
- 歩行者専用時間帯に自動運転車を走行
- “街のOS”に自動運転を実装
- 自動運転管制のBOLDLY、路線バスに焦点
大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会(大丸有協議会)とソフトバンク傘下のBOLDLY(ボードリー)は、東京・丸の内エリアで自動運転バスを走行する実証実験を開始した。3月8日~14日まで、丸の内仲通りで乗客を乗せた自動運転バスを走行させる。
歩行者専用時間帯に自動運転車を走行
自動運転技術はここ数年で急速に発展し、2020年代後半にも実用化が見込まれている。そのニーズを模索する実証実験も活発化しており、今回の丸の内での実証もその一例となる。国土交通省の「スマートシティモデル事業」の一環として、自動運転車と歩行者が共存する道路環境での実験となった点に特徴がある。

丸の内仲通りは、東京駅前のビル街を横断する街路。ふだんは一方通行で、日中は歩行者専用道となっている。自動運転車が走るのは片道350メートルと短い直線のルート。3つの停留所を設置し、往復で運行する。7日間の実証実験期間中に、地域のオフィス利用者と一般乗客で約500人を運ぶ予定だ。
実験で使われた仏NAVYA社製の小型バスはハンドルがないタイプの自動運転車で、操作はボタンとコントローラーで行う。乗客6名のほかに運転士と保安要員が搭乗する。
運行速度は時速6キロメートル以下で、人が早歩きするくらいの速度だ。歩行者に注意を促すため、走行中は鐘の音のような警戒音を鳴らして走る。
実証実験では歩行者専用道で走行。復路は一方通行の逆走で、一車線道路の左側をバックで走行することとなる。これらは通常は道路交通法違反となるが、警察庁の「自動走行システムの公道実証実験のためのガイドライン」に基づいて、特別に運行許可を得ているという。

“街のOS”に自動運転を実装
実証実験の主体となった大丸有協議会は、同地区にオフィスビルを構える企業が参画し、地域の街づくりを担う社団法人だ。
今回の実証実験は、数年先を見据えたもので、狙いは自動運転モビリティのニーズを探ることにある。大丸有協議会 スマートシティ委員会の川合健太氏(三菱地所所属)は、「大手町、丸の内、有楽町の街は、南北に1キロメートルほどの距離があり、ちょっと歩くのには遠く感じることもある。エリア内を移動するニーズを見極めたい」と話す。

その上で川合氏は「今回の自動運転実証は大丸有地域に実装する“都市OS”の第1弾となるもの。今後3年間でスマートシティを実現するサービスの実装を加速させていきたい」と表明する。
大丸有協議会は2020年3月に「大丸有スマートシティビジョン」を定めた。この構想では、自動運転などの機能を追加することで、地域全体のスマートシティ化を進めていく方針で、川合氏が言う都市OSは、いわば都市のプラットフォームとなるものだ。
大丸有地域では無料巡回バス「丸の内シャトル」を運行しており、将来的にはこのバスと自動運転モビリティとの連携も視野に入れている。また、将来的には地域の飲食店を予約すると同時に、その店へ向かうための足となる自動運転モビリティも予約できるといったような利用形態も検討しているという。こうした利用方式はMaaS(Mobility as a Service)の一形態と言えるだろう。

自動運転管制のBOLDLY、路線バスに焦点
今回の実証実験で自動運転車両を提供したBOLDLYは、ソフトバンク傘下の企業だ。同社は自動運転技術そのものではなく、自動運転モビリティのための運行管理プラットフォームを開発している。
車両は仏NAVYA(ナビヤ)社製の自律走行バス「ARMA」を採用。BOLDLYが走行ルートの3Dマップデータに基づく自動運転のセッティングを行った。

今回の実証実験では、運転手が搭乗し発進操作を行う自動運転レベル2に相当する。車両そのものは時速19kmでの走行が可能としているが、歩行者が多い環境下で運行するため、時速6kmという低速で2人のスタッフが同乗する体制を取っている。
自動運転車は発進操作を運転手が行い、あらかじめ決められたルートを無操作で運行する。途中、自動車が走行する公道を横切るが、その際は自動で一時停止し、運転士の操作により発進する。

復路では同じルートをバックで走行することになるが、バック走行時は停留所に止まる際のウィンカー操作のみを手動で行っているという。これは、NAVYA社の自動運転システムがバック走行時のウィンカー操作を想定していないためだ。
BOLDLYはこれまで、NAVYA ARMAを活用した自動運転バスの運行経験を積み重ねてきた。2020年9月には羽田空港に隣接する「HANEDA INNOVATION CITY」で施設内を周回する自動運転バスの運行を開始。同年11月には茨城県境町での自動運転バスによるコミュニティバスの運行もスタートしている。
現在はいずれも運行者が搭乗する方式をとっているが、NAVYA ARMAによるシステムでは技術的には無人運行できる自動運転レベル4に対応可能としている。現在は実証実験を重ねる段階にあるため、サービスを案内するスタッフを兼ねた運転手や保安員を搭乗させている状況だ。

BOLDLYでは2025~30年にかけて自動運転の実用化が進むと見込んでいる。同社が最初に導入が進むとみているのは、乗り合いバスの市場だ。この時期には6万台の路線バスの置き換え期に突入するからだ。BOLDLYでは1万台の路線バスが自動運転バスへと置き換えられると予測している。
自動運転技術としては、現状は低速・有人・固定ルートでの運用に留まっている。一方で、その技術は進展しつつあり、法令上の制約も解消に向けて進んでいる。既存のバス会社では西鉄バスや西部バスなど、路線バスを使った自動運転に取り組んでいる事業者もある。自動運転の乗り合いバスは完全自動運転よりも一足早く、身近な存在となる可能性がある。