
- Discordはゲーム攻略目的、パラレルはコミュニケーション目的
- Clubhouseの到来は「常時接続への認識を変えた」
- 脅威を感じない今だからこそ、コンテンツを磨き込む
音声SNS「ClubHouse」の登場を機に、ますますの盛り上がりを見せる音声アプリ。実際にその市場は拡大傾向にあり、音声を主軸としたデジタル音声広告は2020年に16億円、2025年には420億円規模まで拡大すると予想されている(デジタルインファクト調べ)。
音声を主軸にした国内アプリと言えば、stand.fm、Voicy、Radiotalkなど挙げられる。これらはあらかじめアーカイブを収録し、非同期でラジオ番組的にも楽しめる機能が中心になっているが、リアルタイムでのやりとりに特化したサービスにも追い風が吹き始めている。それがスマホゲーム専用音声通話アプリ「パラレル」だ。
パラレルのリリースは、2019年8月。その後、わずか半年で月間通話時間数1億分、2021年1月には累計30億分を突破した。さらに、外出自粛による在宅時間の増加もあり、2020年4月時点ではアクティブユーザー数、新規登録者数、通話分数は前月対比200%以上に成長している。おもなユーザー層は10〜20代。現在、ユーザー1人あたりの1日平均通話時間は3時間を超えている。

パラレルでは、オンラインゲームのほか、麻雀や大富豪のようなカジュアルなゲームを複数人で通話しながらプレイできる。また、You Tubeの同時視聴や、パラレル内で用意されている「キーワード人狼」「お絵かきしりとり」などのミニゲームも楽しめる。
立ち上げたのは、React共同代表の青木穣氏と歳原大輝氏。追い風を受ける一方で数々の音声アプリに囲まれるこの状況を、彼らはどう感じているのだろうか?
Discordはゲーム攻略目的、パラレルはコミュニケーション目的
そもそも「ゲーム×コミュニケーション」は、オンラインゲームの同期チャットやアバターによってすでに成立していた。ゲーム領域に関しては、コミュニティが発生しやすい土壌が備わっていたのだ。
「僕らがパラレルでつくろうとしているソーシャルグラフは、匿名性は高いものの、従来の『ゲーム×SNS』とは少し違います。というのも、これまではゲームのキャラクター=自分自身。しかし、パラレルでは、ゲームはあくまでもコンテンツの1つ。ユーザーの多くが、ゲームのキャラクターとリアルな人格の間にある“第2の人格”をつくり、ネット・リアルの双方で友人と交流しています。なかには、ネットで知り合った友達5人とリアルな友達3人の合計8人グループをつくっているユーザーもいましたね」(青木)
ゲーマー向けのコミュニケーションサービスと言えば米国発の音声・テキストコミュニケーションサービス「Discord」を想起する人も多い。こちらも新型コロナウイルスの影響で、月間アクティブユーザー数は1億人を超え、毎日40億分ものコミュニケーションが行われている。非常に近しい印象だが、歳原氏いわく「Discordとパラレルは、ユースケースも方向性も違う」という。
「Discordのユーザーはゲームをクリアするためのチャンネルをいくつか作り、『この部屋ではこれを話す』など、コミュニティ管理しているユーザーが多い。一方、パラレルは4〜5人の仲がいい友達のグループがいくつかあり、『仲がいい人がいるから』ということを理由に部屋を行き来しているユーザーがほとんどです。どちらかと言うと、昨年末から流行している『Among Us』(4〜10人で遊べる、宇宙を舞台にした人狼系オンラインゲーム)のように、“仲間で集まる動機づけとしてのゲームをしている”傾向が強いですね」(歳原氏)
つまり「スマホゲーム専用音声通話アプリ」と名乗っているが、パラレルにとってゲームはあくまでも「コンテンツの1つ」なのだ。
「どのサービスでも言えることですが、話すネタがなければ会話は続きません。オンライン上で人を集めるには、コンテンツが必要です。パラレルにとって、そのコンテンツこそがゲームです。ゲームに関しても、左右で音を聞き分けられるステレオ音声のほか、個別での音声調節も可能。通話に参加したら、友だちにプッシュ通知が届き、人が集まりやすい仕組みにしています。その結果、パラレルは“オンラインのたまり場”として機能できているのです」(歳原氏)
Clubhouseの到来は「常時接続への認識を変えた」
同じく「音声」をキーワードにサービスを展開し、躍進のスピードを緩める気配がないClubhouse。最近では芸能人も参戦し、roomの参加人数が上限を越えることも少なくない。日々、さまざまな“たまり場”が生まれ、賑わうClubhouseは、パラレルの脅威になっているのだろうか?
「Clubhouseは、『耳が暇な状態をなくす』というイノベーションになったと感じています。ただ、同じ“音声”に注目したサービスとは言え、Clubhouseとパラレルは主要コンテンツがまったく違います」
「コンテンツは『集まるきっかけになるコンテンツ』か『ダラダラするためのコンテンツ』の2つに分けられます。前者は、真剣に目と耳を傾け、感想を言い合うようなもの。後者は、真剣に見るわけではないものの間を持たせてくれるもの。Clubhouseは前者で、パラレルは後者です。コミュニケーションの種類が異なるので、あまり脅威に感じていません。むしろ、常時接続の認識を変えるきっかけになりました。おかげで『常時接続とはどういうことか?』を説明することも減りました。これは、僕らにとって追い風だと思っています」(青木氏)
もう1つのClubhouseとの大きな違いが「オープンか、クローズドか」。Clubhouseでは、視聴者がトークを聞きたいroomを自由に行き来でき、挙手して指名されればスピーカーにもなれる。だが、パラレルはすべてクローズドに振り切っている。
「Twitterでも、複数アカウントを持っている若い世代が多い印象です。匿名性は日本特有のイメージが強いかもしれませんが、海外でも自分の意見を主張する人ばかりではありません。僕は一時海外留学もしていましたが、彼らのなかにはクローズドでのコミュニティを楽しんでいる人も多かった。パラレルはクローズドなコミュニティですが、ゲームではなく、仲がいい人軸でグループが誕生しています。ポテンシャルは、十分あります」(歳原氏)
脅威を感じない今だからこそ、コンテンツを磨き込む

今はトークだけのClubhouseだが、今後の展開によってはパラレル同様に「集まるきっかけ」を作るためのコンテンツを提供する可能性もある。
「すでにYouTubeでは、芸能人がゲーム実況しています。ゲームのようなコンテンツをコミュニケーションの手段にする発想はすでにあるので、Clubhouseのようなサービスがいつ動き出すかはわかりません。もしもClubhouseでコンテンツを用意され始めたら、僕らにとって間違いなく脅威です(笑)」(青木氏)
「だからこそ、よりコンテンツに磨きをかけたい」と歳原氏。
「今後は『パラレルに新作ゲームがあるから集まろう』となれるコンテンツや、ゲーム終了後に再び集まりやすくなる循環型の導線もつくりたいですね。直近ではリニューアルを控えています。新旧を切り替えつつ、パラレル内で会話を生むきっかけとして引き続きコンテンツを拡充させていきます」(歳原氏)
