(中央)ファンズ代表取締役の藤田雄一郎氏 (右)ファンズ共同創業者・取締役の柴田陽氏 すべての画像提供:ファンズ
左からファンズ取締役の笹嶋靖史氏、ファンズ共同創業者・代表取締役の藤田雄一郎氏、ファンズ共同創業者・取締役の柴田陽氏 すべての画像提供:ファンズ
  • 約8割のファンドが3時間以内で満額に
  • 利便性や利回りを武器に投資初心者をターゲットに
  • 単なる資金の調達ではなく、ファンづくりにも寄与
  • 健全なプラットフォーム作りに向け「やせがまん」してきた
  • 2023年までに累計募集総額1000億円の達成を目指す

コロナ禍で個人投資家の数が増加している──2020年にはネット証券大手のSBIホールディングスがこの1年間で新規口座開設数が20%増加したことを発表。外出自粛やリモートワークに伴う在宅時間の増加に加えて、生活防衛の意識が高まったことが個人投資家の増加につながっている。

その一方、企業も資金調達チャネルの多様化を図るべく、金融機関からの借入など既存の枠組みに捉われない資金調達手法を模索する状況が生まれている。そんなマーケットの追い風を受けて成長を続けているのが貸付ファンドのオンラインマーケット「Funds(ファンズ)」だ。

Fundsを展開するファンズは2021年4月27日、既存株主のグローバル・ブレイン、B Dash Ventures、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、三菱UFJキャピタル、みずほキャピタル、AGキャピタルに加えて、新規引受先としてANRI、日本郵政キャピタル、メルペイなどを引受先とした約20億円の資金調達を実施したことを発表した。今回の調達によって、同社の累計調達額は32億円となった。

「未来の不安に、まだない答えを。」というミッションを掲げて事業を展開するファンズ。同社の代表取締役を務める藤田雄一郎氏にこれまでの道のりと今後の展望を聞いた。

約8割のファンドが3時間以内で満額に

Fundsは端的に言えば、資産を運用したい個人投資家と資金を調達したい企業をマッチングするためのプラットフォームだ。いわゆるソーシャルレンディングや貸付型クラウドファンディングなどにくくられるサービスだが、個人投資家と企業を単なる投資・貸し付けだけにとどまらない関係で結びつける特徴を盛り込んでいる。

貸付ファンドのオンラインマーケット「Funds」の仕組み
貸付ファンドのオンラインマーケット「Funds」の仕組み

公開されている貸付ファンドのほとんどは上場企業で、それぞれ企業名や調達の意図などを説明した上で、株主優待のような「特典」を用意している。投資家は公開されたファンドに対して1円から貸付投資が可能であり、指定の運用期間を終えると利息を得ることができる。

企業の借入手段として、これまで代表的だった社債や銀行借入と異なり、Fundsは少額から機動的なファイナンスができるのが大きな特徴。信用格付の取得や担保の設定が不要であることに加えて、投資家へのアナウンスメント効果についても期待することができる。

「Fundsで資金調達を実施したいと考える企業の数は年々増えており、リリースから2年で累計のファンド数は73件になっています。また、全体の95%が満額で成立しており、そのうち約8割が3時間以内で成立している。これらはFundsの取扱商品が投資家の人たちにも魅力的に感じていただいていることを示すデータになっていると思っています」(藤田氏)

Fundsは、他のプラットフォームでは見られない多種多様なファンドを組成している点も特徴として挙げられる。実際にファンドを組成している企業としては、メルカリやフリークアウト・ホールディングスといった上場企業が名を連ねている。

前述のとおり組成されたファンドは一定の利回りが設定されている(多くは2〜3%程度)ことに加え、特典を付帯していることも少なくない。これまでに大阪王将にて餃子を割引価格で食べられる「大阪王将ファンド」(イートアンドホールディングス)や温浴施設を割引で利用できる「極楽湯RAKU SPAファンド」(極楽湯ホールディングス)など、バラエティに富んだ特典つきのファンドも提供された。

利便性や利回りを武器に投資初心者をターゲットに

コロナ禍で個人の投資に対する意識や意欲は高まってきているが、藤田氏によれば、資産運用の一環としてFundsを利用する場合、ユーザーは「利便性」「利回りが決まっている」「経験の有無は関係ない」という3つのメリットを享受できる。

「まず、Fundsにはスマホで手軽に投資ができるという利便性があります。また、扱う金融商品はあらかじめ利回りが決まっており、それ以上にもそれ以下にも値動きすることはありません。これは値動きの激しい金融商品を追いかける時間がなかなか取れない子育て中の方々や多忙なビジネスパーソンの方々にとっては、マインドシェアが取られずに済むことを意味します」

「それに加えて、株式投資は企業分析やテクニカル分析をはじめとする“経験”がものをいう世界であり、投資初心者の場合、下手をすると大損を被るリスクがあります。一方、Fundsであればあらかじめ利率は決められていますから、初心者と経験者の間でパフォーマンスに差が出ることはほぼありません」(藤田氏)

単なる資金の調達ではなく、ファンづくりにも寄与

先に述べたように、Fundsに掲載されているファンドには、リターンとして利回りに加えて優待などの特典が用意されているケースも少なくない。その意図について、藤田氏はこう語る。

「Fundsを通じて資金調達を行うことによって、これまでの資金調達手段にはない『ファンづくり』、ひいては商品やサービスに興味を持ってくれる潜在ユーザーの発掘を行うことができます。企業からすれば、低金利で借入可能な銀行融資や社債と比較すると、Fundsの利回りは高い場合もあるかもしれません。しかし、個人投資家からすれば、ファンドに付帯された特典を通じて企業のイベントに参加したり商品やサービスを直接体験する機会が増えることで、企業をより身近に感じることができます」

「ユーザーにとって魅力あるファンドにするためにも、Fundsへの掲載を検討いただいている企業に対しては、募集額の調整やページの構成の検討など単なるプラットフォームとしての存在を超えたあらゆるサポートを提供しています。その結果、少しずつですが、Fundsが新たな資金調達手段の1つとして認知されるようになってきたと感じています」(藤田)

実際、ファンズによれば投資家の84%が自身が投資したファンド公開企業に対して好感を持ち、応援する「ファン」になっているという。企業にとってFundsを利用することは単なる資金調達ではなく、マーケティングとしての側面も担っている。

健全なプラットフォーム作りに向け「やせがまん」してきた

Fundsは2016年11月の設立(当時の社名はクラウドポート)。共同創業者である藤田雄一郎氏・柴田陽氏の両名はいずれもIT業界出身のシリアルアントレプレナーで、創業まで金融業界の経験はなかった。

「はじめは本当に手探りでした。しかし、だからこそ既存の金融にブレイクスルーを起こせるのではないか、という想いがありました(藤田氏)」と振り返る。

2017年に貸付型クラウドファンディング比較サイト「クラウドポート」を公開すると、2019年1月には貸付ファンドのオンラインマーケット「Funds」をリリース。同年10月に貸付優待付きのファンドを公開すると、2020年8月には電通と提携。貸付投資でファンコミュニティを形成する、「FinCommunity Marketing」という構想を打ち出した。

また同年11月には、フリマアプリ「メルカリ」のスマホ決済サービス「メルペイ」を使用したファンド「メルカリ サステナビリティファンド#1」を公開。同ファンドは1億円の募集金額に対して申込受付開始から41秒で満額申込を達成した。

そんな順風満帆に見えるFundsにも、これまでに何度か危機が訪れていたという。特に正念場に立たされたエピソードについて、藤田氏は当時をこう振り返る。

「特に大変だったのは、Fundsの公開の直前。サービスの提供に必要となる第二種金融商品取引業の登録に1年半以上かかったのです。弁護士をインハウスで採用し、ガバナンスを強化していたにも関わらず、いつサービスを開始できるのかわからない状態でしたし、もし登録できなかった場合、キャッシュアウトになる可能性もありました」

このエピソードが示唆するように、金融関連のスタートアップを立ち上げることは他業種と比較して非常に高い参入障壁がある。中でも特に重要となるのがコンプライアンスだ。

2018年にはソーシャルレンディングサービスを展開するmaneoがファンドの取得勧誘において虚偽の表示をしたことで関東財務局から業務改善命令を受けたほか、約20億円の返済延滞を発表した。

また、最近では同業のSBIソーシャルレンディングが取り扱ったファンドで法令違反があった可能性があり150億円の特損を計上している。

「出資者からお金を集めたものの、不正利用等の法令違反のために撤退を余儀なくされる企業を過去にいくつも見てきました。出資を募るという行為にはそれ相応のリスクが伴うものです。Fundsも例外ではなく、プラットフォームとして大きくなればなるほど、抱えるリスクも大きくなります」

「そうしたリスクを踏まえて、チーム内にはインハウスを含む3名の弁護士、2名の会計士、元関東財務局所属のメンバーが参画しています。スタートアップという立場に甘えることなく、事業に対する自浄作用を働かせることが重要であると考えています」(藤田氏)

サービスローンチからこれまでに、ファンドの申し込みは数多くあったという藤田氏。だがファンドの数を絞り、経営状況の見える上場企業に限定してきた。売り上げよりも健全なプラットフォーム作りのための「やせがまん」をしてきた結果だという。

2023年までに累計募集総額1000億円の達成を目指す

業界の構造上発生するリスクをマネジメントつつ、新たな取り組みにも挑戦している。

「引き続き組成ファンドとしては上場企業を中心に据えつつ、ESG債などのグローバルトレンドの国内展開や自治体と提携した上で地方創生にも挑戦していくことを計画しています」(藤田氏)

これらの意欲的な取り組みの1つとしてメディアを賑わせたのが、メルカリの決済サービス・メルペイにおけるFundsの利用開始だ。

「メルカリファンドの1名あたりの平均応募額は50万円であり、これは他ファンドの平均応募額の2倍にものぼります。“Enbedded Finance(編集部注:非金融系の事業者が既存サービスに組み込む形で、金融サービスを提供すること)”として、すでにユーザーを抱えている企業と提携し、新しいファンドを組成することはFundsを利用していただいている企業様のエコシステムを拡大していくことにもつながります」(藤田氏)

Fundsは今回調達した約20億円の資金を活用することによって、ガバナンスの徹底とチャレンジングな取り組みを両立させつつ、「新たな金融のカタチ」をより多くの人々に伝えられるよう、マーケティングや採用活動を強化していくという。

「2023年までに累計募集総額1000億円の達成を目指しています。今年はFundsを通して個人投資家と企業のエンパワメントをさらに加速させる勝負の1年になると考えています」(藤田氏)