ナナメウエが運営する通話を軸にしたSNS「Yay!(イェイ)」。昨年1月のリリース以来Z世代を中心に人気を集め、11カ月で登録ユーザー数が200万人を超えた
ナナメウエが運営する通話を軸にしたSNS「Yay!(イェイ)」。昨年1月のリリース以来Z世代を中心に人気を集め、11カ月で登録ユーザー数が200万人を超えた
  • 音声通話が人気、数時間つなぎっぱなしのユーザーも
  • 「Clubhouseの対抗馬」ではなく、肩肘張らずに話せる「休憩所」
  • ひま部からYay!へ、AI活用のコンテンツ監視システムも内製
  • 5.5億円の資金調達も実施、通話機能の拡充へさらなる投資

2021年に入り日本でも音声SNSアプリ「Clubhouse」が急激に台頭したことで、“音声”というフォーマットが改めて評価され始めている。それに伴い以前から次のトレンドとして注目されていた「常時接続SNS」の時代も本格的に近づいてきたような印象だ。

昨年1月にナナメウエが公開した「Yay!(イェイ)」もまさにその時流に乗るような形で短期間のうちにユーザーを増やしてきた。代表取締役の石濵嵩博氏が「たとえるならmixiのコミュニティのような場所を今のZ世代向けにリビルディングしたようなイメージです」と話すように、Yay!では世代や趣味趣向の近いユーザーが繋がり、新しい人間関係が生まれるコミュニティとして人気を集める。

主要な機能の1つが最大12人で楽しめるグループ音声通話だ。もともとはユーザー同士の交流を深める仕組みの1つとして実装した機能だが、コロナ禍では「家にいる時間はとりあえず通話を繋いで長時間雑談をする」という使い方が浸透。まさに常時接続SNSの文脈で使われるサービスになりつつある。

12月1日時点で登録ユーザー数は200万人を突破し、直近ではClubhouseの登場に伴って1日あたりのアプリインストール数も以前の2倍になっているというYay!。同サービスの実態や今後の展望について石濵氏に話を聞いた。

音声通話が人気、数時間つなぎっぱなしのユーザーも

上述した通り、Yay!は世代や趣味趣向の近いユーザー同士がオンライン上で交流できる匿名性のSNSだ。Twitterアカウントや電話帳と連携することもできるが、基本的にはリアルな友人同士をマッチングするような仕様にはなっておらず、新しい繋がりが生まれることを重視して設計されている。

他のユーザーをフォローすることでタイムライン上に彼ら彼女らの投稿が表示される仕組みはTwitterなどのSNSと同様。それとは別に独自のアルゴリズムによって世代や趣味趣向が同じユーザーの投稿が「おすすめ」として表示されるため、自然と自分に近い人とマッチングしやすい(Yay!には「フォロー中」「おすすめ」の2つのタイムラインがあり、簡単に切り替えられる)。

また共通点を持つユーザーと繋がれる仕組みとして「サークル」機能も搭載。これは特定の内容について会話ができる掲示板のようなもので、Yay!上にはアニメやゲーム、音楽、資格、スポーツなど多数のサークルが存在する。

このようにして実際に繋がったユーザーと個別の「チャット」や最大12人までの「グループ通話」を通じてさらに交流を深める、というのがYay!の基本的な楽しみ方だ。

趣味趣向や年齢を軸に共通点のあるユーザーと繋がれるのがYay!の特徴。現在はグループ通話が特に人気の昨日になっているという
趣味趣向や年齢を軸に共通点のあるユーザーと繋がれるのがYay!の特徴。現在はグループ通話が特に人気の昨日になっているという

「帰宅するととりあえずYay!で通話を繋いで学校や会社であったことに関して雑談をしたり、「Among Us!」や大富豪などのみんなで楽しめるゲームをしたりしながら一緒に過ごすという使われ方が増えてきています。何か作業をしている際にも通話を繋ぎっぱなしにしているユーザーも多くて。もはや通話というよりは、音をシェアしている感覚の方が近いのかもしれません」(石濵氏)

石濵氏によると音をシェアすることによってテキストや画像だけでは伝えきれない量の情報を相手にリアルタイムで伝えることができ、それによって人となりが伝わるため関係性が深まるスピードも早いという。

通話機能を利用するユーザー1人あたりの1日平均利用時間は1時間をゆうに超えるそう。アクティブユーザーに限るともっとヘビーに利用しているケースも多く「5〜6時間にわたってひたすらYay!で通話し続ける」なんてことも珍しくない。

「Clubhouseの対抗馬」ではなく、肩肘張らずに話せる「休憩所」

音声通話を軸としたサービスという括りで「Clubhouseの対抗馬」として名前が挙がることもあるが、機能面や利用シーンは大きく異なる。Clubhouseは本名での登録が推奨されていて、元から関係性のある人と繋がりやすい。そもそも現時点では招待制をとっているため、サービスに参加するには知り合いから招待してもらうことが必要だ。

特に日本ではIT系のコミュニティから一気に広がったため業界でよく知られる起業家や投資家、インフルエンサーなどのルームが人気。そういった点も含めて「現状のClubhouseはFacebookのリプレイスに近い」というのが石濵氏の見立てだ。

一方でYay!は匿名性で、本名も顔も知らない人同士が使うサービス。通話機能にも12人の人数制限があり、Clubhouseのようにたくさんのオーディエンスが参加したり、オーディエンスが壇上に上がったりする仕組みもない。

「Clunhouseが戦場だとするとYay!は休憩所。肩肘張らずに本当に好きなことを本心でリラックスして話せるのが特徴です」(石濵氏)

ひま部からYay!へ、AI活用のコンテンツ監視システムも内製

Yay!自体は約1年前に始まったサービスではあるが、石濵氏たちは約6年前から新たなコミュニティ作りにチャレンジしてきた。

Yay!の前身とも言える「ひま部」をリリースしたのは2015年の5月のこと。学生限定の匿名SNSとして掲示板とDMのみというシンプルな機能からスタートしたこのサービスには1週間で1000人のユーザーが集まり、最終的には800万人の学生が登録し、毎日600万回以上の投稿されるコミュニティに成長した。

ただサービスが拡大する一方で課題にもぶつかった。未成年同士のトラブルや、個人情報をタイムラインに載せる嫌がらせなどが横行。年齢を偽って大人が登録するケースなどもあった。

解決策となる機能や仕組みを実装するも、それに伴ってつながり自体が生まれにくい構造になってしまう。「大事にしてきた考え方を残しながら課題を解決するには、時間と投資が必要だった」(石濵氏)という。

またビジネスとして継続的に運営していく上でも、どこかのタイミングで全年代向けに対象を広げる必要性も感じていた。当時のひま部はすでに学生用SNSとしてのイメージが浸透しており、その観点からも新しいやり方を模索していたそうだ。

最終的に石濵氏はひま部をクローズし、Yay!として再始動することを決める。基本的な仕様や機能面はひま部と共通する部分も多い一方で、Yay!では安全性周りの対策を一層強化した。

不適切なコンテンツを排除するためにAIと目視を組み合わせ、24時間・365日にわたってサイトのパトロールを実施。チャット機能を用いるには身分証明書による年齢確認が必須な上、年齢が離れたユーザーとは1対1のチャットができない仕様にしている。

特にコンテンツの監視はひま部時代から苦戦していたところだ。全てを人力で対応するのはどうしてもコスト面の負担が大きい。そこでひま部やYay!に投稿されたデータを活用して開発したAIが一次チェックを行い、AIでは判断できないものを人が監視する“ハイブリッド型”のシステムを内製した。

内製したコンテンツ監視サービスをプロダクトとして他社サービスにも提供している

ちなみにこのシステムは現在「Posmoni」としてサービス化され、実際に大手コンシューマーゲームや掲示板アプリなどの外部サービスにも導入されている。

またマネタイズに関しては広告のほかユーザー向けの有料プラン(VIPメンバーシップ)にも取り組む。VIPメンバーシップに加入すると広告を非表示にしたり自分がつけた足あとを消すことが可能。18歳未満は月額500円、18歳以上は月額900円となる。

5.5億円の資金調達も実施、通話機能の拡充へさらなる投資

Yay!を運営するナナメウエのメンバー
Yay!を運営するナナメウエのメンバー

Yay!のコンセプトは、すべての人に居場所を提供すること。それ自体はひま部を作った時から変わらないものだ。

「人生の大部分は周りの環境で決まると考えています。良い人とつながることができれば良い人生になるし、悪い人たちに囲まれて育てば悪い人生になるかもしれない。自分自身も大学生の時に起業に踏み切れたのは周囲の人たちのおかげでした」

「でも、この周りの環境はほとんどが運で決まってしまうのが現状です。たとえば学校の場合だとたまたま近くに住んでいる人達が集められ、ランダムでクラス分けをされ、その限られた空間の中で長い時間を過ごします。(特に大企業などは)会社の同僚についても同じかもしれません。要は今は人間関係が『場所』に囚われていると考えていて、それをYay!を通じて変えていきたい。データとアルゴリズムを用いて最適な居場所を作り、運だけで決まらない人間関係の構築をサポートしたいと考えています」(石濵氏)

実際にYay!で知り合った人同士がリアルな世界に飛び出し、一緒にサッカー観戦を楽しんだり、遊びに行ったりといった事例もどんどん生まれているそう。まさにかつてのmixiコミュニティを彷彿とさせる行動だ。

石濵氏としても「トラブルを防ぐための工夫は不可欠」として上で、最終的にはYay!を通じて「オンライン上の人間関係にとどまらず、オフラインでの関係性も含めて、人の繋がりを入り口から出口まで一気通貫で支援していきたい」という思いもあるという。

その観点ではYay!は音声通話に絞ったSNSではないものの、ユーザー間の親交を深めるための要素として音声通話が重要な機能であることは間違いないだろう。特にコロナの影響でリアルな活動が制限される現在はなおさらだ。

ナナメウエでは今後Yay!の音声通話を活用してできることを拡張していく計画。そのための準備資金としてベンチャーキャピタルのNOW、TLMおよび個人投資家を引受先とした第三者割当増資と金融機関からの融資を含めて総額5.5億円の資金も調達した。

通話の話題をスムーズに提供するための機能追加に加え、すでに日本語版のYay!で一定のユーザーを抱えるタイやインドネシアを中心とした海外展開も予定している。

「Clubhouseのおかげで多くの人が音声の価値を理解した今こそ、大きく投資を行い飛躍するチャンスだと考えています」(石濵氏)