契約の自動化イメージ
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  • 脱ハンコ化で浮かび上がった契約の「次の課題」
  • 世界では「契約の自動化」が焦点に
  • 契約の自動化が“不可能だったビジネス”を可能にする
  • 不動産売買や貨物の取引もスムーズに(BtoB領域)
  • 養育費未払いなどの社会問題も防ぐ(CtoC領域)
  • 電化製品の保証や事故・病気の際の保険金支払いもスムーズに(BtoC領域)
  • 契約の自動化における「契約の把握・管理」の重要性

私たちの生活やビジネスには、契約が密接に関わっている。契約とは「2人以上の当事者が合意することによって、法的な権利義務関係が発生する行為」を指す。そう捉えると、コンビニで水を買うのも契約、インターネットで本を買うのも契約だ。フリマアプリで洋服を売り買いするのも契約。このように契約は、ビジネスのシーンに加えて、私たちの生活の身近なところにある。

これら契約の発生から管理までの情報を一元管理する「契約ライフサイクルマネジメント(Contract Lifecycle Management、以下CLM)」の導入が日本でも広がり始め、独立系のIT調査・ コンサルティング会社、ITRの調査レポートでも、今年初めて、「CLM/契約管理サービス市場」カテゴリーが新設されるなど、注目が高まりつつある。コロナ禍を経て電子契約の導入が進んだ結果、デジタル上での契約フロー構築や管理面の課題が顕在化してきたためだ。そのため、ワンプラットフォームで契約プロセスの構築と、契約書の作成、審査、押印申請、締結、保管、期限・ステータス管理を実現するCLMの需要が高まっている。

私たちContractS(コントラクツ)はこのCLMシステムを提供するスタートアップだ。本記事では、契約領域のテクノロジーの進化を通して「今後、契約のあり方がどう変わるのか」についてお伝えする。

脱ハンコ化で浮かび上がった契約の「次の課題」

まず、契約を取り巻く現状について見ていこう。コロナ禍を経て、ビジネス領域では電子契約の導入が一気に加速した。前述したITRの調査レポートによれば、電子契約サービス市場の2020年度の売上金額は100億7000万円、前年度比72.7%増と、前の年度に続く高成長を維持。2021年度も75.0%増と2020年度を上回る高い伸びが予測されている。そして、電子契約導入の拡大により、次の課題は契約管理にシフトしつつある。ContractSが2021年8月に行った調査でも、契約管理システムの導入は、1年半前の類似調査と比較して6.8ポイントアップの29.0%と、拡大の傾向にある。

あなたの会社で導入しているシステムは?

また、電子契約サービスを導入した企業も、依然として契約に関わるコミュニケーションや、契約書の検索性、承認プロセスの煩雑さなどに課題を感じている現状が浮き彫りになった。

電子契約システム導入で未解決の課題は?

さらに、電子契約システムを導入済の職場で勤務する人のうち、92.0%が電子契約システム導入後も「紙の契約書締結を経験」と回答。自社の契約業務デジタル化を進めても、取引先との関係で紙契約書をゼロにするのが難しい現状が伺えた。

電子契約システム導入後も紙の契約書を締結したことは?

このように「脱ハンコ」を実現しても、ハンコ前の業務(契約の交渉・確認などのコミュニケーション・契約書作成等)や、ハンコ後業務(契約書検索・閲覧等)、取引先の契約書デジタル化の遅れなどにより、多くのビジネスパーソンが、契約業務に対して課題感を抱いている。

世界では「契約の自動化」が焦点に

一方米国では、既にCLMサービスが多く登場し、契約にまつわるソリューションや研究開発も日本より先行している。米国でCLMサービスを提供している主な企業には、DocuSignやIcertis、Ironcladなどがある。DocuSignは時価総額545億ドル(約6兆1000億円)の上場企業。IcertisやIroncladもそれぞれ、28億ドル(約3100億円)、1.8億ドル(約200億円)と巨額の資金調達を実現し、ユニコーン企業となっている。こうした数値からも、CLMが米国では大きな市場となりつつある現状が伺える。

また、このように契約領域のテクノロジーが進化する中、米国でもスマートコントラクトへの関心が高まりつつある。DocuSignが2021年5月に買収したClauseという企業は、スマートアグリーメントのサービスを提供する企業だ(筆者注:Clauseによると、スマートアグリーメントは、アグリーメントに含まれるデータを利用してビジネスアクションを編成することを指す)。Clauseの定義を参考に整理すると、スマートコントラクトは下記の通り分類できる。

Clause(2020)「Smarter Legal Contracts Part 1: The What, How, and Why」を元にContractSが加筆
Clause(2020)「Smarter Legal Contracts Part 1: The What, How, and Why」を元にContractSが加筆

まず、伝統的な紙の契約がピラミッドの一番下の階層にあり、その次の階層として、契約の電子化、その次に、プログラムと一般言語を用いて法的に有効な合意形成を実現する、スマートリーガルコントラクト、そして頂点に、スマートコントラクトが位置付けられる。スマートコントラクトとは、設定されたルールに従って、ブロックチェーン上の取引、もしくはブロックチェーン外から取り込んだ情報をトリガーに実行されるプログラムを指す。

本記事では、この2番目のスマートリーガルコントラクトが実現するものを「契約(発生)の自動化」と捉え、それによって私たちの生活やビジネスが、どのように変化するか見ていく。

契約の自動化が“不可能だったビジネス”を可能にする

社会には、権利発生(=契約発生)や権利実現(=契約履行)にかかる、時間的、人的、金銭的コストなどが原因で、実現できていないビジネスがたくさんある。簡単かつ低コストで契約の自動化を実現できれば、今まで不可能だと思われていたビジネスが可能となるだろう。例えば、企業と個人が契約を締結し、契約条件を満たした納品がなされたときに、それをトリガーとして、自動的に支払いを行うような仕組みを構築することができれば、よりスムーズな取引が可能となる。

企業対企業/個人の間では、代金が支払われなかったり、購入した物が届かなかったり、サービスが受けられなかったり、といった取引上のトラブルは多く存在する。また、予定より遅延したり、そもそも実現までのスピードが遅かったりするケースも多々ある。

個人対個人の取引においても、個人所有の物を売ったけれど、代金を支払ってもらえない、知人に貸したお金が返ってこないなど、さまざまな問題が発生している。

このように、取引を巡る問題は、私たちの生活に身近な所でも多く発生しており、契約自動化の仕組みを活用することで、こうした問題を未然に防ぐことが可能となる。

不動産売買や貨物の取引もスムーズに(BtoB領域)

では具体的にどのように取引が変わるのか。まずはビジネスの領域から見ていこう。例えば不動産取引の場合。一般的な流れだと、不動産の売買契約時には、司法書士が同席して、さまざまな書類に押印し、登記の手続きを行った上で、物件の引き渡しが必要だ。マイホームを購入するときに、多数の書類に押印をした記憶のある方もいるのではないだろうか。契約の自動化が実現されれば、プログラム化した条件を満たすと自動的に不動産の登記や引き渡しを完了させられる、といったスムーズな不動産取引が可能となる。

また、運送業の領域でも契約の自動化は有効だ。定められた条件で荷物の運搬契約を結び、実現されたら自動的に対価が支払われる仕組みを構築すれば、納品から支払いまでがスピーディかつスムーズに実現できるようになるだろう。

例えば、「セ氏零下5度を保って明日の正午までに東京に荷物を運ぶと対価が支払われる」という条件を設定するとする。これをトラックの荷台に設置された温度計やGPS(全地球測位システム)など、IoTのセンサーと連携させる。そして、荷物が目的地に到着し、常に指定の温度を保っていたと確認できたら、自動的に代金が支払われるシステムが実現できれば、スムーズかつ迅速な対価の支払いが可能となる。

契約の自動化イメージ

このように、さまざまな商取引について、適切に条件を設定・確認し、これらの充足をトリガーに、対価の支払いが実現される仕組みを実現することで、多くのビジネスを、抜け漏れなくスピーディに遂行することが可能となるだろう。

養育費未払いなどの社会問題も防ぐ(CtoC領域)

次に、契約の自動化によって私たちの生活がどのように変わるか、見ていこう。契約の自動化は、ビジネスシーンのみならず、私たちの生活においても、さまざまな問題を解決する可能性をもっている。

例えば、社会問題にもなっている子どもの養育費未払い問題。この問題は「養育費請求権」が適切に実現されないことにより発生しており、子どもの養育や生活にネガティブな影響を及ぼしている。離婚などに際して、子どもの養育費の支払いに関する契約書を適切に締結し、支払い条件と支払い方法を設定しておくことができれば、権利実現の自動化が可能となり、こうした問題を未然に防ぐことができる。また、仮に支払いが滞ったとしても、差押などの強制執行がしやすくなる。

こうした取り決めを個人間で容易にできるようにするためにも、適切な契約書締結および、支払い条件と支払い方法の設定を安価かつスムーズに行える仕組みづくりが求められる。

個人間の取引は、フリマアプリなどの登場により、一気に普及した。個人間の売買契約については、テクノロジーの力で自動化が一定の範囲で進んだといえる。契約の自動化を活用したシステムが普及すれば、売買契約以外の個人間契約も、今よりスムーズに実現されるようになるだろう。

電化製品の保証や事故・病気の際の保険金支払いもスムーズに(BtoC領域)

さらに、企業が提供するサービスを個人が受ける際にも、「権利が実現されづらいケース」がある。例えば、電化製品の品質保証や修理交換などの権利実現や、保険のような“何かあったとき”に請求できるようになる権利の実現はどうか。こうした契約後に発生した事象に基づいて行使できる権利について、実現できなかった経験のある人もいるのではないだろうか。

電化製品などの複数年保証は、期間内に故障したときに「修理請求権」が発生するが、そもそも権利があることを忘れていることもある。契約の自動化を活用し、オンラインで製品番号を入力し、故障のタイミングと状態を入力すれば、自動的に修理手続きに繋がるような仕組みを構築できれば、今よりもスムーズに複数年保証が実現されるだろう。

また、この仕組みを活用すれば、事故や病気になったら自動で保険金が支払われる保険サービスなども可能となる。支払い要件を予めプログラミングしておくことで、要件充足が確認されれば、自動的に支払いを実行する保険サービスが可能となり、今よりもスムーズかつ早く、保険金の支払いがなされるようになるだろう。

契約の自動化における「契約の把握・管理」の重要性

このように、契約の自動化により、さまざまな課題や不便を解消し、適切かつスムーズに権利が得られる仕組みの構築が可能となる。そして、こうした契約の自動化を実現するためには、その前提として、契約をその進捗も含めて、適切に把握・管理することが不可欠となる。なぜなら、契約の内容を適切に把握できていないと、契約自動化のトリガーとなる、要件充足を確認できないためだ。

その解決策の1つとなるのが、CLMである。CLMを活用することで、企業は適切に契約の状態を把握することが可能となり、スマートコントラクトと接続することで、契約の自動化が将来的には可能となるだろう。私たちは、こうした未来を描きながら、その第一歩として、適切な契約プロセスの構築と一元管理を実現するシステムを提供している。CLMの普及とその先の契約自動化により、「適切な権利実現を通して、人々が安心して暮らせる社会」づくりに貢献していきたい。