Recustomerでは小売事業者向けに、返品業務の効率化や返品を起点に既存顧客との関係性強化を支援するSaaSを展開している
Recustomerでは小売事業者向けに「返品業務の効率化」や返品を起点に「既存顧客との関係性構築」を支援するSaaSを展開している
  • アナログで改善余地の大きい返品業務を自動化
  • Shopifyの運用支援をきっかけに返品体験の課題を痛感
  • 企業へのヒアリングで気づいた潜在的な返品ニーズ
  • 返品業務効率化だけでなく、売上拡大につなげるサービスへ

ECが普及すればするほど、事業者を後押しするようなサービスや消費者の購買体験をより良くするサービスのニーズが高まり、そこに新たなビジネスチャンスが生まれる。

一見地味に思える「商品の返品業務・返品体験」のアップデートもその1つと言えるだろう。

EC小売業の返品率が数%程度と言われる日本ではまだそこまでの注目を集めるには至っていないが(エルテックスが実施した「通信販売事業関与者の実態調査2021」によるとEC/通販の商品返品率は5~10%がボリュームゾーンだという)、この数値が25〜40%ほどとされる米国ではここ数年で明確な変化が生まれている。

Amazonでは2016年より出品者に対して返品無料を義務付けており、ZARAのようなファッションチェーンやAllbirdsを始めとする勢いのあるD2C企業などもこぞって返品無料ポリシーを掲げる。

背景として、ユーザーにとって返品ポリシーの存在がECサイトを選ぶ際の重要な指標の1つになり始めていることがある。また、返品したユーザーの一定数が「返品時に追加で商品を購入していること」が複数の調査などでわかってきたことも大きい。

だからこそ返品を必要以上に拒否するのではなく、「返品を起点に次の購買行動に繋げる」ための工夫に取り組む企業も増えてきている。

このような流れに伴い、存在感を増してきているのが「返品スタートアップ」だ。

たとえばECの雄・Shopifyは2018年に早々と返品業務支援サービスを手掛けるReturn Magicを買収。このサービスは現在もShopifyのアプリストア上で提供されており、多くの事業者が活用している。

同じように後払い決済サービスのAffirmが2021年4月にReturnly(約3億ドル)の、5月にはPayPalがHappy Returns(金額は非開示)の買収を発表した。ReturnlyとHappy Returnsは共に返品関連のプロダクトを展開する米国企業だ。

ここ数年で生まれたスタートアップに関してもLoop ReturnsやBlackCartなど1000万ドル以上の資金を調達するところが複数社出てきている。

日本に目を向けると、ロコンドを始めECを軸に事業を伸ばしてきたプレーヤーを中心に返品無料を打ち出す企業が徐々に増え始めている。海外企業の日本進出なども含めて、これから国内でもこの流れが広がる余地はあるだろう。

そんな少し先の未来を見越し、日本で返品体験のアップデートに取り組むのがRecustomer(リカスタマー)だ。2021年6月に返品・返金業務を自動化するSaaSのベータ版をローンチし、現在は複数のアパレル事業者にサービスを提供している。

同社では今後クーポンを通じた再購入の促進など、「返品を起点に既存顧客との関係性維持を支援する取り組み」を強化していく計画。そのための資金としてCoral Capital、ALL STAR SAAS FUND、G-STARTUP、Gazelle Capitalより1.5億円の資金調達も実施した。

アナログで改善余地の大きい返品業務を自動化

返品対応と一口に言っても、実際にユーザーから商品が返品された際に必要となる業務は想像以上に手間がかかる。ユーザーとのやりとりから始まり、注文商品の確認、返送と返金方法の確認、返送された商品の検品、倉庫とのやりとり、経理処理に至るまでやることは多い。

なおかつRecustomer代表取締役の柴田康弘氏によると、これらの情報は多くの場合スプレッドシートやエクセルで管理されている。メールを数回往復しながらユーザーとコミュニケーションを取り、1つ1つの情報をその都度エクセルに記録する──。

この一連のオペレーションの大部分を自動化できるのがRecustomerの大きな特徴だ。

同サービスを導入するECサイトにおいては、ユーザーは簡単な商品情報と「返品理由」や「使用状況」など事業者があらかじめ設定した項目の回答を入力するだけで、交換や返品の申請ができるようになる。

これらの返品情報は事業者用の管理画面に集約され、ユーザー情報や注文情報と紐付けられていくのでエクセルで逐一管理する必要はない。また管理画面上では返品・返金・キャンセルのポリシーを設定することが可能。そのルールに基づいて返品などの可否判断を自動で行い、さらには顧客へのメールも自動で返信できるため、業務の大幅な効率化に繋がる。

Recustomerの管理画面のイメージ

実際にRecustomerの導入企業では返品業務の8〜9割ほどを自動化できるようになっているそう。返品対応業務がスマートになることで、返金までのスピードも長くて10数日かかっていたところが最短で即日対応できるようになったケースもある。自動対応できる範囲であれば、日時を問わずスピーディーにユーザーの要望に応えられるようになる点もメリットだ。

ユーザーの視点でも、返品体験が改善されることは利便性の向上に繋がる。何度も担当者と連絡を取り合う手間とも無縁だ。

ユーザーもサイトから簡単な情報を入力するだけでスムーズに返品や返金の申請ができる
ユーザーもサイトから簡単な情報を入力するだけでスムーズに返品や返金の申請ができる

Shopifyの運用支援をきっかけに返品体験の課題を痛感

Recustomerは2017年に柴田氏が立ち上げたスタートアップだ。受託制作や自社プロダクトの開発などに取り組む中で、小売事業者向けにShopifyの構築支援や運用支援を手掛けるようになったことが1つの転機になった。

集客のサポートを通じて「既存顧客との関係性構築」にもっと力を入れていくべきだと考えた柴田氏は、一連のカスタマージャーニーを整理してテコ入れするべき工程を探った。そこで明らかにユーザーの不満が溜まっていそうだと感じたのが「返品や購入後の体験だった」という。

試しに米国の状況を調べてみると、返品に対する考え方や返品体験を支えるテクノロジーが日本よりも進んでいることがわかった。米国では2010年代に入って徐々にD2C企業などが増えていく中で、特に2014年〜2015年以降でさまざまな小売事業者が一気に返品ポリシーを緩め、パラダイムシフトが起きていたという。

もともと日本ではクーリングオフ制度が通信販売には適用されなかったことなどの事情から、多くの事業者が返品を積極的には認めない慣習が根付いていた。ただ、ここ数年でD2C関連のスタートアップや新ブランドが急増し、かつての米国の状況に近しい状況になりつつある。

海外企業の日本進出なども加速すれば、今後日本においても大きな変化が生まれるのではないかと柴田氏は考えた。

企業へのヒアリングで気づいた潜在的な返品ニーズ

もっとも、日本と米国では当然ながら返品に対する文化や制度も異なる。柴田氏自身も当初は「米国だからうまくいっているだけなのではないか」と半信半疑だったそうだ。

しかし実際に年商数億円規模のアパレルD2Cブランドにヒアリングをしてみると、思っていた以上にニーズがあることがわかった。

ブランドとしては毎月一定数の返品が発生していたため、その際の顧客体験を改善したいという考えを持っていた。一方で返品対応業務の負担が大きかったことから、業務効率化が急務でもあった。

同じように規模の異なるアパレルブランドや他の業種の企業にも話を聞きにいったが、返品に関する悩みや業務フローの大部分は共通していることがわかったという。

「ユーザーからの問い合わせの内、返品や交換関連がどのくらいの割合を占めるかを聞いてみると40〜50%のところが多かったんです。つまり仮に1000件あれば、500件は返品に関する問い合わせということになります。事業者側が断っているから結果的に返品率が低くなっているだけで、実はユーザー側の返品したいニーズはもっと大きいのではないか。日本でもこのマーケットは存在するはずだと考えました」(柴田氏)

この課題を解決できるプロダクトを開発しよう、そう決断した柴田氏は2020年の秋頃からプロダクト開発を進めた。

2021年3月に最低限の機能を実装したアルファ版を一部の企業に提供したところ、オペレーションの一部を担う“倉庫”側も巻き込まなければ課題が解決されないことに気づく。そこからは倉庫向けの管理システムも用意しつつ、サービスの機能拡充を進めた上で6月にベータ版のローンチにこぎ着けた。

Recustomerの料金はプランや返品数などによって異なるが、小売事業者はミニマムで月額5万円程度から利用することが可能。倉庫側は無料で使える仕組みになっている。

返品業務効率化だけでなく、売上拡大につなげるサービスへ

Recustomerでは返金を選んだユーザーに対してクーポンを発行することで再購入を後押しする機能も搭載
Recustomerでは返金を選んだユーザーに対してクーポンを発行することで再購入を後押しする機能も搭載

アパレル企業では返品管理や返品業務の効率化のニーズが特に強いため、Recustomerも現時点ではその効果を期待して使われているケースが多い。ただRecustomerを活用しながら返品ポリシーを変えることで、一部の導入企業では別の効果も現れてきている。

「ある種『返品の基準が緩くなった』ことで、同じような商品を複数パターン購入して試着のような感覚で使うような人も出てきました。結果として、最終的な注文単価自体が以前に比べて上がる事例も生まれ始めています」(柴田氏)

返品業務の効率化だけでなく、ユーザーとの関係性維持や再購入を通じて“新たな売上を生み出すためのマーケティングツールに進化できるかどうか”はRecustomerにとって今後の大きなチャレンジになる。

そのための仕組みとして、同社では返金を希望するユーザーに対して自動でクーポンを提案できる「リカスタマークーポン」などの機能を今後さらに拡充していく計画だ。