東京モーターショー2019の試乗会に並ぶ二輪型の電動キックボード「LUUP」 提供:LUUP東京モーターショー2019の試乗会に並ぶ二輪型の電動キックボード 写真提供:LUUP
  • シェアリングサービスで広がる電動キックボード
  • レンタルから返却まで、スマホで一括管理のシェアサービス
  • 日本に足りないのは「ラストワンマイル」の移動手段
  • 電動キックボード、車両区分の新設も視野に
  • 電動マイクロモビリティの未来

10月24日から11月4日まで開催中の「東京モーターショー2019」。会場内では、電動キックボードの試乗会も開催されている。海外では数年前から人気を集めている電動キックボード。その日本での普及に向けて活動しているのが、試乗会の出展企業でもあるLuup(ループ)だ。代表取締役社長の岡井大輝氏は、「近い将来、日本社会には新たな移動手段が欠かせなくなる」と語る。彼らが電動キックボードに期待をかける理由とは。(編集・ライター 野口直希)

シェアリングサービスで広がる電動キックボード

 米国を中心に電動キックボードを扱うスタートアップが勢いを見せている。2017年の創業からわずか9カ月で時価総額1000億円超え企業となったアメリカのBirdや、2018年11月にFordに買収されたSpinなどが、急速に事業を拡大している。

 その多くはシェアサイクルと同様、街中に設置してある電動キックボードを借りて自由に乗車するシェアリングサービスだ。全世界の電動キックボード市場規模は、販売を除いたシェアリングだけでも2025年時点で4~5兆円に達するとの予測もある。

 日本でも電動キックボードのシェアサービス「mobby(モビー)」を運営するmobby rideや、ドイツのWind Mobility(ウィンドモビリティ)が2018年に日本法人として設立したWind Mobility Japanなど、プレイヤーが揃いつつある。現在約30カ国でサービス展開するカリフォルニア発のLimeが、今年中に日本に進出するとの噂もある。

レンタルから返却まで、スマホで一括管理のシェアサービス

 Luupは電動キックボード開発やサービスを運営する、東京・渋谷発のスタートアップだ。2018年に創業した同社は、若者を主なターゲットにした二輪電動キックボードのほかに、高齢者向けの四輪電動キックボードやシニアカーなどの電動マイクロモビリティ(軽自動車より小型で小回りの利く電動式の乗り物)と、そのシェアリングサービスを開発している。

 彼らが実現を目指すシェアリングサービス「LUUP」は、街中に配置されている電動キックボードのQRコードを読み取るだけで、自由に運転を楽しめるサービスだ。置いてあるキックボードの検索や貸し出し・返却は専用アプリで行う。また、アカウントごとに走行ログなどの使用履歴を紐づけることで、危険な運転をしたユーザーには一定期間サービス利用停止などのペナルティを課すことも想定している。

 10月24日から開催11月4日まで開催中の東京モーターショー2019では、会場内の有明エリアと青海エリアをつなぐ約1.5kmの道で、電動キックボードを試乗可能。Luup製品では二輪電動キックボードの「LUUP」と、高齢者向けの四輪電動キックボード「LUUP(Model Senior Prototype)」が体験できる。体験した人からは「最初は怖かったが、すぐに慣れた」「とても快適に運転できるので、通勤に使いたい」などの声が挙がっていた。

Luup代表取締役社長の岡井大輝氏 Photo by Naoki NoguchiLuup代表取締役社長の岡井大輝氏 Photo by Naoki Noguchi

日本に足りないのは「ラストワンマイル」の移動手段

 世界中で普及が進みつつある電動キックボードだが、後述するように日本では法制度の問題で普及は容易ではない。それでもLuupが国内市場に挑戦する理由を、代表取締役社長の岡井大輝氏は「電動キックボードを通じて日本の交通インフラを改善するため」だと説明する。

「現在の日本は、鉄道網ばかりが拡大したため、飲食店や病院といった町に必要な機能が駅の近くに集中してしまっている。言い換えれば日本の都市が過密化しているのは、人口に比べて車やバイク、駐車場が足りていないからなんです」

 岡井氏が日本の都市インフラ改善に取り組むようになったのは、前職での経験がきっかけだという。新卒で入社したコンサルティング会社で介護業界に関わっていた岡井氏は、将来の日本を左右する課題に立ち向かうために起業を決意した。

 このとき立ち上げたのが、時間の空いた人と「数時間だけ老人の面倒を見てほしい」といった要望をマッチングさせる「介護版Uber」とでも呼ぶべきサービスだ。しかし、試験的に運営してすぐ、採算が取れないことがわかってきた。

「介護のマッチングは単価が安く、1日3件程度の案件をこなさなければ採算が取れません。その際にネックになるのが移動時間です。日本は駅を離れてから患者さんの家に向かうまでの移動(ラストワンマイル)にものすごく時間がかかるため、効率的に案件をこなせない。考えてみれば、家庭教師などの高単価なサービスを除けば、現在成功しているCtoCのマッチングは車を利用するUberや旅行客が移動するAirbnbなど、移動面での課題をクリアしているものばかりなんです」(岡井氏)

 介護サービスの失敗から、人口に対する車やバイク、駐車場の少なさが日本の大きな課題だと実感した岡井氏。ラストワンマイルの移動手段を充実させるために、Luupを創業した。

 一口に「移動面での課題」といっても、人口の二極化が進む日本では地域ごとに問題点は異なる。インバウンド需要や人口増加が進む都市部では日本在住者以外でも気軽に利用できる公共交通の需要が増している。一方で、地方では高齢運転者による交通事故や買い物難民が深刻化しており、日々の移動を担う交通手段が不足している。

 電動マイクロモビリティの長所は都市部と地方、どちらの課題にも対応できる点だ。Luupが若者を主要ターゲットとする二輪電動キックボードに加えて、安定性を高めた四輪電動キックボードやシニアカーを開発しているのは、都市と地方、若者と高齢者、いずれのの利用も想定しているからだ。

電動キックボード、車両区分の新設も視野に

 日本での電動マイクロモビリティの普及を阻害する大きな要因の1つが法規制だ。現行の道路交通法では、電動マイクロモビリティは原動機付自転車(原付)に分類され、ミラーやウインカーをはじめとする保安部品の追加を伴う車体の改造と、乗車時の免許の携帯、ヘルメット着用が義務付けられる。こうした制限のもとでは、海外と同じようにシェアサービスを運営するのは難しい。また電動マイクロモビリティは、原付扱いのため路側帯に入ることも許可されていない。自転車に近い速度の電動マイクロモビリティが、自動車と一緒に車道を走ることを強いられるのも危険だ。

 一方、法規制が厳しくない海外では普及が進んだ結果、すでに電動キックボードの無造作な放置や、歩道走行時の歩行者との接触事故、車道走行時の交通事故が発生している。こうした問題を受けた規制も敷かれつつあり、世界中で適切な運用法を模索している段階だ。

 現状に鑑みて、Luupは各所との議論を重ねつつ、適切な電動マイクロモビリティサービスの運用実現を模索。自治体や要請がある私有地(リゾートホテルや工場、ゴルフ場など)と連携して実証実験を重ねている。連携している自治体は、静岡県浜松市や奈良県奈良市などすでに9つある。岡井氏は今年5月に国内の主要な電動キックボード事業者をメンバーとするマイクロモビリティ推進協議会を立ち上げ、会長に就任している。

 また、12月までを実証期間とした横浜国立大学キャンパス内での実験は、経済産業大臣らを主務大臣とした「新技術等実証制度(規制のサンドボックス制度)」に認定された。実験結果をもとに運転者や周辺環境まで含めた安全な運用法を議論しつつ、道路交通法に「低速eモビリティ(免許不要で時速25km以下で低速車道を走行する乗り物など)」という車両区分の新設を目指すという。

「まだ誕生から数年しか経っていない電動キックボードの適正な扱い方は、誰にもわかっていません。現状ではっきりしているのは、既存の原付と同じ扱いでは危険だということです。日本市場は参入が難しいと見られていますが、導入を前向きに検討している自治体は決して少なくありません。適切な運用方法を見つけるため、いまはデータを集めている段階です」(岡井氏)

電動マイクロモビリティの未来

 電動マイクロモビリティは将来どのように利用されるのだろうか。岡井氏は次のように話す。

「中長期的には、利用者の安全はテクノロジーによって保証されるでしょう。すでに海外では、速度制限の異なる州に入ったら機体の側で自動的に最高速度を制限する機能なども実現されています。下り坂での加速を制限したり、危険な運転をしたユーザーの使用を禁止したりすることも可能になるはず。将来的には、むしろこうした機能を搭載したモビリティ以外の走行は、法律で禁止されるのではないでしょうか」(岡井氏)

 そんな未来に向けて、Luupはモビリティのメーカーと各自治体を適切に結びつける存在を目指すという。機体の保守管理や適切な場所への配備など、インフラとしての調整役を担う考えだ。

「優秀なメーカーが出そろったときに必要になるのは、彼らに代わって自治体との調整を行い、サービスを設計する企業ではないでしょうか。現在は国内メーカーが少ないため自社で機体を開発していますが、例えば将来的にはmobby rideのような他社の電動キックボードを『Luup』のサービスで扱う可能性も十分にあります」(岡井氏)

 Luupは現在、多くの自治体と連携に向けて話し合いを進めているところだという。道交法や安全性の観点で、まだ普及までのハードルは高い電動キックボード。日本のラストワンマイルの交通を解決手段となるまで、岡井氏の挑戦は続く。