
- Web3.0とは一体何か?
- Web3.0領域で発生している「4つのトレンド」
- Web2.0とWeb3.0の違い
- トークン発行がもたらす新たな可能性
今やテック業界を越えて、さまざまな業界で注目を集めてるブロックチェーン技術──この技術をもとにした、新しいインターネットの世界を指す言葉として、ここ数年で世界各国でささやかれ始めているキーワードが「Web 3.0」だ。
すでにブロックチェーンのネットワーク上に構築される金融エコシステム「DeFi」や、ブロックチェーンテクノロジーを活用して、唯一無二の「一点もの」を生み出せるトークン「NFT」が大きな盛り上がりを見せている。デジタルアーティストのビープル(Beeple)のNFTアート作品「The First 5000 Days」が、世界有数のアートオークションハウスであるクリスティーズに約75億円で落札されたニュースは記憶に新しい。
そんなWeb 3.0に投資家も大きな関心を寄せている。米国の著名VCである「Andreessen Horowitz(a16z)」は2018年6月に、3億ドル(約330億円)規模のブロックチェーン特化ファンド「a16z Crypto」を設立。すでに27社への投資を実行している。また、仮想通貨の有名投資家であるマイケル・ノヴォグラッツ氏は2019年5月に開催されたイベントで「世界を変えるのはビットコインではなく、Web 3.0」と発言している。
2005年9月に米国の技術出版社の代表であるティム・オライリーが『What Is Web 2.0』という論文を発表したことを機に誕生した「Web 2.0」というキーワード。それをアップデートするWeb 3.0とは一体どのようなものなのか。そしてどのような可能性を秘めているのか。
日本にWeb3.0のエコシステムをつくるべく、2021年1月から活動しているFracton Ventures(フラクトン ベンチャーズ)の鈴木雄大氏、亀井聡彦氏、赤澤直樹氏の3人にWeb3.0の概要について話を聞いた。

Web3.0とは一体何か?
──Web3.0とは具体的にどういったものでしょうか。
鈴木:Web2.0は利便性と引き換えに、プライバシー問題やサービス停止のリスクなど新たな課題を浮き彫りにしました。各事業者はさまざまな努力をしているものの、ハッキングによる情報流出など先行きは不透明であることは否めず、今なおこうした課題の対応に多額のコストをかけている事実があります。
インターネットの歴史を振り返ってみれば分かる通り、もともとインターネットはデータを管理するようにはデザインされておらず、あくまでやりとりを前提としていたものでした。データの管理はそこに接続しているコンピュータに依存しており、インターネットそのものでは管理ができないことが元凶だったと言えます。

ここでのデータの管理とは具体的には「状態」の管理であり、それには検証できることが不可欠です。誰が何をどれくらい持っているのか、このような情報は提示されたり、保存されたりしている情報が本当に正しいかを突き合わせて検証する必要があります。
サトシ・ナカモト(Satoshi Nakamoto)氏が2008年11月にビットコイン(BTC)についてのホワイトペーパー(技術論文)をネット上に発表したことに始まる、ブロックチェーンや分散型台帳の開発の流れは、データ検証ができるプロトコルをインターネットにインストールしようとする試みと言うこともできます。
つまり、Web3.0を端的にいうならば、「検証可能なインターネットと、それによって実現するコラボレーションの活性化」と言えます。企業などの特定のプレーヤーが必要以上のデータを持たなくても、誰でもデータを検証できるということは、誰かの管理によらない、よりパブリックなデータの利活用の道を拓きます。
これは、オープンな金融システムや分散型のコミュニティ運営、知的財産権の転々流通などを可能にします。
Web3.0領域で発生している「4つのトレンド」

赤澤:それを踏まえた上で、現在Web3.0領域では4つの大きなトレンドが生まれています。それが「DeFi(分散型金融)」「NFT(非代替性トークン)」「SocialToken(ソーシャルトークン)」「Metaverse(メタバース)」です。
・DeFi(分散型金融)
DeFiは取引所、レンディングなどの金融サービスを特定の企業の管理に基づかず、パブリックな形で提供するシステムです。ブロックチェーンのスマートコントラクトによってさまざまな金融機能が自動化されています。
・NFT(非代替性トークン)
NFTは特定の価値を持つトークンのことで、デジタルアートやゲームのキャラクターなどさまざまなものに応用されています。最近では、数十億円単位で価格がつくNFTが生まれたり、多くの知財(IP)ホルダーが参入したりし始めています。日本国内でも徐々に事例が増え始めています。
・SocialToken(ソーシャルトークン)
SocialTokenは特定の個人やグループなどに紐づいているトークンのことです。個人であればパーソナルトークン、コミュニティであればコミュニティトークンと言われることが多いです。特定のサービスへのアクセスをトークンを使ってコントロールするなど、特定の個人やグループと交流することへ重点を置いています。
・Metaverse(メタバース)
Metaverseは、デジタル空間で作られた仮想空間のことです。ブロックチェーンを利用することで、デジタル空間上の土地やアイテム、アバターなどさまざまなアセットを取得したり売買することができるようになったことで、さらなる広がりが生まれています。
Web2.0とWeb3.0の違い
──Web2.0と比較して、Web3.0はどういった点でパラダイムシフトを起こしているのでしょうか。
亀井:Web3.0は、「Verifiablity(検証可能性)」のあるプロトコルをインターネット上で実現できることでさまざまな可能性を拓きます。
まず、データをインターネット上で検証できるようになるため、個別の企業をはじめとする組織によって必要以上にデータを保持しなくてもよくなります。これにより、データの断片化が起こらなくなり、シームレスにサービスを活用できます。
少し強引なたとえをするなら、楽天市場とAmazonは今のところ全く別のサービスであり、楽天ポイントをAmazonで使うことは不可能ですが、Web3.0の世界観ではこのようなサービスにまたがる断片化が極めて少なくなると期待できます。このような文脈はよく「自己主権型Web」という言葉で説明されます。

鈴木:また、インセンティブによって人々のコラボレーションが活性化することも期待できます。ブロックチェーン技術の登場によって、資産性のあるデータ(トークン)を作成することができるようになりました。このトークンは個人や企業が硬貨の代わりに発行できる代用貨幣のことで、個人や企業が独自に価値付けを行うことができます。
トークンはいち早く貢献した人、貢献量が多い人に発行される仕組みとなっているため、インセンティブとして機能し、人々の行動に影響を与えることができます。トークンの設計も個人や企業がコントロールできるため、例えば企業が社会のサスティナビリティを支える動きに対してトークンを発行すれば、人々の利己的な動きを世の中を良くすることに繋げることもできる。デジタル技術によってより気軽に最適なルールをデザインし実装することができるため、多くの企業やコミュニティ、ひいては社会に至るまで大きなインパクトを及ぼすと考えられます。
課題の解決をするためにサービスがあり、そのプロバイダーとして法人があるといった構造だったはずの従来型の株式会社が、資本主義の競争に巻き込まれ、売上第一主義になってしまっている現状をみると、すべてのプロジェクトが必ずしもWeb2.0的な従来型の株式会社で対応するのが望ましいわけではないと感じています。
今後はよりWeb3.0ネイティブな組織が立ち上がり、よりサスティナブルな形で社会課題を解決していくことになると信じています。
トークン発行がもたらす新たな可能性
──先ほどから何度も出てきている、プロトコルやトークン発行がもたらす可能性とは何でしょうか。
赤澤:よく練られたインセンティブ構造を持ったトークンを発行できるようになることで、人々のコラボレーションを今まで以上に促せるようになりました。互いによく知らない人同士であっても、個々人がそれぞれの利益を大きくすることが、全体としての利益につながるような構造をプログラマブル(ソフトウェア、システムなどの動作を利用者が必要に応じて変更したり自動化したりできること)に作ることができます。

特定のサービスの開発を例にするならば、そのサービスの開発に貢献した人やサービスの維持運用に協力した人に報酬が支払われる、という仕組みが考えられます。このとき、開発者や運用者は報酬をもらうことで自分の利益を高めることができ、結果として彼らの行動はサービスの持続的な発展に繋がります。
このような仕組みは、サトシ・ナカモト氏によって発表されたBitcoinのホワイトペーパーで初めて具体的に提案されました。
そして、これはサービス(ソフトウェア)開発のあり方を変えることができます。これまで企業内でよく統制された環境下でサービスを開発していた状況から、オープンに開発を展開していくことができます。多くの分散型金融のプロトコルはオープンに開発が進められていることが多いです。
また、より汎用的な利用も可能で、ストレージのシェアリングやデータの安全なマーケット、ソーシャルメディアなど、個の利益を全体の利益と結びつけることで持続可能なエコシステムをドライブさせようとする取り組みは各方面で進んでいます。
──最後にFracton Venturesは今後何をするのか教えてください。
亀井:Web3.0と一言に言っても、その中にもさまざまなトレンドがあります。最近だとNFTがブームになっていますが、それ以外にも分散型IDや分散型クラウドと言ったような大きな可能性を秘めている仕組みがたくさんあります。
このようなWeb3.0を構成するような事例を各方面の方々と協力しながら作っていき、普及を促進していきたいと思っています。
ただ、いきなりWeb3.0と言い出してもまだ伝わらないフェーズにあります。我々が見ているWeb3.0の未来について啓蒙をする必要だと考えているので、自社でWeb3.0 Magazineというメディアを運営しています。また、自社でNFTバッジを配ってWeb3のマーケティングの実証実験を行いました。
直近ではこうしたWeb3.0の仕組みを用いてよりサステナブルなアーティスト・レーベル・マネジメントの支援を行いたいと思い、音楽分野へのNFT活用を含めた新しいファンコミュニケーションのあり方について音楽分野の企業と事業を行っています。
そして最終的には、Web3.0における組織形態の一つで、組織マネジメントの究極体である「DAO(分散自律組織)」を支援するエコシステムそのものを日本においてトップティアで構築するチームになりたいと考えています。