左から、SHIFTの上席執行役員で人材戦略統轄部 統轄部長の菅原要介氏、人材戦略統轄部 事業人事部 部長の上岡隆氏
左から、SHIFTの人材戦略統轄部 事業人事部 部長の上岡隆氏、上席執行役員で人材戦略統轄部 統轄部長の菅原要介氏
  • 2020年度以降は正社員採用を強化
  • 内定まで“約3日”を可能にした「動画面接」
  • 非IT人材の素養を見極める「CAT検定」
  • 年間3000人採用でソフトウェアテスト市場の制覇を目指す

年間で1000人もの従業員を採用し、IT未経験人材も正社員や契約社員として積極的に登用しているIT企業がある。ソフトウェアの品質保証やテストを専門とするSHIFTだ。

月間に2600件もの応募があり、400もの面接を実施することもあるというSHIFT。元探偵・元神主といったユニークな肩書きを持つ人材がテストエンジニアとして活躍するという同社では、いかにして非IT人材の“素質”を見極めているのだろうか。

SHIFT上席執行役員で人材戦略統轄部 統轄部長の菅原要介氏と、人材戦略統轄部 事業人事部 部長の上岡隆氏に、同社の採用プロセスと戦略について話を聞いた。

2020年度以降は正社員採用を強化

SHIFTは2005年の設立。コンサルティング業からスタートし、2009年にソフトウェアの動作確認を行う「ソフトウェアテスト」のアウトソーシングを引き受ける事業を開始した。以降はスタートアップからECサイト、ウェブ大手などへのサービス提供を進め、エンタメ、エンタープライズといった業界まで事業の横展開を実施してきた。急速なペースで従業員を増やしている理由は、ソフトウェアテストを提供する業界数・企業数の拡大が同社の成長の要となっているからだ。

2020年度にはテストエンジニアやバックオフィススタッフを含めて約1000人を採用。その内訳は75%が正社員、21%が契約社員、そして4%がアルバイトだ。契約社員やアルバイト従業員には、アルバイトから契約社員へ、また契約社員から正社員へとステップを踏める昇格制度が用意されている。年間で100人ほどの従業員がこの制度を活用して昇格している状況だという。2020年度以降は派遣スタッフやパートナー社員との契約を満了して大幅に減らし、一方で正社員採用を加速させている。

内定まで“約3日”を可能にした「動画面接」

SHIFTが採用候補者に面接を実施してから内定を出すまでの“採用リードタイム”は平均して約3日。驚きのスピード感だが、同社の選考プロセスも数年前までは他の多くの企業と比較すると短いものの、数週間を要するものだった。面接を数回実施していたため、最初の面接から内定を出すまでに10〜15日ほどかかっていたという。

だが「候補者にとって何度も同じような面接を何度も繰り返すのは無駄だ」と考え、2018年の12月に選考プロセスを大幅に改善したと菅原氏は説明する。その際に導入したのが、1回の面接で合否を判断することを可能にする「動画面接」だ。

SHIFTでは候補者が来社する際に、許可を得た上で面接を動画で記録する。その動画は社内のシステムにアップロードされ、面接当日、もしくは翌日のうちに関係部署の担当者や責任者がチェックし、合否を判断する。結果、採用までに必要な面接数は削減され、採用リードタイムの大幅な短縮に繋がった。

SHIFTが実施する「動画面接」のイメージ
SHIFTが実施する「動画面接」のイメージ 以下すべての画像提供:SHIFT

「動画面接を導入する前は、ある部門で内定を出せなかった場合に、候補者に再度来社していただき、別の部門でも面接を実施していました。調整だけで1週間くらいが必要だったので、かなりの無駄な時間が発生している状況でした。そこで導入したのが動画面接です」

「導入に際して、面接の動画を撮ることに対する抵抗感が候補者から相当出るのではないかと想定していました。人事担当者の中でも『動画面接は良くないのでは』という声は多くありましたが、そんな常識は打ち破ろうとしました。結果として、動画面接を嫌がる候補者はほとんどいませんでしたし、採用リードタイムを大幅に短縮することに成功しました 」(菅原氏)

菅原氏の発言に加えて、上岡氏も「候補者からは面接の場で『先進的な取り組みだ』とビデオ面接を褒めていただくこともありました。この先進的な取り組みがSHIFTへの入社の決め手となったと話す候補者もいます」と語る。

新型コロナウイルスの感染再拡大の影響もあって、SHIFTでは現在、面接をオンラインで実施している。ビデオ会議ツールを用いて実施した面接を録画することで、従来どおりのプロセスで採用を進めている。採用リードタイムに関してもコロナ禍以前と変わらないスピード感を維持できている状況だという。

「動画面接」を実施する面接部屋
「動画面接」を実施する面接部屋

非IT人材の素養を見極める「CAT検定」

SHIFTが採用するテストエンジニアは非IT業界から転職してきた未経験者も多い。業界未経験の候補者を面接だけで本当に活躍できるのかどうか見極めるのは困難だ。そこでSHIFTでは「CAT(キャット)検定」と呼ばれる独自の入社試験を開発した。CAT検定の一部は一般公開されており、誰でもオンラインで受験することが可能だ。

CAT検定はITに関する知識や経験を問うものではなく、候補者がSHIFTで勤務しソフトウェアテストを行う上で必要な“素養”を持つかどうかを判断するものだ。さまざまな要素を区分・整理するといった類の問題が多く出題される。適切なスピードで回答できているか、細かいミスはないか、といった点がチェックされるという。

そのため、エンジニア経験があるからといって必ずしも点数が高いわけではないという。例えば、細かい数字を整理する経理担当者など、「テストエンジニアに近い頭の使い方」(菅原氏)をしてきた受験者は高い点数を記録する傾向にある。

CAT検定を活用することで、2019年度には未経験ながらもSHIFTで活躍できるポテンシャルが充分にある、200人もの第二新卒者の採用が可能になったと上岡氏は説明する。

「CAT検定で高得点を記録した候補者は、未経験だったとしても採用後に活躍しているという実績があります。そのため『IT未経験だけど大丈夫だろうか』と不安に思う候補者にも安心して入社していただけるようになりました」(上岡氏)

年間3000人採用でソフトウェアテスト市場の制覇を目指す

今後は年間3000人の採用を目指すというSHIFT。2020年度の売上高は287億円で、東証マザーズに新規上場した2015年度の21億円と比較すると急速に成長している。急成長に伴い、平均給与額も同期間で460万円から600万円へと上がった。菅原氏は「給与の高さも優秀な人材を惹きつける一因です」と話す。

SHIFTでは給与・昇給制度を整えることに加えて、従業員の孤立を防ぐための“接点づくり”に注力していると菅原氏は説明する。

SHIFTでは「いちゃ部屋」という名の社内SNSを自社開発したり、大規模の社内イベントを開催することで従業員間のコミュニケーションを活性化させている。コロナ禍の2020年8月には全社イベントをオンラインで開催。各部署や共通の趣味を持つ従業員同士が撮影したコンテンツを配信したところ、1000人以上が視聴した。

入社後はさまざまな研修が用意されているほか、希望する従業員のみに集中的にトレーニングを行う「トップガン教育」なる制度が用意されている。トップガン教育のカリキュラム受講後、検定試験に合格すれば顧客への提示単価や給与が格段に上昇する。

SHIFTが抱える約3000人の従業員のうち、約3割ほどがIT未経験の転職者。SHIFTでは現在、サービス業、飲食、アパレル、公務員など、さまざまな業界から転職してきた人材が活躍している。経済産業省が2030年には80万人ものIT人材が不足すると試算する中、菅原氏は「いかにIT人材を増やしていくかが重要です。IT人材を増やした企業こそが勝つ時代だと思います」と話していた。

SHIFTが情報処理推進機構の「ソフトウェア開発データ白書2018-2019」などを元に説明したところによると、 国内ソフトウェアテスト市場は5兆円だが、アウトソースされているのは わずか1%。同社はこのブルーオーシャンの“制覇”を目指し、IT人材の発掘・育成を続けていく構えだ。