ダイニーではモバイルオーダー連動型のPOSを通じて、飲食店と来店客に新しい体験を提供する
ダイニーではモバイルオーダー連動型のPOSを通じて、飲食店と来店客に新しい体験を提供する すべての画像提供 : ダイニー
  • 飲食店と顧客をLINEで繋ぐ「CRM機能」がウリ
  • モバイルオーダーPOSで新たな飲食店インフラ目指す

1970年代、POSの台頭により外食市場は大きく発展した。この仕組みをさらに進化させた“次世代のPOS”を通じて、「飲食業界の今後の50年を支える飲食インフラ」の実現を目指す──。2018年創業のdinii(ダイニー)ではそのような大きな目標を掲げている。

ダイニーは代表取締役の山田真央氏と共同創業者の大友一樹氏が東京大学在学中に立ち上げたスタートアップだ。山田氏は起業前から飲食店でのアルバイトを経験していたほか、メルカリやディー・エヌ・エー(DeNA)で長期インターンを経験。ダイニー創業後は「飲食×IT」の領域を中心に事業を模索してきた。

その過程で開発したのが「ランチの待ち時間を減らしたい」という要望に応えるための、ランチの事前予約・決済アプリだ。大学のある東京・本郷エリアや六本木エリアなどでニーズ検証をしてみると、当時はイートイン(店内での飲食)の予約よりもテイクアウトの需要が大きかったため、テイクアウトに焦点を当てたモバイルオーダーサービスへと舵を切った。

現在運営している「ダイニー」は、このモバイルオーダーサービスをさらに進化させたもの。テイクアウトからイートインへと再び軸を戻し、モバイルオーダーをきっかけに「飲食店と来店客の関係性作りのあり方や、飲食店での体験そのもの」を変えるプロダクトを作ろうとしている。

同サービスは2020年1月から提供をスタートし、現在は「串カツ田中」を始めとした飲食チェーンを中心に数百店舗で活用が進む。コロナ禍で大きな打撃を受けた面はあるものの直近では勢いが増しており、4月から7月にかけての3カ月間で導入企業数は約3倍に拡大した。

ダイニーではさらなる事業拡大に向け、グロービス・キャピタル・パートナーズ、Coral Capital、個人投資家を引受先とする第三者割当増資により約3.5億円を調達した。ダイニーはこれまでANRIなどから複数回の資金調達を実施しており、累計の調達額は4.8億円になるという。

飲食店と顧客をLINEで繋ぐ「CRM機能」がウリ

ダイニーはモバイルオーダーと連動するPOSを中心に複数のツールから構成されるプロダクト群だ。

ユーザー向けにはLINEのミニアプリという形で、モバイルオーダー機能を提供。QRコードをスマホから読み取り認証ログインを済ませれば、自分のスマホから好きなタイミングでメニューの閲覧や注文ができる。LINEを利用していれば、専用のアプリを新たにインストールする手間もない。

ユーザーはスマホから簡単にメニューの注文などが可能。LINEのミニアプリを活用しているため、店舗ごとのアプリのインストールなどは不要だ
ユーザーはスマホから簡単にメニューの注文などができる。LINEのミニアプリを活用しているため、他のアプリのインストールなどは不要。LINEを通じて店舗からクーポンが届くこともある

一方で飲食店向けにはユーザーの注文をサポートするためのハンディアプリや会計用のレジアプリ、プリンターをコントロールするためのアプリ、さまざまな情報を管理するためのダッシュボードアプリなど複数のツールを月額数万円から提供。接点のあるユーザーに対してクーポンを発行できる仕組みなど、CRM(顧客管理ツール)機能も備える。

ユーザーにとっては注文がよりスムーズになる、飲食店にとっては注文や会計業務の効率化や省人化が見込めるといった利点は既存のモバイルオーダーサービスとも共通するものだが、山田氏はダイニーの本質的な価値は「(POSの購買情報に)ユーザーのIDがひもづくこと」だという。

「目の前のお客さんが何回目の来店で、過去にどんなメニューを注文していて、今何を頼んだのかといったように『誰が』という情報がわかるようになります。(ダイニーは)LINEのミニアプリで動くので、お客様と飲食店がLINEで繋がり(ミニアプリの認証時に、ダイニーのアカウントを友だちに登録するよう推奨する)、相手に合わせでクーポンを発行したり、メッセージを送ったりすることが可能です。つまり従来、飲食の領域で難しかったCRMのようなものが実現できる。導入店舗の方々もその点を特に評価してくださっています」(山田氏)

顧客がせっかく来店してくれても、一度店を離れてしまえば、店舗側からアプローチすることは難しい。継続的な接点を作るための手段として飲食店はオフラインのポイントカードや自社アプリなどを活用してきたが、特にアプリなどはコストも高く一部の企業以外にはハードルが高かった。

“オンライン上で顧客を会員化する”という観点では、実用性の高いモバイルオーダーが適しているのではないかというのが山田氏たちの考え。LINEのミニアプリであれば店舗ごとのアプリをわざわざインストールする必要もないため、なおさらハードルが低い。

ダイニーの目指す飲食店の体験
ダイニーの目指す飲食店の体験

モバイルオーダーPOSで新たな飲食店インフラ目指す

冒頭でも触れた通り、POS自体は約50年前から存在する仕組みだ。年々アップデートが進んでおり、近年は歴史のあるレガシーPOSに加えてクラウドPOSの普及も進む。東芝テックなど業界の先駆者が開発するものから、リクルートの「Airレジ」やスタートアップの手がける「スマレジ」、「ユビレジ」など幅広い。

当然ながらこうしたプレーヤーも既存のモバイルオーダーサービスとの連携や、自社でのモバイルオーダーアプリの開発などを進めている。ただ従来のPOSはモバイルオーダーが普及する前に作られたものがほとんどであり、双方を組み合わせた最適なユーザー体験を提供するのは簡単ではないというのが山田氏の見解だ。

ダイニーでも当初はいろいろなアプローチを検討したが、最終的に優れたユーザー体験を実現し、飲食の次のインフラを目指す上では「モバイルオーダーを前提にゼロベースでPOS自体を作るべき」と考え、時間をかけて現在のプロダクトを作り込んできた。

ダイニーが提供しているプロダクト一覧。細かく分けると10個以上になるという
ダイニーが提供しているプロダクト一覧。細かく分けると10個以上になるという

この1年半で基盤となるPOSやモバイルオーダーの仕組みについてはかなり作り込みが進んできたそう。今後は調達した資金を活用して組織体制の強化を進めながら、CRMに関連するものを中心に新機能の開発に取り組んでいくという。

一例をあげると開発中の「投げ銭」機能はすでにベータ版として一部店舗で試験運用を行っている状況。「顧客と飲食店が繋がる部分をいかにおもしろくしていくか」という観点で、特にユーザーが触るアプリについてはエンタメに振り切った機能なども実装していく計画だ。