
- ネット注文・車上で受け取り、非接触ニーズにも対応
- 小商圏でも運用可能な小売DXのモデルケース目指す
イトーヨーカ堂を始めフレスタやライフコーポレーションといったスーパーのDXをサポートしてきた10Xが、今度はドラッグストアのDXに向けた取り組みを始める。
同社は東北6県にてドラッグストア「薬王堂」を322店舗展開する薬王堂と共同で、3月15日より新アプリ「P!ck and(ピックアンド)」の提供を開始した。同アプリでは薬王堂の店舗にある店舗の商品をスマホから注文し、店頭または店舗駐車場で車上受取(ドライブスルー受取)ができる。
ネット注文・車上で受け取り、非接触ニーズにも対応
P!ck andは薬王堂の商品を好きな場所から注文することができるアプリだ。
医薬品に限らず食品や日用雑貨も含めてアプリ上で商品をまとめて購入することが可能。商品の受取方法は「車上受取」と「レジ受取(店内での受取)」の2つが用意されており、車上受取の場合には店舗の駐車場に到着後、スタッフが車まで商品を届けてくれる。
受取は最短2時間後から選べ、当日16時までの注文で21時まで受取可能だ。1回の注文につき220円(税込)の利用料がかかる。なお医薬品については現在レジ受取のみを選べる状態。医薬品のネット販売の許可を得られた後に車上受取への対応も検討していくという。
商品の注文をアプリ上で実現することにより、店舗の滞在時間や人と接触する時間は従来に比べて大幅に減らせる。加えて車上受取を選べば重い商品を車まで運ぶ必要がないほか、購入までを非接触で完了させることもできる。
まずは4店舗を対象にP!ck andの運用をスタートし、年内にも全店舗での展開を目指していく計画だ。

薬王堂の営業本部でDX推進室のマネジャーを務める西郷泰広氏によると、同社はこれまで人口密度の低い地域(ルーラル)を中心に出店を続けてきた。食品の構成比率が40%以上を占めるなど医薬品に限らず幅広い商品を扱っているのも特徴で、“地域のインフラ”として機能している。
小商圏でも安定した収益を上げるため、ローコストオペレーションを徹底的に追求。特に自動発注の仕組み作りにはかねてから力を入れていて、自動発注率は店舗全体で90%近くを維持しているそうだ。
一方で同社が本拠地を構える東北地方は“課題先進地域”と言われることも多く、人口減少率が高い上に高齢化も進行。人口密度が低く商圏が成り立たないことからスーパーやコンビニの撤退が進めば、「買い物弱者・買い物難民」が増えてしまうリスクもある。
今回10Xとは人口減少・高齢化エリアにおける生活基盤確保に向けたDX推進プロジェクトを共同で立ち上げ、段階的に取り組みを行っていく方針。来年にはラストワンマイル配送の開始も視野に入れつつ、東北を課題解決先進地域にしていきたいという。

小商圏でも運用可能な小売DXのモデルケース目指す
P!ck andは10Xが手掛ける「Stailer」を用いて開発されたものだ。
Stailerは複数店舗を展開するチェーンストアの“EC立ち上げ”を包括的にサポートするサービス。冒頭で触れた通りこれまでは複数のスーパーを顧客として、ネットスーパーアプリの立ち上げを支援してきた。
ドラッグストアでの導入は10Xにとって最初の事例になる。また同社代表取締役の矢本氏によると完全に新規でのEC立ち上げ、ドライブスルー受取の導入、店舗スタッフ向けアプリの導入という観点においても初めての試みになるそうだ。
スーパーとドラッグストアという違いはあるものの、特に薬王堂は扱う商品の種類が豊富で、食品を軸にワンストップショッピング(数十もの商品を同時にまとめ買いすること)のニーズが高い点ではスーパーと変わらない。

もちろん薬王堂向けにカスタマイズしている部分もある。たとえば医薬品を購入する際には画面上に内容を説明する文章が表示され、ユーザーが理解・同意しなければ購入できない仕様になっている。ただ根本的には過去のユースケースと共通する部分も多く、培ってきたStailerの基盤を活かせるという。
また初披露となる店員向けのアプリについては、この半年ほどで10Xが力を入れて開発してきたものだそう。実際にエンジニアやデザイナーが現地を複数回訪問し、薬王堂のスタッフとも協力しながら開発を進めてきた。

このアプリではバーコードと照らし合わせることで商品のピッキングミスを減らせる機能が実装されているほか、店頭在庫との即時反映にも対応。ユーザーからの注文が入るとアプリ上に「やることリスト」が表示され、1つのアプリで一連の作業が完結する。
なお新規でECを立ち上げるには店舗と異なる複雑なサプライチェーン・オペレーションをゼロから構築する必要があり、それがボトルネックになりやすい。その点はもともと薬王堂側に在庫管理システムが整備されていたことに加え、Stailerを活用することで契約締結から約4カ月でのサービスローンチを実現できたという。
「今回の目的は両社の強みを掛け合わせながら、地方における生活基盤のDXにチャレンジしていくことです。課題先進地域の東北で、人口密度の低い商圏でも運用可能な小売のDX事例を作れれば、将来的には日本中の『買い物難民リスクエリア』へ展開していける可能性もあると考えています」(矢本氏)
