
- 競合サービスでは就労可能資格の確認を徹底
- 不法就労の黙認に「驚きはない」──ウーバーイーツユニオン
- “テンプレ”でしか回答しないUber Eatsの不誠実さ
アプリで料理を注文すれば配達員が自宅まで届けてくれるフードデリバリーサービス。巣ごもり需要の拡大で昨年から利用が進み、フィンランド発の「Wolt」や米国最大手の「DoorDash」といった黒船サービスの日本ローンチが相次いだ。老舗の「出前館」の後を追うように、「Chompy」といった国内発の新たなサービスも登場した。だが、依然として高い知名度を誇るのは、2016年より日本展開する米国発のサービス「Uber Eats」だ。
Uber Eatsではその人気とは裏腹に、一部の配達員による交通ルールやマナーの違反、交通事故などが相次いでいる。また、配達員の報酬体系がブラックボックス化しているなど、運営姿勢の健全さも疑問視されている。6月22日には不法就労を助長していたとして、警視庁が同サービスを運営していたUber Japan、その代表を務めた女性(47)、そしてコンプライアンス担当だった元社員の女性(36)を出入国管理法違反の疑いで書類送検したことが報じられた(編集部注:現在のUber Eatsの運営元は、別法人で2019年10月に設立されたUber Eats Japan)。
報道によると、元代表社員らは昨年の6〜8月、ベトナム国籍の男性(30)と女性(24)をUber Eatsの配達員として違法に就労することを助長した疑いがある。Uber Eatsでは他人名義の就労可能資格や他人の写真を使って作成したアカウントを利用する、いわゆる“名義貸し”が発生していたという。
なぜUberは書類送検に至ったのか。競合サービスや業界関係者を取材すると、Uber Eats Japanの粗雑な体制が見えてきた。
競合サービスでは就労可能資格の確認を徹底
「まだ仕組みとして未熟な点も多いのですが、フードデリバリーが継続性がある形で浸透・発展して行けるよう、自社・業界として改善して行ければと思っています」
Chompyを運営するスタートアップ・シンで代表取締役CEOを務める大見周平氏は、Twitterでこのように投稿した。シンは6月22日、Uber Eatsで発生した不法就労に関する報道を受け、外国籍配達員の就労資格の確認のための取り組み内容を公開した。
本日のUberEatsさんのニュースに関連して、Chompyとしての対応状況を簡単にですが公表させていただきました。
— 大見 周平 (Shuhei Ohmi) / Chompy (@shuheeeeei) June 22, 2021
まだ仕組みとして未熟な点も多いのですが、フードデリバリーが継続性がある形で浸透/発展して行けるよう、自社/業界として改善して行ければと思っています。https://t.co/bd1m37ZMp6
シンでは、出入国管理法ならびに難民認定法の定めに基づき、外国籍配達員の登録を受け付ける際には在留カードや特別永住者証明書といった就労可能資格の原本を確認している。登録の際には訪れた人物と就労可能資格の原本に写る人物が同一人物であることを社員が目視で確認。加えて、出入国在留管理庁が提供する「在留カード等読取アプリ」を利用し、在留カードが偽造されたものではないことを確認する体制を取っていると説明する。
大見氏は「書類の偽造は簡単にできてしまうため、対面での目視、そしてアプリによる二重確認の仕組みを導入しました。この仕組みでなければ、多くの抜け道が存在してしまうと考えられるからです」と理由を語る。
一方、Woltでは本人確認の方法に関して、警察庁から直接の指導を受けているという。同社広報によると、Woltの外国籍配達員は全体の約2パーセント。登録の際にはChompy同様に、対面にて、在留カードとパスポートで必ず本人確認を行っていると説明する。Uber Eats元運営者らの書類送検については直接の言及を避けたが、「本件の動向を見守り、プラットフォーム企業の国内での運営について法解釈があった場合、速やかに従う所存です」と述べる。
不法就労の黙認に「驚きはない」──ウーバーイーツユニオン
「このニュースを聞いてもさほど驚きはありません。予想されていたことでした」
Uber Eatsの配達員らでつくる労働組合ウーバーイーツユニオン。その執行委員長である土屋俊明氏は取材に対してこう切り出した。
土屋氏によれば、SNS上では以前より、Uber Eatsの注文者と思われるアカウントが「顔写真とは違う外国人配達員が来た」などと投稿するケースが散見されており、配達員の間では「名義貸しが行われているのではないか」とうわさになっていたという。配達員の間ですら話題になっていた話をUber側がまったく知らないとは考えにくく、「(名義貸しの実態について)注文者からサポートセンターにクレームが入っていたはずだが、運営側の対応は遅れていたのではないか」と推察する。
今回のように不法就労の疑いがあるケースについて、土屋氏が耳にするようになったのは昨年の春ごろから。実はその時期に、Uber Eats Japanは配達員登録の仕組みを変更している。これまでUber Eats Japanでは、対面で配達員の登録を行う「Uber パートナーセンター」を全国に設置していた。だがコロナ禍の影響もあり、2020年3月30日でパートナーセンターを閉鎖。以後の配達員登録はオンラインで完結するようにした。
競合他社が対面での審査を続ける中でUber Eats Japanが登録プロセスをオンラインに移行し、就労可能資格の原本を確認しなくなったことが不法就労の原因となったのではないか。匿名を条件に取材に応じたある業界関係者は「事業拡大を優先しようとすると、登録プロセスの徹底がおろそかになってしまうのではないか。就労可能資格の原本を確認しないのであれば、それは『不法就労のリスクに興味関心が全くない』と言っても過言ではない、ずさんな仕組み」と批判する。
“テンプレ”でしか回答しないUber Eatsの不誠実さ
なぜ今回の事態が起こったのか。今後はどのようにサービスを改善していくのか。Uber Eats Japanに質問を送ったが、同社からの回答は「Uberはプラットフォームのいかなる不正利用も大変深刻に受け止めており、 配達パートナーの登録手続きを強化すべく、措置を講じてまいりました。 本件捜査に関し、捜査機関に全面的に協力しております」という内容のみだった。
すでに他メディアでもUber Eats Japanからの回答としてほぼ同様の文章が掲載されている、いわば“テンプレ(テンプレート・定型文)”のみの内容だ。
そこで、名義貸し行為への対策や、オンライン登録と不法就労の関連性、ユーザーからのクレームの状況などについて追加で質問を送ったが、Uber Eats Japanは「本件に関する回答は先ほどの内容とさせていただきます」として回答を拒んだ。
本件について問い合わせた出入国在留管理庁の担当者は「宅配サービスであろうが、ほかの業種であろうが、どんな業種でも法律は必ず守っていただく必要がある」と語った。
外国人による不法就労の背景にはさまざまな理由が考えられる。筆者も以前は英字新聞の記者として、日本に住む外国人が直面する多くの問題に向き合ってきた。だが、いかなる事情があろうとも、事業者は法令遵守を徹底しなければならない。コロナ禍の下で成長を続け、社会インフラとしての責任が増したデリバリーサービスの雄には、その運営姿勢のあり方が問われる時期が来ている。