
- K-POP業界が日本人コレオグラファーに依頼する理由
- 依頼はメール、4日間で考えた「振り付け」の裏側
- ボーダレスに活躍するために大事な「発信力」と「はじめの一歩」
人気アイドルグループ「BTS(防弾少年団)」の大ヒットなどを筆頭に、今やグローバルでひとつのカテゴリーとして認知され、支持を集めているK-POP。そのK-POP躍進の裏では日本人クリエイターの存在も大きく関わっている。
韓国の男性アイドルグループ「NCT U」の楽曲「Make A Wish(Birthday Song)」の振り付けを担当したのは、弱冠20歳の日本人ダンサー・コレオグラファー(振付師)のReiNaさんだ。彼女が振り付けを担当したMake A WishのMV(ミュージックビデオ)のYouTubeでの総再生回数は2.1億回(2021年9月3日時点)を記録している。
そんなReiNaさんのダンサー・コレオグラファーのキャリアには“SNS”が大きく関係している。彼女がInstagramに投稿していたダンス動画がきっかけとなり、Make A Wishの振り付けのほか、韓国の芸能事務所・JYPエンターテインメントに所属する男性アイドルグループ・Stray Kidsの「Back Door」という曲の振り付けの仕事が舞い込んできた。また、コロナ前は海外でダンスのワークショップなども開催していた。
日本発のダンスのプロリーグ「D.LEAGUE」の初代優勝チーム「avex ROYALBRATS」の元メンバーとしても活躍したReiNaさん。そんな彼女が考えるSNS時代のキャリア論、そしてダンスのあり方について話を聞いた。
K-POP業界が日本人コレオグラファーに依頼する理由
──ReiNaさんが生まれて初めて「他人のために」振り付けを考えたのはいつですか。
たしか、中学2〜3年生あたりだったと思います。当時通っていた地元のダンスサークルで、子供たちのために振り付けを考えたのが最初でした。それまでは、ただ自分が踊ればいいプレーヤーという立場でした。ある意味、先生から教えられた通り動けばよくて。手の角度はこうすればいいんだ、とシンプルだったんですよね。
でも他人に教えるとなると、思うようにいかなくて……。自分が伝えたいもの、表現したいと思っていることがあるのに、それが上手に伝えられない。相手のせいではなく自分の教え方が悪いせいなんだ、と不甲斐なくてモヤモヤしました。その反面、自分が考えたダンスの振りを誰かが踊ってくれる喜びもあり、そのときにダンサーとは違う、コレオグラファーとしてのやりがい、面白さを見つけることができたと思います。
──ReiNaさんの師匠でもあるRIEHATAさん(BTSやEXO、TWICEなど曲の振り付けを担当)や仲宗根 梨乃さん(SHINeeや少女時代、東方神起などの曲の振り付けを担当)も人気K-POPアイドルグループのコレオグラファーとして活躍されています。日本人の振り付けがK-POPから支持される理由はどこにあると思いますか。
日本人だから、というよりもその人たちのダンスや振り付けが(個性的で)光っていたから、というのが大前提としてあると思います。私も含め、スタイルはそれぞれ違いますよね。たまたま、採用されたのが日本人だっただけ。
その一方で、確かに日本という土壌で育ったダンサーならではの強みや色はあるかもしれません。海外から見た日本はアニメなどを筆頭に、どこか“好奇”で独特なブランドがある部分は否めません。海外のスタイルやトレンドを取り入れていきつつ(日本っぽさが残る)自分のスタイルは貫きたいですね。それはK-POPにも同じことが言えると思っています。

K-POPもまた、K-POPだからこそ出せる魅力があると感じています。BTSがアメリカのビルボードで1位になったのは、同じアジア人として嬉しかったです。
私たち日本人が洋楽やK-POPを聴くように、音楽には境界線がありません。音楽はお互いの文化を尊重し合い、それを繋ぐ架け橋なんだと思います。BTS以外にもどんどんK-POPアーティストが海外進出していますが、「韓国らしさ」は失わないでほしいな、と思いながら見ています。もちろん、アメリカの音楽はダンスやMVの作り方ひとつ取っても先進的だと思いますし、インスピレーションを与えてくれます。
アメリカの音楽にはその国の良いところがあって、K-POPにはK-POPの良いところがある。だからこそK-POPにはK-POPの色を持ち続けて欲しい、と思っています。
──ダンサー・コレオグラファーとして見たK-POPの魅力について教えてください。
ダンスの土台、基礎がしっかりしている。K-POPアイドルはデビューするまでの下積み期間(練習生時代)が長く、それゆえにダンスのスキルも高いんです。実際、自分が振り付けしたダンスを踊ってもらったときも、私の伝えたいことをちゃんと受け取って表現してくれて、スキルの高さに驚きました。厳しい練習とさまざまな経験を経て培われたスキルと表現力。これがK-POPの魅力ではないでしょうか。
依頼はメール、4日間で考えた「振り付け」の裏側
──ちなみに、振り付けを担当するまでK-POPの存在は知っていましたか。
それが実は……それまでK-POPについてあまり知らなかったんです(笑)。姉はもともとK-POPのファンなのですが、私はクリス・ブラウンやリアーナ、そしてちょっと昔のTLCなど、ずっと洋楽を聴いていました。ただ、振り付けの仕事をいただくようになってから、K-POPについてたくさん調べたり、聞くようになりました。
──K-POPアイドルのダンスを振り付けする仕事は、Stray KidsのBack Doorが最初で、依頼はメールで来たと聞きました。
いきなりメールが送られてきたので、最初は「本当にJYPなのかな?」と疑っていました(笑)。ただ、調べたら本物でした。Make a Wishの振り付けもNCT Uの事務所であるSMエンターテインメントからメールでオファーをもらったんです。
そのメールに書かれていた締め切りは4日後だったのですが、K-POPのダンスの振り付けは2回目だったので、「これは頑張るしかない!」と思い引き受けました。
(コロナ禍で)韓国に行けない代わりに「ダミー」と呼ばれる見本映像を送ることになったのですが、最初の1日は家で大まかな振り付けを考え、2日目には一緒に踊ってもらうダンサーに振りを教え、3日目も練習と調整、そして撮影という流れでした。
──振り付けを考えるのはたった1日なんですね。
家ではサビとかポイントとなるところだけ決めます。構成や細かい部分は実際に踊りながら考えます。もっとこうしたほうがカッコいいな、といったように都度修正していきます。
──締め切りもそうだと思いますが、他に仕事をする上で戸惑ったことや、ハプニングなどはあったんですか。
ハプニングではないですが、最後の最後で曲や歌詞の一部が変わる、ということはありました。そのため、ダンスも変更内容に合わせて変える必要がありました。
ただ、それに関しては「わかった、OK!」という感じでした。なぜなら、最後の最後に変更する気持ちがよく理解できるからです。曲にしても、ダンスにしても最高のクオリティを追求するためにギリギリまで諦めずに考え抜き、結果的に変えるという判断は共感できます。全くマイナスなことではないですよね。妥協したくないのは私も同じです。
──K-POPは1つの曲の中でテンポや曲調がガラッと変わる部分が多々あるかと思います。振り付けを考えるにあたって、そこは難しい点ですか。
振り付けを考える上で、曲の展開が多い方がさらに面白いですね。単調だとつまんなくなっちゃうんです。だからこそ、曲に“波”があるK-POPは振り付けを考えやすいです。
──振り付けを考える際に、何を一番大事にしていますか。
アイドルグループの場合は「キャッチーさ」と「踊りやすさ」です。画面越しや舞台で見たときにインパクトがあって、印象に残りやすいこと。そして次に外せないのが実際に踊りやすい流れであるかどうかです。この“流れ”を作るときに、これまで私がダンサーとして「フリースタイル」で踊ってきた経験が生きています。
実は頭で考えた振り付けの通りに踊っても、なんだかしっくりこない時があるんです。それは動きの流れがスムーズではない証拠。そんな時は一度フリースタイルで踊ってみると、どんな流れで踊ると自然に動けるか分かるんです。
音から感じたものをそのまま瞬発的に表現する手法なので、動きに無理がない。だからこそ、振り付けの「流れ」はフリースタイルで踊ってみた時の感覚を優先します。アーティストさんにとっても踊りやすい振り付けであることは大事ですから。

ボーダレスに活躍するために大事な「発信力」と「はじめの一歩」
──ReiNaさんはダンス動画の投稿など、SNSでも積極的に発信されています。
私は中学1年生のときからInstagramを使ってダンス動画などを投稿しています。それもあってか、海外からの仕事オファーはほとんどがInstagramのDM(ダイレクトメッセージ)経由です。日本のほぼ真裏に位置するブラジルから仕事の依頼がDMで来た時はビックリしました。
そのほかアメリカ、ギリシャ、メキシコ、フィリピンや韓国など計15カ国は仕事で行きましたね。ダンスの本場・アメリカでの積極的な活動や情報収集も大事ですが、日本からSNSを通じて発信していくことも大切だなと感じています。
──ちなみに最近はTikTokに投稿したダンス動画がバズり、それがキャリアに繋がっていくこともあると思うのですが、それについてはどう考えていますか。
同じダンス動画でも、TikTokとInstagramでは使い方とバズる内容が全然違う気がします。例えば、TikTokでは「上手なダンス」を載せてもあまりウケません。それよりも、ダンス未経験者でも真似して踊れるキャッチーさや、見ていて楽しいものが好まれますよね。そういったようにSNSも使い分けが必要なのかなと思います。
──またNCTやTWICE、Treasureなど日本人メンバーが所属するK-POPアイドルグループの存在も珍しくなくなってきました。その日本人メンバーやReiNaさんのようにグローバルに活躍できる人の共通点はなんだと思いますか。
「行動力」だと思っています。私自身、これまでを振り返ってみると思い切って実海外に出てみるなど、一歩踏み出してみることが重要だっただなと感じます。頭で考えて「こうしよう」と決意するのは誰でもできる。でも、実際に行動に移せるかというと案外難しいもの。
だからこそ、世界を相手に活躍できる人は、その「はじめの一歩」を踏み出して線を越えられる人だと思うんです。オーディションも受けるだけで緊張するし、不安だらけです。さらにそれが韓国など異国のオーディションであれば……なおさらですよね。
ただ、私はもし目の前に複数の選択肢がある時は「厳しい道」を選ぶようにしているんです。それを続けてきたからこそ将来のの可能性が広がっていき、「ここまで来れた」という思いもあります。だからこそ、今何か目標があって頑張りたい人には「失敗してもいいから、とりあえず一歩踏み出してほしい」と伝えたいです。
──最後にReiNaさんのダンスが支持される理由は何だと思いますか。
自分ではまだ「コレだ」と言えないんですが……。ただ、いろんな人から「楽しさが伝わるダンス」と言っていただくことが増えました。年上のダンサーたちにも「ReiNaのダンスを見てると、自分が踊ってるような気分になる」と言ってもらえます。
その言葉を聞くと、「自分のダンスは誰かをハッピーな気分にできるのかも」と少しだけ思うこともあります。だからこそ、私はこれからも日本中、世界中のたくさんの人へダンスを通して“ハッピー”と”元気“を届けていきたいと思っています。

ReiNa ダンサー・コレオグラファー2001年生まれ、東京都出身。ダンスプロリーグ『D.LEAGUE』の初代優勝チーム「avex ROYALBRATS」の元メンバー。ダンサーとしての活動に加え、コレオグラファーとしても高く評価されている。K-POPではStray Kidsの「Back Door」、NCT Uの「Make a Wish」の振り付けを担当。