
建設業界は約60兆円規模とも言われるほどの巨大市場である一方、労働人口の高齢化や過酷な労働環境ゆえの人手不足など深刻な課題も多く抱えている。
3K(キツイ、汚い、危険)な現場のため若い人材がなかなか定着せず、業界内の労働人口における60歳以上の割合は全体の25%を超える。人手不足にも関わらずIT化などが遅れており、90年代以降は労働生産性がなかなか上がらなかった。
そんな建設業界の課題を解決するべく、ロボット工学を活用したプロダクトを開発しているのが2020年創業の東京大学発スタートアップ・ARAV(アラブ)だ。
最大の特徴は油圧ショベルやキャリアダンプなど“既存の建設機械”に後付けすることで、遠隔操作や自動化が可能になること。ARAVが開発する回路やカメラを建機の運転席に取り付けた状態で専用のウェブアプリケーションにアクセスすると、ブラウザから建機を操作できるようになる。簡単に言えば「既存の建機をスマートにできる」サービスだ。

ARAV代表取締役の白久レイエス樹氏は学生時代からロボット開発に携わり、高専ロボコンで全国大会優勝も経験した。大学院では東京大学に進学し、修士課程在学中に動作拡大型スーツを開発するスケルトニクスを共同創業。同社を離れて以降はSUBARUでEyeSightのエンジニアを務めた後、米国でスタートアップを立ち上げ商用トラックの遠隔化・自動化にも取り組んだ。
もともと建設業界に馴染みがあったわけではなかったが、ロボット技術で社会課題を解決したいと考えた際に、スタートアップでやるのであれば「技術、法律、ビジネス」の3点が重要になると結論づけた。
建機の場合は“私有地”で動かすことが多いため、公道を走る自動車に比べると法律の観点でハードルが低い。また動きが遅いことに加え緊急時には停止することもできることから、技術面でも取り組みやすい(仮に高速道路を走るトラックなどであれば急停止は大事故に繋がる)。その上現場の課題が大きいので、開発初期の技術であったとしても導入したいというニーズもある。

2020年6月に油圧ショベルの遠隔操作実験に成功後、キャリアダンプの遠隔操作実験や油圧ショベルの積み込みタスク自動化、草刈機の自動化など建機メーカーを中心に10社以上とタッグを組みながら遠隔化や自動化に取り組んできた。
白久氏によると多くの現場では人手不足や生産性が上がらないことに対して課題感を持っているものの、遠隔操作技術や自動運転技術を自ら開発できるのは一部の大企業のみ。中小規模の建機メーカーや商社などは自社だけで開発することができないため、ARAVに協力の依頼がくるという。
2020年11月には国交省の「建設現場の生産性を向上する革新的技術」に選定されたほか、伊藤忠TC建機と建機の遠隔操作実用化に関する開発業務委託契約を締結。ARAVの技術をベースに、災害対策用の建機を遠隔から操作できるシステムの早期実用化にも取り組んでいる。
まずはプロダクトの完成度を高め、毎日使ってもらえるようなレベルまで持っていくことが当面の目標。開発体制や営業体制の強化に向けて、東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC)を引受先とした第三者割当増資により6300万円の資金調達を実施したことも明かした。
なおARAVはもともと東大IPCが運営するインキュベーションプログラム「東大IPC 1st Round」の採択企業であり、このプログラムを経て同社から出資を受けている。