
- 提携先のサイトで買い物をするだけでお金がもらえる
- 1カ月に1000万件もの“消費データ”を買い取る
- 消費の未来を追求していく会社へ
どんなレシートでも1枚10円に変わる──そんなキャッチーなコンセプトが反響を呼び、ローンチ直後から爆発的に利用者を増やしたレシート買取アプリ「ONE」。サービスを開始した2018年6月当時、運営元のワンファイナンシャル(2020年1月にWEDへ社名変更)でCEOを務めていた山内奏人氏は17歳の高校生起業家だったというということもあって、大きな話題を呼んだ。
その山内氏率いるWEDが、“キャッシュバック消費”をテーマにした新サービスを始める。名前は「C(シー)」。提携するECサイトで買い物をするだけでお金がもらえるサービスだ。
提携先のサイトで買い物をするだけでお金がもらえる

Cの使い方はとてもシンプルだ。サイト上に掲載されている様々なブランドの中から気になるものをタップして(= Cを経由して)、ブランドのECサイトで買い物をするだけ。すると購入した商品価格の2%〜15%分の金額がCのウォレットにたまっていく。
ウォレット上にたまった残高は無料で出金することが可能(出金は800円から)。会員制のサービスで登録時には電話番号が必要になるが、サービス自体は完全に無料で使える。
サービスローンチ時点では「ファッション」「お出かけ」「ギフト」「グルメ」「家具/家電」の5カテゴリ、31ブランドが提携サイトとして掲載されている状況だ。
Cの仕組み自体は決して奇抜なわけではない。既存のものではクレジットカード会社が運営する「ポイントモール」が近いだろう。ポイントモールを経由して掲載されているECサイトで買い物をすれば、ボーナスポイントとして通常よりも多くのポイントが付与される。Cの場合はもらえるのがポイントではなく、現金というわけだ。
山内氏はこれらを“キャッシュバック消費”に関するサービスと位置付けているそう。この領域ではすでにさまざまなサービスが存在するものの、「使いやすさ」の観点ではアップデートできる余地があるとの考えからCを立ち上げたという。
「たとえばポイントがもらえるとしても、そのポイントが結局どのように活用できるのかがわかりにくければサービスとしては使いづらいですよね。キャッシュバック系のプロダクトの中には、ちゃんと説明を読みこまないとわからないというものも多い。結果的に説明的なものが増えているからこそ、直感的に使える非説明的なプロダクトを作ってみたいと思ったんです」(山内氏)

そこでCではポイントではなく、ウォレット上にお金がたまっていくような体験を取り入れ、たまった残高は実際に出金して使える仕様にした。ポイントのように知らない間に有効期限がきれていたり、使えるお店が限られていたりといったこともない。
サービスの流れも極力シンプルにすることを意識し、電話番号を登録して気になるお店をタップするだけで済むようにしている。
一方で還元率の高さにはこだわった。Cの収益源は提携先のブランドから受け取る送客手数料だ。ユーザーへの還元率が高いということは、WEDが最終的に手にする手数料が少なくなることを意味する。
「ユーザー1人あたりの利益の大きさよりも、実際に使ってもらうユーザーの数で勝負していきたいですね。わかりやすい体験を作ることができれば結果的により多くの人に使ってもらえると考えているので、還元率を高くしても十分に成立しうるはず。そんな仮説を持っています」(山内氏)
1カ月に1000万件もの“消費データ”を買い取る
山内氏が最初に会社を立ち上げたのは2016年のこと。すでに国際的なプログラミングコンテストでの表彰経験や、エンジニアとして複数のスタートアップでの勤務経験があった山内氏は15歳で起業の道を選んだ。
ビットコインのウォレットサービスを皮切りに個人間送金アプリやスマホ決済アプリなど複数の事業にチャレンジした後、2018年に立ち上げたのが冒頭でも触れたONEだ。
ONEをローンチして以降も月額3980円で映画館や水族館に行き放題となるサブスクサービス「PREMY」をテスト運用したり、フィンテック事業の開発を見据えて新たにグループ会社を立ち上げたりと、新しい取り組みを続けてきた。ただ直近1年ほどは「消費」の領域に絞って事業を磨いてきたという。
「以前から『日常を非日常に変えるようなプロダクト』を作りたいという話をよくしていた中で、そもそも人々の日常や非日常を司るものってなんだろうかと考えてみたんです。そこで頭に浮かんだのが消費や購買だった。だから消費に関連するデータや体験を扱う事業をやりたいという思いはずっとありました」
「実際にONEの運営を通じて、多い月には1カ月で1000万件ほどのデータを買い取っているんですね。1件1件に人々の消費に関する行動が現れていて。そこからどんな価値を生み出すことができるのか、いろいろな可能性が眠っていて面白いんです」(山内氏)

6月でローンチから丸3年を迎えるONEは地道にダウンロード数を伸ばし、110万件を突破。現在のMAUは約20万人で、そのうちの6割は1日1枚以上レシートをONE上にアップしているのだそうだ。
現在はその基盤が徐々に固まってきたことで、企業がレシートや明細書など特定のデータを収集できる「コレクション」やレシート買い取り時にターゲットユーザーへ広告を出せる「プロモーション」、対象商品のレシートをアップロードするとキャッシュバックされる「マストバイ」など、複数の切り口でビジネスを展開できるようになっている。
またONEから派生するような形で、昨年8月には丸井グループと共同でテナント向けの精算・売上報告システムの運用も始めた。
これはテナントのスタッフがレシートをスマホアプリで撮影するだけで、簡単に丸井グループへ売上の報告ができるサービスだ。従来はレシートの出力や報告書の記入、専用端末への入力など膨大な手間がかかっていた報告作業を、ONEで培ってきたOCR技術やレシートをデータ化するノウハウなどを活用しながら効率化した。
消費の未来を追求していく会社へ
今回新たに開発したCも、消費や購買に一段と深く関わるようになる中で生まれたアイデアを形にしたものだ。
「『今後の消費はどうなっていくんだろう』と日々考える中で、以前はどうしてもオンラインとオフラインの断絶みたいなものを感じていたんです。それが徐々にOMO(Online merges with Offline:オンラインとオフラインの融合)やDX(デジタルトランスフォーメーション)といった言葉が使われるようになり、今後はオフラインとオンラインの体験がよりシームレスに結びついていくという考え方が広がってきた。自分たちとしてもその流れに沿ったプロダクトを作っていきたいという考えがありました」(山内氏)
これまで手がけてきたONEではオフライン店舗での消費を軸に、従来は捨てていたレシートがお金に変わる体験を作った。反対に今回のCではオンラインでの消費や購買を起点として、買い物でお金が貯まるという「ちょっと魔法のような体験」を提供することを目指している。
加えて、山内氏自身が今注目している“3つの消費”という観点でも、Cというプロダクトには思い入れがあったようだ。
3つの消費の1つ目は、まさに今回のCでも取り組んでいるキャッシュバック消費。文字通りキャッシュバックされるから、お金がもらえるから物を買うという消費のスタイルだ。
2つ目がエシカル消費。これは“社会のためになるから”という観点から物を買うスタイルを指す。
そして最後が積立消費。たとえばサブスクサービスの場合は本来、後から参加するほどサービスが成熟しているためメリットが大きくなるが、一方の積立消費は最初から参加しているユーザーほどメリットが大きくなるような仕組みだという。
WEDでは今後ラボのような位置付けで、消費に関わるプロダクトを実験的にいくつか開発していく構想があるそう。Cはその第1弾にもあたる。
「消費の領域でプロフェッショナルになっていくことが世の中に対しても1番価値が出せるやり方であり、自分たち自身がやりたいことにも繋がると考えています。今後も消費の未来を追求していくようなチャレンジを続けていきたいです」(山内氏)