
昨年よりIT企業では急速に導入が進んだテレワーク。通勤時間の削減による生産性の向上や、働く場所を選ばないことから地方人材を活用できるなど、メリットも多いが、デメリットもある。
リクルートキャリアが1月に公表した「新型コロナウイルス禍における働く個人の意識調査」によれば、2213名の回答者のうち、約6割が「テレワーク前にはなかった仕事上のストレスを実感している」と答えた。だが、経営者や管理職からすると、SlackやZoomといったツール上でのコミュニケーションでは従業員が感じているストレスや、うつ・バーンアウト(燃え尽き症候群)の予兆を把握しづらい。
現状、企業が従業員のコンディションを把握するには、産業医による指導・助言のほか、社員向けのサーベイツールなどが活用されている。リクルートとサイバーエージェントの合弁会社であるヒューマンキャピタルテクノロジーの「Geppo」やウォンテッドリーの「Pulse」などがその例として挙げられる。
そこからさらに一歩踏み込み、SlackやMicrosoft Teamsといったチャットツール上での投稿内容を機械学習で解析し、従業員のコンディションを“見える化”しようと試みているのが、wellday(旧社名:Boulder)の提供する「wellday」だ。
welldayは、専用のボットが投稿内容のテキストを解析して、従業員のストレス上昇を察知。経営者や管理職に通知・改善策を提示し、うつ・バーンアウトを未然に防ぐツールだ。2020年7月より「Well」という名称でベータ版を提供してきたが、サービス名を刷新し、5月11日に正式版としてリリースした。これに伴い社名もwelldayに変更している。
welldayの導入社数はベータ版からスタートして約30社と決して多くないが、すでに約4000名分のデータを蓄積しており、うつ・バーンアウト傾向にある従業員の予測的中率は85%と一定の成果を上げている。また、「監視されているように感じる」として従業員側から不評だった行動データの表示を正式版のリリースに合わせて廃止。コンディションに関する予測結果のみを表示することで、より利用しやすくした。
では具体的に、どんなコミュニケーションが行われているのが“危険”の予兆なのだろうか。これまでのデータをもとに、wellday代表取締役の牟田吉昌氏に解説してもらった。
「よくない」、「できません」など否定的な表現を多く使う
うつの症状が見られる人は、うつの症状がない人と比較すると「〜ない」、「〜ません」といった否定的な表現を多用する傾向にある。これは「Language use of depressed and depression-vulnerable college students(うつまたはうつ症状の見られる大学生の言葉使い)」という米国の論文が明らかにしている。
welldayでも、否定的な表現を多用するユーザーはサーベイで「大きなストレスを感じている」と回答するケースがほとんどだ。牟田氏いわく、否定的な表現を多く使う場合は自己効力感や楽観性が不足しているケースが多い。そのため、welldayでは成功体験を思い出したり問題を把握するためのミーティングの実施などを推奨している。
一人称の使用が増える
前述の論文では、社会的に孤立している人は一人称を使いたがる傾向にあり、うつの人はそうでない人と比較して一人称を多く使用すると結論づけている。welldayでも同じく、うつ・バーンアウトの傾向が見られるユーザーは「私は〜」といった一人称を使い、かつ自己主張の強い投稿が目立つという。
牟田氏いわく、普段から一人称を多用する人は問題ないという。だが一人称を用いた否定的な投稿が増えている人は、うつ・バーンアウト傾向である可能性が高い。
チャットツール上で否定的な表現や一人称の使用が増えた場合は、職場での信頼関係に悩んでいたり周囲からのサポートを感じていないことが多いと牟田氏は言う。こうした場合、welldayでは意見を引き出したり雑談を促すための場を設けることなどを推奨している。
「絶対」、「いつも」、「完全」など絶対主義的な表現を使うことが増える
これは別の論文「In an Absolute State: Elevated Use of Absolutist Words Is a Marker Specific to Anxiety, Depression, and Suicidal Ideation(絶対主義的な言葉の使用の増加は、不安、うつ、自殺願望のサイン)」にある内容だが、うつやPTSD(心的外傷後ストレス障害)の傾向がある人や、強い不安を感じている人などは「絶対に〜」といった絶対主義的な表現を使う頻度が増える。
たとえば「とても良い」でなく「最も良い」という表現を多用する人からは高確率でうつ・バーンアウト傾向が見られると牟田氏は説明する。複合的にさまざまな要因が絡むものの、welldayユーザーの場合、「絶対に〜までに終わらせます」といった表現が増えた際には業務に追われているケースが多いため、業務量の調整などを提案する。
welldayが自社のプロダクトを通じて広めようとしているのは、「エンプロイーサクセス」という概念だ。エンプロイーサクセスとは、従業員の成功を事業の成功と考え、自社の収益と従業員の幸福度を両立させる、という考え方だ。
テレワークで従業員のコンディションを把握しづらくなった今、健全な職場環境や生産性を維持する上での重要ツールとして、welldayは存在感を増していくかもしれない。