
- 総合型の習い事スクールから「キャリアスクール」へ
- SHElikes独自の体験を生み出す「3つのC」
- キャリア領域以外のブランドも複数展開
新型コロナの感染拡大を機に、働く女性たちのキャリア観が変化している──女性向けのライフキャリア支援サービスを展開するLiBが実施した調査によれば、約8割の女性が「キャリア観に変化があった」と回答。さらに、その中の約9割の女性が「自律的なキャリア形成の必要がある」「スキルや資格取得に時間を割く必要がある」と回答している。
そうした女性たちの価値観の変化を受け、成長を遂げているのが、女性限定のキャリアスクール「SHElikes(シーライクス)」を展開するSHEだ。
同社によれば、2020年4月に緊急事態宣言が発令されて以降、SHElikesの体験レッスンに参加する人は前年同月比で約2.6倍になっているほか、2020年9月には会員数が前年同月比で4.2倍になっているという。
そんなSHEは2月24日、独立系ベンチャーキャピタルのANRIをリードインベスターとし、HAKUHODO DY FUTURE DESIGN FUND、KDDI Open Innovation Fund3号から総額4億円の第三者割当増資を実施した。同時に行った金融機関からの4000万円の借入を合わせ、総額4億4000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。
今回の資金調達について、SHE代表取締役CEO・CCOの福田恵里氏は「SHEが強みとしているのは“コミュニティの熱狂度”です。そのアセットを強化しつつ、事業のポートフォリオをキャリア領域だけではなく女性のライフイベント全般に広げていくことを目的に資金調達を実施することにしました」と語る。今回、調達した資金は“コミュニティの熱狂を科学し、その熱狂を再現性高く展開”すべく、受講者と講師のマッチング自動化や商材のパーソナライズ化、コミュニティ体験の最適化など、テクノロジーへの投資に充てる予定だという。
総合型の習い事スクールから「キャリアスクール」へ
SHElikesはミレニアル世代の女性を対象に、クリエイティブスキルの講座やコーチングプログラムを提供する定額制のキャリアスクール。現在、ウェブデザインやウェブマーケティング、ライティングなどを中心に全20コース・72レッスンを提供している。
料金プランは全レッスン受け放題の「受け放題プラン」と、月に5回までレッスンを受講できる「月5回プラン」の2つを用意しており、それぞれの料金は受け放題プランが月額1万4800円(税別)、月5回プランが月額9800円となっている。
SHEは2017年4月の創業。当初、SHElikesは“総合型の習い事スクール”のような立ち位置で料理講座やヨガレッスンなども提供していたが、2018年10月にリニューアル。クリエイティブスキルの講座やコーチングプログラムを提供する形に舵を切った。
「当時からすでに料理を学べたり、ヨガを体験できたりする女性限定の専門的なスクールはありました。ただ『女性×ビジネス』のポジションは空いていたんです。ビジネススクールも昔からありますが、メインユーザーは男性がメインになってしまっていて、女性はなかなか通いづらい。女性たちがスキルアップやキャリアアップする際に楽しく、気持ちよく学べる場所がなかったので、その市場を狙いに行くことにしました」(福田氏)
サービス開始から、約4年。SHElikesの累計受講者は2万人以上を記録しており、卒業生の約6割がデザイナーやエンジニアへのキャリアチェンジを果たしているほか、新たに副業を始めたり、本業でのキャリアアップを図ったりしているという。
ここ数年、NewsPicksの「NewSchool」、GOの「THE CREATIVE ACADEMY」などスタートアップがスクール領域に参入する事例が増えている。そうした中、SHElikesが多くの女性から受け入れられてる要因はどこにあるのか。
「SHElikesの講師を務めている人はその道のプロフェッショナルでありながら、なおかつロールモデルとなる女性たちです。彼女たちの姿を見て、多くの受講生が『私も変われるかもしれない』という気持ちを醸成できているのは大きな要因です。そのほか、多くの卒業生たちがSHEを受講してからキャリアチェンジできた、副業を始めることができたという投稿を自発的に行ってくれています。自発的に学んだこと、キャリアチェンジしたことを発信したくなるループをつくれているのはSHElikesの大きな強みです」(福田氏)
SHElikes独自の体験を生み出す「3つのC」

SHElikesを受講してよかった──こうした体験を創出すべく、SHEが意識しているのがコミュニティ(COMMUNITY)、コンテンツ(CONTENS)、コーチング(COACHING』の「3つのC」だという。CMO・COOの五島淳氏はこう説明する。
「コミュニティに関しては同じ課題感を持った人たちが所属し、上下関係なく自分が持っているものをギブしあえる仕組みを構築しています。実際、SHElikesでは約束事を定めていて、それを守れない人はコミュニティから抜けてもらっています」
「コンテンツは時代のトレンドにあわせたラインナップを用意していますし、内容に関しても講師と二人三脚でつくっています。最後のコーチングですが、20〜30代の女性の多くは『何から始めたらいいか分からない』『目指すべき方向性が分からない』といった悩みを抱える人は多いので、コーチングを通じて一人ひとりに合った最適なコンテンツやライフプラニングをキュレーションして提供するようにしています」(五島氏)

SHElikesでは同時期に入会した4〜5人をひとつのグループとして、そこに「ライフコーチ」と呼ばれるアドバイザーがつく。そのアドバイザーが月に1回1〜2時ほど一人ひとりの「なりたいイメージ」や、それを目指すためのマイルストーンの確認をしていくなど、受講者向けのコーチングには力を入れている。
こうした目標に向かって頑張る仲間づくりや、ライフコーチの励ましなどを通して“夢を肯定し合える環境づくり”を重視した結果、「女性がキャリアアップを図るならSHElikes」という認知をとることができ、受講者が増えているという。
また、新型コロナの感染拡大を機に女性たちの価値観も変化。SHEが独自に実施した調査(20〜40代の働く女性184人対象)では、回答者の7割が正社員だったにも関わらず「企業に依存しない生き方を身につけたいと思った」と回答している。
「数年前から“人生100年時代”と言われていたと思いますが、その考え方が新型コロナをきっかけに社会に浸透してきたように感じます。コロナ前は副業やキャリアチェンジへの焦燥感を覚える女性はあまり多くありませんでしたが、コロナで『会社や組織にしがみ付いていてはいけないんだ』と考えるようになり、組織に依存しない生き方を模索した結果、自己投資やスキルアップへの意識が強まったんだと思います」(福田氏)
キャリア領域以外のブランドも複数展開

今後、SHEはコミュニティの熱狂を科学し、熱狂を再現性高く展開するためのテクノロジーへの投資を推し進めるという。具体的には「パーソンマッチング」と「コンテンツマッチング」の2つを行っていく予定とのことだ。
「SHElikesの体験レッスンに来た人は、それぞれ受講のニーズも違いますし、コミュニケーションのタイプも違います。現在、SHEではコミュニケーションのタイプを4象限にわけ、アンケートの結果をもとにどのプランナーとマッチングすればいいのか、どのコンテンツが最適か、を“人力”で行っているんです。ただ、自動化できる部分は自動化し、より受講者の体験を向上すべきだと思うので、そこへの投資を進めていきます」(福田氏)
またキャリア領域だけでなく、SHEは「ライフコーチングカンパニー」として、女性のライフイベント全般の課題に寄り添うブランドを複数展開していく予定だという。2020年10月には自分らしい美しさを実現するためのトータルプロデュースプロジェクト「SHEbeauty」のほか、2021年1月にはマネースクール「SHEmoney」プロジェクトを発表している。
「例えば、美容に関しては今までは“モテるため”など、第三者からの評価を高めるために提供されていましたが、これからの時代は“自分らしい美しさ”を高めていくことが重要になってくると思います。そうしたニーズに対するソリューションは従来の美容サロンでは提供されていないので、SHEbeautyではそこを変えていきたいと思いました。個人の生き方や価値観の変革もそうですが、今後はさまざまな業界の変革もやっていきたいです」(福田氏)
