Voicy代表取締役CEO 緒方憲太郎氏
Voicy代表取締役CEO 緒方憲太郎氏 すべての画像提供:Voicy
  • 海外放浪中、FacebookとTwitterに出会う
  • バズる必要はない、ヘルシーにやらなければ残らない
  • 文字を使った“A面”で情報を伝え、音声の“B面”で奥行きを伝える

スタートアップ創業者やテック企業の経営者は、SNSなどを使った情報発信をビジネスにどのように生かしているのか。

文章や画像、音声、動画などのコンテンツ発信プラットフォームを提供するnoteでマーケティングプロデューサーを務める徳力基彦氏が、スタートアップの代表や先鋭的な企業で活躍するビジネスパーソンにインタビュー。SNSとの出会いや、ビジネスでSNSを使いこなすようになったきっかけ、現在の活用法などについて聞く。

第1回は、音声プラットフォームを運営するVoicy代表取締役CEOの緒方憲太郎氏が登場。各種SNSとの出会いから、自社メディア「Voicy」について、そしてVoicyとほかのプラットフォームを組み合わせることによる相乗効果など、その活用術を明かす。

海外放浪中、FacebookとTwitterに出会う

──緒方さんはもともと公認会計士をされていました。会計士は、秘匿情報を扱う仕事のため、SNSとはあまり相性がよくないイメージあります。緒方さんはこのころからSNSを使っていたのですか。それとも、転職されてからでしょうか。

僕、最初の会社を休職して1年くらい海外を放浪していたんです。その間、オーストラリアにいた2010年ごろにFacebookが現地ではやり出して。誰かとお会いしたらまずFacebookの情報を交換する、という感じになっていました。

当時は僕自身も放浪していましたし、現地で知り合った駐在員の方々や外国の友達が帰国してしまうことがたびたびあって。遠方の人たちと簡単につながれるツールが必要だったんです。そこでFacebookに登録してみたら誰とでもどんどん連絡が取れるし、相手がどんな人かを調べることもできるし、SNSってすごい便利だなと実感しました。

海外放浪中の緒方氏
海外放浪中の緒方氏。オーストラリアにて

──Facebookがコミュニケーションインフラになり始めている頃ですね。

そうですね。Facebookでこと足りてしまうので、初対面の人とEメールアドレスを交換するということがなくなりました。同じ頃、Twitterも使い始めたんですが、当初は「見る専」って感じで。その後も、Voicyの起業準備に入る2015年くらいまでは、フォロワーは500人〜600人程度でしたね。その頃はまだ、SNSの世界をうまく使おうなんて考えたこともなかったです。

──その後、ニューヨークの監査法人Ernst & Young社を経て、日本のトーマツベンチャーサポート(以下TVS)に入社されています。そのきっかけがFacebookだったというのは本当ですか?

本当です。僕はあまりまともな転職活動をしたことがなくて(笑)。あるとき、僕のFacebookのニュースフィードにTVS代表取締役社長の斎藤祐馬さんの投稿が流れてきたんです。それで、「面白そうなことしてますね」とメールしたら、「そっちも面白そうなことしてますね」と返事をもらって(笑)。「帰国したら一緒にご飯食べましょう」と誘っていただいたのが転職のきっかけになりました。

──SNSをアクティブなコミュニケーションツールとして使いこなしてますね。Voicyを立ち上げたのが 2016年ですが、それからSNSの使い方は変わりましたか?

完全に変わりましたね。起業するには、大勢の人を自分の事業に巻き込んでいく必要があります。そのためにはまず、自分が描いている世界をきちんと相手に届けなければなりません。本格的に起業準備を始めた2015年ごろから戦略的にSNSを使う方向にシフトしました。

この頃には、特にTwitterがフォロワー数をあげてリツイートで広がっていく爆発的な力があることがわかっていましたので。Voicyで情報発信をしつつ、Twitter経由で投稿を広めるということをしました。これはいまも行っています。Voicyについて、どれだけ多くの人がTwitter上でコミュニケーションしてくれるか。本当にTwitterは、ほかに類を見ないほど巨大な拡散力を持ったプラットフォームだと思います。

Voicy創業当初の緒方氏ら

バズる必要はない、ヘルシーにやらなければ残らない

──Twitterはその拡散力が時に炎上につながるなど弊害となることもあります。なにを意識してTwitterを利用していますか。

発信する内容に過度な調味料を入れないよう、すごく気をつけていますね。Twitter上には「トータル何百万売り上げた」とか「何千件の成功事例がある」とか、派手なプロフィールの人があふれかえっています。でもそういうのは、最初は興味をもたれやすいかもしれませんが、すぐに飽きられてしまうんですよ。たまに見るのは面白いけれど、毎日見るのはうざったいな、と消費されて終わってしまう。

僕はどんなサービスも、ヘルシーにやってるものじゃないと最後に残らないと思ってるんです。だから、初めにめちゃくちゃバズる必要はなくって。みんなが嫌だと思わなくて「なんとなく好き」っていう状態をしっかり維持していくことを、すごく意識しています。

それに今は、他人に対して「Give」したいと考えている方の方が圧倒的に多いと感じます。だからSNSの世界でも、自分の利益のためだけに動いている人はあんまり好かれない。他人や世の中のためになることを考えて、しかもそれを自ら楽しそうにやっている人のところに自然と人々が集まってくると考えています。

──noteも使っていますが、緒方さんにとってはどのような位置づけになるんですか。

自分の制作物をストックする場所ととらえています。noteに投稿している文章は、言葉選びや文章構成など、どうやって見せるかをしっかり考えてつくった、言わば僕の作品たち。実はこれらの文章が、のちにVoicyの仲間集めに役立つときがあるんです。

シリーズで書いている『声の履歴書』(編集部注:Voicyのこれまでの歩みについて緒方氏がnoteにつづる連載)では、Voicyの歴史を記録として残していまして。Vol.56(2021年6月11日時点)まで書いていますが、これを読んでくれた人たちがVoicyと僕の人となりを感じて、Voicyに入りたいと言ってやってきてくれる。社外の方々にVoicyが生き生きと活動しているさまを知っていただきたいときも、この文章を読んでもらうと理解していただきやすいですね。

文字を使った“A面”で情報を伝え、音声の“B面”で奥行きを伝える

──『声の履歴書』はnoteとVoicyで連動した企画ですね。これは、緒方さんがVoicyで話したことを、あとでnote用に文字化しているんでしょうか。よく経営者の方はそのようにして記事を作成されると聞きますが。

逆ですよ。書いたあとにVoicyでしゃべっています。僕にとってVoicyの『声の履歴書』は「編集後記」みたいなものなんです。徳力さんもブログや本を書いたあとに読者から「読みましたよ」とか「あれ面白かったです」って言われたら、その後に一言足したくなりませんか?「あれさ、本当はこうだったんだよね」とか、「書けなかったことがあるんだけど実はさ……」とか。

僕は、そういうこぼれ話を知ることができる「編集後記」がすごく面白いと思うんです。いわば、CDのA面とB面。A面って、より広範囲の人に届けるためにちゃんと作り切った完成品を入れますけど、B面は自分のより奥深い世界観を見せて、自分の作品世界や作り手自身のことを本当に好いてくれる人をつくるためにある。

声はこのB面を表現するのにとても適しているんです。読み手が文字情報からだけでは感じ取ることができない、発信者のそのときの感情とか感覚が声のトーンやテンポ、ことばの微妙な間などからにじみ出る。そこにこそ、音声メディアの面白みがあると思うんですよね。これこそが、僕がVoicyをやっている大きな理由の一つです。

人がコンテンツに興味をもつとき、一番初めは便利さや面白さにひかれます。発信側がそれら受け手のメリットを長く提供しつづけていくと、受け手はだんだんと発信者のことを好きになって、その人の奥行きまで知りたくなる。

だけど文章で奥行きを出すのは難しいんですよね。また逆に、発信者がいきなり自分の奥行きを全面に出しても、受け手側は困惑するだけ。だから僕は、文章+音声のハイブリッドで発信していくのがいいと考えているんです。

──A面、B面の例え話、よくわかります。一般的なビジネスのシーンにも当てはまるなと思いました。A面だけできちんと取引を行うことはできるけれど、B面が伝わってくる人との方がお互い気持ちよく、スムーズに仕事ができますから。

自分に合うさまざまなSNSを使って自分のB面をうまく出して行けたら、SNSは「普通」のビジネスシーンを生きるビジネスパーソンにとっても、非常に役に立つツールになるといえると思いました。

緒方憲太郎氏

ゲスト:緒方 憲太郎(おがた けんたろう)氏(Voicy代表取締役CEO)
大阪で公認会計士として務めた後、海外放浪の旅へ。米国企業、ベンチャー支援企業などを経て、2016年にVoicyを設立。世の中がハッピーになる付加価値の創出を目指す。座右の銘は「迷ったらオモロい方」近著に『ボイステック革命 GAFAも狙う新市場争奪戦』がある。
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