N-Technologiesで代表取締役を務める白髭直樹氏
N-Technologies代表取締役の白髭直樹氏
  • 会社に届いた郵便物をオンライン上で管理
  • “郵便のための出社”不要に、総務のリモート化も推進

会社に届く郵便物を、“メールと同じように”ウェブ上で確認できるようにする──。そんなアイデアを形にしたクラウド郵便サービスの「atena」が事業を拡大している。

約1年前に法人向けのサービスとしてリニューアルして以降はIT企業を中心にさまざまな業界で利用が進み、直近半年で導入社数は約1.5倍に増えた。導入企業の1社であるZOZOではリモート環境でも紙の請求書の処理ができるようになり、作業時間が約100分の1以下に減少した例もあるという。

もともと運営元のN-Technologiesで代表取締役を務める白髭直樹氏が自ら抱えていた課題を解決する目的で、2020年5月に個人向けとしてサービスをローンチ。コロナ禍で「オンラインで郵便の管理をできるようにしたい」という法人からの問い合わせが殺到したこともあり、9月からは法人向けのサービスへと舵を切った。

この1年は主に機能拡充や細かいユーザビリティの改善に力を入れてきたが、今後はサービスの認知拡大に向けたマーケティングへの投資も進めていく計画。そのための資金として、千葉道場ファンドとCoral Capitalを引受先とする第三者割当増資およびみずほ銀行からの融資により約1億円を調達している。

会社に届いた郵便物をオンライン上で管理

冒頭で触れたように、atenaは会社に届く郵便を電子化してくれるサービスだ。

郵便物の回収方法は「オフィスの郵便ポストなどに届いたものをateneに回収してもらう」か、バーチャルオフィスなどと同じ要領で「atenaの住所を自社の住所として登録する」かの2パターン。郵便物は外見の写真とともに管理画面に登録され、メールやSlackなどのチャットツールに通知が届く。

あとは各郵便物ごとに「転送」「破棄」「スキャン」の中から適した処理方法を選ぶだけ。実物を手元で管理したい場合には転送してもらうこともできるし、デジタルデータとして管理しておきたければスキャンを依頼すればいい。

スキャンされた書類のイメージ
atenaにスキャンされた書類のイメージ

他サービスとの連携にも取り組んでおり、「sweeep」や「LayerX インボイス」との協業によって“アナログな請求書の受け取りから処理作業まで”をオンライン上で完結する仕組みも構築している。

atenaの利用料金は月額1万1000円から。受け取る郵便物の量による従量課金制となっている。

“郵便のための出社”不要に、総務のリモート化も推進

白髭氏の話によると、顧客のニーズは主に「郵便物の処理に関わる業務の効率化」と「リモートワークの推進」の2つだ。

前者に関しては特に“郵便物のための出社”が課題になっている企業が多いという。会社の方針で出社を減らさなければならない一方で、郵便物の処理には人手がかかる。結果として担当者の業務量が積み上がるという現状がある中で、atenaを活用すれば業務量の削減につながるほか、出社せずとも自宅から同じような作業ができるようにもなる。

上述したZOZOはまさにこの代表例だ。毎月同社では月末月初に届く数百通もの紙の請求書を、経理部のメンバーが2〜3日かけて処理をしていた。atena導入後は仕分、開封、スキャニング、会計システムへの取り込み、ファイリング、書庫保管といった一連の業務がなくなったため、作業時間は1時間以下に減ったという。

またコロナ禍においてはフルリモートワークやオフィス出社とリモートを組み合わせたハイブリッド出社を導入する企業が増え、フリーアドレス型への移行なども含めて新しい働き方が広がりつつある。それを後押しする目的でatenaが選ばれることも増えてきた。

「(担当者は)郵便物の置き場がなくなる中で新しいメール室の在り方を考えていく必要に迫られているほか、ハイブリッドとはいっても郵便物を受け取るために出社しなければならないという声を聞くこともあります。クラウドサインなどの電子契約サービスによってハンコを押すための出社はいらなくなったものの、まだ郵便は残っているという企業も多い。その最後の砦を崩していくような役割を期待されることも増えてきました」(白髭氏)

複数社にヒアリングをしてみると、一部の大企業からはアウトソースをせず郵便物を内部で管理したいという話も出た。そこで2020年11月からはatenaのソフトウェア部分のみを切り出した「atena Cloud」の提供も試験的にスタート。郵便物の整理や仕分けは顧客の社員が担い、その業務を支援するSaaSという位置付けで上場企業数社が活用しているという。

郵便物の処理をデジタル化するようなサービスに関しては、N-Technologiesの他にもスタートアップのトドケールやCandeeなど数社が取り組んでいる状況だ。ただ白髭氏も「そのようなサービスが存在すること自体を知らない人もまだまだ多いと実感しており、認知の拡大が今後の課題」だと話す。

今回調達した資金は組織体制の拡充と認知拡大のためのマーケティング活動に用いる方針で、それを通じて「郵便物に捉われない働き方を広げていきたい」(白髭氏)という。