グリーのメタバース事業の中核を担う「REALITY」。運営は100%子会社のREALITY
グリーのメタバース事業の中核を担う「REALITY」。運営は100%子会社のREALITY
  • スマホ1台でアバター配信可能なバーチャルコミュニティ
  • “人類総アバター化”の時代には、それを前提としたSNSが必要
  • “スマホだけで”アバターコミュニケーションができることが重要
  • アバターを自分自身であると感じてもらうための工夫
  • REALITYのゲームは、見ている人もゲーム体験の一部
  • 配信者率は約4割、海外ユーザーは全体の85%に
  • REALITYが見据える「メタバース」とは

今後2〜3年で100億円規模の事業投資を行い、グローバルで数億ユーザーを目指す──。ゲームやメディアを軸に複数の事業を展開してきたグリーが、次の柱として大きな期待を寄せているのが「メタバース」事業だ。

中核を担うのが100%子会社であるREALITY。同社が手掛ける「REALITY」は2018年8月にVTuberのライブ配信が視聴できるアプリとして産声を上げ、そこから現在の“アバターを用いたバーチャルライブ配信アプリ”へとアップデートを重ねてきた。そして8月、このREALITYを軸にメタバース領域で大規模な投資を行っていく方針を打ち出した。

メタバースの概念自体は90年代から存在していたものではあるが、再びスポットライトを浴びるようになってきている。

「フォートナイト」上で人気アーティストが行ったバーチャルライブで1000万人以上のユーザーが熱狂する、3000万本以上の販売台数を記録した「あつまれ どうぶつの森」で多くの人たちが仮想世界を楽しむ。こうした体験はこれからさらに広がっていくだろう。

今回のタイミングで自社の事業をメタバース事業と再定義したREALITYは、そもそもどのような思想で誕生したもので、これからどのような道を歩んでいくのか。同社代表取締役社長の荒木英士氏に聞いた。

スマホ1台でアバター配信可能なバーチャルコミュニティ

同社のプロダクト、REALITYはスマホ1台でアバターを作成し、その姿でライブ配信や他のユーザーとのコミュニケーションが楽しめるコミュニティアプリだ。

REALITYの特徴

2017年に事業を構想した時から「アバターを介してコミュニケーションをする、アバター版のFacebookやSNS」を意識していたと荒木氏が話すように、ユーザー同士が“アバターで交流するための場所”に必要な機能を1つ1つ追加してきた。

現在のREALITYには作成した3Dアバターをリアルタイムで動かしながらライブ配信をしたり、他のユーザーの配信を見ながらギフトやコメントを送ったりする機能はもちろん、チャットやオリジナルゲームなどさまざまな要素が詰め込まれているのが特徴だ。

またコミュニケーションを育むイベントなども頻繁に実施。たとえば夏にはREALITY上で「花火大会」を開催している。アバターが浴衣をまとい、他のユーザーと一緒に花火を見て、記念写真を撮る──。そんな現実さながらの体験がバーチャル空間で味わえるわけだ。

これまでにREALITYを介してアバターを用いたコミュニケーションを体験したユーザーは数百万人規模に上る。その対象は日本を超えて63の国と地域に広がっており、国外のユーザーが実に8割以上を占めるという。

REALITYで開催された花火大会の様子
REALITYで開催された花火大会の様子

“人類総アバター化”の時代には、それを前提としたSNSが必要

「シンギュラリティ」と「人類の総アバター化」。REALITYが生まれた背景には荒木氏のそのような考えが大きく影響している。

荒木氏が言うところのシンギュラリティとは、物理的な現実世界とデジタル世界で行われていることが極限まで混ざり合って統合された状態を指す。テクノロジーの進化によりさまざまなハードウェアやソフトウェアを自分の延長線上として扱えるようになり、人間の能力が飛躍的に向上していく。そのような未来に以前から関心を持っていたそうだ。

大きな転換点となったのは、2017年の暮れごろから翌年にかけて日本で「バーチャルYouTuber(VTuber)」のムーブメントが急速に広がったこと。これを見た荒木氏は「単なるYouTube上の面白コンテンツではなく、今後来たる新しいコミュニケーションの姿であり、彼ら彼女らはその先端的な事例にすぎないのではないか」と考えた。

現時点でも多くの人が普段からSNSを当たり前のように使い、チャットツールやオンライン会議サービスなどを駆使しながら仕事をしている。その中で自分のアイデンティティやペルソナが全て同じ人は珍しく、むしろ所属するネットワークやコミュニティに合わせてアイコンやニックネームなどを使い分けている人の方が多い。

それがVRやARが普及していった世界ではどのように変わるのか。アイコンやニックネームと同じような感覚で、誰もが普通にアバターを用いるようになる(人類の総アバター化)というのが荒木氏の見解だ。

「スマホやPCのような2Dの平面スクリーンから1人称視点の3D空間に舞台が変わると、多くの人は『アバターという体』を使ってコミュニケーションを取るようになると考えました。SNSのアイコンなどと同じように、所属するコミュニティや状況によって好きなアバターを使い分けながら、誰もがなりたい自分になって生きていく時代が来るはずだと」(荒木氏)

アバターを使うことが一般的になれば、今のSNSとは一味違った「アバターを前提としたSNS」が必要とされるはず。そんな見立てがあったからこそ、荒木氏はREALITYの立ち上げ前から「アバター人類のためのFacebookのような場所を作る」ことをイメージしていた。

荒木氏自身「VRChat」の世界をユーザーとして体感した時に「今までのインターネットにはない別の空間に入ってしまった感覚」を味わい、大きな衝撃を受けたという
荒木氏自身「VRChat」の世界をユーザーとして体感した時に「今までのインターネットにはない別の空間に入ってしまった感覚」を味わい、大きな衝撃を受けたという。画像はVRChatのスクリーンショット

「誰もがスマホだけでなりたい自分になって、アバターでコミュニケーションできるライブ配信サービス」というアイデアをまとめ、2017年末にグリーの経営会議で経営陣とディスカッションを実施。年末年始で構想をブラッシュアップし、年明け早々にはメンバーを集めてキックオフを行った。

2018年4月にはWright Flyer Live Entertainment(現・REALITY)という社名で正式に会社としてスタート。同月にグリーが公にした「バーチャルYouTuberを中心としたライブエンターテインメント事業を立ち上げ、1〜2年で約100億円規模の投資を行う」という計画は、大きな話題を呼んだ。

“スマホだけで”アバターコミュニケーションができることが重要

REALITYは2018年8月、VTuberの配信を楽しめる視聴用アプリとしてスタートした
REALITYは2018年8月、VTuberの配信を楽しめる視聴用アプリとしてスタートした

サービスの開発にあたっては、最初から“スマホだけ”でアバターを作ってコミュニケーションが成立するコミュニティを作ることを決めていた。

2018年に入ってアバターを手軽に作成できる仕組みやアバターでライブ配信ができるサービスがいくつか出てきたが、その多くは「PCベースで、リアルタイムモーションキャプチャーがあって、アバターが人の動きに連動して動くタイプ」のもの。それがバーチャルSNSという認識だった。

5年後10年後にはデバイスが普及してそのような流れが主流になるかもしれないが、少なくとも来年ではない。グリーでVR事業の立ち上げに携わりデバイスの普及が簡単ではないことを実感していたからこそ、荒木氏はそのように感じていたという。

コミュニティを作る上では、人がたくさんいないことには始まらない。とにかく多くの人にとって「アクセシブルであること」を追求した結果、スマホ以外のデバイスを一切使わずとも楽しめるサービスであることが重要だと判断した。

一方で、3Dのアバターシステムを作るだけでもそれなりの時間が必要だ。そこにライブ配信やギフトの仕組み、コミュニケーションを育む機能などを搭載するとなれば短期戦とはいかない。

まずはVTuberの配信を楽しむ“視聴”の機能を切り出し、「MVP(顧客にとって価値のある最小限のプロダクトのこと)」のような位置付けで2018年8月よりサービスを始めた。

初年度はスマホ1台で好みのアバターを作り、ライブの配信や視聴ができる環境を整えることに時間を費やした。その土台ができた上で、ゲームやチャットなどコミュニティに必要な要素を次々と実装したのが2年目。直近1年ほどはサービスの改善とともにグローバル対応にも取り組んだ。

アバターを自分自身であると感じてもらうための工夫

REALITYには1つのアプリに多様な要素が詰め込まれている。個別の機能だけを見ると一見近しいものが存在するようにも思えるが、その中にもREALITYなりのこだわりや工夫があるという。

たとえばREALITYのコアとも言える、アバターの場合。最初に悩んだのは「2Dにするか3Dにするか」だった。

コストや立ち上げのスピード感を考えると、2Dの方が圧倒的に安くて早い。ハードウェア性能も3Dほどは求められないので、開発の負担も少なくて済む。またアイテムの制作費においても、3Dは異様にコストがかかる。それでも“あえて”3Dを選んだ。

「3Dで作らないと将来訪れるVR/ARの世界には耐えられないと思ったんです。もしアバターを2Dで作ってしまうと、3D空間の中でペラペラの人を相手にコミュニケーションをすることになり、断絶が起きてしまいます。もともと長期でやることは決めていましたし、3Dのアバターアセットが積み上がっていけば、ゆくゆくは競争力や参入障壁にもなる。お金がかかるな、重たいなと思いつつも3Dでやることを決めました」(荒木氏)

REALITYのコアを担うアバターのカスタム機能
REALITYのコアを担うアバターのカスタム機能

アバターのデザインについても、優秀な3Dアーティストのメンバーを中心にとにかくクオリティにこだわった。

それは荒木氏自身がかつて「GREE アバター」に携わっていた際に「アバターはカッコ良かったり、可愛かったりしなければ意味がない」と肌で感じていたからだ。ユーザーにとってアバターの見た目は重要で、そのためにアイテムなどを購入する人もいる。だからこそ「そもそもベースとなるデザインがショボかったら何をやってもダメ」だという考えがあった。

同時にUXの観点から“アバターは自分自身である”という認識を持ってもらえるような設計を意識したという。世の中にある多くのアバターは荒木氏いわく「着せ替え人形アプリ」であり、アバターの服を着せ替えたり、ポーズを取らせたりする。これでは自分という認識を持ちづらいと荒木氏は話す。

「REALITYで大事にしているのが、アバターが勝手に動かないということです。全画面に表示されるアバターが自分の動作に合わせて『手鏡』のように動く様子を見ていると、だんだんとこれが自分であるという感覚が芽生えていく。これが勝手に動いたり、踊ったりしてしまった途端に自分ではなくなってしまいます」(荒木氏)

REALITYのゲームは、見ている人もゲーム体験の一部

サービスローンチの翌年、コミュニケーションを加速させるための新要素としてREALITYに追加されたゲーム機能においても同様にいくつかのこだわりがある。中でも興味深いのが、荒木氏の「クラウドゲーム」の捉え方だ。

「僕の中では『本当のクラウドゲームはこれなんじゃないか』という感覚でREALITYの中のゲームを作っています。というのは、今クラウドゲームと呼ばれているものの多くは流通手法と課金方法のイノベーションだと思っているんですね。以前であればお店で買っていたり、ダウンロードして遊んでいたりしたものを、オンデマンドでサブスク型に変えた。そこにはゲームそのもののイノベーションは入っていないという認識です」

「ではクラウドゲームの本当の価値とはなんなのか。それは見ている人もゲーム体験の一部になっていることだと思うんです。今までのゲームでは『ゲームを遊ぶこと』『ゲームを楽しんでいる状態を実況すること』『その実況を見ること』が完全に分離されてしまっていました」(荒木氏)

REALITYで提供されているゲームは全てのプレイが配信される。1人だけで遊んで完結するのではなく、ゲームを楽しむ様子がパブリックになっているのだ。

その上で、視聴しているユーザーが“ゲームに関与できる”ように設計されている。具体的にはコメントで配信者にアドバイスや声援を送ったり、ギフトを通じてゲーム内にアイテムを届けたりすることで、ゲームに介入することが可能だ。

「あともう一歩でクリアできるんだけど」というタイミングで視聴者がアイテムを提供し、アシストをする。それに対して配信者から「○○さん、ありがとう!」といったようなコミュニケーションが生まれる。そのような例も珍しくない。

また視聴しているユーザーが自分でもやりたくなったら、その場でプレーヤーとして参加することもできる。

「遊ぶ、実況する、見るがすごく高速に行き来できる。これがクラウドゲームのプロダクト面におけるイノベーションだと思っていて、そんな壮大なビジョンを掲げつつ、ミニゲームを通じてコンセプトの検証を続けているような段階です」(荒木氏)

REALITYのゲームの一例。アバターでのコミュニケーションを促進することが大きな目的で、麻雀や大富豪といったお馴染みのゲームも提供されている
REALITYのゲームの一例。アバターでのコミュニケーションを促進することが大きな目的で、麻雀や大富豪といったお馴染みのゲームも提供されている

もともとはエイプリルフール企画として「フラッピンアバター」というゲームをREALITY内で1日限定で公開したところ、中には1日で最大1000回ほどプレイするユーザーが出てくるなど評判が良かった。それを受けて正式にゲーム機能として搭載されるに至ったという。

単に場所だけを提供した状態で「あとは好きに楽しんでね」と言われても、あまりにやることがなければユーザーとしては続かない。他のユーザーと交流するコミュニティである一方で、誰かがいなくても時間を潰せたり、友人が参加してくるのを待てるような仕組みも必要だ。

REALITYにおけるゲームにはそのような役割もあるからこそ、あえて「面白くしすぎない」ように配慮している。

「より正確には『(ユーザーが)あまりに熱中するようではいけない』ということです。ゲームに集中しすぎてしまうと、しゃべることを忘れてしまい、本来の目的であるコミュニケーションが成り立たなくなってしまう。だからハイペースすぎないことだったり、だらだら喋りながら遊べるゲームを意識しながら作っているんです」(荒木氏)

ゲームでは緊張とストレス、そしてそこからの解放というサイクルをバランスよく回していくことが重要だが、これらを追求しすぎるとユーザーは満足して離脱してしまう。そのためREALITYのゲームに関しては、このアップダウンを作りすぎないようにしているそうだ。

配信者率は約4割、海外ユーザーは全体の85%に

REALITYではこのような機能開発を約3年にわたって着々と積み重ねてきた。

特にこの1年ほどは新型コロナウイルスの影響によるオンラインコミュニティサービスへの需要の高まりやグローバル展開の強化なども重なって、利用者の数が急激に増えている。

REALITYの成長

「コミュニティプラットフォームになっていく上で、配信する人と見る人という関係性から対等な関係性へと近づけられるように機能開発を続けてきた」という荒木氏の言葉にもあるように、視聴者数に対する配信者率は4割に近い。

そもそもREALITYの場合は自分の好きなアバターの姿で配信ができるため、顔を出すことに抵抗があるユーザーにとっても配信ハードルが低い。この性質も配信者率の高さには影響を与えていそうだ。

またグローバル比率が高く、国産サービスでありながら海外ユーザーからも多くの支持を集めているのも同サービスの特徴と言えるだろう。

「何かシンプルな理由があるわけではないものの、VTuberの世界的な広がりの波に乗れていることが1つの要因であるとは感じています。Zoomを使って海外ユーザーにグループインタビューを実施していると、コロナ禍でYouTubeを見て過ごす時間が増え、VTuberの存在を知るうちに自分でもやってみたいと思ったという話を聞くことが多い。スマホだけでアバターを作って配信できるアプリはグローバルで見ても珍しいため、VTuberになれるアプリを探した結果、REALITYに行き着くそうなんです」(荒木氏)

REALITYが見据える「メタバース」とは

REALITYでは今後さらに大型の投資をしながら、メタバースを構成する機能の開発を進めつつ、グローバルで数億人のユーザー獲得を目指すことを明言している。

具体的な方向性については「REALITYが考えるメタバース」とは何を指すのかがわかると見えてきそうだ。荒木氏によるとそこには大きく3つの重要な要素があるという。

REALITYが考えるメタバースの3つの定義

1つ目はアバターによるリアルタイムボイスコミュニケーションが軸になっていること。テキストではなく、アバターを介して会話でやりとりをする。これ自体はREALITYがこれまでも取り組んできたことであり、フォートナイトやマインクラフトなどにおいても同様だ。

2つ目が空間的な広がりが存在し、なおかつその空間をユーザー自身が拡張できること。平面に閉じたビデオチャットのようなものはメタバースとは呼んでおらず、広がりのある空間をどんどん移動したり、そこで誰かにあったりできる“仮想現実”のような体験が必要だという。

「ただし、それだけだとMMORPG(複数人のユーザーが参加できるオンラインRPG)と変わりません。大きな違いの1つはUGC(User Generated Contents)要素が加わっていること。現実世界がそうであるようにそこにいる人たちによって街が変化し、新しいものが生まれ、世界自体が変わっていく。生きた3D空間であることが重要です」(荒木氏)

そして3つ目がクリエーターエコノミーを内包していること。これはメタバース内での活動によってリアルマネーを稼ぐことができ、本気で頑張ればその世界の活動だけで生きていくことができるような状態を指す。

これはメタバース内の経済と実社会の経済が密接に接続している状態とも言え、将来的には「リアルマネーに兌換可能な通貨」のようなものを発行することも見据えているという。

「『みんなアバターでコミュニケーションするようになるはず』というのと同じくらいの確信度で『お金が稼げないメタバースに時間を費やすのは難しくなっていく』という感覚があるんです。Play-to-Earnと呼ばれる遊びながらお金を稼げるゲームを一度体験してしまったら、なぜお金を稼げないメタバースに大量の時間を費やしているんだろうと感じる人も増える。ゲーム会社にとっては頭が痛い問題ですが、この流れは止められない予感がしています」(荒木氏)

SNSコミュニティやVRに対するノウハウ、3Dのアバターやキャラクターを設計する技術、グローバルで事業を広げる推進力。そしてNFTなどの先端的な要素も重なってくる複合的なサービスになるが、そこに対して100億円規模の投資をすることからもグリーの本気度も伝わってくる。

「(日本のスタートアップ界隈において)個人的にはBtoCのサービスが少なすぎると感じていて、もっとグローバルに大きくなれる事業にみんなでチャレンジしていこうよという思いもあるんですね。そういう意味でもまずは僕たち自身が頑張っていかないといけないので、(大型の投資を機に)さらに大きな挑戦をしていきます」(荒木氏)