Photo:SOPA Images /gettyimages
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  • 四角い写真の共有から、動画を主軸としたアプリへ
  • Instagramはクローズド化、TikTokはオープン化
  • 能動的な検索プラットフォームに進化を遂げる
  • 企業が動画制作で意識すべきは「滞在時間」

今年で誕生から11年。“お気に入りの写真を共有するSNS”として、2010年にサービスを開始した「Instagram(インスタグラム)」は、いま変革の時期を迎えようとしている。

米国時間の6月30日、Instagram責任者のアダム・モセリ(Adam Mosseri)氏は自身のアカウントに「これからのInstagram」に関する動画を投稿した。投稿によれば、Instagramは今後動画に関する新機能を開発していくという。

Instagramは2020年8月に最大30秒の短尺動画を作成・発見できる機能「リール」を開始するなど、“打倒TikTok”を意識した機能を提供してきたが、今後さらにInstagramとTikTokの競争は激化していきそうだ。

今回のモセリ氏の発表によって、Instagramはどんな変化を遂げていくのか。大手企業を含む累計80社以上のSNS運営を支援するスタートアップ・FinTの代表として得てきた知見をもとに、企業がInstagramの変化に応じて実施すべき対策を紹介していく。

四角い写真の共有から、動画を主軸としたアプリへ

「Instagramはもうただの正方形の写真を共有するアプリではありません。現在はクリエイター、動画、ショッピング、メッセージングの4つの分野にフォーカスを当て、ユーザー体験の最大化に役立つ新機能の開発に取り組んでいます」

モセリ氏は冒頭に紹介した動画でこのように語ったが、中でも筆者が注目するのは“動画“への取り組みだ。今後、数カ月の間にInstagramはフルスクリーンでスマートフォンに特化した形で動画を視聴できるように、試験的にさまざまな機能を提供していくという。また、ユーザーの視聴履歴などのデータをもとに、気になるトピックの動画を「オススメの動画」という形でリコメンドすることも予想される。

サービスの主戦場を写真から動画に変える──この変化の背景には、Instagramが実施したユーザーへのヒアリングの結果が関係している。

「なぜ、Instagramを使っているのか?」をヒアリングしたところ、ユーザーはInstagramに対してエンターテインメント性を求めていることが分かったという。その結果に基づき、どうすればエンターテインメント性を高められるかの仮説検証を行い、動画に注力する方針の発表に至ったようだ。

スマートフォンでInstagramアプリを立ち上げた際、まず目に入ってくるのが正方形の写真だ。現在、Instagramのフィードの面積の65%は正方形の写真が占めており、ストーリーズやリールなどの動画が使っているのは枠の25%にすぎない。だがユーザーはこの狭い範囲に多くの時間を費やしているのだ。だからこそ、Instagramの動画注力には可能性があると思っている。

今まではフィードからストーリーズへ、(アプリの)タブからリールへとユーザーの遷移を促していたが、今後はは新たな動画への導線が開発されるかもしれない。

Instagramはクローズド化、TikTokはオープン化

また、モセリ氏は動画内で競合SNSとして、動画をメインに事業を展開している「TikTok」の名前を挙げた。いまやInstagramにとっての最大のライバルはTikTokと言っていいだろう。アプリ調査会社のApp Annieがまとめたレポート「モバイル市場年鑑2021」でも、SNS内で最も滞在時間が長いアプリはInstagramでもFacebookでもなく、TikTokだった。

今後、InstagramはTikTokの後を追って同じようなサービスになっていくのか。筆者は同じにはならず、Instagramはクローズド化、TiKToKはオープン化していくと考える。

Photo:SOPA Images /gettyimages
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Instagramは、自身のフィード投稿やストーリーズがフォロワーを中心に視聴されている。TikTokと比べて拡散性が低いこともあり、他のプラットフォームに比べてフォロワーを増やす難易度が高くなっている。実際、最近ではストーリーズを閲覧できるユーザーを友人に制限する「親しい友達」機能が多用されるようになっている。

また、2021年は新たにストーリーズを複数人で投稿できるようにする「コラボ」や好きなリール動画とコラボレーションできる「リミックス」、最大4人でライブ配信できるようになる「Live Rooms」など、友人との活用を前提にした3つの新機能をリリースしている。

一部のインフルエンサーは自身の投稿に「#アーカイブ」などのハッシュタグをつけて一時的に非公開の設定にし、一定の時間が経ってからステルスで投稿を公開している。ほかにも、途中で非公開アカウントに設定するなど意図的にバズらせないようにする工夫を施しているのをよく見るようになった。

一方で、TikTokの動画の視聴者層はフォロワーが中心ではなく、むしろ新規のユーザーが多くを占めているところに特徴がある。「おすすめ」タブやアルゴリズムで表示される動画を視聴することが多い仕組みになっているため、フォロワー以外の視聴者を獲得することが比較的簡単にでき、Instagramと比べて“バズ”が生まれやすい。

それに伴い、最近ではTikTokの拡散性やオープンな性質をうまく活用することで、数多くのTikTokerが活動の幅を広げている。そして、TikTokで獲得したファンをInstagramなどに送客し、PR投稿やインスタライブでの投げ銭などでマネタイズをする「横断型」インフルエンサーも多く見かけるようになった。

能動的な検索プラットフォームに進化を遂げる

上記のようなコミュニティの性質以外にも、Instagramの動画だけが持つ独自の価値はあると筆者は考えている。それは、おすすめの画像や動画を一覧表示する「発見」タブにある。TikTokであれば、リコメンド機能によっていわば半強制的に順番を決めて、おすすめの動画をユーザーに視聴させるUI(ユーザーインターフェース)を採用している。

それに対してInstagramの発見タブは一画面に複数の画像や動画が表示され、ユーザーは“自分の意志で見たいものを選ぶ自由“が与えられている。ここがTikTokと異なる点だ。Instagramはいくらフルスクリーンで没入しやすいUI(ユーザーインターフェース)に変更したとしても、自分が好きな動画を選んで視聴する余白だけは残すのではないだろうか。

Instagramはこういった動画の視聴環境を、リコメンド機能やアルゴリズムなどを使ってユーザーのリアクションを見ながら、シビアに整えていくと考える。また今後のInstagramのトレンドとして、従来のレコメンド機能から投稿を発見する受け身の情報収集から、能動的な検索プラットフォームへ変わっていくことが挙げられる。

その前兆は、最近リリースされたGoogle MapのInstagram版とも言える「地図検索機能」からも強く出ている。この地図検索機能は、現在地に近い飲食店などのスポットがInstagramの地図上で画像表示されるものだ。

今までInstagramでは店舗名の検索しかできなかったが、この機能によって目的地まで地図を開きながら辿り着ける。現在地の確認、目的地の検索の場面では、この地図検索機能が主体的な検索エンジンとして活用されることが予測される。

さらに、海外では試験的に運用されているサジェスト機能もある。Instagramのサジェスト機能とは、ウェブ検索のように検索時にキーワード候補が表示されるものだ。これらはすべて検索エンジンとしての活用を念頭においたアップデートを言えるだろう。

そしてInstagramが検索エンジンとして発展していくに連れて、検索結果の画面に多くの動画コンテンツが表示されるようになるのではないだろうか。

企業が動画制作で意識すべきは「滞在時間」

今回の発表を受け、Instagramのアカウント運用者は今後「リール」を強化していく流れになっていくだろう。リールはリコメンド機能のページにおける露出も大きく、通常の画像投稿以上に新しいユーザーを獲得できる可能性を秘めた機能になっている。

そもそも動画という媒体自体、商材の訴求として実際の使用感を発信する際に最も適したフォーマットでもある。そのため、アパレルのアカウントであれば着用時のサイズ感、食料品であれば調理法、店舗であれば広さ、また、化粧品の場合はテクスチャーなど使用感をよりリアルに訴求できる強みを持つ。

じっくりアイテムを閲覧し、時間をかけて詳細を比較・検討することに適している静止画と、実際の使用感を把握できる動画での訴求を組み合わせることで、より多様な角度で商材の魅力を発信することができるようになる。

今後、アップデートによってリールが各ユーザーのフィードにフルスクリーンで表示されるようになれば、リールの露出機会は必然的に高まり、今よりもリールを視聴するユーザーが増える可能性が高くなる。Instagram運用に注力したい企業は、今以上にリール、すなわち短尺動画に適したコンテンツ作成に注力することが求められるようになるはずだ。

動画というフォーマットで自社のプロダクトやサービスの魅力を、いかにトレンドに乗りつつ適切な形で伝えていくのか。リールではそうした企画設計や撮影方法が大切なポイントとなってくる。こうしたリール運用のポイントに関して、筆者が自社で運用している女性メディア「Sucle(シュクレ)」でのリール運用から見えてきたことは「コンテンツにおける滞在時間が重要になっている」ということだ。

リールをタブの画面からなるべく多くの人に表示させるためには、動画に対するユーザー評価を上げることが必要であり、その評価軸には滞在時間が大きく影響している。

Sucleの場合、下記のように動画のエンディングをあえて明記させず、最初と最後のクリティブをできるだけ似せるような工夫をしたことで、4つのアカウントで制作した合計350本のリールの再生回数は、のべ6000万回を記録した。

繰り返し再生されるリールの特徴を活かし、ユーザーが何度も見てしまう動画づくりを徹底しているのだ。

リールに対するプラットフォーム側の期待は高い。2021年5月のアップデートでは、ようやくインサイトデータが見れるようになり、その直後の2021年6月にはついにリールにおける広告配信も開始している。

以前よりも定量部分での計画が立てやすくなっていることからも、Instagramがプラットフォームとして、アカウント運用者による本格的なリール活用を促していることが伝わってくる。今後、企業のマーケティング活動の側面からも動画活用の機会は増えていきそうだ。

動画注力の方針を掲げたInstagram。TikTokが若者を中心に受け入れられている中、サービスとして、どのような進化を見せていくのだろうか。