WeWork渋谷スクランブルスクエア
WeWork渋谷スクランブルスクエア 画像提供:WeWork Japan
  • 今までのWeWorkは“雰囲気”を売っていただけ
  • 各社のオフィスニーズに対して、柔軟に対応するプランに
  • サブリースによる新規拠点の開設はストップ、稼働率を高める

ディー・エヌ・エー(DeNA)、クックパッド、Gunosy──ITメガベンチャーを中心に名の知れた企業が今年に入り、本社機能を“ある場所”に移している。その“ある場所”とは「WeWork」だ。

WeWorkは、全世界38カ国153都市700拠点以上でコワーキングスペースを展開する米国発のスタートアップ。コワーキングスペース界の“黒船”という触れ込みで2017年に日本に上陸した。ソフトバンクグループと合弁で日本法人・WeWork Japanを設立し、2018年2月には国内初の拠点となる「WeWork アークヒルズサウス」を開設した。

それ以降、日本国内の拠点数は倍々ゲームで拡大。東京・大阪・名古屋など6都市で合計37拠点(2021年9月時点)を運営している。国内では強気に拠点数を増やす一方、グローバルではWeWorkの事業内容などに批判が相次ぎ、予定していた上場は延期。また、親会社である米We Company創業者のアダム・ニューマン氏の利益相反の可能性が指摘され、2019年9月に辞任するなど、いわゆる“WeWorkショック”が発生した。

その影響は国内にも波及し、ここ1〜2年ほど「WeWorkは大丈夫か?」「WeWorkのビジネスは厳しいのではないか?」といった声もちらほら聞こえていた。実際、2020年10月に始めた国内のWeWorkが使い放題となるAll Accessは、足元の業績が苦しいが故に打ち出したプランではないか、という報道もあった。

WeWork Japan最高経営責任者(CEO)のジョニー・ユー氏は「WeWorkショックが発生した2019年9月から2020年までは大変だった」と振り返る一方、「今年の6月に入ってから事業が好転し始めた」と語る。

一体、WeWorkにどんな変化が起きているのか。メガベンチャーが新たな本社としてWeWorkを選択する裏側について、ユー氏に話を聞いた。

WeWork Japan最高経営責任者(CEO)のジョニー ユー氏  筆者撮影
WeWork Japan最高経営責任者(CEO)のジョニー・ユー氏 筆者撮影

今までのWeWorkは“雰囲気”を売っていただけ

プライベートオフィスや会議室のほか、メンバー同士のコミュニティエリアに加え、飲み放題のコーヒーやビールなどのアメニティを提供する──コミュニティ型ワークスペースを謳っていたWeWork。彼らの特徴は“フレキシビリティ”にある。

WeWorkは1カ月単位で契約することができ、解約する際も1〜2カ月前に事前報告するだけでいい。“海外で話題のWeWork”に低リスクで入居できるとあって、日本に進出してからは拠点を開設すれば、すぐに申し込み枠が埋まるといった状態が続いた。

「日本、その中でも東京の人たちは『良いものは高くても利用する』というブランド志向がが強いのでしょうか。2018年頃は拠点を開設する前から予約待ちで、最初の20拠点くらいはすぐに申し込み枠が埋まりました。その結果、『黙ってても売れるから営業しなくてもいい』となったり、入居するメンバーから意見を何か言われても『自分たちはブランドなんだから意見を聞かなくてもいい』という状態になったりしてしまったんです」(ユー氏)

ユー氏は2021年1月にWeWork Japanに入社し、同年3月にCEOに就任しているが、もともとソフトバンクで投資戦略に携わっていた人物。WeWork Japanの立ち上げにも関わっており、日本上陸から今に至るまでのWeWorkの歴史を知っている。

拠点を開設したら売れる──まさに“バブル”とも言える状態が続いていたWeWorkだが、2019年9月頃から風向きが変わり始める。

前述のWeWorkショックに加え、2020年は新型コロナが猛威を振るう。先行きが不透明になったことで、足元の資金を確保すべく、コスト削減に動いた企業や個人事業主は多い。ここでWeWorkがウリにしていたフレキシビリティは悪い方向に作用する。

「WeWorkは手軽に解約ができるということで、2020年は解約の選択をする入居者は多かったですね。2020年の1年間は正直、厳しかったです」(ユー氏)

WeWorkのビジネスは立地の良いビルを長期で賃借し、それを小分けにして個人や法人に短期で賃貸するサブリースのモデル。とりわけ、WeWorkは一等地のビルを借りていることから、高額な賃料が発生していたことは想像に難しくない。また、高額の賃料にもかかわらず10年単位で長期契約していたこともあり、固定費の支出がかさんでいたという。

どれだけ拠点の数を増やしていっても、入居者の数を増やし、スペースの稼働率を保つことができなければ、最終的に経営が立ち行かなくなってしまう。

ユー氏がCEOに就任してから、まず行ったのが社員の「意識改革」だった。

「今までのWeWorkは、楽しそう、高級そう、カッコ良さそうという雰囲気を売っていただけなんですよね。WeWorkショック、コロナ禍による働き方の変化を経て、ようやく謙虚な気持ちになれました。真剣にビジネスとしてやっていくには、どうすればいいか。WeWork Japanの社員の平均年齢が30歳ほどでビジネスの経験も少なく、今までは元気の良さだけで突っ走ってきた部分もあります」

「ただ、これからは営業戦略を立てて、メンバーのニーズをきちんと理解することに努めよう、と社員に伝えました。日本のお客様は良いクオリティのものは徹底的に応援してくれる人たちなので、本当に良いサービス、誰にも負けないスペースを提供するようにしましょう、と」(ユー氏)

各社のオフィスニーズに対して、柔軟に対応するプランに

コロナ禍でリモートワークが普及し、オフィスが果たす役割が変化。出社とリモートワークを組み合わせ、必要なときだけ出社する「ハイブリッド勤務」が主流になりつつある時代において、WeWorkに求められる価値は何か。そこを考えた結果、行き着いた答えが「ユーザーのニーズにフレキシビリティのあるプランで応える」ということだった。

「今までは使うかどうか関係なく、1人の社員に対して1つのデスクを用意していました。ただ、出社とリモートワークがハイブリッドに組み合わさる時代において、全員分のデスクを用意しておく必要はありません。例えば、100人の社員に対して10個のデスクだけ用意し、あとは全国のWeWorkを利用できるAll Accessを契約するといった方法もあるでしょう。今はお客様のさまざまなニーズに応えるプラン設計をしており、プランの内容もお客様ごとにカスタマイズも可能となっています」(ユー氏)

現在のWeWorkは1名あたり月額4万2900円(税込)で国内のWeWorkが使い放題となるAll Access以外、料金体系は明らかにしていない。

ちなみに、プランとしては個室のレンタルオフィスを利用する「Private Office」、個室のレンタルオフィスを、席数以上の人数で利用する「Private Access (Plus)」、コワーキングスペースを利用する「Hot Desk」、1拠点で固定席を持つ「Dedicated Desk」がある。

解約率の実数は非公開ながら、ユー氏によれば「今も多少の解約はあるものの回復傾向にあり、それ以上にアップセルが増えている」という。

「今まで、WeWorkは企業の“支社”的に使われていたのですが、今は本社の面積を減らしつつ、WeWorkの面積を増やすという流れが増えてきています。それができるのは大規模なワークスペースを運営しているWeWorkならではの強みです」

「ハイブリッド勤務が主流になった今、WeWorkが真価を発揮できるようになったのかなと思います。そういう意味ではようやくプロダクトとサービスで勝負していける、普通のビジネスを展開できるようになったのかなと思います」(ユー氏)

すべての提供画像:WeWork Japan
画像提供:WeWork Japan

実際、今年の6月に「WeWork オーシャンゲートみなとみらい」に入居したクックパッドの広報担当はつぎのように語る。

「オフィスに集まってサービス開発をするメリットを最大限に引き出す設計が迅速に実現できる点、他の拠点や共用部設備の利用など拡張性の高い働き方を実現できる仕組みが整っている点がWeWorkの魅力でした」(クックパッド広報担当)

WeWork側がディスカウントして、費用が安くなっている側面もあるだろう。実際、料金がディスカウントされたことでWeWorkに入居したスタートアップもいる。

「料金は固定オフィスでは実現できない要素がさまざまあるので比較しづらいのが正直なところです。ただ、費用対効果の面で考えるのであれば、WeWorkならではの仕組みを有効活用すればするほど良くなるんだと思います」(クックパッド広報担当)

サブリースによる新規拠点の開設はストップ、稼働率を高める

また今後の戦略について、ユー氏は「いたずらに拠点を増やしたら、クビを切られちゃいますよ」と笑いながら、「まずは稼働率を高めることに注力したい」と語った。サブリースによる新規拠点の開設はストップし、現在の拠点の稼働率を7〜8割まで戻す。

「とはいえ、国内拠点のネットワークが完璧だとも思っていません。まだWeWorkがないエリアも存在します。私たちは“アセットライトモデル”と呼んでいるのですが、自分たちが賃貸するのではなく、運営のみを受託する方法も来年の早々に展開していきたいです。また、最近はワーケーション需要も高まっており、軽井沢や箱根、鎌倉にも拠点があったらいいなと思っています。そのエリアは大きいビルがないので、現地の企業とパートナーシップを組んで、拠点を増やしていくことも検討しています」(ユー氏)

賃料、投資資金の負担を減らせるサブリースではない形で拠点を開設することで、リスクを抑えながら事業成長を図っていく考えのようだ。取材の最後に、ユー氏は「これからの4カ月が勝負になる」と語った。