
宇宙人の画像が8億円以上もの価格で落札された──ネット上で誰でも見られる画像や投稿が「NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)と呼ばれるデジタルアイテムとして、高額な値段で取引をされているというニュースが相次いでいる。一体何が起きているのかと疑問に思った方も多いのではないだろうか。
そもそもNFTという言葉自体、最近になって初めて聞いたという方も多いだろう。だが実は、暗号資産業界を中心にここ1〜2年でジワジワと注目を集める存在だった。NBAプレイヤーの名シーンがデジタルカードとしてNFTで販売されたり、英老舗オークションハウスのChristie's(クリスティーズ)でNFTを用いて制作されたデジタルアートが競売にかけられたりと、誰もが知っているような企業や団体が相次いでマーケットに参画したことで一気にマス化しつつある。
この記事では、今注目のNFTとは何かという基礎知識からこれまでの歴史、そして今後の可能性について解説する。
“世界に1つだけ”を生み出すトークン「NFT」
前述のとおり、NFTとはNon-Fungible Tokenの略称であり、ブロックチェーンテクノロジーを活用して、唯一無二の「一点もの」を生み出せるトークンだ。ブロックチェーン技術を活用する事でコピーできないデジタルデータを作成することができ、データの所有者は自由に二次流通を行うことができる特徴がある。
NFTは一体どのように生まれたのか。それは2016年頃にさかのぼる。Bitcoin(ビットコイン)ブロックチェーン上にメタデータを付与することで、それぞれのビットコインに一意性(ユニーク性)を持たせる実験が行われたのだ。これは一意性を持たせることで、ビットコインのブロックチェーン上に実世界の資産を表現・管理することができるのではないかという試みで、今振り返って考えてみるとNFTのような存在だったのかもしれない。しかしながら、この試みはうまくいかず、続かなかった。
Ethereum(イーサリアム)ブロックチェーンにおける初めての実験は、2017年に登場した 「CryptoPunks」だ。CryptoPunksは、1万個のユニークな24×24ピクセルの画像であり、ブロックチェーン上に所有情報が記載されている。 このピクセル画像は、発売元からイーサリアムで売り出されるとともに、マーケットプレイスも提供された。
これによって、ピクセル画像をコレクションする人と、それを売買する人の市場が形成された。また、自社のマーケットプレイス以外のNFTマーケットプレイスでも売買できることから流動性が生まれ、同時に1万個という供給制限が希少性と話題性とブランド力を生み出した結果、3月10日には、この1つのピクセル画像に4200ETH(約8億1400万円)の値がつくまでになった。アンティークコインやビンテージワインのように市場の原理で価格が上昇したと言える。

NFTをメジャーにしたのは育成ゲームの「Cryptokitties(クリプトキティーズ)」だ。2017年後半にETHハッカソンで発売されました。Cryptokittiesは、ユーザーが「デジタル猫」を育成・繁殖させて、さまざまな希少性の高い新しいキャラクターを生み出すことができるゲームだ。
特徴的な点は、繁殖を決める遺伝アルゴリズムをスマートコントラクト(プログラムにより自動で行われるブロックチェーン上の取引)で実装した点にある。これにより、生まれる猫にランダム性が生まれ、ユーザー購買意欲をかき立てた。また、Cryptokittiesを提供するDapper Labs(ダッパーラボ)は、オランダのオークション会社と契約をした。デジタル猫一番初めのデジタル猫は「ジェネレーション0」と呼ばれ、競売にかけられ、NFTゲームキャラクターのアートとしての地位確立に貢献した。
2017年末にはCryptokittiesに、ETH/ICOバブルで潤ったマネーが流れ込んだ。大量のユーザーが大量の売買を行ったためETHトランザクション処理能力が追いつかなくなり、かつ、イーサリアム売買に必要なGas代(取引手数料)も急騰した。これにより暗号資産マーケットにおいてもETH送金が遅くなり、Gas代も高くなり、マーケットの混乱が起こったのだ(この経験が、後に、イーサリアムの代替手段である暗号資産EOS(イオス)、BSC(バイナンススマートチェーン)などを開発する契機になった)。

2019年ごろには、一部の先進的なアーティストやアート産業がNFTの可能性に気付き始めた。アートの価値は、アートを所有している「所有権」を持っていること。NFTの最大の特性の1つはデジタル所有権だ。そこでNFTデジタルアートの実験を始める人たちが出始めた。また、SuperRareやNiftyGatewayなどキュレーターがキュレーションしたNFTが出品されるマーケットプレイスが生まれてきた。
日本でも急速に広まるNFT、今後の可能性は
ここ数年、日本では「MyCryptoHeroes(マイクリプトヒーローズ)」や「Cryptospelles(クリプトスペルズ)」を筆頭に、ゲーム内のキャラクターやアイテムがNFTで作られた、イーサリアムベースのゲームが普及しつつある。海外のNFTへの熱狂が徐々に日本に伝わるうちに、さまざななゲーム、アート、音楽、スポーツなどの分野に携わる企業や団体が動き出している。その動機は、決して話題性に乗じているわけではない。彼らは、ブロックチェーンによる「価値の交換」の意味に気付き始めたと言っても過言ではない。
以前、ビットコインの価格急上昇は“バブル再来”ではない、変わる仮想通貨への熱視線という記事で、ブロックチェーンは「価値交換のプロトコル」となる可能性があるという話をしたが、まさにこれを体現しているのがNFTであると言える。たとえば現状、アーティストが作品を販売した場合、彼らは初回の販売時にしか収益を得ることができない。だがNFTを使って作品を販売すれば、ブロックチェーンの仕組みを活用して二次流通以降も収益として得られるような仕組みにできる。つまり、今まで不可能であった、価値交換エコシステムを創造する可能性を秘めているのだ。
米有力ベンチャーキャピタルであるアンドリーセン・ホロウィッツのChris Dixon氏は、この可能性について「WIRED」US版の創刊編集長であるKevin Kelly氏が2008年に書いた「インターネットでは”1000人の真のファン”が創造的活動の経済を変える」というエッセイを引用しながら、「インターネットはファンとクリエイターをつなげる役割に留まってしまったが、NFTの登場によって『“1000人の真のファン”が創造的活動の経済を変える』という世界が再び実現に向けて動き出した」というような発言をしている。
NFTの歴史は始まったばかりでまだまだその活用方法は実験段階であり、「これに何の価値があるのか」と疑問に思う方も多いだろう。今はNFTという新たなテクノロジーを実験的に使ってみるという段階であり、実験を繰り返し、本当の使い方を見つけて行くことになるのではないかと考えている。個人的には、「インターネットではできないけど、ブロックチェーンだからできるもの」「インターネットでもできるけど、ブロックチェーンの方が得意なもの(メリットがあるもの)」に、今後のNFTの可能性を左右するヒントがあると考えている。
コインチェックでもNFTにはいち早く注目し、2020年8月より実際にサービスの開発を始め、3月24日に「Coincheck NFT」という暗号資産取引サービスと一体になった日本初のNFTマーケットプレイスをリリースした。また、2020年2月には「miime(ミーム)」というNFTマーケットプレイスを運営するコインチェックテクノロジーズ(旧:メタップスアルファ)が我々の傘下に入った。マンガ、アニメ、キャラクター、ゲームなど日本には世界に誇るさまざまななコンテンツがある。この2つのマーケットプレイスで、NFTによってそれらを発信することで、日本のポップカルチャーを世界に伝え、日本からNFT市場を盛り上げていけるのではないかと考えている。