Photo:Anchiy /gettyimages
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  • もうかるビジネスを追い求めた末にたどり着いた「トクポチ」
  • 「3分の1ルール」を是正しても解決しない食品廃棄問題
  • 食品ロス削減だけではない、「トクポチ」が実現したい世界

食べ残しや売れ残り、賞味期限が近い──こうした理由から、本来食べられるのにもかかわらず食品が廃棄されてしまう“食品ロス”という問題。

農林水産省が今年の4月に発表した「平成30年度の食品ロス量推計値」によれば、日本の食品ロスの量は1年間で600万トンとなっている。この量は、国連世界食糧計画(WFP)が1年で世界中に行っている食品援助量の1.5倍だ。

全世界が解決すべき共通の課題としても知られている食品ロス。「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」の目標12「つくる責任とつかう責任」として取り上げられており、具体的な目標として2030年までに世界全体の1人当たりの食料の廃棄半減と、生産・サプライチェーンにおける食品の損失の減少が掲げられている。

そうした目標の実現に向け、“賞味期限が残っているのに廃棄されている商品”を扱うことで食品ロス問題の解決に取り組んでいるのが「トクポチ」だ。

すべての画像提供:STRK
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トクポチは「賞味期限間近」などのワケあり商品をお値打ち価格で販売している会員制の通販サイト(一般会員は月額130円、プレミアム会員は月額330円)。基本的に市価(市場で出回っている価格)の60%オフから商品を販売し、発売から1カ月経過した商品については「価格0円」で販売する仕組みになっている。このトクポチの仕組みはどのようにして実現したのか。以下は、運営元であるSTRK代表取締役の「我時朗」こと佐藤隆史朗氏のコラムだ。

もうかるビジネスを追い求めた末にたどり着いた「トクポチ」

筆者は大手コンサルティングファームにてネットショップ専門の経営コンサルティングを行う部署の責任者を務めていた。当時、さまざまなネットショップの商材選定から仕入れ開拓用の資料作成、場合によっては一緒に仕入れ先の開拓に同行するなど、クライアントの業績アップにつながることであれば、何でもやった。

そうした仕事を通じてわかったのは、毎月自社の数字分析し、真剣に今後の方向性を見直して事業のPDCAを回している会社は恐らく全体の2%程度だということ。ほとんどの会社は日頃の日常業務に追われており、実際に数字を分析することまでは出来ていない。

その中で筆者は各クライアントの月1回の経営会議に参加していたこともあり、どうすればさらにもうかるのかを毎日事考えていた。それもあってか、クライアントの業績はおおむね上がるようになり、個人的にはとてもやりがいを感じていた。

ただ、いかにもうかるかを考え続けていた反動からなのか、ある時を境に“もうかりづらい”ビジネスについて興味を持つようになった。

もうかりづらいビジネスを考えている末にたどり着いたのが「トクポチ」だった。トクポチは食品流通の過程で出てしまう、まだ食べられるのに廃棄されている食品を安く購入できる通販サイトだ。このサイトのポイントは市価(一般市場で流通している価格)の60%オフから販売を行い、発売から1週間ごとに価格が10%ずつ安くなっていくので、4週間後には商品代金は“無料”で販売される(別途、送料は発生する)。

このビジネスを成立させるための1番のポイントは、仕入先に当たる食品メーカー、卸業者、小売店から中間流通のマージンを一切もらわないという点にある。運営費はユーザーから頂く月額の会員費のみでまかなう。

トクポチの唯一の収入源である月額会員費も一般価格の130円とプレミアム価格の330円の2種類しかなく、多くの人から「こんな安い会員費ではもうからない。普通に月額500円や1000円でも十分人は集まると思いますよ」と言われた。

確かに月額会員費を500円や1000円に設定した方が経営はしやすいと思う。しかし、その価格で集まった会員数で本当にフードロスが削減に近づくのかどうかは個人的に疑問が残る。

農林水産省の発表によれば、日本でまだ食べられるのに廃棄されている食品は約600万トン。1人当たりに換算すると年間50kg。メーカー、卸、小売店の食品流通から廃棄されているだけでも約90万トン以上。これだけの量をすべては無理であったとしても、インパクトがある量の食品ロス削減を行うには少なくても1000万人の会員は必要だ。

もうかるか、もうからないではなく、会員1000万人を集めて、フードロス削減に一定のインパクトを与える。その視点で考えた結果、この会員費にたどり着いたのだ。

「3分の1ルール」を是正しても解決しない食品廃棄問題

また、食品ロス問題については5年ほど前から耳にしており気にはなっていたが、実際に調べてみて衝撃を受けたのがこの「3分の1ルール」だ。

3分の1ルールとは、食品メーカーとスーパーなどの小売店の間に存在している商習慣。お菓子や飲み物といった食品には「おいしく食べられる目安の期間」として賞味期限が設定されているが、賞味期限が残り3分の1となる前に、卸業者が小売店に納品しなければならないというもの。決して法律で定められたものではない。

たとえば、賞味期限が6カ月の商品の場合、賞味期限が残り2カ月を切るまでに卸業者は、スーパーなどの小売店に納入しなければならないことになる。

この3分の1ルールに関しては、すでに業界でも問題にしているようで、賞味期限を2分の1にするなど緩和しようと動きは取られている。しかし、この根本的な問題は期間の長い短いではなく、在庫を切らさないために余剰在庫を抱えていることにある。

この期間を2分の1に緩和しても、おそらく食品の廃棄量は大きくは減らないだろう。だからこそ、その食品の行き先が必要なのだ。

食品業界の衝撃的な商習慣を知ったことから、筆者の食品流通に対するヒアリングが始まった。経営としては厳しい業界だとは予想していたが、実態は私の予想を遥かに超えていた。

通常、卸売業の営業利益率は1〜3%が業種を問わない平均値だと思う。しかし、食品卸は自社で直販部門(業務スーパー)などを持っている企業でやっと営業利益率は1%程度。このような直販機能を持たない会社は0.3〜0.5%の企業もいると聞く。また、小売店への直接取引をしているメーカーの社長によると、販売力があり条件が厳しい小売店は一度販売した商品の30%が売れ残りとして返ってきてしまうという。

このような話をしてくれた多くの食品流通業の社長の中でも特に熱量の高い人たちは「これは競合に当たる企業のリストですが、関係ありません。業界のために動いて欲しいので、このリストから順番にトクポチのサービスを紹介してあげて下さい」とリストを私に渡してくれた。

この言葉を聞くまでは、食品ロスを削減するためのビジネスは世の中にインパクトを与えられて面白いのではないか、という自分のワクワクする感情だけで動いていた。ただ、この言葉を聞いたことで自分の中で「食品ロスの削減を成し遂げなければいけない」という強い思いが込み上げてきたのを今でも忘れない。

食品ロス削減だけではない、「トクポチ」が実現したい世界

トクポチでは、賞味期限が残っているのに廃棄されている商品を扱うことで「低価格」や「最大0円」での販売を実現し、食品ロスの削減に貢献していきたいと思っている。

また、食品ロスの削減だけでなく、トクポチの提供を通じて、より多くの人が「クリエイティブなこと」に向き合う時間を増やしていきたい。人は働き続けなければ食いっぱぐれるのではないか、という恐怖感によって働いている部分は少なからずあると思っている。

特にコロナ禍で突然仕事がなくなり、その恐怖感はより顕在化したように思う。そんな人たちに対して、トクポチは月額130円と送料1300円程度を払えば約10kgの食品が手に入る仕組みを構築することで、食いっぱぐれることはない“安心感”を提供する。それにより、多くの人がクリエイティブなことに自分の時間を使って貰えればと思う。

人の時間は平等で1日24時間。その内、約8時間を睡眠に使い、約8時間を仕事を行うと、自由に使える時間は残りの8時間だけ。しかし、この3分1を占める仕事の時間が、音楽やアートなど自分が好きなことと思える楽しい時間に変えられれば、自分の人生の時間は60年に倍増することになる。もちろん、自分の好きなことを仕事にできるほどのスキルを磨くには、膨大な時間を必要だ。

ただ、このスキルを磨く時間を邪魔する1つの要因が、「食いっぱぐれるかもしれない」という恐怖心だ。それをなくす手伝いがトクポチを通して実現できればと思う。よりクリエイティブな世界が、日本から生まれる事を夢見て、そんなワクワクする世界つくれたら……と妄想しながらつくったのが、このトクポチだ。

まずは、筆者ががトクポチを利用し、クリエイティブな時間に満たされることによって、上記のような夢物語を体現したいと思っている。

STRK代表取締役 我時朗(がじろう)こと佐藤隆史朗
コンサルティングファームにて6年間勤務。 在籍中は主にネットを活用した業績アップにて メーカー・卸・小売店の業績アップに携わり、これまでに携わった会社の業績は月商ベースにて6億円以上に上がった。特徴的な所は、ネットの技術面のノウハウだけにとどまらず、 事業戦略や商材選定、仕入先の開拓、卸先の開拓と 多岐に渡る範囲でクライアントに提案できるところ。これらの経験が今回のトクポチという事業に対して大きく寄与している。