
- 「板金加工品」から「調達一式」を任せられる会社に変化
- CADDiが“マッチングプラットフォーム”ではないと言い切る理由
- 図面解析のシステムをパッケージソフトとして外部に販売
米中貿易摩擦の激化や新型コロナウイルスの感染拡大──さまざまな外的要因によって、サプライチェーン(供給網)の見直し、調達業務のオンライン化に取り組む製造業の数が増えている。テクノ・システム・リサーチの調査によれば、オンライン機械部品調達サービス市場は2020年時点で利用ユーザー数が9万3400件増加、前年比153%で成長しているという。
そうしたニーズの高まりを受け、成長を遂げているのが製造業の受発注プラットフォーム「CADDi(キャディ)」を提供するキャディだ。
CADDiは独自開発の原価計算アルゴリズムをもとにした自動見積もりシステムによって、メーカーが希望する品質・納期・価格に最も適合する加工会社を選定してくれるサービス。メーカー(発注者側)はこれを使うことで、従来何週間もかかっていた相見積もりの負担や複数サプライヤーの管理工数を削減でき、最適なサプライチェーンが構築できる。
一方の加工会社は受注率約2割の相見積もり作成作業や定常的な価格低減の交渉、一社(一業界)への売上依存体質による売り上げの不安定化といった課題が解決できる。
発注者側の利用企業は全国約1600社(2021年5月現在)を突破しているほか、提携加工会社は600社以上という規模になっている。キャディ代表取締役の加藤勇志郎氏は「直近のCADDiの受注高は昨対比で約6倍に成長している」と語る。
成長スピードをさらに加速させるべく、キャディは大型調達に踏み切った。キャディは8月24日、既存投資家のグロービス・キャピタル・パートナーズ、WiL、DCM Ventures、グローバル・ブレインに加え、新たに海外投資家のDST Globalのパートナー陣やArena Holdings、Minerva Growth Partners、Tybourne Capital Managementなどを引受先として総額80.3億円の資金調達を実施した。今回の増資により、同社の累計調達額は99.3億円となった。
また、キャディによれば今回の資金調達に合わせて三井住友銀行、三菱UFJ銀行、みずほ銀行から25億円の追加融資枠も確保しているという。調達した資金は、グローバルも含めた人材採用やCADDiの開発、そして新規事業開発の投資に充てる予定とのことだ。
「板金加工品」から「調達一式」を任せられる会社に変化
キャディの創業は2017年11月。当初は板金加工品の取り扱いをメインにスタートしたが、提携加工会社の増加に併せて対応領域も拡大。切削加工や機械加工、製缶加工にも対応しているほか、2020年9月には装置一式での組立対応を開始している。
また、同年12月には水処理や食品、化学、半導体などのプラント工場設備一式の調達支援も開始。2021年5月には静機器を中心とした設計支援もスタートさせたことで、プラント設備の設計から調達までワンストップでの支援を開始した。
「板金加工品から始まり、この1年半でプラント設備の設計から調達までを一式で取り組める規模感になりました。板金加工品や切削加工品を頼める会社から、調達一式を依頼できる会社になったことは、キャディにとって非常に大きな変化です」(加藤氏)
具体的には、昔は調達の担当者と月10万円ほどの取引をすることがメインだったが、調達一式を依頼できるようになったことで、今では経営者と直接話をし、それが取引につながる機会が増加。億単位の案件が毎月入るようになっているという。加藤氏は「経営者から『1〜3年ほどのスパンですべての調達をCADDiに任せたい』と言ってもらえるようになってきた」と語る。
「製造業において、調達にかかるコストは売上の約6割を占めています。ここのコストが5%下がれば、営業利益は倍になるくらいに調達コストの比重が大きい。だからこそキャディは、調達そのものを改革していく会社として認められました。今では装置・プラントメーカーからは『経営パートナー』として取引してもらえています」(加藤氏)
CADDiが“マッチングプラットフォーム”ではないと言い切る理由
自動見積もりシステムによって、メーカーが希望する品質・納期・価格に最も適合する加工会社を選定する──ここだけ切り取ると、CADDiはメーカーと加工会社をつなげる“マッチングプラットフォーム”のように見えるが、加藤氏は「そうではない」と語る。
「CADDiは受発注のプラットフォームでありながら、メーカーと加工会社をつなげるだけでなく、ファブレスメーカーのような立ち位置で取引の中に入って図面を変換して品質不良を起こさないようにするほか、仕上がった部品の品質検査から納品までの責任を負うことで、製造コストや取引コストが下がりやすい構造にしています」
「単に『A社をB社にマッチングします』というだけでなく、調達業務の一連の工程をCADDiが代行している点が、他にはない価値なのかなと思っています」(加藤氏)
例えば、キャディは品質管理の設備に1億円を投資。関東品質管理センターを2.8倍に増床したほか、関西支社兼品質管理センターを6.6倍に増床している。品質管理センター内の人員や平均検査点数を大幅に増加したことで、品質管理・検査技術の向上を図っている。

「品質感管理センターで基本的に品質不良品は弾くことができますが、本質的に品質不良品は弾くコスト効率の観点からはあまり好ましくない」と加藤氏は語る。そのため、キャディはそもそも品質不良品を出さないように、図面データの解析・蓄積と各加工会社の強みを細かく把握することにも力を入れているという。
「“品質”と一言で言っても、それぞれの会社で品質の基準は異なります。例えば、トヨタをずっと担当している加工会社にパナソニックの製品の図面を渡しても品質不良なく対応できるかどうかは分かりません。そもそも図面には書かれていないこと、曖昧に表現されていることが多くあるんです。発注者ごとの暗黙知で成り立っている部分が大きいため、トヨタではOKのものが、パナソニックでは品質不良と言われてしまうこともあるんです。会社ごとに品質の裏にある意味合いが異なるので、キャディではどんな図面で、どういった箇所で、どんな加工会社で不良が起きたのか、そのデータをひたすら溜めています」(加藤氏)
実際、独自に開発した図面解析アルゴリズム(特許出願済み)をもとに、図面そのものを分かりやすく翻訳する仕組みを用意している。また、「この図面はこういう加工会社にお願いしよう」といった発注先の選定ができるように、600社以上の加工会社の原価テーブルや得意分野といった情報のデータベースも構築している。
「サービスをリリースした頃と比較して、今では加工会社でのCADDiの認知度は(体感的に)相当上がっていて、CADDiのことを知らない比率が下がっています」(加藤氏)
また、加藤氏によれば提携加工会社の中には昨対比5倍の売り上げを記録している会社もあるとのこと。そうした実績も業界内で着実に認知されるようになり、今では加工会社を通じて新たな加工会社を紹介してもらえているという。

キャディの競合サービスとして、ミスミが展開するオンライン機械部品調達サービス「meviy」が挙げられるが、「meviyはどちらかと言えば設計者向けのサービス」(加藤氏)とのことで、“短納期”がウリとなっている。一方のCADDiは調達者にフォーカスを当てており、サービスとしての軸足が少し異なる。
「調達者は部品が早く届くことよりも、コストが削減でき、(納期も含めた)品質が安定していることが重要です。キャディのように調達一式を依頼でき、なおかつコストの削減、品質の安定化に取り組んでいる企業はグローバルも含めてほぼいないと思います」(加藤氏)
図面解析のシステムをパッケージソフトとして外部に販売
「“180兆円市場”と言われる製造業の中で、部品調達は120兆円の規模があると言われています。これだけ大きな市場規模の中で私たちのようなオンライン機械部品調達サービスのプレーヤーが市場で占めている割合はわずか0.1%にも満たない。まだまだ変えていける部分は多くあります」(加藤氏)
こう加藤氏が語るように、キャディは今回調達した約80億円の資金をもとに、まずはCADDiで対応する業界・製品の拡大、グローバル展開に取り組んでいく。
「業界に関して、すでにプラント系はスタートしていますが、それ以外にも航空宇宙や医療機器・発電機などの業界にもサービスを展開していければと思っています。そして、グローバル展開は今後1年以内にスタートさせる予定でいます」(加藤氏)

また、これまでの受発注のオペレーションを通じて、メーカーや加工会社から「キャディが社内に持つシステムをパッケージとして販売してほしい」という声が増えてきていることから、キャディは新規事業として図面解析などのシステムの販売も行っていく。現在、クローズドベータ版で提供を始めており、価値検証を行っているフェーズだという。
「部品の設計者は3DのCADデータでやり取りをしてるのですが、部品の調達者は紙や二次元のCADデータでやり取りをしている人の割合が99%です。従来、この解析は技術的に難しかったのですが、それをキャディは独自に開発しました。そこに対するニーズが強くなってきているので、プロダクトとして販売することにしました」(加藤氏)
創業から3年強。板金加工品の受発注からスタートした会社は、今やメーカーの調達コストを最適化するための仕組みとして着実に受け入れられ始めている。
「CADDiを使うと品質も良く、コストも削減でき、業務の手離れも良い。この状態を構築し、メーカーが抱える課題全体を解決していくことで、2030年までに1兆円規模のグローバルプラットフォームになることを目指していきます」(加藤氏)