
- 社会を変革してきた「記録の技術」
- 「文字」「記録」は特権的な限られた人間のものだった
- インターネットが記録の作成と流通を活版印刷以上に分散化
- 「価値の記録媒体」として利用が広がるブロックチェーン
「ブロックチェーンは記録の技術の進化系であり、『信頼』を拡張するテクノロジーとして、世の中に大きなインパクトを与えるだろう」。ブロックチェーン関連事業のスタートアップ、Ginco創業者で書籍『超入門ブロックチェーン』(エムディエヌコーポレーション)などの解説書を著してきた森川夢佑斗氏は、そう語る。
なぜブロックチェーンは生まれてきたのか? ブロックチェーンは何を目指しているのか。「ブロックチェーンは、アナログと最新テクノロジーの融合のために生まれてきた」と考える森川氏が、「記録の技術」がたどってきた歴史的な背景から、ブロックチェーン技術が誕生した意味をひもとく。
※本稿は、森川夢佑斗『超入門ブロックチェーン』(エムディエヌコーポレーション)を一部抜粋・再編集したものです。
社会を変革してきた「記録の技術」
私が「ブロックチェーンが世の中に大きなインパクトを与える技術である」と考えるに至ったのは、ビットコインに出会った瞬間ではなく、その本質的な仕組みが「誰か特定の存在に依らず情報を記録する技術である」ということを理解した時でした。
そもそも「記録」とは、この世の中で起きた出来事を、他者に伝えるために、なんらかの媒体に写し取っていく行為であり、コミュニケーションの一手法です。また、私たち人類はコミュニケーションの技術を駆使して社会を形成してきた動物です。そのため記録の技術というのは、これまでも私たちの社会を大きく変革させてきました。
「文字」「記録」は特権的な限られた人間のものだった
「文字」というテクノロジーを扱えること自体が、歴史上とても貴重な能力だったことを私たちはしばしば忘れてしまいます。人類史における4大古代文明には「文字の発明」という共通点があります。
情報を伝えるためのフォーマットを「文字」として体系化し、それをなんらかの媒体に記録することによって、それまで村落単位で生活していた先史人類を「国家」という単位まで拡大することに成功しました。
また、ヨーロッパのルネサンス期における3大発明には「活版印刷」が含まれています。これも、聖書から新聞などのメディアへと発展していくにつれて、正しい情報の流通範囲と流通速度を加速させ、人々の思想や価値観に大きな影響を与えています。
文字を用いてなにかを「記録」する、という行為は、人間の生活に必要な衣食住に直接的に寄与しない営みです。逆にいえば、物書き業はもちろんのこと「文字を用いてなにかを記録する役割」は、高度に役割分担が進んだ社会の中でしか、存在し得ない職業です。
こうした特権的な人間は専門の教育機関で識字能力を習得し、官僚として国家や共同体運営の中枢を担っていました。メソポタミア文明の書記、古代ローマの神官、中国の科挙など、文字の読み書きができる、ということそのものが、限られた一部の人間にだけ許された特殊能力だったのです。
記録の保管についても同様に限られた営みです。また、私たちが触れることのできる歴史とは「勝者の記録」でもあります。古来から王朝や文明が新たに樹立される時には、それに敵対する勢力をおとしめる内容の記録が残されています。
王朝が打倒される際には、その王朝にまつわる記録が消去されることもあります。「過去になにがあったのかを記録し保存する」という行為は、一部の専門技術者とそれを雇用する権威が、社会を維持するという目的のもとでコストをかけて行う営みだったのです。
インターネットが記録の作成と流通を活版印刷以上に分散化
こうした前提が、近代以降に入り2度のイノベーションで塗り替わってきました。1度目は産業革命期における活版印刷、2度目はIT革命期のインターネットです。
15世紀半ばにヨハネス・グーテンベルクが考案し実用化に成功した、金属活字を使った印刷術、活版印刷の技術は中世における最も重要な発明の1つです。活版印刷は、ルネサンス、宗教改革、啓蒙時代、科学革命の発展に寄与したと言われていますが、功績として特筆すべきは、識字率の向上と記録された情報の大量生産でしょう。
これにより、出来事や考え方を、すぐさま文字情報に写し取り、すばやく大量の人間に伝えることができるようになりました。これは印刷業・出版業の始まりであり、記録の作成者と閲覧者を大幅に増やすことになります。
また、20世紀最後に普及したインターネットは、既存のインフラであった電話線網を用いて遠隔地のコンピュータ同士の通信を可能にしました。記録の作成と流通を活版印刷以上に分散化させることに成功したのです。
ところが、ここでやり取りされる大量のデータを破綻なく処理するために、通信内容を集約し記録していくサーバー、つまり記録の管理者が必要となりました。現代において記録の管理者として大きな力を有する存在がGAFA(ガーファ)のような巨大プラットフォーマーです。彼らは大量の情報をビッグデータとして活用し、巨額の利益を得ています。
「価値の記録媒体」として利用が広がるブロックチェーン
かつて、活版印刷が庶民に情報を手にする機会をもたらし、インターネットが情報発信の機会を与えたように、ブロックチェーンは誰もが確かな情報を記録し利用できる機会を与える存在となるでしょう。
確かな情報を記録する力が最初に発揮された「価値の記録」の領域で、ブロックチェーンはどのように利用されているのか。次回はアートやブランド品の真贋管理で活用されるブロックチェーンの事例を紹介します。
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