Nordgreen共同創業者でCEOのバジリ・ブラント氏(左)とパスカー・シバム氏(右)Nordgreen共同創業者でCEOのバジリ・ブラント氏(左)とパスカー・シバム氏(右)
  • ミニマリズムを体現した北欧デザインの時計
  • 環境保護と社会貢献、サステナブルな2つの取り組み
  • 創業時にクラウドファンディングを利用したワケ
  • SNSマーケティングで認知拡大
  • 2020年には日本で店舗展開も予定

2017年にデンマークで誕生した時計ブランド「Nordgreen(ノードグリーン)」が、日本市場での売り上げを急拡大している。同社の特徴は、北欧らしいユニセックスなデザインとサステナビリティ(社会や環境の持続可能性)を追求する方針。次世代に受け継がれる、北欧ブランドのパイオニアへ――壮大なビジョンを掲げてブランドを立ち上げたのは、共にミレニアル世代のバジリ・ブラント氏とパスカー・シバム氏。ヒットの要因を求めて、コペンハーゲンのオフィスを訪ねた。(フリーライター 小林香織)

 北欧のアイデンティティが色濃く反映された時計ブランド「Nordgreen(ノードグリーン)」。チーフデザイナーは、世界的家具ブランド「Cappellini(カッペリーニ)」や「MOROSO(モローゾ)」などをクライアントに持つ、デンマーク出身のヤコブ・ワグナー氏が務める。

 シンプルで洗練された北欧デザインの時計は、2万円~と手に取りやすい価格帯に設定。世界100カ国以上でオンライン販売しており、2019年の売り上げ見込みは450万ドル(約4.9億円)に上る。意外なのは、そのうち約40%を日本市場が占めていることだ。

ミニマリズムを体現した北欧デザインの時計

Nordgreenの腕時計 Photo by K.K.Nordgreenの腕時計 Photo by K.K.

 Nordgreenが日本でヒットしている最大の要因は、ヤコブ氏によるシンプルで飽きのこないデザインにある。共同創業者のバジリ氏とパスカー氏は、そう分析する。

バランスを意識してデザインされた「Native」 画像提供:Nordgreenバランスを意識してデザインされた「Native」 写真提供:Nordgreen

「本格的に参入する前から、日本を含めたアジア市場に大きな期待を寄せていました。古くからものづくり文化が根付く日本と、余計な要素を削ぎ落とし、美しさと心地よさを追求する北欧では、デザインの哲学が一致していると考えたからです。実際、日本のお客様からデザインに対する好意的なコメントを多くいただいています」(バジリ氏)

 文字盤のデザインは現在4種類で、本体の色やサイズ、ストラップの違いにより、男女別に数十種類が販売されている。いずれもユニセックスデザインで、都会で働く男女になじむような雰囲気がある。

 デザインは “自然”や“デンマーク人の価値観”がテーマになっており、例えば、もっともシンプルさが際立つ「Native」は、デンマーク人が幸せなライフスタイルを送るために不可欠な「バランス」を意識してデザインされている。簡単にストラップを交換できるのも特徴で、3本のストラップが付属するセットアイテムも多数扱う。

環境保護と社会貢献、サステナブルな2つの取り組み

 同社を語るにあたり、もう一つ欠かせないのが「サステナブル」をキーワードにした企業方針だ。パッケージは、再生可能プラスチックボトルから作られており、2年ほどの年月により自然環境で生分解される。時計を止めるために使われているバンドは一般的な素材だが、今後はこの原材料も見直して、環境保護を加速させたいと意気込む。

 時計の購入代金の一部を慈善事業へ寄付できる仕組みも、日本人から支持される要因かもしれない。顧客はアイテムを購入するごとに、Nordgreenが提携する3つのプログラムから、もっとも共感できる1つを選ぶことができる。

「現在は、中央アフリカ共和国の1人に2カ月分の安全な水を供給する『Water for Good』、インドの1人の子どもに1カ月分の教育を支援する『Pratham UK』、南米にある50平方メートルの熱帯雨林を保護する『Cool Earth』の3つと提携しています。この時計が“どう困っている人々の役に立っているのか”を意識していただきながら、“一緒に持続可能な世界を作っていきましょう”とのメッセージを伝えています」(パスカー氏)

創業時にクラウドファンディングを利用したワケ

 バジリ氏とパスカー氏は共に28歳。大学時代に出会い意気投合した2人は、「近いうちに一緒に起業しよう」と約束を交わした後、それぞれ国外の大学院へ進学し経営を学んだ。卒業後、バジリ氏は投資事業などを行うインキュベーター企業へ、パスカー氏はコンサルタント企業へ就職し、起業のベースとなるスキルを得た後、2017年6月に創業にいたった。

日本製のクオーツが使用されており、文字盤の裏には「JAPANESE MOVEMENT」の文字が見える 画像提供:Nordgreen日本製のクオーツが使用されており、文字盤の裏には「JAPANESE MOVEMENT」の文字が見える 写真提供:Nordgreen

「事業アイデアはさまざまありましたが、私たちが共通して思い入れのあるアイテムが腕時計でした。2人とも就職して初めてもらったボーナスで購入したのが、憧れのブランド腕時計だったのです。加えて、市場調査をするうちに世界的な北欧の時計ブランドが少ないことがわかり、ここに勝機があるのではないかと考えました」(バジリ氏)

 腕時計のECというアイデアの次に決めなければならなかったのは、時計のデザインだった。最初から世界展開を見据えていたからこそ、デザイナーは北欧を代表するような人物でなければならないと2人は考えた。

「ヤコブ氏のように世界で活躍するデザイナーを起用している北欧の腕時計ブランドは極めて少なく、その点もチャンスだと思いました。最終的に5名ほどの有名デザイナーと面談をしましたが、ヤコブ氏ほど親和性が高い人はいなかった。彼は、サステナブルをミッションに掲げた企業にしか協力したくないとの強い意思を持っていました」(パスカー氏)

 必要な人材がそろいプロダクトを作り始める段階で彼らが次に行ったのが、アメリカのクラウドファンディングサービス「Kickstarter(キックスターター)」で全世界に呼びかけをすることだった。目的は「商品の反応をテストすること」「投資を得ること」の2つ。結果的に、彼らの予想を上回る世界88カ国から約2400万円の資金が集まった。

 知人や友人が多いデンマークからの反響が中心だったものの、日本を含めたアジアからも一定額の支援があり、このクラウドファンディングの成功が世界進出への足がかりになったことは言うまでもまない。彼らは、創業間もない2018年から7カ国語でウェブサイトを展開し、100カ国でのオンライン販売を開始した。

「クラウドファンディングの反応に歓喜したものの、その時点では100カ国への販売がどれほど大変なことかを理解していませんでした。ウェブサイトの多言語対応に四苦八苦したり、各国の物流体制を整えるために提携先を探し回ったり、数えきれない苦労がありました。しかし、悲観的になることはなく事実として冷静に受け止め、これらの失敗を学びのチャンスに変えてきました」(パスカー氏)

SNSマーケティングで認知拡大

 親和性が高いと確信していた日本へのアプローチとして彼らが取った手法は、ウェブメディアでのPR記事やアフィリエイト、そしてSNSを使ったインフルエンサーマーケティングだ。創業3カ月で日本人スタッフを雇用し、日本人の視点で“ブランド”と“顧客”の架け橋となるようなインフルエンサーを見つけ出し、じわじわと認知を拡大してきた。

「依頼したのはファッションやインテリアに強いインフルエンサーが中心ですが、それだけではなく弊社のメッセージに共感して広めてくれるようなイラストレーターや料理家の方にもPRをしていただきました。さまざまなジャンルの方に依頼することで、インフルエンサーの個性を活かしたPR戦略を取っています」(パスカー氏)

Photo by K.K.Photo by K.K.

 現在、同社の社員は20人。そのうち日本人スタッフは4人おり、1人が広報兼カスタマーサービス、3人がブログやSNSでのマーケティングを担当する。日本語が堪能なデンマーク人も1人おり、ローカルスタッフと日本人スタッフをつなぐ役割も果たしているそうだ。

2020年には日本で店舗展開も予定

 2019年11月には東京・代官山にある代官山 蔦屋書店でポップアップストアを展開。あわせてバジリ氏も来日した。

「目立つ場所に展示していただき、たくさんのお客様の目に触れることができました。ヤコブ・ワグナー氏がデザインした時計が2万円台で購入できることに加えて、慈善事業への寄付も叶うことに驚いたという声を多くいただきました」(バジリ氏)

 2020年には日本での店舗展開が決まっているほか、大手雑貨店などでの取り扱いも予定している。

「来年以降も引き続き、日本市場に注力していきます。SNSに敏感な10代、20代の層だけでなく、店頭で実際に手に取ることによってデザインや素材へのこだわりを知っていただき、サステナブルな社会を目指す弊社の姿勢に共感していただけたら嬉しいですね。もちろん、日本のお客様にご満足いただけるようなきめ細かいカスタマーサービスもご提供します」(バジリ氏)

 デンマークでは、家族や友人らと過ごす穏やかな時間や心地よい状態を表す「ヒュッゲ」という文化が根づいている。週37時間労働、極力残業をせずに成果を上げ、ワークライフバランスが良い点も世界から評価されているが、ミレニアル世代にはバジリ氏やパスカー氏のように、世界に飛び込む野心を持つ者も増えているようだ。

 地球環境や弱者を救うサステナビリティな姿勢と顧客を満足させるハイクオリティなサービス。今後、世界で戦う企業には、この2軸が不可欠なのかもしれない。

Nordgreenがオフィスを構えるコペンハーゲンの町並みNordgreenがオフィスを構えるコペンハーゲンの町並み