5G、DX、NFT──テクノロジーの進展とともに、こうした新しいキーワードが日々登場している。本連載「5分で分かるテックトレンド」では、その道のスペシャリストに、今知るべきキーワードを分かりやすく解説してもらう。

第1回のキーワードは「代替肉」。環境に優しい食品として、海外では先行して人気を博す代替肉は、果たして日本でも普及するだろうか。熊本発の植物肉スタートアップ・DAIZ(ダイズ)に出資するベンチャーキャピタル(VC)、グローバル・ブレインのパートナーである木塚健太氏に話を聞いた。

──米国ではバーガーキングなどの大手飲食チェーンが代替肉を使ったメニューを展開しています。米国を中心に海外で代替肉の普及が進んだ理由を教えてください。

矢野経済研究所が昨年5月に発表した代替肉市場に関する調査では、世界の市場規模は2020年の2570億円規模から10年で約7倍の約1兆9000億円にまで成長すると予測されています。

米国などではフードテックに特化したVCだけでなく、トップティアのVCも、代替肉を含む代替食品市場への投資をけん引しています。また、2015年以降は大手食品メーカーによるコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の設立が相次ぎ、存在感を増してきています。投資金額もディール数も引き続き増加傾向で、ここ5年(2016年〜2020年)で投資件数は2倍以上に増加しています。

代替肉に注目が集まる理由は明確です。この先、世界的な人口増加や新興国の経済成長といった要因により、タンパク質の需要に供給が追い付かなくなる、いわゆる「タンパク質危機」が到来すると予想されているからです。畜産規模の拡大は温室効果ガス排出量の増加につながると言われています。そのため、増えた人口のぶんだけ畜産を増やすことは好ましくないのです。

従来の代替食品(主に植物性のもの)は、ベジタリアン(菜食主義者)やビーガン(卵やチーズ、魚などを含む動物由来のものを一切口にしない完全菜食主義者)、またはムスリムなどに、倫理的もしくは宗教的な理由で食されてきました。今後は前述のとおり、タンパク質危機といった社会問題を背景に需要の増加が見込まれています。

代替食品市場の成長は著しく、多くのスタートアップが大型の資金調達を実施しています。代替牛乳を開発するPerfect Dayはここ2年で約3億ドル(約327億円)を調達。大御所のImpossible Foodsは累計で約16億ドル(約1742億円)もの巨額を調達しています。また、2019年に上場したBeyond Meatが2020年度に昨年対比135%で約4億ドル(約436億円)の売り上げを達成したことは、実需がついて来ていることを示しています。

──日本でも複数の代替肉スタートアップが生まれています。国内の状況をどう見ていますか。

日本では2020年以降、フードテック特化型のファンドやアクセラレーター、また、フードテック領域のスタートアップ向けにシェアオフィスが開設されるなど、投資やコミュニティづくりに活発な動きが確認できるようになりました。

プレーヤー側では、グローバル・ブレインの出資先で植物肉原料を開発し製造するDAIZや、昆虫食のGryllus(グリラス)、培養肉のインテグリカルチャーなどが登場してきています。ですが、その数はまだ決して多くありません。

代替肉を開発するには、高い技術力が必要となります。また、完成品として販売するには、商品やそのコンセプトに対する認知を得るために、大きなリソースを必要とします。もちろん完成品を販売する有望なスタートアップも存在します。ですが、まだ代替肉が普及していない現時点の日本では、大手食品メーカーなどに原料を供給し、サプライヤーとしてビジネス展開するスタートアップに可能性があると考えています。

代替肉市場は米国を中心とした海外で先行して立ち上がっているので、国内よりも海外にビジネスの機会が多いのが現状です。メーカーであれば、認可が必要な原料を使っていない限りは、海外展開のハードルは低いと思います。

ですが、市場が大きいということは、多くの競合が存在するということです。海外ではすでに多くの代替肉商品がスーパーなどに並んでいます。そのため、既存プレーヤーと競合するには、相当な資金投資や人的リソースが必要となります。

こうした市場環境を踏まえると、現地の完成品メーカーに原料を供給するのが勝ち筋の1つとして考えられます。基本的な差別化要素である「おいしさ」に優位性があり、「価格」の面でも総合的に従来原料よりも安い、もしくは同等レベルであれば、充分に展開の余地はあると思います。もちろん、実際には「混ぜやすさ(他原料との相性)」、「加工のしやすさ」、「安定した供給量を担保できるか」といった細かな要因も多くあります。

また、海外にはさまざまな完成品があるため、1社が総取りするような市場ではありません。小規模でも参入できる市場のため、製品のクオリティが高ければ、スタートアップでも海外展開は可能だと思います。

──国内では昨年以降、食品メーカー、スーパー、外食チェーンなどの代替肉市場への参入が相次いでいます。ですが、海外と比較するとベジタリアン、ビーガン、フレキシタリアン(植物性食品を中心に食べるが、時には肉や魚も食べる柔軟なベジタリアン)の人口は多くありません。代替肉が本格的に普及するには何が必要でしょうか。

米国と比較してベジタリアン、ビーガン、フレキシタリアンの数が少ないというのは、そのとおりだと思います。ですが、米国に居住する弊社社員などにヒアリングすると、フレキシタリアンはあえて「代替肉だから」選んでいるというよりは、「大豆のほうがヘルシーな気がする」といった具合に、非常にカジュアルな選択をしていると聞きます。

冷凍食品などとして売られる野菜餃子を買う人は多いと思いますが、このようなカジュアルな選択肢になれれば、代替肉の普及は加速すると思います。そこで必要なのは、シンプルに美味しく、タンパク質が摂取でき、低価格であることです。このような条件を満たしていれば、選ばれない理由はないと思います。

グローバル・ブレイン パートナー 木塚健太氏 三洋電機、日本ロレアルを経て、グローバル・ブレインに参画。三洋電機では、電気分解用電極や空気清浄機の研究開発、日本ロレアルではヘアケア製品の研究開発に従事。基礎研究から製品開発、量産化まで広範な業務に従事。
グローバル・ブレイン パートナー 木塚健太氏 博士(工学)。三洋電機、日本ロレアルを経て、グローバル・ブレインに参画。三洋電機では、電気分解用電極や空気清浄機の研究開発、日本ロレアルではヘアケア製品の研究開発に従事。基礎研究から製品開発、量産化まで広範な業務に従事。

ですが、「代替肉」はまだまだ新しいコンセプト。特に昆虫肉には抵抗のある人も多いのではないでしょうか。一方、「大豆ミート」という概念は昔からありますので、植物肉であれば消費者が選ぶ上でのハードルは低いと考えられます。

ユーグレナが展開するミドリムシを活用した食品も、発売当初、抵抗のある人は多かったのではないかと思いますが、今やそのコンセプトは広く一般に普及しています。