
- 明るく高精細なフルHD画質
- Google Playストアからアプリをインストールできる
- プライベートシアターからビジネスツールへ
- ZoomやMicrosoft Teamsなどオンライン会議にも使える
- ブレイクのカギを握るのは「パートナーとの協業拡大」
エプソンのMoverio(モベリオ)は、今年の秋にデビューから10周年を迎える国産スマートグラスの先駆けと呼ぶべきシリーズだ。
今回、春に発売されるモベリオの第4世代最新モデルである「BT-40S」はエプソンが独自に開発するシリコンOLEDディスプレイをフルHD画質に高画質化。筐体を分けた専用コントローラーにはAndroid OSを載せて、Google Playストアにも対応した。
この記事では製品レビューに加えて、本機がこれからのメガネ型ウェアラブルデバイス市場を切り拓いていく可能性についても考察してみたい。
明るく高精細なフルHD画質
モベリオは顔に装着して両目で映像を視聴するスマートグラス。映像を表示した状態で背景には現実世界の景色が透けて見えるシースルースタイルなので、映像を見ながら手を動かしたり歩いて移動することもできる。一般的にAR(拡張現実)やMR(複合現実)に区分されるデジタル映像技術に対応するデバイスだ。

エプソンが独自に開発した0.45インチのシリコンOLED(有機EL)パネルを本体の左右側部に内蔵。映像を曲面ミラーに反射させ、前面のハーフミラー層に投射された映像を見る。約2.5m離れた手前にフルHD(1920×1080画素)、60型相当の明るく高精細な画面を映し出せる。

ひと世代前のモベリオは画質がHD(1280×720画素)対応となっており、表示できるスクリーンサイズがひとまわり小さかった。しかし、BT-40Sはエプソンが独自に開発するシリコンOLEDデバイスの進化により、画質の向上が実現した。
モベリオの最新モデルにはAndroid OS搭載の専用コントローラーを同梱する「BT-40S」と、ヘッドセットのみを販売する「BT-40」の2種類がある。直販サイトの税込販売価格はBT-40Sが11万5500円、BT-40が6万4900円となっている。


Google Playストアからアプリをインストールできる
モベリオのヘッドセットは専用コントローラー、またはAndroid搭載スマホにUSB Type-Cケーブルで接続して映像と音声を伝送、ならびに給電する。
ヘッドセット単体のBT-40を接続できるのは、2019年以降に日本国内で発売され、DisplayPort Alternate Modeによる接続に対応するUSB Type-C搭載のAndroid端末。対応機種はエプソンのサイトに動作検証の結果が公開されている。iPhoneやiPadなどアップルのデバイスはサポートしていない。

筆者はエプソンがこれまでに発売してきたモベリオを体験してきたが、最新モデルでは映像が格段に明るく色鮮やかになっていた。レンズはほぼ無色透明なので、デバイスを装着してウェブブラウザやSNSをモベリオのディスプレイに表示したまま、パソコンの画面を見たり本も読める。ヘッドセットを装着した状態で、手元を肉眼で見られる視界も十分に広いので、家事などの作業で手を動かしながらYouTubeやニュースの動画を見ることも可能だ。
ヘッドセットと専用コントローラーはIPX2相当の生活防滴対応なので、水に濡れた場合もすぐに水滴を拭き取れば屋外で使うことも可能だ。

夜間であれば部屋の照明を少し暗くすると映像がより鮮やかに映える。1時間を超えるドラマや映画もストレスを感じることなく視聴できた。
外光の透過を抑えてディスプレイに映るコンテンツをより見やすくできる、着脱可能な濃い色のシェードも商品パッケージに付属している。音声は専用コントローラーに内蔵するスピーカーからも出力されるが、より没入感を高めるのであれば有線・無線のヘッドホン・イヤホンを専用コントローラーに接続して使いたい。


プライベートシアターからビジネスツールへ
モベリオの1号機が発売された2011年は、映画やドラマ、ゲームなどの映像コンテンツを仮想空間に広がる大画面で見るためのデバイスとして広く認知を得ていたように思う。今でも多くのユーザー、またはモベリオに関心を持つファンは「大画面で手軽に映像コンテンツが楽しめるプライベートシアター」としてモベリオに期待を寄せているそうだ。
一方でエプソンはモベリオで楽しめるアプリケーションやサービスのエコシステムを一緒に展開するパートナーの拡大にも力を注いできた。2021年3月時点で国内外のパートナーは170社を超え、モベリオで動作するアプリケーションは遠隔作業支援や体験型コンテンツ配信など多岐にわたる。聴覚障害者向けに映画の字幕をモベリオで表示したり、モベリオを装着しながら舞台の台詞の翻訳が見られるサービスなどがこれまでに提供されてきた。
エプソンではモベリオに対応するコンテンツを開発したり、アプリケーションからハードウェアの基本機能を制御するための開発キットも提供している。BT-40Sではモベリオ付属のコントローラーがAndroid OSに対応したので、Google Playストアを経由してさまざまなAR/MRデバイス向けのコンテンツが楽しめる。エコシステムにいっそうの広がりが生まれた。

ZoomやMicrosoft Teamsなどオンライン会議にも使える
新型コロナウィルス感染症の拡大を防ぐためにリモートワークを導入するビジネスマンが増えている。BT-40シリーズが発表されてから、エプソンには「モベリオをビデオカンファレンスなどのビジネスユースに使いたい」という問い合わせが多く寄せられているという。
BT-40Sの専用コントローラーはAndroid OSを搭載しているので、Zoom、Microsoft Teams、WebexにGoogle Meetなど主要なビデオカンファレンス用のモバイルアプリがインストールできる。筆者もSkypeで試してみたが、映像が明るく高精細なので、昼間の明るい部屋でも十分快適にビデオ通話ができた。
オンライン会議で利用する際に、ひとつ課題があるとすればユーザーもカメラをオンにして参加しなければならない場合の「コントローラー端末の置き方」だ。
端末にはフロントカメラがないため、会議の映像をモベリオで見ながら、専用コントローラーはカメラを載せた背面側をこちらに向けてスタンドなどに固定する必要がある。スマホとの接続互換が確保できればヘッドセット単体モデルのBT-40と、フロントカメラ付きのスマホを組み合わせる方がオンライン会議向きの環境になるだろう。

そしてもうひとつ課題を指摘するとすれば、視力の弱いユーザーのケアをもう少し手厚くしてもらいたい。モベリオのヘッドセット部分の装着感は良好だが、視力矯正機能が付いていない。筆者のように視力の弱いユーザーはコンタクトレンズを装着するか、またはメガネの上からモベリオのヘッドセットを掛ける必要がある。
筆者はコンタクトレンズが苦手なので、メガネの上にヘッドセットを着けてみた。思っていたよりも悪くないが、長い時間使い続けると疲れてくる。ビジネスシーンで、ビデオがオンの状態でオンライン会議に参加する場面を考えれば、自分のいでたちにも気は使いたい。矯正度数はある程度大雑把でもよいので、ヘッドセットのスクリーン部分の前に装着できる視力矯正アタッチメントのようなアクセサリーもオプションとしてあれば良いと思う。

ブレイクのカギを握るのは「パートナーとの協業拡大」
Android OSを搭載したことで、モベリオでAmazonプライム・ビデオやYouTubeの動画(本稿執筆時点でNetflixには非対応)を見ることができ、プライベートに楽しめる大画面スクリーンとしてモベリオの価値はまた一段と上がっていた。
国内でも5G通信インフラが拡大してきたことにより、これからAR/MRの技術を活かしたエンターテインメント、インフォテインメントの体験がさらに厚みを増して、モベリオをビジネスシーンでも便利に使いたいという声も多く集まるだろう。
エプソンにとっては、スタートアップも含む外部パートナーを巻き込んでエコシステムの拡大・強化を積極的に図るべき時が間違いなく訪れている。
エプソンでは最新世代のモベリオにも採用した光学エンジンのモジュールを外販するビジネスも昨年秋から進めている。医療や観光産業など異業種のパートナーとのオープンイノベーションにより弾みを付けて、日本のブランド発のスマートグラスがグローバルトレンドを引っ張ってほしいと思う。