Photo:SiberianArt /gettyimages
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  • 既存のソリューションでは“拾い切れていない層”がいる
  • ShopifyやBASE、STORESなどは競合ではない。併用の道もある
  • メルカリが「売れる」と自信を持って断言できる理由
  • 「かんたん」は維持しつつ、必要な機能は追加予定

「戦国時代」──そう表現しても過言ではないほど、群雄割拠の様相を呈しているのが“EC化支援”の市場だ。「Shopify」や「カラーミーショップ」、「BASE」、「STORES」といったネットショップ作成サービスに加え、近年は領域特化型も台頭してきている。

例えば、農家・漁師の産直ECに特化した「食べチョク」やハンドメイド作家のための「クリーマ」、オリジナルグッズの作成に特化した「SUZURI」などがある。

プレーヤーの数が増え、競争が激しくなっている市場に最後発で参入したのが、フリマアプリ「メルカリ」で知られるメルカリグループだ。今年の7月、メルカリの子会社であるソウゾウが簡単にネットショップが開設できる「メルカリShops」をリリースした。

メルカリShopsは、スマホひとつでネットショップの作成から出品、在庫管理まで行えるサービス。メルカリがフリマアプリで培ってきたノウハウをもとに、誰でも「かんたん」に使えて、すぐに商品が「売れる」体験の提供を最大の特徴としている。

ネットショップの作成にかかる初期費用、月額利用料は無料。商品が売れた際に、販売価格の10%が販売手数料としてかかる。

ソウゾウ代表取締役CEOの石川佑樹氏
ソウゾウ代表取締役CEOの石川佑樹氏

現在は農・水産物、飲食店グルメ、地方特産品、ハンドメイド、アパレル、雑貨の6つを注力カテゴリとし、小規模事業者のEC化支援に取り組んでいる。すでに3日間で20万円を売り上げた事業者も出てきている。

数多くのプレーヤーが先行するEC化支援の市場でメルカリは存在感を発揮できるのか。メルカリShopsの勝算について、ソウゾウ代表取締役CEOの石川佑樹氏に話を聞いた。

既存のソリューションでは“拾い切れていない層”がいる

──旧ソウゾウは2019年6月に解散しました。解散から約1年半が経った中、新生ソウゾウを立ち上げることにした経緯は何だったのでしょうか。

メルカリグループでは常に新規事業の検討は行ってきました。さまざまな選択肢を考える中で、新規事業の成功確度を高めるためには独立した組織体でスピード感を持ってやっていくのがいいのではないか。そんな考えから、新生ソウゾウの設立に至りました。

社名に関しては必ずしも“ソウゾウ”である必要はなかったです。ただ、新規事業の立ち上げに特化した会社が一度解散した後に諦めず、復活する。この点はすごく新規事業らしい要素があったこともあり、あえて再びソウゾウという社名にしました。

──なぜ、このタイミングでEC化支援だったのでしょうか。

メルカリShop以外にも、新規事業のアイデアは複数考えていました。どのアイデアを、どのタイミングで、どういう形でやるかを話し合う中で、いまソウゾウが取り組むべき事業テーマは小規模事業者のEC化支援ではないか、ということになったんです。

その意思決定の背景には、昨年のコロナ禍による社会の変化も大きく関係しています。当時、自分はメルペイで働いており、加盟店の人たちからコロナ禍でお店の営業にも支障が出ていて、すごく困っていることを聞いていたんです。

中には営業の自粛要請などが死活問題になっている事業者もいて。昨年まではつなぎ融資で何とか耐えしのぐことができたけど、今年に入ってからは融資も難しくなっていて、正直厳しくなってきている、と。

そうした状況を何とか改善できないか、と考えた結果、メルカリグループのアセットを活用して取り組めることが小規模事業者のEC化支援でした。

EC化支援の市場には、すでにさまざまなソリューションが提供されていることも知っていましたが、既存のソリューションに対応できず、困っている人もいる。そういった人たちが今求めているソリューションが、誰でも「かんたん」に使えて、すぐに商品が「売れる」体験を提供することだと思ったんです。

そうした背景から、メルカリがフリマアプリで培ってきたノウハウをもとに、ネットショップが開設できるメルカリShopsをリリースすることにしました。

また、コロナ禍で困っている小規模事業者の助けになることもそうですが、社会全体の大きな流れとしても“クリエイターエコノミー”といった経済圏が新たに生まれ、個人がSMB(中小規模事業者)化し始めている。

そうした流れの中で、今後スマホで手軽にネットショップが作成できる需要は高まっていくのではないか。そして、さまざまな購買チャネルがある中で、スマホに最適化された買い物体験もうまくつくれるのではないか、という考えもありました。

ShopifyやBASE、STORESなどは競合ではない。併用の道もある

──コロナ禍でEC化支援の需要が高まり、さまざまなネットショップ作成サービスがしのぎを削っています。この状況をどう見ていますか。

小規模事業者の課題を解決する方向性は各サービス同じだと思うのですが、課題の解き方や強みはそれぞれ異なりますし、事業者側のニーズもさまざまです。そうした状況に対して、個人的にはさまざまなソリューションがあってもいいと思っています。

よくShopifyやBASE、STORESなど類似サービスについて質問されるのですが、バチバチに競争していくというよりは、事業者の課題に合わせて使い分けてもらったり、もしくは併用してもらったりすることも全然あると思っています。

──事業者の規模が大きくなるにしたがって、Shopifyやカラーミーショップなどのサービスへの乗り換えなども発生してくるかと思います。メルカリShopsが対象とする事業者の規模はどのように考えられていますか。

現状、(EC化支援の領域では)多機能なエンタープライズ寄りのサービスが多いですが、そういったサービスが難しく、使えない人たちが多くいます。まずメルカリShopsは小規模かつ、インターネットのリテラシーがそこまで高くない人たちでもインターネットでモノを販売できるようにする。

最初は農・水産物、飲食店グルメ、地方特産品、ハンドメイド、アパレル、雑貨の6つを注力カテゴリーとして挙げましたが、それだけに絞っているわけではありません。あらゆる規模、あらゆるカテゴリーの事業者にも門戸は開けていきたいと思っています。ただ、まずは「かんたん」と「売れる」を尖らせていき、その価値を求めている人たちにサービスを提供し、市場内でポジションをとっていけたらと思っています。

──過去には「出品から5秒で売り切れるニラ」などが話題になるなど、メルカリで農産物を出品している人もいました。そうしたタイミングなどで、メルカリの“いち機能”としての開発は検討されなかったのでしょうか。

メルカリで農産物を販売する人はいらっしゃいましたし、多分今後もいると思います。そこに関しては、その人が望む形であればメルカリShopsを使わずとも、個人の選択としてメルカリの中で農産物を売る人がいてもいいと思っています。

とはいえ、メルカリはネットショップに最適化されているわけではないので、事業者がネットショップとして使うには使いづらい部分がある。そのため、ネットショップの作成に特化したサービスとしてメルカリShopsを開発しました。例えば、メルカリShopsで商品の色やサイズ、各在庫数なども一括設定して販売することができます。

メルカリShopsの強みはスマホひとつで簡単にネットショップが作成でき、商品がすぐに売れるという部分です。メルカリが個人のモノの売り買いのハードルを下げたように、メルカリShopsは事業者がネットでモノを売るハードルを下げていければと思っています。

誰でも「かんたん」に使えて、すぐに商品が「売れる」。これは言うは易しで、実際は事業者と購入者のマッチングなど難しい部分も多々あります。ただ、フリマアプリの提供で培ってきたノウハウをもとに、事業者に対して価値を提供していきたいです。

利用していただいている人たちの声を聞きたり、動きも見たりしながら、日々さまざまな施策を試し、数字が変わるのか、受け入れられるのかを見ています。今後はメルカリ、メルペイなど各サービスでの連携も図っていけたらと思います。

メルカリが「売れる」と自信を持って断言できる理由

──メルカリShopsは「売れる」点を強調されています。具体的に“売れる仕組み”とは、どういったものなのでしょうか。

簡単に説明するなら、商品の購入を検討しようとしている人に対して適切なタイミングで、適切な商品を提示するということです。その裏側の仕組みとして、メルカリがフリマアプリの提供で培ってきた機械学習やパーソナライゼーションの技術があります。実際、メルカリでは1秒あたり約7.2品が売れている状況をつくれています。

また、メルカリの外の経済圏では今後、ソーシャル上での購入が広がっていくと思います。“クリエイターエコノミー”が台頭してきているように、数は少ないけれど熱量の高いコアなファンを抱えている人たちは無数にいる。そういった人たちがソーシャル上で商品を販売する際の最適な表示の仕方は何か、また求められる機能は何か。ここはイノベーションの余地が存分にあるので、これからさらに面白くなっていくと思います。

──メルカリShopsは今後、独立したウェブサイトとしてもネットショップを開設できるようなサービスにしていく予定とのことですが、アプリ外では月間利用者1954万人(2021年6月末時点)のメルカリ経済圏の強みが生かせない気がします。メルカリを選択する理由がないと思われるアプリ外でのメルカリの強みはなんでしょうか。

メルカリのアプリ内での強みは、アプリの外でも発揮できると思っています。例えば、個人情報の認証部分です。商品を購入する際は、配送先の住所やクレジットカードの番号などの個人情報を入力しなければなりません。

そうした個人情報の認証などについては、メルカリが安心・安全に取引をマーケットプレイスであるために力を入れてきた部分でもあるので、そのノウハウや組織の体制などは生かせる部分がありますし、強みになると思います。

すべての画像提供:ソウゾウ
すべての画像提供:ソウゾウ

「かんたん」は維持しつつ、必要な機能は追加予定

──ロジスティクスの部分など、今後提供予定の機能についても教えてください。

ロジスティクスに関しては、メルカリで提供している「メルカリ便」の仕組みなどを活用し、メルカリShopsでは「パワーアップ版メルカリ便」として、送り状の一括発行手続きをはじめ、大口個数の対応や匿名配送もできるようにする予定です。また、クール便にも対応し、生鮮食品を送りやすくすることも考えています。

今のところ、事業者が自分たちで発送の手配などをする仕組みになっているため、多くの商品価格が送料などの手数料が上乗せされたものになっている。こうした送料などの手数料は事業者側にジワジワとダメージが効いてくる部分なので、なるべく手数料を安くできるような仕組みをがんばって構築できればと思っているところです。そうすることで結果的に商品価格にもそれが反映され、商品を購入されるお客様にもメリットが生まれるようになります。

メルカリShopsは未完成でも何か役に立てる部分があるならば早く出した方がいい、という考えでリリースしているので、まだ完成形ではありません。今後も「かんたん」であることは維持しながら、必要になりそうな機能は入れていく予定です。

──現状、日本のEC化率は約8%ほどです。今後、メルカリShopsなどによって、日本のEC化率はさらに高くなっていくでしょうか。

個人的には高くなっていくと思っています。日本は(徒歩数分圏内にコンビニがあるなど)地理的な要因がEC化率を高めるブロッカーになっているという話はよく耳ににしますが、それ以外にもブロッカーとなっている要因はいくつかあります。そういったものを取り除くことで、一気にEC化率は上がっていくと思っています。

後々、振り返ったときに「メルカリShopsのおかげでEC化が進んだよね」と言われるようにメルカリステーションとの連携、船橋市(千葉県)と山田町(岩手県)との提携を筆頭に地方自治体との連携などを通して、EC化の支援を行っていけたらと思っています。