ベルリンで開催された「Shift Automotive」。MaaSに関わる30名近いスピーカーが登壇した Photo by Yuko Nonoshitaベルリンで開催された「Shift Automotive」。MaaSに関わる30名近いスピーカーが登壇した Photo by Yuko Nonoshita
  • ベンツが採用、“単語3つ”で住所を表示するスタートアップ
  • 「公共交通×シェアリング」で都市生活を変革するベルリン
  • MaaSは“利便性”から“社会課題解決の手段”に

日本でも参入が増えているMaaSだが、欧米では一歩先を行く形で様々なサービスやビジネスがすでに始まっている。その方向はどこへ向かっているのか。ベルリンで開催されたモビリティをテーマにしたイベント「Shift Automotive」の発表から分析する。(ライター 野々下裕子)

 ICTを活用して“マイカー以外の移動”を1つのサービスとしてシームレスにつなぐ「MaaS(Mobility as a Service)」が日本でも話題になっている。欧米ではすでに数多くのMaaSが登場しており、環境やエネルギー問題を解決するスマートシティ構想とも連動をはじめ、市場規模は2050年に900兆円に達すると予測されている。

 9月にドイツ・ベルリンで開催された、未来のモビリティ(The Future of Mobility)をテーマにしたトークカンファレンス「Shift Automotive」(以下、Shift)では、MaaSに関わる企業やスタートアップ、研究組織、自治体といった幅広いジャンルから30人近いスピーカーが登壇し、最新サービスや技術、そして未来に向けたビジョンを数多く発表した。

 MaaSは私たちの社会にどのような変化をもたらすのか。数あるトークから注目すべき発表をピックアップし、今後のMaaSの方向性を探ってみる。

ベンツが採用、“単語3つ”で住所を表示するスタートアップ

 スペイン・バルセロナを拠点にするスタートアップ「IOMOB」は、オープンソースとブロックチェーンの融合によるMaaSのためのマーケットプレイスを開発している。様々な移動手段をインターネットでつなぐMaaSはいわば「IoT(Internet of Things)」ならぬ「IoM = Internet of Mobility」であり、創業者のBoyd Cohen氏は「早さや安さだけでなく快適さや確実さといったニーズに応じた適切な方法が提案できる、コンシェルジュのようなシステムを目指す」と言い、10月からベータテストに取り組んでいる。

 イギリス・ロンドンのスタートアップ「what3words」は、GPSのような地理座標の表示を3つの単語で3メートルの精度で表示できるシステムを開発している。駐車場のどこにクルマを停めたか自然言語を使って正確に表示でき、各国語に対応している。音声認識も容易で、メルセデスベンツのナビに採用されたことで話題になった。

3つの単語で世界中の住所を示す「what3words」(サイトのスクリーンショット)3つの単語で世界中の住所を示す「what3words」(サイトのスクリーンショット)
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「公共交通×シェアリング」で都市生活を変革するベルリン

 ベルリン市交通局(BVG)は、運営する公共交通とその競合ともいえる様々なシェアリングサービスを1つのアプリで一括利用できる「Jelbi」サービスを始めた。一度の登録でバスや鉄道といった公共交通と、電動キックボードなどのシェアリングサービスについてまとめて支払いができる便利さに加え、リアルタイムの交通状況や天候にあわせて最適な移動方法を検索できる機能を提供し、都市全体の付加価値を高めることを狙いにしている。

 さらにそのベルリンでは、過密化する都市から郊外へ生活環境を拡げるスマートシティ・プロジェクト「Future Living Berlin」を進めており、そこではMaaSの運用が市民サービスの中でも大きく位置付けられている。運営はベルリン政府の組織「Berlin Partner」が中心だが、不動産や建築、エネルギー、エレクトロニクス分野から複数の企業がパートナーとして参加しており、2020年1月から入居が始まる予定だ。

 モビリティのパートを担当するのはDaimlerで、コンパクトカー「SMART」のオーナーが利用するシェアリングサービス「 "ready to"」を活用する。サービスを開発したSmart Labでは、スマートシティではMaaSをどう活用すればより快適にできるかを、住民と共に検証している。

ベルリン市のスマートシティ・プロジェクト「Smart Lab」は、住民とともにMaaSの活用事例を検証している Photo by Y.N.
ベルリン市のスマートシティ・プロジェクト「Smart Lab」は、住民とともにMaaSの活用事例を検証している Photo by Y.N.
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 他にも、ベルリンで企業向けに移動シャトルや駐車場サービスを提供している「Wunder Mobility」や、自動運転のシャトルバスを開発するフランスの「EasyMile」、その自動運転シャトルの運用システムを開発する「2getthere」からスピーカーが登壇し、いずれも世界規模で需要が増えていることを紹介。MaaS市場が確実に成長していることを印象づけた。

MaaSは“利便性”から“社会課題解決の手段”に

 進化するMaaSを都市生活に生かす研究も行われている。欧州フォード傘下のFord Mobilityは、ロンドンで各種センサーとネットワークを搭載した160台以上のスマートカーから5億件を越えるデータを収集、分析したレポートを作成しており、渋滞の解消や安全対策などに活用している。MaaSによって収集できる情報はさらに増え、自治体にデータを提供することで都市開発に生かせるとしている。

 今後、MaaSの活用を前提とした都市計画の必要性については、複数のスピーカーが提言しており、駐車場や車道を減らして公園などの公共スペースを豊かにする計画を進めるNPO活動があることも紹介された。自動運転シャトルを店舗やオフィスに利用したり、自動運転のトレーラーハウスを開発して移動しながらどこでも自由に住めるようにしたりするというユニークな提案もあった。

 こうして見ると欧州のMaaSは、利便性もさることながらそれ以上に、都市の人口集中や気候変動、エネルギー問題の解消といった社会課題解決の観点から積極的な取り組みを進めていることが伺える。移動だけに焦点をあてがちな日本のMaaSに比べると一歩先の未来を見ている欧米の動きは、ぜひとも参考にしていきたいところだ。