
- AIと人間の講師がタッグを組み学習効果を最大化
- 強みはAIの精度──約20時間の使用でテストの点数は約1.5倍に
- 海外展開・グローバルIPOを視野に入れた大型調達
AIを活用して子供たち一人ひとりの学習を最適化する──このようなミッションを掲げ、塾・予備校向けのソリューションを開発するスタートアップがatama plusだ。提供する学習ソフトウェア「atama+(アタマプラス)」は生徒の得意・不得意をAIが学習し、その生徒に最適な教材を自動作成する。
2017年の提供開始以降は駿台グループやZ会グループ、城南予備校といった塾や大手予備校への導入を進めてきた。コロナ禍でオンライン学習の需要が高まり、導入教室数は2020年4月の1000教室から、2021年7月に2500教室を突破するなど、急成長を遂げている。国内外の有力投資家はatama plusを「日本の教育市場に変革をもたらすトッププレーヤー」として見ており、熱視線を送っている。
atama plusは7月21日、既存投資家のDCMベンチャーズとジャフコグループに加えて、シンガポール政府が所有する投資会社・Temasek傘下のPavilion Capital、そして米運用会社大手のT. Rowe Priceから総額で約51億円の資金調達を実施したことを明かした。金融機関からの融資を含め、同社の累積調達額は約82億円となった。
海外の機関投資家2社を含む資金調達、そしてatama plusが目指す教育の未来について、代表取締役CEOの稲田大輔氏に話を聞いた。
AIと人間の講師がタッグを組み学習効果を最大化
atama+は塾や予備校で展開され、タブレット端末で利用する学習ソフトウェアだ。小学生は算数、中学生は数学、英語、理科、社会、高校生は数学、英語、物理、化学、生物の授業でatama+を活用する。従来は塾や予備校の教室外では使えなかったが、昨年4月からは緊急事態宣言による外出自粛に伴い、自宅でも利用できるウェブ版を提供開始した。
atama+では生徒が「どの問題を間違えたか」、「どの問題が得意か」、「回答にどれくらいの時間がかかったか」といったデータをAIが学習し、その生徒が間違えやすい問題を復習させたり、より難易度が高い問題に挑戦させたりする。

また、atama+は講師用のアプリ「atama+COACH」と連動しており、講師は生徒たちの正解率や進行具合などを確認することができる。生徒たちに勉強を教えるのはatama+、一方で生徒たちを成功へと導くのは講師の役割だと稲田氏は説明する。
「AIは『ティーチング』、講師は『コーチング』を担当します。講師は生徒と一緒に目標を定めて伴走し、ほめたり励ましたりする。勉強の仕方を教えてあげることが重要です。人にしかできないことは人が担当する。新しい教育の実現はAIだけでは困難です。我々は『AIと人が持つ異なる強みを組み合わせた教育』をコンセプトにatama+を開発しています」(稲田氏)

強みはAIの精度──約20時間の使用でテストの点数は約1.5倍に
前述のとおり、駿台グループやZ会グループ、城南予備校など、業界大手も導入するatama+。その強みについて問うと、稲田氏は「AIの精度の高さには自信があります」と即答する。
「atama+では個別最適化を徹底して磨いており、生徒の成績をしっかりと伸ばせるのが最大の強みです。塾や予備校に導入いただく際には、生徒たちの学力が実際に向上するかどうか、検証してから全面導入を決めていただきました。その検証結果からも、atama+が効果的だということを自信を持ってお伝えすることができます」(稲田氏)
兵庫県・神戸市に本社を置き、個別指導「能開個別ホロン」や集団指導「能力開発センター」を展開するティエラコムでは、2017年にatama+を試験導入した。高校3年生に生徒たちに対し、2018年1月に実施された学入試共通テストの直前に約20時間、atama+を用いた指導を行ったところ、その前月に実施した模擬試験と比較して数学1Aの点数が約1.5倍向上したという。結果、ティエラコムは能開個別ホロンの全教室へatama+を導入し、ブランド名を「能開個別AIホロン」へと変更するまでに至った。
「atama+を使えば短い時間で高い学習効果を得ることが可能です」(稲田氏)
海外展開・グローバルIPOを視野に入れた大型調達
日本ではここ数年で海外の機関投資家やベンチャーキャピタルからの資金調達を発表することが増えてきた。いくつか例をあげるならば、2018年にはクラウド会計ソフトのfreeeと名刺管理のSansanがT. Rowe Priceから、2019年にはデータマーケティングのフロムスクラッチがKKRから、2020年にはECプラットフォームのヘイがベイン・キャピタルからの資金調達を発表した。
先月にもクラウド人事労務ソフトのSmartHRがLight Street CapitalやSequoia Heritageを含む7社の海外投資家などから約156円の資金調達を実施したことを明かした。
atama plusにも海外の機関投資家2社が株主として加わったが、稲田氏は「拡大が期待できる日本のスタートアップには海外の機関投資家が出資するという流れができてきている」と話す。加えて、中国のYuanfudao(猿輔導)やインドのBYJU'Sなど、企業評価額が100億ドル(約1兆円)を超えるデカコーン企業が登場しきているEdTech(エドテック)市場は、特に投資家たちの注目を集めている領域だと説明する。
「EdTech市場は世界中で拡大しており、中国やインドでは多くのユニコーン企業(企業評価額が10億ドル(約1100億円)を超えるスタートアップ)が誕生し、デカコーン企業も登場してきました。日本の教育市場は米国、中国に次ぐ第3位の大きさです。ですが、日本からは大きな成長が期待できるEdTech企業が出てきませんでした。そのため、atama plusは日本のEdTech市場をリードしていくプレーヤーとして期待されています」(稲田氏)
atama plusでは調達した資金をもとに、既存のプロダクトを改善し、新たなプロダクトの開発も進めるという。そのために採用を加速させ、現在約160人の社員数を2022年3月末までに約250人規模にまで拡大させる予定だ。また、詳細は語らなかったが、稲田氏は「海外展開も視野にある」と話した。
「僕たちの会社のミッションは『基礎学力の習得にかかる時間を短くし、社会でいきる力を養う時間を増やす』ことです。atama plusでは数億人規模の生徒に対して、このミッションの実現をしていきたいと考えています。数億人規模となると日本の人口を上回っているので、当然、海外展開は考えています。グローバルIPOも視野に入れているため、海外の機関投資家からの資金調達は海外へ向けた良いメッセージとなったでしょう」(稲田氏)