ります』とは言わず、イエスかノーどちらかで正直に答えるようにしています」(水田氏)

過去の失敗から「Pococha」が生まれた

外から見ると「PocochaはSHOWROOMをもとにして生まれた」ように思いがちだが、実はそうではない。その背景には、立ち上げ人である水田氏自身の「反省」がある。

Pocochaを立ち上げた水田氏は2011年にウェブサービス・アプリ開発のREVENTIVEを創業。クローズドSNS「Close」と、コミュニケーションアプリ「Dear」を立ち上げた経験を持つ人物だ。

「CloseもDearも、2011年当時のSNS界隈のトレンドを読んだ上でリリースしたサービスです。当時は、SNSならFacebook、メッセンジャーアプリならLINEが席巻していました。なかでも気になったのが“鍵付きアカウント”を併用しているユーザーがいたこと。そんな『クローズドでつながりたい』ニーズをすくい上げるようにして、CloseとDearを着想しました」

「しかし、僕がテキストコミュニケーションにこだわりすぎていた間に、アプリのトレンドは写真や動画へ移り変わっていた。この流れをうまく捉えられなかったのは、僕の反省でもあります」(水田氏)

REVENTIVEは2016年、価格は非公開だがDear事業をDeNAへ売却。同時に、水田氏もDeNAに移籍する。

「2016年は日本ではInstagram、シリコンバレーではSnapchatが流行。セルフィー(自撮り)と呼ばれる写真コンテンツが話題でした。一方で、ミクチャが2016年9月までに550万ダウンロードされるなど、ショート動画の動きも見逃せませんでした」

「CloseやDearを運営してみて感じたのは、日本で流行するサービスの多くが韓国や東南アジアで一足先に人気を博しているということ。シリコンバレーでショート動画がはやり始めたころ、中国やシンガポールではライブストリーミングのほうが人気が高かった。そこで最新のフォーマットを狙いにいくチャレンジとして、Pocochaを作りました」(水田氏)

Pocochaが狙う「ライバーの地位向上」と「地方への貢献」

昨今では、新型コロナウイルスの感染拡大による“巣ごもり生活”が長引いたことで、コミュニケーションツールとしてライブ配信アプリが注目されている。水田氏はPocochaの成長も「想像していた以上」と答える。

「Pocochaについてはリリースから4年間で数字をじわじわと伸ばし続けてきました。新型コロナウイルスの影響で勢いづいたこともありますが、大まかなトレンドとして『ライブ配信が流行する』ことが前提にあったのは間違いありません」(水田氏)

コロナ禍で、さまざまなライブプラットフォームがライブ配信を活用した支援を発表している。しかし、水田氏の強い意思もあり、Pocochaでは特別な支援を発表していない。

「『Pocochaを使ってアーティストのライブ配信の支援ができるんじゃないか』という問い合わせもいくつかありましたが、Pocochaには向いていないと思い、お断りしています。もちろん、何かできることがあればやりたい気持ちは強いのですが、中途半端な善意でやるべきではないと考えています」(水田氏)

そんな水田氏がPocochaで目指すのが「ライバーの地位向上」「地方への貢献」だ。

「多くの人の日常をPocochaで彩りたいという思いから、日本中でより多くのライバーが活躍して欲しいと思っています。『ライバー』という職業を一般化し、彼らの社会的地位を上げるにはライバーマネジメントを手がけるスタートアップが業界を盛り上げていく必要があると思いました。そこでライバーマネジメントを手がけるスタートアップ数社に声をかけ、新規事業としてスタートしたのが『Pococha for Business』です。ライブ配信を行うスタートアップと協力し、ライバーを育成する。ライバーは配信手段を増やせますし、Pocochaはユーザーを増やすことができます」

「Youtubeは、実際始めるには機材とか揃えたりするが大変です。インスタグラマーなども田舎だとそれほど映えるものが撮影しにくいというのがあります。でもライバーなら、自分の部屋から気軽にはじめられる。リスナーも『何かやっているかな?』とテレビを見る感覚でPocochaに触れて、より多くの面白い配信を見ることができます。地方には、その地元ならではの影響力を持つ若者がたくさんいます。彼らをYouTuberのようにしたいんです。Pococha for Businessで地方のライバーを発掘し、育成をオンラインでもいいし、東京などの都市から行う。そうすれば、ライブ配信の主役を“地方”から生み出せるのではないかと思っています」(水田氏)

実は水田氏、DeNAへ移籍する際に10年来のメンターからある条件を言い渡されていた。それが「プロダクトを1つ作ること」だった。

「DeNAの常務執行役員である原田明典さんとは大学時代から交流があり、SNSのナレッジやエッセンスをインプットしてくれるメンターでもあります。そんな彼がいつも口にしているのが『市場を独占するような発想で、地道にサービスを積み上げていくことが何より重要』という言葉です。この言葉を、今になって深く理解できるようになりました」

「Pocochaは決して特別な施策は何もやってないんですよね。ただ愚直にユーザーと向き合ってきた結果が今だと思っています。だからこそ、今後も長いスコープで泥臭く、地道に成長させていきたいですね」(水田氏)