ブラック企業で働くペンギンが、社会の理不尽にテイコウするアニメ「テイコウペンギン」はチャンネル登録者数が89万人を超える人気作品となっている
ブラック企業で働くペンギンが、社会の理不尽にテイコウするアニメ「テイコウペンギン」はチャンネル登録者数が89万人を超える人気作品となっている。画像はテイコウペンギン公式YouTubeより

YouTubeのフォーマットに最適化した“YouTubeアニメ”で事業を急拡大しているスタートアップがある。2017年創業のPlottだ。

創業者で代表取締役CEOの奥野翔太氏が大学在学中に立ち上げ、エンタメ領域でゲームや動画、VTuberなど複数の事業に挑戦してきた。2019年からは現在主軸としているYouTubeアニメ領域に進出。チャンネル登録者数が89万人を超える「テイコウペンギン」をはじめ、約2年半の間に6つの作品(チャンネル)を開設している。

そのPlottではさらなる成長に向けて、ANRI、DIMENSION、オー・エル・エム・ベンチャーズ、セガサミーホールディングス、HAKUHODO DY FUTURE DESIGN FUND、ポリゴン・ピクチュアズ・ホールディングス、古川健介氏、佐渡島庸平氏を引受先とした第三者割当増資により約4億円の資金調達を実施した。

「当時はまだYouTubeファーストなアニメが存在せず、そこに可能性を感じました」

奥野氏は2019年1月にテイコウペンギンのチャンネルをスタートした時のことをそのように振り返る。

その当時もYouTube上には様々なアニメ動画がアップロードされていたが、人気動画となっていたのは違法動画・公式動画含めて「テレビ用に作られたアニメ」が大半だった。

「たとえばバラエティなどに関しても、以前は違法アップロードされたテレビ番組がYouTubeの急上昇動画に表示されていましたが、次第にYouTuberが作成したオリジナルのコンテンツが目立つようになりました。一方で、アニメに関してはまだテレビ用のアニメがそのままアップロードされている状態。YouTubeのフォーマットに合わせた作品を作れれば、いけるのではないかと思ったんです」(奥野氏)

YouTube×アニメの可能性自体には2019年より前から注目していたという。若い世代を中心に、テレビのバラエティ番組の置き換えのような形でTikTokやYouTubeのコンテンツが楽しまれている状況を受けて、「アニメはまだ空いている」と考えた。

VTuberの事業に挑戦したのもそのような考えが背景にあったから。一度目は輝夜月(かぐや・るな)など人気VTuberの登場のタイミングと重なり、これは「現在の体制で勝つのは難しそう」と断念。インスタやTikTok向けのラブコメ動画事業へとシフトした。

ただ、しばらく事業をやる中でその領域は自分の得意なことや、やりたいこととも合っていないと痛感。盛り上がっている市場にタイミングよく入っていくことも重要だと考え、再度VTuber領域にチャレンジすることを決める。

最終的には1年ほど経った後、現在のYouTubeアニメへと方向転換を決めたが、そのきっかけの1つとなったのが漫画動画チャンネルとして人気を集める「フェルミ研究所」の成長を目にしたことだったという。

当時はキズナアイなど人気VTuberのチャンネルが1日数千人の登録者を獲得し続けていた傍ら、知名度などでは劣るフェルミ研究所が漫画(静止画)を動画で紹介する“漫画動画”という切り口を武器に同じくらいのスピードで成長していた。

そこからもヒントを得て、事務所型のビジネスではなく、自分たちでオリジナルのキャラクターやIPを創出するYouTubeアニメの形式に落ち着いたのだという。

現在はテイコウペンギンに加え、チャンネル登録者数が48万人を超える「混血のカレコレ」や月刊コロコロコミック掲載作品である「ブラックチャンネル」のYouTubeアニメ版など6つのチャンネルを展開している
現在はテイコウペンギンに加え、チャンネル登録者数が48万人を超える「混血のカレコレ」や月刊コロコロコミック掲載作品である「ブラックチャンネル」のYouTubeアニメ版など6つのチャンネルを展開している 画像提供 : Plott

奥野氏がいうところの「YouTubeファーストなアニメ」においては尺やテンポ感といった動画の作り方が重要になるが、それらのベースになっているのは自分たち自身でVTuberやSNS向けの動画を作ってきた中で得られた知見だ。

「(VTuberやSNS向けのラブコメ動画を作る以前には)芸人さんを巻き込んでミニコント動画メディアを作ったりもしていました。動画コンテンツを作っては壊す、という経験を何度も重ねる中で培ってきた知見が現在にもかなり活かされています」

「一方でいかにYouTubeチャンネルを伸ばすことが難しいかも体験していました。過去の経験からも感じていたのは、最初から一定の人に見てもらえるような作品を作るためにはクリエイティブの力が重要だということです」(奥野氏)

たとえばテイコウペンギンは、もともとTwitter漫画として人気を集めていた作品だ。作者と交渉し、同作品のYouTube版としてアニメコンテンツの制作とチャンネルの運営を開始。その後半年でチャンネル登録者数が30万人を超えるなど、順調なスタートを切った。

Plott代表取締役CEOの奥野翔太氏(中央)と株主陣
Plott代表取締役CEOの奥野翔太氏(中央)と株主陣(と、同社のIPたち) 画像提供 : Plott

社内に多くのクリエイターを抱えクリエイティブ力を磨いてきた一方で、データドリブンなコンテンツ制作体制も強みとする。YouTubeアナリティクスなどで得られるデータをコンテンツ制作にもフル活用しているほか、タイトルやサムネイルなどの細かい部分も含めたYouTube内でのグロースノウハウなども蓄積されてきているという。

直近ではYouTubeアニメを通じて生まれたIPを用いて、グッズ販売やファンコミュニティアプリの運営も始めた。Plottは自社で版権を持ち、制作も自ら手がけているためIP展開をスムーズに進めやすいのも特徴。今後は新規チャンネルの開設などコンテンツ面の強化に加えて、自社IPをYouTube外にも積極的に展開していく計画だ。