
- コロナ禍で米国ユーザーは急増
- 2社の米国投資家が新規参加
- 調達した資金で米国展開を強化
海外投資家の存在感が増し、大型化するスタートアップの資金調達。今年に入ってからも、人事労務SaaSのSmartHRが156億円、塾・予備校向けのソリューションを開発するatama plusが51億円、製造業の受発注プラットフォームのキャディが80億円を、海外投資家が参加するラウンドで調達している。
フォースタートアップスが運営するスタートアップの情報プラットフォーム「STARTUP DB(スタートアップデータベース)」のデータによると、今年に入ってからは97社が10億円以上の資金調達を実施している。なおSTARTUP DBが9月15日に公開した「国内スタートアップ資金調達金額ランキング(2021年1-8月)」では、TBMが188億円でトップだが、9月に入ってからはSpiberが344億円を調達し上回った。そしてSpiberに次ぐ巨額の資金調達を成功させたのが、ニュースアプリ「SmartNews」を提供するスマートニュースだ。
9月15日、スマートニュースがシリーズFラウンドで251億円の資金調達を実施したことが明らかになった。第三者割当増資の引受先として、米国からはグロースキャピタルのPrinceville Capitalとクロスオーバー投資家のWoodline Partners、そしてシンガポールからは既存投資家のACA Investmentsが参加。国内からは、JICベンチャー・グロース・インベストメンツ、Green Co-Invest Investment、そして任天堂創業家の山内万丈氏が運用するファミリーオフィスのYamauchi-No.10 Family Officeが新規投資家として加わった。既存投資家のSMBCベンチャーキャピタルも追加で出資を行っている。
2019年(8月)には31億円の資金調達を実施し、時価総額10億ドル以上の未上場企業を指す“ユニコーン企業”の仲間入りを果たしたスマートニュース。それから約2年、同社の累計調達額は443億円となり、時価総額は2100億円以上だという。調達した資金をもとに、今後は米国展開をさらに加速させる予定だ。
コロナ禍で米国ユーザーは急増
スマートニュースにとって2020年は米国で飛躍的に成長した1年だった。感染者数などを表示する新型コロナウイルスの特設チャンネルを作ったところ、ユーザー数は急増。月間のアクティブユーザー数はコロナ前と比較して倍以上に増えたという。
また昨年には米大統領選挙が行われたため、「News From All Sides」という、スライダーを左(リベラル)右(コンサバティブ)に動かすことで、表示される政治ニュースが変わる機能がユーザーに重宝された。
今年に入ってからも9月8日に、ハリケーンに関する情報を配信する機能「Disaster Info Hub」を提供開始。スマートニュースは“情報インフラ”としての成長を目指し、今後もより多様なニーズを満たすための新機能を追加する予定だ。

「米国市場にフィットする新たな機能を開発し提供していきたい」と意気込むスマートニュース代表取締役会長兼社長の鈴木健氏に、資金調達の背景や今後の展開について話を聞いた。
2社の米国投資家が新規参加
──米国の投資家も参加しています。今回の資金調達はどのようなチームで行いましたか。
松本さん(経営企画・ファイナンス担当の松本哲哉氏)が率いるファイナンスのチームが日本と米国にいます。日米のメンバーが協力し、さまざまな投資家に会い、(引受先を)決めました。

シリーズBでAtomico(ロンドンに本社を置くヨーロッパのベンチャーキャピタル)から出資を受けた際には、創業者でSkypeの生みの親としても知られるニクラス・ゼンストローム氏に会いにロンドンまで行きました。今回のラウンドではコロナ禍だったため直接会わずとも話が進むことが多かったです。リモートでディスカッションを進めることができました。
想像より多くの投資家に興味を持っていただきましたが、我々のビジョンや戦略に100パーセント共感した投資家に入ってもらいました。
──海外投資家は“日本発”のスタートアップをどのように評価していますか。
グローバル視点の投資家は、“日本発”という点ではなく、日本と米国、それぞれの市場でどのようなプレゼンスを築いていて、どのように成長していけるのか、というところを見ています。
調達した資金で米国展開を強化
──調達した資金の用途は。
調達した資金は米国での事業拡大のために使っていきます。米国の人員は100名ほどですが、倍増させたいと思っています。米国市場にフィットした機能を開発し提供していきたい。主に健康や安全に関する情報の機能を追加していきたいと考えています。
去年は世界中で新型コロナウイルスの感染が拡大し、米国でも「コロナに関する情報を知りたい」という強いニーズが生まれました。結果、(米国版)SmartNewsの月間アクティブユーザー数は倍以上に増加しました。
健康や安全に関する情報には強いニーズがあります。(SmartNewsが評価されている)ローカルな情報の延長線上にあるニーズです。人の命を救う情報で公共性も高いので、今後もこのような機能を強化していきたいと思っています。例えば山火事に関する機能です。カリフォルニア州は山火事が多く、多くの方々が被害を受けています。
2019年に資金調達を実施した際に、グローバルな開発体制を構築しました。以降は米国で開発した機能を日本でも提供したり、その逆も可能になっています。そのため、米国向けに開発した健康や安全に関する機能を、日本でも提供する可能性はあります。
──コロナ禍でニュースアプリであるSmartNewsの役割は変わりましたか。
「読者に良質な情報を届けていく」という我々の役割は変わりません。一方で「新規感染者数」など、ユーザーが必要だと感じる情報はコロナ禍で変わったと言えます。
そしてNews From All Sidesのように、リベラルとコンサバティブがお互いの意見を知ることができる機能はより一層必要とされていると感じます。去年、大統領選挙の際には6つの州でユーザーインタビューを行いましたが、News From All Sidesは好評でした。
2024年には次の大統領選挙が行われるため、新機能を検討しているところです。政治的分極化の解決には長い時間軸で対応していく必要があります。分断が急激に回復するということは考え難いからです。
本質な問題は何なのかを理解するためにも、外部の識者を集めて勉強会を開くなど、3年後に向けて準備しているところです。
SmartNewsは元々、ユーザーの関心があるニュースを伝えていくアプリとして始まりました。私たちが挑戦していかなければならないのは、いかに興味や関心の幅を広げていくかという点です。今後は視野を広げるためのレコメンデーションエンジンを作っていきたいと考えています。社内では「パーソナライズドディスカバリー」と読んでおり、発見的な体験の提供を目指しています。
SNSでニュースを読む人が増えていますが、それではどうしても読むコンテンツが偏ってしまう。一方、SmartNewsでニュースを読めば、自分が欲しい情報に加えて、必要な情報も手に入る。人々にとって本当に必要な情報とは何かを考え、そのような情報を提供できるニュースアプリを目指します。News From All Sidesはその目標に向けての大きな一歩だったと思います。
──上場は視野にありますか。NASDAQ上場も検討されているのでしょうか。イグジット戦略は。
上場に関してはノーコメントです。
──2020年12月期は41.8億円の最終赤字でした。今後は広告以外のビジネス、例えば有料のサブスクリプション機能を導入するようなことを検討していますか。
子会社のスローニュースでは2月にサブスクリプションサービスの「SlowNews」を提供開始しました。月額1650円(税込)で、調査報道やノンフィクションが読めます。SlowNewsも今後強化していきたいサービスです。会社を分けた理由は、その方が社長の瀬尾さん(スローニュース代表取締役の瀬尾傑氏)が機動的に動けるからです。
サブスクリプションでなければ維持することが難しいコンテンツのエコシステムがあり、そのうちの1つが調査報道だと思います。もう一方で広告モデルでなければ届けられないコンテンツもあるため、その2つは共存していくのだと考えています。