
- Notionゆかりの地の学生起業クラブは公開LPとクリッピングに活用
- ノーコードアプリ作成サービスAppifyの情報共有はNotion一筋
- オフィスをなくしたoverflowは情報ストックの場として選択
今年、日本語化が表明され、一層利用が広がりそうな情報共有ツール「Notion」。DIAMOND SIGNALでは企業や組織でのユースケース、実際にプロジェクトで企業を横断して活用されている事例を紹介してきた。
本稿でも、コミュニティや企業での活用事例3つを紹介する。起業を目指す学生やサービス開発に取り組むスタートアップが、Notionの何を魅力に感じ、どういった利点を感じているのか。それぞれの使い方について話を聞いた。
Notionゆかりの地の学生起業クラブは公開LPとクリッピングに活用
京都大学起業部は2019年4月に発足した、起業を目指す学生の支援を行う組織だ。活動内容はビジネスプランの定期的な壁打ち(アイデア相談)や部内での発表、国内外のビジネスプランコンテストへの参加など。現在30人弱の学生が参加し、うち半数ほどがアクティブに活動している。

京都大学起業部では、Notionを外部向けの情報公開やイベントカレンダー、起業に役立つ情報共有などに利用している。京都大学起業部代表の桺本頌大(やなぎもと・しょうだい)氏は「起業部のホームページをつくるためのツールを探していたことがきっかけ。海外事例でNotionが(自己紹介などの)ポートフォリオとして使われているのを見つけて面白いと感じ、1年ほど前に取り入れました」と語る。
桺本氏はNotionの最大の魅力を「LP(ランディングページ)が簡単に作れるところ」だという。「Notionは、メモの延長として簡単に記録が残せるツールだが、同時にブランド発信もできる」として、情報の一部を選択して外部にも公開できる機能を生かし、LPとして公開している。
活動予定やイベント情報は、コミュニティ内では表形式で管理しているが、外部向けにはビューを切り替えてカレンダー形式で表示。ワンソースで転記の必要がない点が便利だという。


京都大学起業部では、そのほか会社設立や資金調達、経営手法など、起業に役立つ情報をナレッジベースとしてNotion上に共有している。
「各メンバーに毎回別々に教える時間やコストを回避するために、活動情報をはじめ、読んでおくといい本やオススメの記事、動画などの情報も共有しています」(桺本氏)
書籍や記事、動画などのリストアップには、Notionの「Web Clipper」、ブックマーク作成用のブラウザ拡張機能を利用。収集した情報はそのままページとしてNotion内に保存している。
「『取りあえず気になる情報を貼っておいて』というだけで、情報のシェアが簡単。見せ方については後から成形すればよいところも気に入っています。WordPressなど、ほかのツールでは使い方のマニュアルが必要になるところですが、操作が簡単なので、Notionの使い方自体を教えるコストもかかりません」(桺本氏)
また、通常月額4ドルの「Personal Pro」プランが学生・教職員なら無料となる点も、京都大学起業部にとってはメリットとなっている。
桺本氏は「今後、起業部のガイドライン策定など、さらにNotionで情報を充実させたい」と話している。
ちなみに桺本氏は、Notionの京都地域のユーザーコミュニティ「Notion Kyoto Community」のオーガナイザーとしても活動している。Notionの第2創業の地としてゆかりのある京都のコミュニティは、2021年1月、日本国内では4番目に誕生した。
「最初はユーザーコミュニティがあること自体よく知らなくて、今年の年明けにTwitterで『京都にはまだ(コミュニティが)ないのか』とツイートしたら、西さん(Notion Labsの日本第1号社員である西勝清氏)から『お願いします』とお返事がきて……(笑)。2週間ぐらいで立ち上げました」(桺本氏)
すでに30人ほどが参加しているというNotion Kyoto Community。Notionを使った情報提供のほか、今後、ミートアップなども予定しているという。
ノーコードアプリ作成サービスAppifyの情報共有はNotion一筋
ECアプリをノーコードで作成できるクラウドサービス「Appify(アッピファイ)」を提供するAppify Technologiesでは、Notionを2018年8月ごろから社内の情報共有ツールとして使い始めた。
Appify Technologies代表取締役の福田涼介氏は「ちょうど、社内情報共有のためのWiki(ウィキ、共同編集できる情報サイト)をどのサービスで立ち上げようか悩んでいたときに、海外で有名になっていたNotionを勧められ、議事録と仕様書をまとめる場として取り入れることにしました」という。
「Notionが便利だと思う点は、階層が簡単に作れること、Markdown(マークダウン、テキストを簡単なマークで装飾できる記法)が使えること、ページがつくれること、レイアウトが自由なことなど。他のWikiツールなどとも比較したのですが、デスクトップアプリがある点もよかったです」(福田氏)
その後、社内の情報共有にはNotionしか使っていないという福田氏。タスク管理やオンボーディング(新入社員の受け入れ)、有給休暇の申請など、使い方は多岐にわたっている。
タスク管理では、データベースをリレーション(関連付け)機能で連携させることにより、全体のタスクを個人の業務にブレイクダウンして、自動で個人タスクにも表示させるといった使い方を採用。オンボーディングには社内のドキュメント、マニュアルや各種申請の方法、会社で使っているサービスのアカウント情報や、新たにユーザーIDを取得する方法などが集約されたページが活用されている。
Notionでは、各ページで閲覧・編集できる人を制限することができる。そこで法務など、機密性の高い情報は見られるユーザーを限定。逆に業務委託で関わるメンバーにも公開できる情報は共有しているという。
また、Appifyも京都大学起業部同様、外部向けに公開するホームページをNotionでつくっている。掲載情報はプロダクトのLPや利用ガイド、導入事例、アップデート情報、そして企業情報など。Appifyでは、Notionページに独自ドメインを設定して、カスタムフォントやサイト分析などの機能も付加できる「Super」というサービスとの組み合わせで外部サイトを運用している。


「2018年内には外部向けページをNotionで出していたので、日本ではかなり早い部類での公開だったのではないでしょうか。サイトが外部公開できるのはすごくいい。Notionの使い方では、LP作成用途はイチオシです。AppifyではSuperと組み合わせて使うことで、CSSさえ用意しておけば、誰が情報を編集しても同じように反映できるようになっています」(福田氏)
ノーコードで扱えるという点で「Appifyのサービスと近い使用感かもしれません」と福田氏。「ほかのツールを情報共有に使ったことがないので、逆にNotionならではの良さというのはわからないですが、Notionひとつで困ったことは今のところ起きていないので、たぶんいいツールなのだと思います」と語る。
オフィスをなくしたoverflowは情報ストックの場として選択
エンジニアやデザイナー向けに副業・転職のマッチングサービス「Offers(オファーズ)」を提供するスタートアップのoverflow(オーバーフロー)では、2018年12月ごろからNotionを導入している。
もともとリモートワークをベースにしてきたoverflowでは、コロナ禍以降は固定のオフィスを解約してしまったほど。離れて情報をやり取りすることが当たり前の環境で、「価値観の共有や意思決定のための情報共有ツールがSlackだけだとフローのみになってしまうためコスパが悪く、情報がストックできる良いドキュメントツールを探していた」とoverflow代表取締役CEOの鈴木裕斗氏は語る。
最初は「どういうツールなのか、よくわかっていなかったし、ドキュメントを書くことにみんながそもそも慣れていなかった」という鈴木氏だが、とにかく3カ月ほどは自身も含めて、どんな情報でもドキュメンテーションすることに注力した。
そのうち書き方や構成など、型が作られるようになり、ドキュメント活用が増え始めたoverflow。会社やプロダクトのビジョンや戦略をはじめ、「タスク管理ツールやスプレッドシートでは表現しづらい、背景や課題、仮説について相互理解を深めるために、積極的に活用しています」と鈴木氏は述べている。
例えばカスタマーサクセス(CS)チームは、顧客からフィードバックされた機能改善をNotionでタスク化し、カンバン機能を利用して管理する。
「CSチームから出たアイデアがあちこちに散在している状況だったので、カードで詳細情報が見られるようにしたところ、いろいろなチームでやり方が広がるようになりました」(鈴木氏)
overflowでは、「顧客の不満はプロダクトで解決する」という、プロダクトアウトの思想で開発を行っているという鈴木氏。そのためには課題を早く開発チームへフィードバックする必要がある、と説明する。
「(プロジェクトマネジメントツールとしては)エンジニアにはなじみのあるJiraやGitHubなどもありますが、CSチームなどとのやり取りにおいては、ツールはビジネスサイドに寄せた方がいい。そこでNotionでやり取りするようにしています」(鈴木氏)
フィードバックのスピードアップなども功を奏して、現在、Offersの機能改善は月間200回ほどを数える。鈴木氏は「会社およびプロダクト開発においては、チームで『Why』を理解しておくことがスループットを左右する」とも述べていて、Notionを使った徹底したドキュメンテーションにより「社内で能動的な背景共有意識がカルチャーに受け込むように設計しています」と語る。
2020年秋にNotionに加わった「Timeline(タイムライン)」ビューは、いわゆるガントチャートとしてのレイアウト表示形式だが、overflowでも早速使っているとのこと。「同期的なタスク管理、タスク同士の連動性の確認が、ファイナンス(資金調達)プロジェクトなどでは必要なので、重宝しています」(鈴木氏)
overflowでは、タレントマネジメント(人材管理)やオンボーディングプロセスにもNotionを活用している。これはスマホでゲーム実況配信ができるアプリ「Mirrativ(ミラティブ)」を開発するスタートアップ・ミラティブのやり方を参考にしたものだそうだ。

まず、新入社員は入社したら、最初にNotionに用意されたテンプレートを使って自己紹介し、プロフィールページを作成する。「業務に直接関係ないことも書いてもらうことで、経歴などが深くわかり、定性的情報も共有できます」と鈴木氏。書くべき項目はたくさんあるが、テンプレート化されているため、書き手はすんなりと書き込むことができる。

書き込みが終わったプロフィールページは、定例のオンラインミーティングで自己紹介の代わりにURLが共有される。また各人のプロフィールページの末尾には、オンボーディングで実施すべき項目が全社共通プラス各部署ごとにチェックリストの形で入っており、ページを見ればどこまでオンボーディングが進んでいるかを確認することができる。

鈴木氏は「オフィスをなくしたのも、NotionとSlack、スプレッドシートを使ってオンラインで情報共有が完結できるからこそ」と語る。「5年前にコロナ禍が来ていたら実現できなかった。もしくは実現はできたかもしれませんが、もっと大変だったと思います」(鈴木氏)
Notionでは、今春にAPIのパブリックベータ公開を目指しているが、鈴木氏はこのAPI連携にも期待を寄せる。
「SaaSは共存が重要です。例えばoverflowでは組織図の作成には、オンラインで図の共有ができるmiroを使っていて、現時点だけでなく将来的に実現したい組織の状態を可視化しています。一方、採用状況や今後採用を予定するポジションごとの要件、優先度管理はNotionで行っていて、miroの組織図上にそのリンクを記載しています。これがAPIで連携できていれば、もっと使いやすくなるはずと期待しています」(鈴木氏)