Luup代表取締役の岡井大輝氏
Luup代表取締役の岡井大輝氏
  • 東京都の6区でスタート
  • ヘルメットの着用は任意に
  • 新型の電動キックボードを導入
  • 懸念は違法な状態で公道を走行する電動キックボード
  • 2023年を目処に日本全国展開を目指す

「『感慨深い』という気持ちを隠しきることはできないのですが、今はまだ電動キックボードが世の中に認められるかどうかを検証するためのスタート地点に辿り着いた段階だと思っています」

電動キックボード事業を手がけるスタートアップ・Luup代表取締役の岡井大輝氏は謙遜しながらも自信のあふれる様子でこう切り出した。2018年に訪れた米サンフランシスコで電動キックボードに衝撃を受けてから約3年──ついにそのシェアリングサービスを日本で展開できる運びとなったからだ。

Luupは2018年7月の創業以来、電動キックボードのシェアリングサービスの展開を目指し、自治体や警察との実証実験を重ねてきた。米国を皮切りに海外では先行して人気を博しているサービスだが、日本では規制がネックとなり後れを取った。

そして4月下旬より、念願のシェアリングサービスをいよいよ開始する。政府による最終的な認可を待って、東京都内に設置済みのポートに電動キックボードを設置するのだ。

DIAMOND SIGNALでは国内外の電動キックボード事業者が名を連ねる業界団体・マイクロモビリティ推進協議会の会長も務める岡井氏に、サービス開始の詳細や、電動キックボードを皮切りに展開していく短距離移動に特化した電動モビリティインフラの未来について話を聞いた。

東京都の6区でスタート

Luupは2020年5月よりシェアサイクルサービスの「LUUP」を展開している。ユーザーは専用アプリをダウンロードし、ポートに設置されている自転車のQRコードを読み込むことでロックを解除し、利用する。利用料金は初乗りで100円。10分以上の利用は1分ごとに15円が加算される。

4月下旬からはこのLUUPアプリで電動キックボードの利用も可能となる。利用方法や料金はシェアサイクルと変わらない。ただし条件として、アプリへの免許証の登録が必要となるほか、事前にLuupが実施する適正テストに合格している必要がある。

Luupは現在、東京都の渋谷区、新宿区、品川区、世田谷区、港区、目黒区に合計約300カ所のポートを設置しているが、4月下旬からはそのうちの約200カ所のポートで電動キックボードのシェアリングが可能となる。開始当初は約100台の機体を用意するが、台数を増やしていく予定だ。

ポートに設置された電動キックボードのイメージ
ポートに設置された電動キックボードのイメージ

LUUPは4月より大阪府・大阪市でもシェアサイクルのサービスを展開しているが、東京での展開を踏まえて大阪市内のポートにも機体を設置していく予定だ。

なお、4月下旬からはマイクロモビリティ推進協議会の加盟社であるmobby ride、EXx、長谷川工業もシェアリングサービスを開始する。一方で、同じく協議会加盟企業であり、米国をはじめとした海外で先行してサービスを展開するLimeとBirdは現時点で日本でのサービスを開始していない。

ヘルメットの着用は任意に

Luupをはじめとしたマイクロモビリティ推進協議会の加盟企業たちは日本の交通状況に適した電動キックボードシェアリングのあり方を模索し、政府の「規制のサンドボックス制度」や「新事業特例制度」などを利用して規制緩和に向けた働きかけをしてきた。電動キックボードは現行法上、「原動機付自転車(原付)」として扱われるため、公道で走行するにはウィンカーなど国土交通省が定める保安部品を取り付け、原動機付自転車登録をし、免許証を携帯する必要があるからだ。

2020年10月に開始した国内初となる公道での実証実験では、原付としての条件を満たした機体を用意した上で、車道に加えて普通自転車専用通行帯(自転車レーン)の走行を可能にした。その際に機体はシェアリング用のポートには設置せず、限られた参加者のみにレンタル形式で提供していた。

4月下旬からは街中のポートに機体を展開してのサービス開始となるが、規制緩和に向けた政府との検証が続くことで、立て付けとしては今回も実証実験扱いとなる。今後の実証実験では、自転車道での走行やヘルメットの着用の任意化など新たな条件下での安全性の検証やサービスニーズの確認を行うと岡井氏は説明する。

なお、今回のシェアリングサービス開始にともない、道路交通法上、LUUPの電動キックボードは原付ではなく、フォークリフトやターレットトラック同様の「小型特殊自動車」という区分となる。ヘルメットの着用が任意となるほか、普通自転車専用通行帯に加えて自転車道、そして一方通行だが自転車が走行可とされている車道も走行可能となる。原付免許だけでは運転できず、普通自動車免許など小型特殊自動車が運転できる免許が必要だ。

また、前回の実証実験での最大時速は20キロメートルとしていたが、今回は15キロメートルとなった。道路運送車両法上は原付のままの扱いとなり、ナンバープレートやミラーといったパーツの装着は引き続き義務付けられている。

新型の電動キックボードを導入

今回設置される約100台の機体は、これまでの実証実験で使われてきた機体とは異なる新型だ。岡井氏は詳細こそ明かさなかったが、企画は自社で行い、メーカーでOEM製造しているとした。

筆者は旧型の機体にも試乗した経験があるが、それと比較して新型は全体的に一回り大きく、重量も増加した。その結果安定性が増しており、多少の悪路でも問題なく走行できると感じた。ホイールは直径で10インチと旧型よりも2インチ大きく、サスペンションの性能を向上させたため段差による衝撃が大幅に緩和されるという。またボード部が広くなったことでより安定した走行が可能となったほか、モーターの性能の向上により坂道でも問題なく最高速度を出せるようになったとLuupは説明する。

新型のホイールは直径10インチで旧型と比較して2インチ大きい
新型のホイールは直径10インチで旧型と比較して2インチ大きい

電動キックボードの乗り方は簡単だ。片足を機体に乗せた状態でもう片方の足で地面を蹴って初速をつけ、両足をボードに乗せ、右手でハンドルに付いたアクセルレバーを押し下げると加速する。あくまで人力で漕ぐため細かい制御ができない電動アシスト付き自転車と比較して、電動キックボードは「電動で走行を制御することで、サービスの安全性を高めることができる」と岡井氏は説明する。つまり、走行データをもとに特定エリアの走行時や危険運転を繰り返すユーザーの機体をLuup側で制御することが可能ということだ。

新型はサイズが大きく重量も増加したため安定性が増している
新型はサイズが大きく重量も増加したため安定性が増している

「電動キックボードの場合、危ないエリアでは速度を落としたり、危険な走行をしたユーザーはペナルティで最高速度が制限されるといった制御が可能です。急発進・急停車が多いユーザーに対して注意を行うこともできます。傾きなどのデータをもとに飲酒運転を検知するなど、今後は制御の幅も広がっていくと思います」(岡井氏)

またLuupでは、小型特殊自動車という区分について正しい知識をつけてから利用してほしいと注意喚起している。例えば原付であれば右折は二段階右折になるが、小型特殊は二段階右折禁止だ。当然ながら歩道での走行もできない。そのためLuupでは走行量の多い道路などを右折する場合には、交差点で電動キックボードを一度降り、 横断歩道を押し歩いて渡ることを推奨していく。

懸念は違法な状態で公道を走行する電動キックボード

電動キックボードのシェアリングサービスを開始する上で岡井氏が懸念しているのが、違法な状態で公道を走行する機体の存在だ。

繰り返しとなるが、機体が公道を走行するには原付としての条件を満たしている必要がある。だが家電量販店やクラウドファンディングサイトでは、私有地での利用を想定し、条件を満たすためのパーツが取り付けられていない機体が販売されているのだ。筆者も違法な状態で走行している機体を都内で目撃したことがある。

「道交法上の保安基準を満たすためのパーツを取り付けた」と適法をうたい販売しているものの、実際には基準を満たせていない機体も存在すると岡井氏は言う。現に「Kintone αGo」という機体を販売していた企業・Kintoneは3月、国土交通省から「ブレーキが原動機付自転車の保安基準を満たしていない」と指摘を受けたとして商品の自主回収を発表した。

「事故が起こると、安全基準を満たしている事業者もそうでない事業者も、市民からは非難の目で見られるようになります。そのため、Luupとしてもマイクロモビリティ推進協議会としても、関係省庁と連携した上で充分な注意喚起をしていきたいと思っています」(岡井氏)

なお、今回の実証実験ではヘルメットの任意化などが認められたが、これはマイクロモビリティ推進協議会の加盟社を含む一部の事業者が提供するサービスなどに限定した特例措置だ。4月14日時点では特例措置に関する報道を誤認して、「ヘルメットを着用しなくても電動キックボードに乗れるようになった」と解釈するユーザーがSNS上で多く見られた。そのため、啓蒙の必要性を痛感していると岡井氏は言う。

2023年を目処に日本全国展開を目指す

ようやく電動キックボードのシェアリングサービスを開始する運びとなったLuupだが、岡井氏の視線はすでに数年先を見ている。Luupは2023年までにサービスを全国展開し、若者から高齢者までもが乗れる新型の機体を提供することを目指している。

またすでに小田急電鉄や東急電鉄などの鉄道会社との連携を進め、大東建託グループや大林組といった不動産会社との業務提携を締結しているが、今後は協業をさらに加速させ、「新しいまちづくりを可能にするインフラ」としての役割を果たしていきたいと岡井氏は言う。

「Luupでは『モビリティのインフラ』というよりかは『新しいまちづくりを可能にするインフラ』を作っていきたいと思っています。現状のバスや電車は便利ですが、そこに我々のような短距離移動に特化したインフラが加わることで、バスと電車の距離がより近づき、本来は起きなかった路線から路線への移動が可能となります。また、駅から離れたカーシェアリングの駐車場がより使われるようにもなります。移動手段と移動手段を結びつけることが役割だと考えます」

岡井氏はさらに、LUUPが駅から離れた不動産の価値を向上させることもできると自信を見せる。

「LUUPを導入することで駅から離れた賃貸や商業施設の利用増加が見込めます。また、(今後の)日本では高齢者向けに移動手段を提供していかなければなりません。例えば高齢者が友人の家に遊びにいく際に、自宅からバス停、バス停から友人宅を移動できるような機体を開発し、2023年には提供を開始したいと思っています」(岡井氏)

Luup代表取締役の岡井大輝氏
ポートに設置された電動キックボードのイメージ
新型のホイールは直径10インチで旧型と比較して2インチ大きい
新型はサイズが大きく重量も増加したため安定性が増している