リーガルフォースではAIを活用した契約書レビュー支援サービス「LegalForce」を運営している
リーガルフォースではAIを活用した契約書レビュー支援サービス「LegalForce」を運営している すべての画像提供 : リーガルフォース
  • 契約書に潜むリスクを自動でレビュー、日英40類型に対応
  • 導入企業数は1年で250社から700社へ拡大
  • 1月には新サービスもローンチ、さらなる事業拡大目指す

日本のリーガルテックの中でも、AIを活用した「契約書のレビュー支援」は特に盛り上がっている領域の1つだ。弁護士出身の起業家がテクノロジーを活用し、課題の大きいレビュー業務を変革していく──。そのようなスタートアップが国内でも複数社生まれている。

中でも代表格と言えるのが2017年4月設立のリーガルフォースだ。いわゆる4大法律事務所の1つである森・濱田松本法律事務所出身の2人の弁護士が立ち上げたこのスタートアップは、2020年2月までに累計で約16億円を集めながら「LegalForce」の開発を進めてきた。

そのリーガルフォースがシリーズCラウンドで新たに約30億円を調達し、さらなる事業拡大に向けた取り組みを強化する。今回第三者割当増資の引受先となったのはいずれもリーガルフォースの既存株主。なお30億円のうち約3億円は金融機関からの融資になるという。

  • WiL
  • ジャフコ
  • 三菱UFJキャピタル
  • みずほキャピタル
  • SMBCベンチャーキャピタル
  • DIMENSION

契約書に潜むリスクを自動でレビュー、日英40類型に対応

LegalForceのレビュー画面。契約書のファイルをアップローとするとAIが瞬時にリスクを抽出する
LegalForceのレビュー画面。契約書のファイルをアップロードするとAIが瞬時にリスクを抽出する

LegalForceはAIを軸としたテクノロジーの活用によって、契約書のレビュー業務を効率化するプロダクトだ。

サービス上にWordやPDFの契約書ファイルをアップロードし、「秘密保持契約」や「業務委託契約」といった契約類型と自社の立場を選択すれば準備は完了。独自のAIが契約書に潜むリスクを瞬時に洗い出し、自社にとって不利な条文や欠落している条項を指摘してくれる。

リスクのある箇所については、確認すべきポイントとともに修正文例を表示。「なぜこの論点を確認するべきなのか」を噛み砕いて説明する“解説機能”も、継続的にアップデートを重ねてきたという。

現在は日本語と英語を合わせて約40類型に対応。英文契約書をアップロードした場合にはコメントは日本語、修正文例は英語と参考和訳が表示される。

リスクのある箇所については修正文例に加えて解説文も表示される
リスクのある箇所については修正文例に加えて解説文も表示される
英文契約書のレビューにも対応
英文契約書のレビューにも対応

特に初期は“AIによる自動レビュー”に注目が集まることが多かったものの、リーガルフォースでは並行して「ナレッジマネジメント機能」や「契約書ひな形」の開発にも力を入れてきた。

「構想としては初期から『契約書のレビューに必要なフロー全般を総合的に支援するサービス』と位置付けています。なので基本的に契約書業務を行う上で必要な機能はLegalForceに全て搭載していくという考え方です。AIによる自動レビューはもちろん、類似する契約書を探し出してきて比較できるナレッジマネジメントの仕組みや、参照できるひな形を提供することもそこに含まれます。出発時は自動レビューの部分だけだったのですが、特にこの1年でそれ以外の基盤がかなり整ってきました」(リーガルフォース代表取締役CEOの角田望氏)

社内に眠っていた契約書やレビュー済みの契約書を格納することで、自社オリジナルの契約書データベース(社内ライブラリ)を作れる機能はLegalForceの特徴の1つ。キーワードを入れれば該当する契約書へすぐにアクセスできるほか、レビュー中の契約書と類似するものを探してきて条文単位で内容を見比べることも可能だ。

LegalForce側で用意している弁護士作成の契約書ひな形も500点を超えてきており、こちらも社内ライブラリにある契約書と同じように参照することができる。

レビューや条文検索といったLegalForceの主要機能は、Wordのアドイン機能を使うことで“Word上”で動かせるのもポイントだ。多くの企業では契約書をWordファイルで作成するため、ブラウザとWordを行き来することなく、Word上でそのままレビューできる点が法務担当者にとっても使い勝手が良いのだという。

導入企業数は1年で250社から700社へ拡大

リーガルフォースのメンバー。右から3人目が創業者で代表取締役CEOの角田望氏、同4人目が共同創業者で代表取締役の小笠原匡隆氏。2人はともに森・濱田松本法律事務所出身の弁護士起業家だ
リーガルフォースのメンバー。右から3人目が創業者で代表取締役CEOの角田望氏、同4人目が共同創業者で代表取締役の小笠原匡隆氏。2人はともに森・濱田松本法律事務所出身の弁護士起業家だ

このようなプロダクトの進化に伴って、利用企業の数や幅も大きく広がった。

2020年2月の資金調達時には250社だった導入企業数は700社を突破。大枠の内訳としては大企業が4割、法律事務所が2割、それ以外が4割となっていて、特に法律事務所への導入が加速したという。

「法律事務所に使ってもらえるようになったのは、ナレッジマネジメント機能やひな形の存在が大きいです。法律事務所が扱う契約書は多岐にわたるため、どうしても自動レビューの対象となる40類型に当てはまらないこともあります。そういった場合でも過去の契約書やLegalForceのひな形を参照しながら契約書を作成したり、レビューができる。その点を評価いただけることが増えました」(角田氏)

このような事例は何も法律事務所に限定したものではない。もともとAIによるレビュー支援自体はそこまで必要性を感じていなかった企業でも、ナレッジマネジメント機能やひな形が充実してきたことをきっかけにサービス導入に至るケースも少しずつ増えてきた。

特にこの1年では契約書のバージョン管理機能やそれに付随したコミュニケーション機能、条番号のズレを修正する校正機能なども強化。レビュー後の契約書の管理や修正もLegalForce上でスムーズに進められるようになった。

この1年で強化してきた「バージョン管理」機能
「バージョン管理」はこの1年で強化してきた機能の1つ

角田氏によると最近では法務部門における新メンバーの教育・育成の文脈でもLegalForceが重宝され始めているそう。社内ライブラリ上に蓄積されたレビュー済みの契約書という“ナレッジ”にいつでもアクセスできることで、先輩の法務担当者から逐一教えてもらわなくても、ある程度自走することが可能なのだという。

LegalForceの料金体系は月額12万5000円からの定額モデルで、利用者の数をベースに具体的な金額が決まる仕組み。すでに700社以上が導入しているため、単純計算で少なくともMRR(月次収益)は9000万円近くにまで拡大していることになる。

1月には新サービスもローンチ、さらなる事業拡大目指す

2020年1月には“締結後の契約書”を効率的に管理するための新サービスもローンチした
2020年1月には“締結後の契約書”を効率的に管理するための新サービス「Marshall(マーシャル)」もローンチした

従業員の数も1年で70名弱から150名近くまで増えて組織が成長する中で、直近では新たな取り組みも始めている。

昨年12月にはAI研究部門として「LegalForce Research」を新設し、元Googleの小田悠介氏がチーフリサーチャーに就任。法律分野でのAI活用の道を切り開いていくことを目指し、先端技術の研究に特化したチームを組成した。

1月には“締結後の契約書”をスマートに管理できる新サービス「Marshall(マーシャル)」の提供もスタート。LegalForceで培ってきた技術も活用しながら、事業の幅を広げている。

今回の資金調達はこうした動きをさらに加速させることが目的だ。集めた資金は主に開発体制や営業体制の強化に向けた人材採用に用いるほか、マーケティング活動にも使っていく方針だという。

「自信を持って高い品質のサービスを提供できる段階にきていると感じる一方で、MarshallはもちろんLegalForceに関してもやれることはまだまだあるんですよね。会社として行動指針の1つに『プロフェッショナルに驚きと感動を』という言葉を掲げているのですが、もっとユーザーに驚きと感動を届けられる余地があると思っています。今後はさらに製品の質を高めながら、法務担当者や弁護士の方への提供価値を飛躍的に上げていきたいです」(角田氏)