
- 特徴は「プロクオリティ」の成果に繋がる動画を作れること
- 制作会社からの出発、“自分たちが欲しかったもの”を形に
- 「URLを入れるだけで動画が自動生成される仕組み」の実現へ
「広告クリエイティブの民主化」を見据え、独自のマーケティング動画生成サービスを展開するリチカが事業を拡大している。
同社が手がける「リチカ クラウドスタジオ」の特徴は、プロのノウハウを活用したマーケティング動画をウェブ上で簡単に作れること。1400種類以上の豊富なフォーマットが用意されており、素材やテキストをはめ込むだけで動画が完成する。またマーケティング用途に特化して知見を蓄積することで、成果に繋がる動画を作りやすい仕組みを整えてきた。
直近ではコロナ禍で“動画広告の内製化”のニーズが高まり、大手事業会社での導入が加速。ベネッセやセブン銀行、カドカワ、森永製菓など累計で400社以上が同サービスを活用している。
今後リチカでは「デジタル広告の制作自動化」に向けて、動画の自動生成技術や広告の自動最適化技術などを磨いていく計画。組織体制を強化するための資金として、以下の投資家を引受先とした第三者割当増資により約8億円を調達した。
- GMO VenturePartners
- 大和企業投資
- 博報堂DYベンチャーズ
- rooftop
- みずほキャピタル(既存投資家)
- 新生企業投資(既存投資家)
- FFGベンチャービジネスパートナーズ(既存投資家)
- DIMENSION(既存投資家)
- マネックスベンチャーズ(既存投資家)
特徴は「プロクオリティ」の成果に繋がる動画を作れること
「今まで以上に、クリエイティブを効果的に運用できる仕組みが求められるようになってきています」──。リチカで代表取締役を務める松尾幸治氏はそのように話す。
Yahoo! JAPANやFacebookを始めとする広告媒体側のアルゴリズムの進化に伴い、従来は人力で行っていたような細かいターゲティングなどをせずとも、広告のパフォーマンスを出しやすい土台が徐々に整いつつある。
そこで重要度が増しているのが「複数のクリエイティブを作った上で、勝ち負けを検証しながら成果を出していくこと」。つまりクリエイティブの運用が動画を活用したマーケティングの主軸になってきているという。
毎回数十万円〜数百万円を払って外部の代理店や制作会社に依頼するのではなく、自社のマーケター主導で動画マーケティングのPDCAをサクサク回せる体制を作りたい。そのような事業会社のニーズに応える形でリチカは成長を遂げてきた。

冒頭でも触れた通り、リチカ クラウドスタジオのコアとなるのは動画の生成機能だ。用途やジャンルごとに用意された豊富な フォーマットを活用すれば、素材となる動画や画像を組み合わせ、テキストを入力するだけで簡単に動画ができあがる。
URLを入れるとそのサイトで使われている画像を抽出してくれる機能や、AIによるナレーション機能など、動画作成をアシストするさまざまな仕組みを搭載。単に動画を作るだけでなく、SNS広告を横断で分析できるツールなども含めて「マーケティング動画の運用」に必要な機能をまとめて提供している。

利用料金は月額20万円からの定額制。複数パターンを競わせ、数字を見ながら最適なクリエイティブを見極めていくというのが典型的な使い方だ。実際にリチカ クラウドスタジオを通じて毎月20万本以上の動画が作られているという。
松尾氏によると「プロが作ったものと遜色のないようなクオリティの動画を作れること」が大手企業での利用拡大に繋がった要因の1つだ。クリエイティブに対する基準が厳しいナショナルクライアントへの導入も進んでおり、デジタル広告だけでなくテレビCMや交通広告など利用シーンも広がってきている。
制作会社からの出発、“自分たちが欲しかったもの”を形に
なぜリチカでは大手企業も納得するような品質の動画生成サービスを作ることができたのか。その理由は同社の出自にある。
もともとリチカは“制作会社”として2014年に誕生した。その時代から構築してきた外部のクリエイターとのネットワークと、数千本の動画コンテンツを作り続けてきた中で培われた知見が現在の事業の礎にもなっている。
松尾氏たちにとって転機になったのが、2017年にリチカ クラウドスタジオの原型となるプロダクトを開発したこと。周囲の声から「動画の制作コストの高さがPDCAを回す上でのネックになっている」と感じていた中で、「ユーザー自身が手軽に動画を作れるサービスがあれば便利ではないか」と考えた。
そこで簡単な操作で動画を作れるサービスとして2018年にリリースしたところ、複数の企業から問い合わせが相次いだのだという。

もともとは中小規模の広告代理店が顧客の中心だったが、少しずつ実績が積み上がる中で大手の事業会社の利用も増えていった。それがより顕著になったのが、新型コロナウイルスのタイミングだ。
広告代理店を始め広告産業全体が打撃を受けた一方で、大手の事業会社では内製化のニーズが広がった。動画の制作をサポートするツールも増えてきてはいるものの、それだけでデジタル広告やデジタルマーケティングにおいて“成果を出せる動画”を作れるわけではない。
たとえばデジタル広告で成果を出すには、広告媒体ごとの特性を踏まえた上で最適な動画を作る必要がある。リチカの場合はヤフーやFacebookと公式にパートナーシップを組み、共同研究を通じて媒体ごとの知見をためてきた。
「今まで広告クリエイターは職人産業のように捉えられることが多く、数字を細かく見ている人もあまりいませんでした。自分たちはそこにテクノロジーを掛け合わせることで、どのクリエイティブがどのような結果を生み出しているのか、データとして蓄積しているんです。このデータをプロダクト側に(フォーマットや機能として)還元するということを繰り返しているため、結果としてパフォーマンスが出やすい状態を作れていると思います」(松尾氏)
2021年に入ってからは「デジタル広告の運用がうまくいかない」「デジタルマーケティングがよくわからない」といった抽象度の高い悩みを相談されることも増え、顧客の幅もさらに広がり始めている。
プロダクトローンチから数年、「簡易動画生成ツール単体ではそこまでの市場にはならない」と考え、より大きなチャンスを探ってきた。その中でようやく手応えをつかみかけているという。
「URLを入れるだけで動画が自動生成される仕組み」の実現へ
今回の資金調達は一気に事業の成長スピードを加速させることが大きな目的だ。組織体制を拡充しプロダクトの拡販を進めるほか、デジタル広告の制作自動化に向けた機能開発にも取り組む。
動画の自動生成については、すでに一部の用途では部分的ではあるものの実現でき始めているそう。たとえばあるウェブメディアとは、記事が公開されると「その動画の内容を紹介する動画が自動で生成される仕組み」を試験運用しており、実際にこの技術を通じて動画を作り始めている。
現時点では実装できていないものの、ゆくゆくは「URLを入れるだけでクリエイティブの候補が自動で生成され、レコメンドされる」ような世界観も実現したいという。
そのような技術が形になれば、クリエイターがさらに上流の工程にリソースを使えるようにもなる。松尾氏の話では「顧客と話をしていてもクリエイターのニーズはむしろ高まっている状況」であり、リチカではクリエイターが自身の手でやらなくてもいいことをテクノロジーで埋めていくいくことを目指す。
「人が作るものに近いクオリティの動画を自動で生成できる仕組みに関しては、方向性が見えてきました。マーケティングに活用するという点ではまだまだ検証すべき項目もありますが、少なくとも制作会社時代に『こういうのがあったらいいね』と考えていたものには近づいてきています。クリエイティブの価値をもっと上げていくためにも、広告クリエイティブの民主化のようなかたちで、ある程度はみんなが誰でもできるような仕組みを実現していきたいです」(松尾氏)