「SUNTORY+」を開発するサントリーとグッドパッチのメンバーたち
「SUNTORY+」を開発するサントリーとグッドパッチのメンバーたち すべての画像提供:グッドパッチ
  • 「目線を合わせた情報連携」を目指してNotionを導入
  • プロジェクトに関連するドキュメントを一元管理
  • 最大の魅力は「優れたカスタマイズ性」

「1日はNotionに始まりNotionに終わる。私は1日中Notionを見ています」

こう語るのは、飲料メーカー・サントリー食品インターナショナル(以下、サントリー)の赤間康弘氏だ。「Notion」は米国発の情報管理ツール。ドキュメントやタスクといった仕事に必要なさまざまな情報を管理できることから人気を集める。

赤間氏はサントリーのイノベーション開発部でヘルスケアサービスアプリ「SUNTORY+(サントリープラス)」の開発・運用を行う。パートナーとしてUI/UXデザインやソフトウェア開発を手がけるグッドパッチと連携する上で、ほぼ全ての情報をNotionに集約していると同氏は言う。

Notionを開発するNotion LabsのCEO・Ivan Zhao(アイバン・ザオ)氏も昨年、筆者の取材に対して「なんでもできること」こそがNotionの強みだと話した。だが、果たしてNotionは本当にそこまで“オールインワン”なのだろうか。

赤間氏とグッドパッチでプロジェクトマネージャーを務める川口和真氏に企業をまたいだプロジェクトでのNotionの運用事例を聞いた。

「目線を合わせた情報連携」を目指してNotionを導入

赤間氏がサントリーに入社したのは2017年のこと。それ以前は任天堂の企画制作本部でゲーム・サービスのプランナーやディレクターとして、「スーパーマリオ」「ゼルダの伝説」シリーズや「スプラトゥーン」といった人気作品の企画開発を担当してきた。

サントリー・イノベーション開発部で新規事業を担当する赤間康弘氏
サントリー・イノベーション開発部で新規事業を担当する赤間康弘氏

赤間氏がサントリーに転職を考えたのは、「健康に関わるプロジェクトに携わりたい」という一心から。そこで入社した2017年に新規事業として、法人向けの健康経営支援サービス、SUNTORY+を立ち上げる。グッドパッチは2018年12月よりデザインパートナーとして、SUNTORY+のアイデア創出からプロダクト開発、プロモーションまでを請け負っている。プロダクトは2020年7月にローンチし、今では100社以上に導入が進む。

SUNTORY+では「朝起きて水を1杯」、「暖かい湯船に浸かる」、「色の濃い野菜を食べる」といった簡単なタスクを実行することで、健康を促進するというアプリを提供。導入企業の従業員は、アプリでタスクをこなすことでポイントをためることができる。ためたポイントはサントリーが提供する専用の自動販売機で飲料と交換することができる。

「SUNTORY+」のサービスイメージ
ためたポイントは専用自動販売機で飲料と交換できる

サントリーとグッドパッチが共同でプロジェクトを進めるにあたり、情報共有し連携するためのツールをサントリーが導入していなかったことはネックとなった。そこで導入したのがNotionだ。

任天堂時代は社内開発のタスクツールを使用してプロジェクトを進めていたが、サントリーでは、パワーポイントやエクセルのファイルを使って情報やタスクを管理していた。そのため、任天堂時代とは違い情報を一元集約する「Wiki」のような場所がサントリーには欠けていたと赤間氏は言う。新規事業でさまざまな職種の多数の関係者が加わるプロジェクトにおいて「なかなか目線を合わせての情報連携が難しい状況でした」と同氏は当時を振り返る。

そこで赤間氏はグッドパッチに「Wikiでもあり、タスク管理ツールでもあるような情報共有ツールとして、どのツールが最適か」と相談を持ちかけた。オープンソースのプロジェクト管理ツール「Redmine」やAtlassianが提供する情報共有ツール「Confluence」をはじめとした、さまざまなソフトウェアを検討したが、最終的に導入を決めたのはNotionだった。

プロジェクトに関連するドキュメントを一元管理

SUNTORY+のプロダクト開発・運用で使われているNotionには、サントリーとグッドパッチのメンバーのほか、外部の開発会社やフリーランスのスタッフを含めて100人以上が参加する。エンジニアやデザイナーだけでなく、営業やプロモーション、カスタマーサクセスの担当者までもが参加している。

多くのメンバーが同じ目線を共有し、連携して働くには情報の透明化が必要。そう考え、「Notionで管理していないものがないくらい、Notionで全てを管理するようにしました」と川口氏は説明する。

グッドパッチでプロジェクトマネージャーを務める川口和真氏(左)
グッドパッチでプロジェクトマネージャーを務める川口和真氏(左)

サントリーとグッドパッチは「アイデア着想」、「課題定義」、「企画・UIデザイン」、「実装、テスト」、「アプリリリース」、「効果検証」というプロセスの循環でSUNTORY+アプリを開発。この各プロセスにおいて発生する企画書や仕様書、分析書など、全てのドキュメントはNotionで一元管理する。

Notionでは企画書や仕様書、分析書などを管理している
Notionでは企画書や仕様書、分析書などを管理している (拡大画像)
仕様書のテンプレートが用意されているため迷わずに入力することが可能
仕様書のテンプレートが用意されているため迷わずに入力することが可能 (拡大画像)

そして前述のとおり、さまざまな職種のメンバーがプロジェクトに参加しているため、膨大な数のミーティングが日々、行われている。プロジェクトマネージャーとは言え、全ての会議に出席するのは困難だ。そこで川口氏は全ての会議の議事録をNotionで管理することにした。

「議事録が残ることで、プロジェクトの状況を把握することが簡単になりました。異なる職種のメンバーが進行状況の全体像を確認できるようになったため、チーム内としての連携が強化されたと感じています」(川口氏)

ミーティングの議事録は場の空気感がわかりやすいように細かく記入
ミーティングの議事録は場の空気感がわかりやすいように細かく記入 (拡大画像)

Notionはドキュメント管理だけでなく、タスク管理にも利用する。川口氏はNotionを使い始める以前のプロジェクトでは、エンジニアとデザイナーのタスク管理を別々のツールで行っていたという。「エンジニアとデザイナーで、扱うタスクの粒度が異なり、管理方法が違うためです」と川口氏は説明する。

「エンジニアとデザイナーのチームで別々のタスク管理ツールを使うと、情報が煩雑になり、連携がうまくいかないといった課題がありました。Notionに切り替えてからは、1つのツールで全てのタスクを管理できるので、かなり生産性が上がったと思っています」(川口氏)

Notionではタスク管理のボードにおいて、例えば「エンジニア」や「UIデザイナー」といった、特定メンバーのみに絞ってタスクを表示することが可能だ。この機能のおかげでタスク管理ツールをNotion1つに絞ることができ、プロジェクトの進行状況の全体像を把握しやすくなったと川口氏は言う。

Notionで管理する各メンバーのタスク
Notionで管理する各メンバーのタスク (拡大画像)
エンジニアのタスクだけを表示できるように工夫
エンジニアのタスクだけを表示できるように工夫 (拡大画像)
同じくデザイナーのタスクだけも表示できる
同じくデザイナーのタスクだけも表示できる (拡大画像)

最大の魅力は「優れたカスタマイズ性」

Notionの最大の魅力は何か──そう聞くと川口氏は「優れたカスタマイズ性です」と即答する。

「このプロジェクトではタスク管理を初めからNotionで行っていたのですが、グッドパッチでは従来『Google スプレッドシート』やカンバン式タスク管理ツールの『Trello』、エンジニアを中心に利用されるタスク管理ツールの『Backlog』などを利用していました。その際にはエンジニアとデザイナーのタスク管理が煩雑になり、仕様の認識がずれたことが原因で手戻りが発生することもありました」

「Notionではツールに人が合わせるのではなく、1つのツールを人の特性に合わせて使うことができます。ウォーターフォール型、アジャイル開発型のどちらでも合わせてカスタマイズできるのでプロジェクトマネジャーとしては、働きやすいように調整できるので仕事が楽しくなります。ツールに合わせる必要がなくなると、余裕ができて良い“ものづくり”が可能になります。 以前よりもツールに感じるストレスが減り、生産性はかなり上がったのではないかと思っています」(川口氏)

赤間氏は、依頼する会社と受託する会社のメンバーを含めたチーム全体がフラットな関係を保ち、同じ目線で当事者意識を持って働けていることが、Notion導入の効果だと述べる。

「全員が一次情報にアクセスできるのが良かったのかなと思っています。SUNTORY+は新規事業なので、途中から入ってくるメンバーは多くいます。これまでは情報が蓄積されていなかったので、長いオリエンテーションを都度、実施する必要がありました。Notionを導入してからは、全ての情報が集約されているので、説明コストは格段に減りました。はじめは開発チームだけで利用していましたが、プロモーションやカスタマーサクセスでも議事録の共有に利用するようになり、情報の透明性も上がりました」(赤間氏)

Notionの日本第1号社員でHead of Sales(営業責任者)の西勝清氏は2021年中にはNotionを日本語化し、今年春にはAPIをパブリックベータ公開すると以前の取材で表明していた。APIが公開されれば、多種多様なツールとの連携ができていく。

DIAMOND SIGNALではNotionを導入する3つの企業・組織をさらに取材しており、後日記事を公開予定だ。日本でもNotionの本格的な普及の兆しが見える今、導入を検討する上で各社の活用法は参考になるだろう。