UPSIDERでは成長にともなう財務・ガバナンスの課題を解決する金融サービスを手掛ける
UPSIDERでは成長にともなう財務・ガバナンスの課題を解決する金融サービスを手掛ける すべての画像提供 : UPSIDER
  • 数百社が利用、成長企業の悩みを解決する法人カード
  • オープンで低コストな取引構造には新たな決済手段が不可欠
  • カードサービスを通じて挑戦する人たちを後押しへ
  • 100社の声を聞いて気づいた“公には出てこない”インサイト
  • 事業成長を加速させる法人カード、国内外で勢い

Webサービスやシステムを手掛けるテクノロジー事業者を中心とした成長企業向けに「法人カード」を提供するUPSIDERがサービスを拡大している。

「限度額の低さが事業の成長の足かせになってしまっている」「決算漏れや、不正利用などガバナンスの観点で使いづらい」といった従来の法人カードでは満たせなかったニーズに対して、新たな解決策を提示することで顧客を獲得。2020年9月の正式ローンチ以降は毎月50%成長を維持し、現在は数百社にサービスを展開する。

そのUPSIDERがさらに事業を加速させるべく、ベンチャーキャピタルを引受先とした第三者割当増資により総額10億円を調達した。

今回同社に出資したDNX Ventures、ANRI、Global Brainはいずれも既存投資家で前回ラウンドからのフォローオン投資となる。なおUPSIDERではそれ以前にも伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、新生銀行、BASE Partners、AGキャピタルなどから資金調達を実施している。

数百社が利用、成長企業の悩みを解決する法人カード

UPSIDERが運営するのは成長企業の悩みを解決する法人カードだ。

利用規約を確認した上でサイトから申し込みをした後、アカウント登録を済ませると2営業日以内を目安に物理的なカードがユーザーの元へ届く。同社のカードはVISA加盟店で利用が可能で、以下のような点が特徴だ。

  • 最大で1億円の高い利用限度額
  • 会計処理の早期化で翌月初日に完了
  • 不要な支出や不正利用を防止
  • 請求書払いも自動化
UPSIDERの法人カードはVISA加盟店で利用が可能

現在の顧客は広告費や人件費などに積極的に投資をしているソフトウェア企業が中心。上場を見据えたベンチャーから創業期のスタートアップはもちろん、大手上場企業にも導入が進む。

UPSIDERが解決しているのはそのような企業が抱える「成長に伴って発生する決済面のペイン」だ。

特に初期のスタートアップは“法人カードの限度額”が悩みのタネになりやすい。限度額に達して支払いが止まってしまったために「ウェブ広告がストップした」「サーバーがダウンした」というのはよく耳にする話。資金調達をして一気に投資をしたいと思っても、成長速度と限度額の引き上げがかみあわずアクセルを踏めないこともありえる。

一方で決済額が増えてくると、今度は決算やガバナンスの壁に直面する。従来の法人カードでは明細が確定・通知されるまでに数日〜数週間かかることが常識だった。たとえば翌月の3営業日以内に決算を締めたい企業にとっては使いづらく、上場準備フェーズに入る前に法人カードを廃止せざるを得ない場合もある。

また「誰がどの用途でいくら使ったのか」が可視化されてないために、本来は不要な支払いが発生していたり、不正利用が紛れていたりしても把握しづらかった。

UPSIDERではこれらの課題をトータルで解決する。

同社の法人カードは急成長中のスタートアップでも高い限度額の設定が可能。裏側のシステムを内製化することによって即日に明細を確認できる環境を構築した。

用途や部門別にカードを発行することで、利用明細を正確に把握しやすい仕組みを作っている点もポイントだ。誰が何にいくら使ったかもわかるため、不正利用の防止・早期発見にも繋がる。

UPSIDERのサービス画面
UPSIDERのサービス画面

従業員200〜300人規模のあるIT企業では、事業の拡大で経理業務が膨大になり月末と月初は夜中まで残業するほどになっていた。広告やサーバー代の支払いにカードを用いていたものの、明細の反映が遅れるため毎月の費用が確定するのも遅れてしまう。銀行振り込みでは支払いを受け付けていないサービスも多く、代替案もない状態だった。

UPSIDER導入後は明細がリアルタイムに反映されることに加え、データが会計サービスへ自動で取り込まれることから業務が大幅に削減。あくまで体感値ではあるものの「年間100時間分の削減効果があった」という声が届いた。

また月次決算のスピードが早くなったため経営陣の意思決定を早くできるようになっただけでなく、確定しない費用が大幅に減少したことで投資家を含むステークホルダーからも評価を受けているそうだ。

「特にガバナンス強化に繋がる点や会計処理が早くなる点は価値を感じていただけています。今まではどの明細を、どの部署が、何のために使ったが記されていない状態で通知されていて、しかも時間がかかっていました。だからいちいち担当者に確認する手間がかかっていたんです」

「(UPSIDERの場合は)そもそも明細が各部署・担当者ごとに最初から分かれている。その取引を誰が責任持って管理しているか、正しい目的で必要な支払いが行われているのかがすぐにわかります」(UPSIDER代表取締役CEOの宮城徹氏)

足元では月次50%成長を続けつつ、継続率も99%以上を維持している状況だ。過去の解約も顧客がサービスをクローズすることになったのが理由。必要性がないから、使いづらいからという理由での解約はこれまで1件もなく「明確なニーズを感じている」という。

導入企業はカードの発行枚数に応じて月額の利用料(1枚1500円から)を支払う仕組み。UPSIDERとしてはその利用料に加えて決済ごとに発生する決済手数料を店舗から受け取る形だ。

オプションとして請求書をアップロードするだけで振込業務を楽に外注できるサービスも提供している
オプションとして請求書をアップロードするだけで振込業務を楽に外注できるサービスも提供している

オープンで低コストな取引構造には新たな決済手段が不可欠

近年IT系の企業においては、ネット広告を使って集客をしたり、便利なクラウドサービスやSaaSを使って業務を円滑に回したり、開かれたECやマーケットプレイスを通じて取引をしたりすることが当たり前になりつつある。

そのようなサービスの支払い手段としては法人カードが主要な選択肢になっているのが現状だ。「決済を滞りなく実行することで、新しい挑戦をする事業者がサービスを支障なく運営できるようにサポートするのが自分たちの役割だと思っています」と宮城氏は自社の現在の立ち位置について説明する。

こうした“オープンで低コストな取引構造”はネット企業に限らず、今後社会全体に広く普及していくだろう。そこでは「銀行振り込みなどの従来の決済手段ではなく、カード払いを軸とした新たな決済手段が普及することが必要になる」いうのが宮城氏の考えだ。

仮に選択肢が銀行振り込みしかなかった場合、サービス提供者側はうかつに顧客を増やせない。取引先企業の与信管理が必要になるほか、サブスク型のサービスであれば毎月のように入金確認や催促が必要になるからだ。結果として利用企業は信用力がなければサービスにアクセスできないという事態にも陥る。

もしカード決済を選ぶことができれば双方の状況は変わる。提供者側は自分たちで与信管理をする必要もなければ、請求や入金確認の手間もない。待っているだけで確実に入金されるので、さまざまな規模・地域の取引先に対してオープンにサービスを提供できる。そうなれば利用企業側もさまざまなサービスを自由に使えるようになるはずだ。

「たとえばNetflixやSpotifyが世界中のユーザーから銀行振り込みで利用料を受け取れるかというと現実的には難しい。だからこそカード決済が使われているわけですが、これと同じような動きがB2Bの取引でも起き始めています。カード決済が広がらないと、オープンで低コストな取引構造も広がっていかない。社会の潮流として取引構造が変化する中で、決済が1つの課題になっていると考えています」(宮城氏)

UPSIDERとしては、まずはニーズが大きいネット業界の企業に対して法人カードを提供している。ただ今後その要望がさまざまな企業から生まれてくれば、サービスを拡充させながら顧客層も広げていく計画だ。

同社が目指しているのは、成長企業が抱える財務や業務の課題を包括的にエンジニアリングで解決すること。法人カードサービスに固執せず、必要に応じてSaaSのような機能も提供していく計画だ
同社では単なるカードサービスに固執せず、必要に応じてSaaSのような機能も提供していく計画だ

「本質的には企業の成長を支える金融SaaSであると位置付けています。単なるカードサービスではなく、顧客が抱える財務や業務の課題を包括的にエンジニアリングで解決していくのが自分たちの価値。カードに限定するのではなく、必要に応じて関連する決済サービスも提供していく予定です」(宮城氏)

法人カード自体は以前から存在したが、従来は経営者の交際費や社内の経費精算のために使うのが一般的だった。宮城氏はその需要自体は今後もなくならないが、UPSIDERでは「既存の法人カードのディスラプトではなく、パラダイムシフトの中で新たに生まれてきたニーズに応えることを目指していく」という。

カードサービスを通じて挑戦する人たちを後押しへ

UPSIDER代表取締役CEOの宮城徹氏
UPSIDER代表取締役CEOの宮城徹氏

UPSIDERは宮城氏とCOOの水野智規氏が2018年に共同で創業したスタートアップだ。

水野氏はもともとユーザベースに初期のメンバーとして入社。NewsPicksの立ち上げなどに携わった後、グループ全体のマーケティング責任者も担った。自身が法人カードのユーザーとして課題を感じた経験があり、UPSIDERでは「こんなカードが欲しかった」というプロダクトを自分たちの手で開発している。

「与信枠にずっと悩まされていました。利用限度額が小さいことに加えて(小さいフェーズの会社では)そもそもカードを発行してもらえないこともあります。事業が軌道に乗ってカードでの取引がどんどん増えているのに、それを使えない。そこに大きな課題を感じていました」(水野氏)

一方の宮城氏は新卒でマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社し、東京支社やロンドン支社にて商業銀行を中心とした金融機関のサポートをしてきた。当時から「カードを発行できない」といった法人カードにまつわる事業者の悩みを耳にしていたのと同時に、金融業界側の課題も感じていた。

当時宮城氏がやっていたのは金融機関の人員削減や店舗削減といったコスト削減の支援。そこに大部分の経営リソースを割くというのが当時の世界中の商業銀行の傾向で、経営上は極めて正しい判断だったという。一方で、世の中に対して大きな影響力を発揮できる企業が社会的な課題の解決に十分なリソースを避けていないことには問題意識があった。

そもそも大手金融機関の事業構造や持ち合わせているシステム・ソリューションの観点からも、現在UPSIDERが取り組んでいるような新しいインフラをゼロから作るには時間を要する。次第に「そのインフラを実現するために自分の時間を使いたい」という思いが宮城氏の中で大きくなっていた。

1つの転機となったのが、英国に住んでいた際にRevoultとMonzoといったチャレンジャーバンクが手掛けるプロダクトのアルファ版を使ったことだ。

「自分自身が外国人ということもあってメガバンクの銀行口座が作れなかったんです。(チャレンジャーバンクに)実際に問い合わせてみると、エンジニア自ら数分で返信してくれるような世界観で。サービスを使う中でその体験にも驚きましたし、スタートアップでもこんな挑戦ができる時代になったんだと実感できたことが大きかったです」(宮城氏)

自身が必要だと感じていた金融インフラを自ら作ってみよう。そう考えて2017年の秋頃から水野氏と2人で日英間で何度もオンラインディスカッションを重ねた。

最終的には「社会に新しい価値を提供しようと挑戦している人たち」を後押しするカードサービスを作ることを決め、2018年5月に会社を立ち上げた。

UPSIDER共同創業者でCOOの水野智規氏
UPSIDER共同創業者でCOOの水野智規氏

100社の声を聞いて気づいた“公には出てこない”インサイト

方向性自体は最初に決めていたが、具体的なサービスの仕様は約100社へ地道にヒアリングをしながら固めていった。

「1番大きな気づきは、決算の早期化やガバナンス強化の観点で悩みを抱えていた企業が多かったことです。自分自身はマーケティングや事業側の出身だったのでその必要性を深く感じていなかったのですが、実際はものすごく課題があることを知りました」(水野氏)

興味深いのは、実際にいろいろな企業の元へ足を運ぶ中で“外には出てこないインサイト”を得られたということだ。当初2人は「利用限度額が小さくて困っていませんか?」とヒアリングをしていたそう。ところが話を聞いてみると「昔は困っていたけど、今は大丈夫になってきた」という反応が返ってくることも珍しくなかった。

一方で多かったのが「カードを使っていると決算を締められない」「誰が何の取引をしているのかを紐付けられず、毎回余計なコミュニケーションが発生している」「実は不正利用が発生してしまった」という声だ。

「不正利用が起こっていることや、決算を締められないことは本来外部に積極的には言いたくないんですよね。直接足を運ぶことで、そのような『公には出てこない情報』を知ることができた。それが現在のプロダクトにも繋がっています」(宮城氏)

ヒアリングを繰り返す中で、当初は想定していなかった課題にも気づいたという
ヒアリングを繰り返す中で、当初は想定していなかった課題にも気づいたという

法人向けの金融サービスは間違いがあってはいけない──。顧客の要望に応えられるサービスを実現するためにシステムを内製化したほか、金融庁の登録やセキュリティの強化、安心安全に使える設計など準備には時間をかけた。

一部の顧客に機能を限定する形で提供し始めたのが、創業から約1年半後の2019年12月のこと。慎重にステップを踏みながらアップデートや機能追加を重ね、2020年9月下旬に満を持して正式にサービスをローンチした。

事業成長を加速させる法人カード、国内外で勢い

その甲斐もあって今のところは順調なスタートが切れているという。「全く広告費をかけておらず、セールス人員もいない状況」ながら顧客からの紹介や過去の公開情報などを通じて導入企業が広がっている。

今回10億円の資金調達を実施したのは、この勢いをさらに加速させることが目的だ。引き続きプロダクトの磨き込みに力を入れながらも、マーケティングやセールスへ投資をするべく組織体制を強化する。

「海外では銀行口座を持たない『アンバンクド』と呼ばれる人たちに向けた金融サービスが広がってきています。日本はほとんどの人が銀行口座を保有していますが、法人カードに関しては今でもアンバンクドな事業者が少なくありません。まずはそのような企業に対して、便利なサービスを届けていく。支払いにまつわる不便を解消していき、少しでも事業成長に使える時間やリソースを増やせるようなサポートをしたいです」(水野氏)

「法人カードの市場は大きく2つに分かれると考えています。既存の法人カード自体は今後も変わらずニーズがあり、そことバトルをするのが目的ではありません。UPSIDERの挑戦は、大きな時代の変化とともに潜在的にでき始めている市場を開拓していくこと。サービスのプロバイダーがいない領域だからこそ、大きなニーズもチャンスもあります」(宮城氏)

海外では飛躍的な成長を遂げてユニコーン企業の仲間入りを果たしたBrexを筆頭に、Rampなど法人カードサービスを手掛ける新興企業が勢いを増している。日本でも昨年ローンチ時に紹介した「paild」や経費精算サービス一体型の「Staple カード」など、アプローチは異なれど関連するサービスが生まれ始めた。

UPSIDERも含め、成長企業の要望に応える新しいタイプの法人カードサービスには大きな可能性がありそうだ。