
- 累計約2万ユーザー獲得した在庫管理SaaS「ロジクラ」
- 驚異的な出荷量・スピードを可能にした「XTORM」
- 佐川の狙いは小口のEC事業者の獲得
2020年以降、EC市場が爆発的な成長をとげている。巣ごもり需要の拡大でモノの売買は店舗からネットへと移行し、新規でECサイトを立ち上げる事業者が急増した。
カナダ発のECプラットフォーム・Shopifyの日本における流通総額は2019年と2020年を比較して323%増、新規ショップ開設数は228%増となった(2021年4月調べ)。日本発のECプラットフォーム・BASEも飛躍的な成長を遂げ、昨年5月に約100万だったショップ数は今年3月末までに140万を超えた。
事業者にとってECサイトは、コロナで減った売上げを埋める、またあらたな販路を生むなどメリットは大きいが、一方でデメリットもある。最も大きいのが、出荷業務の手間だ。1日に数十件程度であれば、ECをはじめたばかりの小さな事業者でも自ら対応できるかもしれないが、それが数百、数千件となると手に負えない。そこで物流大手の佐川急便はスタートアップと手を組み、EC化を進める事業者のための画期的な新事業を立ち上げた。
佐川急便のグループ企業でロジスティクス事業を展開する佐川グローバルロジスティクスは5月より、最新技術を駆使したECフルフィルメント(商品が注文されてからエンドユーザーに商品が届くまでに必要な業務全般をサポートする)サービス「XTORM(エクストーム)」を提供開始した。
XTORMではEC事業者向けに倉庫スペースと在庫管理のためのソフトウェアを提供。あらかじめ倉庫に商品を納品しておけば、ECサイトに注文が入り次第、商品を自動で出荷するというもの。倉庫スペースは配送センターと直結しているため、深夜2時までの注文を最短で同日の午前9時に届けるという驚きの出荷スピードが可能となる。
XTORMを実現するため、佐川は総工費約840億円の次世代型大規模物流センターを構築。そして佐川とタッグを組んだのは、在庫管理SaaSを展開するスタートアップ・ロジクラだ。
累計約2万ユーザー獲得した在庫管理SaaS「ロジクラ」
ロジクラは2016年に設立したスタートアップだ。2017年より在庫管理SaaSの「ロジクラ」を提供する。ロジクラはECで扱う商品の入荷から出荷までの情報を一元管理し、EC事業者の在庫管理を効率化するというもの。PCおよびスマートフォンアプリで利用できる。
小規模のEC事業者は通常、自社のオフィスを倉庫に見立てて、棚に商品を並べることで商品を管理している。ECサイトで注文を受けると紙の伝票を印刷、その内容に沿って商品をピッキングし、梱包して物流業者に受け渡す。だが、店舗を展開している場合、店舗とECサイトの在庫データが統合されていないなど、在庫管理が煩雑になっているケースが多い。
そこでロジクラでは、入荷時や出荷時にスマートフォンのカメラで商品のバーコードを読み取るだけで、在庫データを登録し管理できるようにした。また、ECプラットフォームのShopify、STORES、CROSS MALL、ネクストエンジン、またアマゾンのフルフィルメントサービスなどと連携しているため、注文情報を取り込み、すぐに出荷作業ができる仕組みになっている。
従来このような在庫管理をする場合、ハンディターミナルという専用機器、ならびにそれと連動したソフトウェアを導入する必要があった。ロジクラではそれをスマホ1台で完結できるようにしたことから、事業者の評価を得ている。2019年と2020年にかけて、利用社数は約2倍に増加。その後も右肩上がりの成長を続けており、累計利用社数は約2万社(2020年5月時点)となった。
「ハンディターミナルは高額なうえ、画像も表示されないなど、現代的とは言えません。ロジクラではスマホを使うことで、より高い操作性を実現しました。ユーザーからはロジクラを使うことで、例えば『出荷量が2倍になった』など、現場作業の効率化についてさまざまな声を聞いています。 ECサイトを立ち上げた段階の事業者さんにとって、なくてはならないツールになってきていると実感しています」(ロジクラ代表取締役の長浜佑樹氏)

驚異的な出荷量・スピードを可能にした「XTORM」
佐川とロジクラが共同展開するXTORMでは、在庫管理のための倉庫を提供し、ピッキング作業や出荷業務までを一気通貫で請け負う。EC事業者は何もせずとも、注文を受けるだけで良い。商品は自動でピッキングされ、注文者のもとに届けられる。
この自動化を可能にしたのが、2020年1月に竣工し、2月に完成した佐川の次世代型大規模物流センター 「XFRONTIER(エックスフロンティア)」だ。東京都・江東区に位置するこの巨大な物流センターは、倉庫スペースと配送センターを兼ね備える。施設内ではロボットが24時間・365日、不眠不休で稼働するため、1日に最大2万7500件の入出荷を可能とした。

XTORMを利用するEC事業者の在庫はXFRONTIERの5階に保管される。事業者のECサイトで注文を受けると、ロボットが自動で商品をピッキング。1〜4階の配送センターに受け渡され、午前5時より注文者への配送が開始する。この仕組みにより、今夏より、深夜2時までの注文を最短で午前9時〜正午に届ける(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、群馬県、栃木県、茨城県、山梨県の一部エリア)。

XTORMの強みについて、長浜氏は「出荷スピードに加えて、出荷量が急激に伸びたとしても問題なく対応できることにあります」と説明する。
「年末商戦やブラックフライデーといったイベントで出荷量が急激に増えた場合、自社で倉庫を構えるEC事業者は、アルバイトを雇って対応するのが通常です。一方、XTORMは出荷数のキャパシティが大きく、ロボットが作業を行うため、出荷量が増えても影響がありません」(長浜氏)
XSTORMの初期費用は無料で、別途倉庫利用料金がかかる(サイズにより1日0.3円より)。1出荷あたり660円(税込)という、わかりやすい料金体系で提供されている。
佐川の狙いは小口のEC事業者の獲得
XFRONTIERでは大口顧客の物流などにも対応しているが、佐川が同施設を活用してXTORMを提供する狙いは、より小口なEC事業者の獲得にある。
現状、XTORMのようなフルフィルメントサービスを提供しているのは、アマゾン、楽天、ZOZOTOWNといったECモールがほとんどだ。ヤマト運輸も独自のフルフィルメントサービスを提供しており、ヤフーと共同で「Yahoo!ショッピング」と「PayPayモール」の出店店舗に向けたプランも用意する。
そこで佐川では、まだフルフィルメントサービスを活用していない、ECプラットフォームを利用する事業者の獲得を目指し、ロジクラと組んだ。前述のとおり、ロジクラのユーザーの多くはShopifyやSTORESといったプラットフォームでEC展開する。つまり、佐川はこれまでに自分たちが持っていなかった、小口事業者の集客を狙ってロジクラと組んだと言える。
「佐川は大型案件は獲得していますが、EC事業者は囲えていない状況です。そこで集客をロジクラに託し、『一緒にやっていこう』という運びとなりました。先ほども説明しましたが、ロジクラはスマホ1台で在庫管理が可能なことが評価されており、ECサイトの立ち上げ時点で導入されることが多い。一方、ロジクラの競合サービスはECを立ち上げた後に導入されるなど、優先順位が低いのです。佐川にパートナーとして選ばれた理由は、集客の強さにあります」(長浜氏)
一方、ロジクラにとって、XTORMは事業規模を拡大させるユーザーに向けたソリューションという位置付けだ。ロジクラを利用するのは主に小規模のEC事業者。だが、EC事業者は通常、在庫数や出荷数が増えると、在庫管理や出荷業務を外注する。そこで、規模拡大したユーザーに向けて、XTORMを提供することが狙いとしてある。
ロジクラは5月11日、ベンチャーキャピタルのSTRIVEと三井住友海上キャピタルからの第三者割当増資、そして金融機関からの融資により、総額3億6000万円の資金調達を実施。佐川グローバルロジスティクスとの業務提携もこの日に明らかにした。 今後の展開について、長浜氏は「データの活用事業を展開していきたい」と話す。
「今はまだ、ようやくフルフィルメントサービスを立ち上げた段階です。 今後はロジクラで保有するデータを活用し、EC事業者が抱えている在庫問題を解決したり、需要の予測ができるプロダクトを提供していきたいと考えています 」(長浜氏)
