左からYanekaraで代表取締役COOを務める吉岡大地氏、代表取締役CEOを務める松藤圭亮氏
左からYanekaraで代表取締役COOを務める吉岡大地氏、代表取締役CEOを務める松藤圭亮氏
  • 眠っているEVのバッテリーを有効活用する「充放電システム」
  • 元旦の電話をきっかけにチーム発足、“屋根から自然エネルギー100%の未来を創る”

20代前半の学生たちが、次世代に向けて「屋根から自然エネルギー100%の未来を創る」ことを目標に立ち上げたスタートアップがある。複数台の電気自動車(EV)をエネルギーストレージとして有効活用するための“充放電システム”を手がけるYanekaraだ。

同社は現在も東京大学大学院工学系研究科に在籍中の松藤圭亮氏(代表取締役CEO)と佐藤浩太郎氏(取締役CTO)、そして独フライブルク大学に在籍中の吉岡大地氏(代表取締役COO)の3人が2020年6月に立ち上げた。

「自分たちの世代はこれから気候変動の影響をまともに受けることになります。自ら作り出した技術やソリューションを通じて、この問題を解決していきたい。それによって自然エネルギー100%の日本を実現したい。そのような思いから始まったチームです」

23歳の吉岡氏は、2019年に研究開発プロジェクトとしてYanekaraを始めた背景をそのように振り返る。

眠っているEVのバッテリーを有効活用する「充放電システム」

Yanekaraが目指す「自然エネルギー100%社会」を実現する上では、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーを大量に導入していく必要がある。その際にポイントになるのが、発電量と電力需要量とのズレを埋める「調整力」だ。

再生可能エネルギーからの発電量は変動しやすいからこそ、需要と供給のバランスを取る調整力として火力発電などが重要な役割を担ってきた。

ただ、これからの時代はその調整力に関しても脱炭素化が求められるようになる。そこでYanekaraが着目したのが、普及が加速しているEVの中に眠っているバッテリーだ。EVを太陽光で走らせるだけでなく、EVが備える蓄電能力を電力の需給調整にも活用していく。それによって再生エネルギーを主力電源へと変えていきたいという。

駐車中のEVのバッテリーを有効活用するには充放電機器が必要になるが、従来の製品は高額であることなどがネックとなって普及が進んでこなかった。言わば「EVの中に、大きな蓄電池が活用されないまま眠ってしまっているような状態だった」(吉岡氏)。

現在Yanekaraは1基で“複数台のEV”を充放電できる機器と、EVを始めとした多数のエネルギーソースをクラウドで制御するためのシステムを並行して開発している。

同社の充放電器は屋根の上に設置した太陽光パネルからEVを直接・直流で充電するため、電力変換ロスが少なく充電効率が良い。また複数台のEVを制御できる仕様のため(既存の機器は1基で1台を制御するものが主流)、その分だけ1台あたりの導入コストを抑えられるのも特徴だ。

現在はプロトタイプの開発と実証実験を進めている段階だが、将来的にはこのシステムを物流企業や小売企業など複数台の車両を抱える企業に提供していく計画。クラウド上で電力の需要をうまく制御することでコスト削減(電気代や設備の保守点検費など)が見込めるほか、災害時にはEVを非常用電源として使うことで最低限の電気とモビリティーを賄える。

元旦の電話をきっかけにチーム発足、“屋根から自然エネルギー100%の未来を創る”

Yanekaraの取り組みは2019年の元旦、吉岡氏が松藤氏に電話で声をかけたことから始まっている。

「IPCCという国連の関連機関が出している気候変動に関するレポートなどを見ると、2030年までに大きな変化を生み出せなければ1.5度〜2度の気温上昇が現実になってしまうと書かれていました。自分たちは若い学生でできることは少ないかもしれないけれど、それでも何かやれることがあるはず。とにかく何か始めようと松藤に電話をかけました」(吉岡氏)

CO2の排出量という観点では、エネルギー業界から排出される量は少なくない。まずはここをなんとかしようと考えた。

エネルギーには大きく“電気”、“熱”、“交通”という3つの分野が存在する。中でも電気に関しては再々エネルギーの活用が徐々に進んでいるが、今後はこれに加えて交通(モビリティ)の分野においても脱炭素化が求められる。

普及が加速するEVを再生エネルギーで走らせる、それも大きな発電所で作ったエネルギーではなく屋根の上で作ったものを充電する仕組みを通じて、電気と交通を一気に脱炭素化させる──。そんなアイデアがYanekaraの原点にあるという。

2019年、まずは学生の研究開発プロジェクトというかたちでチームが始動。考案した「太陽光によるEV充電システム」の構想は、東京大学アントレプレナー道場のビジネスコンテストにおいて優秀賞も獲得した。

その後は本郷テックガレージを拠点にプロトタイプの開発に着手。2020年に未踏アドバンスト事業、2021年に東大IPC(東京大学協創プラットフォーム開発)のインキュベーションプログラムへ採択されるなど、さまざまなサポートも受けながら開発を続けてきた。

2020年に福岡で実施した実証実験ではEVが2回故障するなど課題も多く見つかったが、現在はそこで得られた知見も踏まえて改良版の開発に取り組む。今後の実証実験や量産への準備に向けて開発体制を強化するべく、東大IPC、ディープコア、エンジェル投資家などから5500万円の資金調達も実施した。

リソースの限られる少人数のスタートアップがハードウェアとクラウドシステムを並行で開発していくことは、決して簡単ではない。

加えてエネルギー業界が大きなプレーヤーによってルール作りが進んでいく構造になっているほか、新しい技術が社会全体に実装されるまでの時間がかかることもあって「大変なことも多く、難しい戦いであることは間違いないです」と吉岡氏は話す。

それでも「屋根から自然エネルギー100%の未来を創る」ことができれば、自分たちの理想とする社会の実現にもつながる。若い起業家たちによる挑戦はまだ始まったばかりだ。