トラベルブランド「moln」が展開するスーツケース
トラベルブランド「moln」が展開するスーツケース
  • 「小売」が起点のスーツケース業界に勝機を見出す
  • 品質とデザイン性が高く、手頃な価格帯のスーツケースの選択肢がない

コロナ禍と言われ始めてから、はや1年半。長引く自粛生活の疲れから、「旅行に行きたい」と考える人が増えてきている。日本交通公社が実施した調査「新型コロナウイルス感染症流行下の日本人旅行者の動向(その1)」によれば、調査対象者の約7割が「旅行に行きたい」と回答しており、特に10〜20代は「これまで以上に行きたい」と回答している。

将来的な旅行需要の揺り戻しに着目し、新たにトラベルブランドの立ち上げを進めているのが、ストリートブランド「WIND AND SEA(ウィンダンシー)」など複数のD2Cブランドを展開するスタートアップ・franky(フランキー)だ。

同社は前述のWIND AND SEA(編集部注:10月4日にブランドの運営元であるエリオットと合併している)のほか、バイオエタノール暖炉「EcoSmart Fire(エコスマートファイヤー)」、犬用食品・グッズのサブスクリプションサービス「Qualum(カルム)」、同じく会員制の料理とワインのサブスクリプションサービス「tokotowa(トコトワ)」などを展開している。frankyの代表取締役を務めるのは、エウレカ創業者の赤坂優氏だ。

先行して展開するライフスタイル領域のD2Cブランドに続く形で、frankyはトラベルブランド「moln(モルン)」を今年の冬に立ち上げる。最初の商品として展開するのはスーツケースだ。

molnのスーツケース(左より)ストーン、テラコッタ、チャコール
molnのスーツケース(左より)ストーン、テラコッタ、チャコール

molnが展開するのはレザー(合皮)とポリカーボネートを基調とした、重量およそ3.5キログラムのスーツケース。日乃本錠前のキャスターや、YKKのファスナーなどを使用している。

スーツケースの色は岩・赤土・炭をモチーフににしたストーン、テラコッタ、チャコールの3色展開。サイズはスモール(約35リットル)とラージ(約85リットル)の2サイズの展開となっており、価格帯はSmallサイズで4万円前後の価格帯を予定している。

「小売」が起点のスーツケース業界に勝機を見出す

コロナ禍で旅行関連業界は深刻なダメージを受けている。それは旅行会社や旅行代理店に限った話ではなく、旅行関連のグッズを取り扱う企業もそうだ。不要不急の外出自粛の要請によって旅行や出張の機会が激減した昨今、スーツケースを使う場面はほとんどない。国内大手のエースも苦戦を強いられている中、なぜスーツケースをつくることにしたのか。

「スーツケースを購入する際、多くの人が想起するのはスーツケースのブランドではなく、スーツケースを販売しているロフトや東急ハンズなどの小売店です。その結果、スーツケースメーカーの販売戦略は“小売”が中心になっており、ブランドとして本当に伝えたいメッセージや売り方などに関する考えを言いづらくなってしまっています」(赤坂氏)

つまり「顧客が何を求めているか」ではなく、「どうしたら小売店が売ってくれるか」という視点で商品が設計される傾向にある、というのが赤坂氏の考えだ。

「それは本質的ではないな、と感じました。SNSなどで顧客に直接コミュニケーションがとれる時代になっているにもかかわらず、いまだに小売中心の設計になっている。オンラインでの販売を起点としてブランドをつくっていけば、旅行関連グッズには大きなチャンスがあると思いました」(赤坂氏)

オンラインでの販売を起点としたスーツケースのD2Cとして有名なのは、米国発のAwayだ。2015年の参入ながら4年ほどで100万個を売り上げるなど成功を収めている。2019年末には社内のパワハラや差別的発言で創業者が退任に追い込まれたが、それでも数少ないD2C領域のユニコーン企業(時価総額10億ドル超の未上場企業)だ。

同社はスーツケースにタグをつけるなどの“パーソナライズ”に加え、「旅にまつわる世界観」をまとめた雑誌『HERE』を発行したことがミレニアル世代の価値観に刺さり、ファンを獲得していった。frankyもAwayと同じように、ブランドが持つ価値観の発信に力を入れていき、中価格帯のスーツケースブランドの第一想起の獲得を狙っていく。

「オンラインとオフラインのマーケティングを組み合わせつつ、ダイレクトマーケティングに捉われず、InstagramやYoutubeなどを通じて、ブランドの持つ価値観をきちんと世界へ発信していきたいと考えています。20〜40代のファッションやライフスタイルにこだわりのある人に向けて、モノを売るというよりも旅が持つ非日常性や体験、カルチャーを提供していくことができればと思っています」(赤坂氏)

franky代表取締役社長の赤坂優氏
franky代表取締役の赤坂優氏

品質とデザイン性が高く、手頃な価格帯のスーツケースの選択肢がない

スーツケースのブランドといえば、RIMOWA(リモワ)やSamsonite(サムソナイト)、TUMI(トゥミ)、ACE(エース)などが有名だ。2015年の調査によれば、グローバルにおけるスーツケース市場はSamsoniteが17.3%、LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトングループ(編集部注:2016年にRIMOWAはLVMHグループ傘下に入っている)、TUMIが1.3%など老舗企業や大手企業が大きなシェアを握っている。

すでに知名度のあるブランドが存在しているが、赤坂氏は「スーツケース市場は二極化されている状況に近い」と語る。

「スーツケースは前述したロフトや東急ハンズなどの小売店、もしくは楽天市場やAmazonなどのECサイトで価格重視で1万円ほどの安いスーツケースを買う場合と、RIMOWAやSamsoniteなどの品質やデザイン性を重視して10万円ほどする高級スーツケースを買う場合で二極化されているとも言えます」

「手頃な価格でありながら、品質が良くデザイン性の高いスーツケースが選択肢として、あまりないんです。中価格帯で品質とデザイン性が高いスーツケースを求める際の選択肢がほとんどないと思ったので、そこにも可能性を感じました」(赤坂氏)

強いて挙げるならば、競合は「(良品計画が展開する)無印良品のスーツケース」だという。無印良品は現在、20リットルから105リットルまで5サイズのポリカーボネート製スーツケースを販売している。価格は1万円台から2万円台後半。コロナ禍前の2017年度は12万台を売り上げを記録した人気商品だ。無印良品のスーツケースが人気を獲得していく中、molnはどういった戦略でブランドを展開していく予定なのか。

「初期はRIMOWAと無印良品の間の中価格帯を狙いつつ、初期のオピニオンリーダーを獲得したあとに、廉価版の製品も出していく予定です。段階的に製品を展開していくことで、3万円前後程度でスーツケースを探している人たちにもアプローチしていければと思っています。価格帯の上下両軸で拡大していくことで、ACEやSomsoniteが持っているシェアと無印良品が持っているシェアも獲得していきます」(赤坂氏)

2020年1月にアイデアを着想してから、約1年半。「コロナ禍もあり、当初想定していたよりも時間がかかってしまった」(赤坂氏)と言うが、その分、プロダクトの完成度を高めることに時間をかけることができたという。最初は委託生産(OEM)も考えていたそうだが、最終的には中国の製造工場と提携し、自社生産している。

「一度、OEMメーカーに足を運んだのですが、『後発でスーツケース市場に参入するのは絶対にやめた方がいい』と言われました。すでに有象無象のブランドがあり、小売店では一緒くたに扱われるのでお客様の手にとってもらえるはずがない、と。特にOEMの場合、そのメーカーの他の製品と同じようなブランドという認知になるので絶対に売れるはずがないとまで言われ、確かにそうだなと思いました。現在は中国の製造工場と自分たちで直接やり取りしながら、自社生産を進めています」(赤坂氏)

今冬、表参道エリアにオープン予定のフラッグシップショップ
今冬、表参道エリアにオープン予定のフラッグシップショップ

今後、frankyはmolnのプロダクト情報を順次公開していくとともに、今冬にフラッグシップショップを表参道エリアにオープンする予定だという。また、Awayのように、スーツケースを軸にしながらも、ネックピローやアイマスク、モバイルバッテリーなど旅行に関連するグッズの企画・開発にも取り組むとしている。